追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~
第10話 地上への帰還。ギルドカードを更新したら測定器が壊れました。
「……えー、と。なんだ、その、ヒドラの干物というのは」
玉座に座る国王、アラルド三世が震える声で尋ねた。
突然の空間転移による侵入者。
しかもその一団の中には、ソースで口元を汚した自国の騎士団員も混じっている。
本来なら「曲者だ、出会え!」と叫んで警備兵に斬り捨てさせる場面だ。
しかし、国王はそうしなかった。
いや、できなかったのだ。
目の前に立つ黒いコートの青年――レントから放たれる、底知れぬプレッシャーのせいで。
「ああ、これか? さっき王都の地下遺跡で狩ってきたんだ」
俺は【四次元収納】から、巨大なヒドラ・クラーケンの足一本(干物加工済み)を取り出し、ドサリと絨毯の上に置いた。
Sランク魔物の死骸が発する強烈な魔力が、謁見の間の空気をビリビリと震わせる。
「ち、地下遺跡だと? 王都の地下にか?」
「陛下、ご報告申し上げます!」
口元のソースを慌てて拭ったガレイン副騎士団長が、跪いて叫んだ。
「こ、こやつの言うことは真実です! 我々は先ほど、王都の地下深くに広がる未踏のダンジョンにて、レント殿がSランク魔物を瞬殺し、さらにそれを美味しく調理する様を目の当たりにしました!」
「調理……? 魔物をか?」
「はっ! 非常に美味でした! ……あ、いや、そうではなく! その実力は本物であり、彼がエンシェントドラゴンを討伐したという報告も、疑う余地はありません!」
ガレインの必死の弁明に、周囲の大臣たちがざわめく。
Sランク魔物を食材扱いする冒険者。
そして、王城の結界を無視して転移してくる魔法技術。
どう考えても、一個人が持っていい力の水準を超えている。
「静粛に!」
宰相の男が杖を床に突き、場を静めた。
彼は鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
「レントとやら。貴殿の実力が並外れていることは認めよう。だが、王城への不法侵入、ならびに陛下への不敬な態度は見過ごせぬ。本来なら極刑に処されても文句は言えぬぞ」
「宰相、よせ」
国王が手で制した。
「形式にこだわって国を滅ぼす気か? この男は、その気になればこの城ごと我々を消し飛ばせる力を持っている。……そうだろう、レント?」
「話が早くて助かるよ、王様。俺は別に国を乗っ取りたいわけじゃない。ただ、降り掛かる火の粉を払ったら、たまたまここに着地しちゃっただけだ」
俺は肩をすくめた。
国王はふう、と息を吐き、改めて俺を見た。
「余はアラルドだ。レントよ、貴殿を呼んだのは他でもない。ドラゴン討伐の真偽と、貴殿の『正確な力量』を知りたかったからだ」
「力量?」
「うむ。ギルドからの報告では、測定器を破壊したそうではないか」
情報が早いな。
昨日の今日で、すでにギルドでの一件が王の耳に入っているとは。
「測定器が古かったみたいでね。ちょっと魔力を流したら爆発したんだ」
「ふん、ギルドの汎用品など、たかが知れておるわ」
宰相が鼻で笑った。
「王宮魔導師団が管理する『真理の宝珠』ならば、そのようなことは起きぬ。これは初代国王が神から授かったとされる国宝級アーティファクト。人の身に余る魔力であろうと、正確に数値化し、その者の『格』を見極めることができる」
宰相の合図で、数名の魔導師が恭しく盆に乗せた物体を運んできた。
直径五十センチほどある、虹色に輝く巨大な水晶玉だ。
ギルドにあったものの数倍の大きさがあり、漂う魔力の質も段違いだ。
「レントよ。この国で活動する以上、貴殿の力がいかほどか、国として把握しておく必要がある。Sランク冒険者としてのライセンスを正式に発行するためにも、ここで測定を受けてもらいたい」
「まあ、いいけど。また壊れても知らないぞ?」
「ハッ! 壊れるだと? 不遜な!」
宮廷魔導師長と思われる老人が憤慨した。
「この『真理の宝珠』の許容量は、ギルドの玩具とは桁が違う! 過去に勇者アベル様が測定された際も、眩い光を放ちはしたが、ヒビ一つ入らなかったのだ! 貴様ごときぽっと出の冒険者が、心配するには及ばん!」
「そうか。なら、遠慮なくやらせてもらう」
俺は宝珠の前に立った。
後ろでシルヴィアが「レント様、お手柔らかに……」と心配そうに囁き、イグニスが「ふふ、見ものじゃな」とニヤニヤしている。
俺は右手を宝珠にかざした。
前回は「蛇口から一滴」レベルで壊れてしまった。
今回は、相手が国宝級だと言うし、もう少し出しても大丈夫か?
いや、念のため、前回と同じくらいの出力でいこう。
学習能力はあるつもりだ。
俺は指先から、ほんの僅かな魔力を流し込んだ。
ブゥゥゥン……。
宝珠が低い唸り声を上げる。
虹色の輝きが増し、謁見の間全体がオーロラのような光に包まれた。
「おお……! なんと美しい光だ!」
「やはりSランク級……いや、それ以上か?」
「だが、宝珠は安定しているぞ! やはり壊れるなどというのはハッタリで……」
魔導師長が得意げに言いかけた、その時だった。
ピシッ。
乾いた音が響いた。
「ん?」
魔導師長が眉をひそめる。
宝珠の中心に、黒い点が生まれた。
その点は一瞬で広がり、光を飲み込んでいく。
ズズズズズ……!
宝珠が振動を始めた。
いや、宝珠だけではない。
台座が、床が、そして城全体がガタガタと揺れ始めたのだ。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「違う! 魔力の共鳴現象だ! 宝珠が、測定対象の魔力密度に耐えきれず、周囲の空間ごと崩壊しようとしている!」
誰かが叫んだ。
俺は慌てて手を離そうとしたが、遅かった。
「あ、これヤバい」
カッ!!!!
視界が真っ白に染まった。
爆発音はしなかった。
音が置き去りにされるほどの高エネルギー流出。
光が収まった時。
そこにあったはずの『真理の宝珠』は、影も形もなくなっていた。
いや、物理的に消滅したのではない。
宝珠があった空間そのものが丸くえぐり取られ、向こう側の壁が見えていた。
空間ごと消し飛んだのだ。
「…………」
謁見の間は、死んだように静まり返っていた。
天井にはぽっかりと穴が空き、そこから青空が見えている。
鳥がチュンチュンと鳴きながら横切っていった。
「あー……だから言ったのに」
俺は頭をかいた。
魔導師長は白目を剥いて気絶している。
宰相は腰が抜けたのか、床にへたり込んでいた。
唯一、国王だけが震える手で玉座の肘掛けを握りしめ、何とか正気を保っていた。
「……こ、国宝が……」
「弁償はヒドラの素材で勘弁してくれ」
「……」
国王は深呼吸をし、一度天を仰いでから、力なく笑った。
「はは……はははは。もはや、笑うしかないな」
彼は完全に憑き物が落ちたような顔で、俺を見た。
「レントよ。認めよう。貴殿は、人の枠に収まる存在ではない。勇者アベルをも超える、規格外の化け物だ」
「化け物扱いは傷つくなあ」
「事実だろう。……よいか、皆の者! これよりレント・シルバーを、王国公認の『特級英雄』として認定する!」
国王が高らかに宣言した。
「特級英雄? なんだそれ」
「Sランクの上、SSランク相当の特別な地位だ。法による拘束を受けず、王族と同等の特権を持つ。その代わり、国が存亡の危機に瀕した時だけは、力を貸してくれ。……頼む」
最後は王様としての命令ではなく、一人の人間としての懇願だった。
自分の城で戦略核兵器みたいな男が暴れているのだ。
敵に回すより、特権を与えてでも囲い込みたいというのが本音だろう。
「わかった。俺の自由を邪魔しないなら、この国がピンチの時は手助けするよ。シルヴィアの故郷を襲ってる帝国の件もあるしな」
「うむ、感謝する。……それと、ギルドカードの件だが」
国王は宰相に目配せをした。
宰相は震える手で、懐から一枚のカードを取り出した。
漆黒の金属で作られた、見たこともないカードだ。
「これは『黒のギルドカード』。測定不能な力を持つ者だけに発行される、伝説のカードじゃ。……正直、実在するとは思っていなかったが、今の貴殿にはこれこそが相応しかろう」
俺はカードを受け取った。
表面には俺の名前だけが刻まれ、ステータス欄は空白になっている。
下手に数値を書いて、カード自体が壊れるのを防ぐための仕様らしい。
「ありがとう。これで面倒な手続きなしで活動できるな」
「ああ、そうだ。……頼むから、もう城の中で魔法を使わないでくれよ? 心臓に悪い」
国王の切実な願いを聞き届け、俺たちは謁見の間を後にすることにした。
帰りは転移ではなく、普通に歩いて。
(また座標がズレて王様の寝室に出たりしたら、今度こそ心臓発作を起こしかねないからな)
城門を出ると、外は爽やかな風が吹いていた。
俺の手には、黒いギルドカード。
隣には、銀髪の姫騎士と、褐色の竜少女。
そして背後には、俺に頭を下げる騎士団と、敬礼する門番たち。
「ふう。地上への帰還、完了ってとこか」
長かったような、あっという間だったような一日が終わろうとしていた。
数日前、ダンジョンで泥水を啜っていた俺が、今は国のトップとも対等に渡り合い、英雄として讃えられている。
人生、何が起こるかわからないものだ。
「レント様、これからどうなさいますか?」
「うむ、とりあえず拠点が欲しいのう。宿暮らしも悪くないが、妾たちが愛を育むには狭すぎるぞ」
イグニスが俺の腕に胸を押し付けながら言う。
確かに、これだけの戦力と財力があるなら、自分たちの家(城)を持つべきかもしれない。
「そうだな。ギルドに行って、良い物件がないか探してみるか。城の一つでも買えば、イグニスも満足だろ?」
「ほう! 城を買うか! さすが我が主、スケールが違うのう!」
俺たちは笑い合いながら、王都の目抜き通りを歩き出した。
一方その頃。
俺たちが華々しく英雄として凱旋している裏で、あるパーティが暗い路地裏で膝を抱えていた。
「くそっ……なんなんだよ、あれは……」
元『栄光の剣』のリーダー、ヴァルスだ。
彼は街頭の魔法ビジョンに映し出された速報ニュース――『謎の英雄レント、王城にて国王より特級認定を受ける!』というテロップを、呆然と見上げていた。
「特級……? あいつが……?」
「嘘よ、間違いよ……。だってあいつは、ただの荷物持ちじゃない……」
エリナが爪を噛む。
彼女の杖は、今朝のメンテナンス不足により完全に魔力を失い、ただの木の棒になっていた。
アリアは虚ろな目で地面を見つめ、ジャミルは借金取りから逃げるようにフードを目深に被っている。
「俺たちの装備がボロボロなのも、クエストに失敗したのも……全部、あいつが抜けたせいだってのか……?」
認めたくない真実が、重くのしかかる。
彼らが失ったものの大きさ。
そして、これから彼らを待ち受ける転落の未来。
その足音が、確実に近づいていた。
起承転結の「起」、これにて完結。
次なる舞台は、俺の成り上がりと、元仲間の転落が交差する「承」の物語へ。
(続く)
玉座に座る国王、アラルド三世が震える声で尋ねた。
突然の空間転移による侵入者。
しかもその一団の中には、ソースで口元を汚した自国の騎士団員も混じっている。
本来なら「曲者だ、出会え!」と叫んで警備兵に斬り捨てさせる場面だ。
しかし、国王はそうしなかった。
いや、できなかったのだ。
目の前に立つ黒いコートの青年――レントから放たれる、底知れぬプレッシャーのせいで。
「ああ、これか? さっき王都の地下遺跡で狩ってきたんだ」
俺は【四次元収納】から、巨大なヒドラ・クラーケンの足一本(干物加工済み)を取り出し、ドサリと絨毯の上に置いた。
Sランク魔物の死骸が発する強烈な魔力が、謁見の間の空気をビリビリと震わせる。
「ち、地下遺跡だと? 王都の地下にか?」
「陛下、ご報告申し上げます!」
口元のソースを慌てて拭ったガレイン副騎士団長が、跪いて叫んだ。
「こ、こやつの言うことは真実です! 我々は先ほど、王都の地下深くに広がる未踏のダンジョンにて、レント殿がSランク魔物を瞬殺し、さらにそれを美味しく調理する様を目の当たりにしました!」
「調理……? 魔物をか?」
「はっ! 非常に美味でした! ……あ、いや、そうではなく! その実力は本物であり、彼がエンシェントドラゴンを討伐したという報告も、疑う余地はありません!」
ガレインの必死の弁明に、周囲の大臣たちがざわめく。
Sランク魔物を食材扱いする冒険者。
そして、王城の結界を無視して転移してくる魔法技術。
どう考えても、一個人が持っていい力の水準を超えている。
「静粛に!」
宰相の男が杖を床に突き、場を静めた。
彼は鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。
「レントとやら。貴殿の実力が並外れていることは認めよう。だが、王城への不法侵入、ならびに陛下への不敬な態度は見過ごせぬ。本来なら極刑に処されても文句は言えぬぞ」
「宰相、よせ」
国王が手で制した。
「形式にこだわって国を滅ぼす気か? この男は、その気になればこの城ごと我々を消し飛ばせる力を持っている。……そうだろう、レント?」
「話が早くて助かるよ、王様。俺は別に国を乗っ取りたいわけじゃない。ただ、降り掛かる火の粉を払ったら、たまたまここに着地しちゃっただけだ」
俺は肩をすくめた。
国王はふう、と息を吐き、改めて俺を見た。
「余はアラルドだ。レントよ、貴殿を呼んだのは他でもない。ドラゴン討伐の真偽と、貴殿の『正確な力量』を知りたかったからだ」
「力量?」
「うむ。ギルドからの報告では、測定器を破壊したそうではないか」
情報が早いな。
昨日の今日で、すでにギルドでの一件が王の耳に入っているとは。
「測定器が古かったみたいでね。ちょっと魔力を流したら爆発したんだ」
「ふん、ギルドの汎用品など、たかが知れておるわ」
宰相が鼻で笑った。
「王宮魔導師団が管理する『真理の宝珠』ならば、そのようなことは起きぬ。これは初代国王が神から授かったとされる国宝級アーティファクト。人の身に余る魔力であろうと、正確に数値化し、その者の『格』を見極めることができる」
宰相の合図で、数名の魔導師が恭しく盆に乗せた物体を運んできた。
直径五十センチほどある、虹色に輝く巨大な水晶玉だ。
ギルドにあったものの数倍の大きさがあり、漂う魔力の質も段違いだ。
「レントよ。この国で活動する以上、貴殿の力がいかほどか、国として把握しておく必要がある。Sランク冒険者としてのライセンスを正式に発行するためにも、ここで測定を受けてもらいたい」
「まあ、いいけど。また壊れても知らないぞ?」
「ハッ! 壊れるだと? 不遜な!」
宮廷魔導師長と思われる老人が憤慨した。
「この『真理の宝珠』の許容量は、ギルドの玩具とは桁が違う! 過去に勇者アベル様が測定された際も、眩い光を放ちはしたが、ヒビ一つ入らなかったのだ! 貴様ごときぽっと出の冒険者が、心配するには及ばん!」
「そうか。なら、遠慮なくやらせてもらう」
俺は宝珠の前に立った。
後ろでシルヴィアが「レント様、お手柔らかに……」と心配そうに囁き、イグニスが「ふふ、見ものじゃな」とニヤニヤしている。
俺は右手を宝珠にかざした。
前回は「蛇口から一滴」レベルで壊れてしまった。
今回は、相手が国宝級だと言うし、もう少し出しても大丈夫か?
いや、念のため、前回と同じくらいの出力でいこう。
学習能力はあるつもりだ。
俺は指先から、ほんの僅かな魔力を流し込んだ。
ブゥゥゥン……。
宝珠が低い唸り声を上げる。
虹色の輝きが増し、謁見の間全体がオーロラのような光に包まれた。
「おお……! なんと美しい光だ!」
「やはりSランク級……いや、それ以上か?」
「だが、宝珠は安定しているぞ! やはり壊れるなどというのはハッタリで……」
魔導師長が得意げに言いかけた、その時だった。
ピシッ。
乾いた音が響いた。
「ん?」
魔導師長が眉をひそめる。
宝珠の中心に、黒い点が生まれた。
その点は一瞬で広がり、光を飲み込んでいく。
ズズズズズ……!
宝珠が振動を始めた。
いや、宝珠だけではない。
台座が、床が、そして城全体がガタガタと揺れ始めたのだ。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「違う! 魔力の共鳴現象だ! 宝珠が、測定対象の魔力密度に耐えきれず、周囲の空間ごと崩壊しようとしている!」
誰かが叫んだ。
俺は慌てて手を離そうとしたが、遅かった。
「あ、これヤバい」
カッ!!!!
視界が真っ白に染まった。
爆発音はしなかった。
音が置き去りにされるほどの高エネルギー流出。
光が収まった時。
そこにあったはずの『真理の宝珠』は、影も形もなくなっていた。
いや、物理的に消滅したのではない。
宝珠があった空間そのものが丸くえぐり取られ、向こう側の壁が見えていた。
空間ごと消し飛んだのだ。
「…………」
謁見の間は、死んだように静まり返っていた。
天井にはぽっかりと穴が空き、そこから青空が見えている。
鳥がチュンチュンと鳴きながら横切っていった。
「あー……だから言ったのに」
俺は頭をかいた。
魔導師長は白目を剥いて気絶している。
宰相は腰が抜けたのか、床にへたり込んでいた。
唯一、国王だけが震える手で玉座の肘掛けを握りしめ、何とか正気を保っていた。
「……こ、国宝が……」
「弁償はヒドラの素材で勘弁してくれ」
「……」
国王は深呼吸をし、一度天を仰いでから、力なく笑った。
「はは……はははは。もはや、笑うしかないな」
彼は完全に憑き物が落ちたような顔で、俺を見た。
「レントよ。認めよう。貴殿は、人の枠に収まる存在ではない。勇者アベルをも超える、規格外の化け物だ」
「化け物扱いは傷つくなあ」
「事実だろう。……よいか、皆の者! これよりレント・シルバーを、王国公認の『特級英雄』として認定する!」
国王が高らかに宣言した。
「特級英雄? なんだそれ」
「Sランクの上、SSランク相当の特別な地位だ。法による拘束を受けず、王族と同等の特権を持つ。その代わり、国が存亡の危機に瀕した時だけは、力を貸してくれ。……頼む」
最後は王様としての命令ではなく、一人の人間としての懇願だった。
自分の城で戦略核兵器みたいな男が暴れているのだ。
敵に回すより、特権を与えてでも囲い込みたいというのが本音だろう。
「わかった。俺の自由を邪魔しないなら、この国がピンチの時は手助けするよ。シルヴィアの故郷を襲ってる帝国の件もあるしな」
「うむ、感謝する。……それと、ギルドカードの件だが」
国王は宰相に目配せをした。
宰相は震える手で、懐から一枚のカードを取り出した。
漆黒の金属で作られた、見たこともないカードだ。
「これは『黒のギルドカード』。測定不能な力を持つ者だけに発行される、伝説のカードじゃ。……正直、実在するとは思っていなかったが、今の貴殿にはこれこそが相応しかろう」
俺はカードを受け取った。
表面には俺の名前だけが刻まれ、ステータス欄は空白になっている。
下手に数値を書いて、カード自体が壊れるのを防ぐための仕様らしい。
「ありがとう。これで面倒な手続きなしで活動できるな」
「ああ、そうだ。……頼むから、もう城の中で魔法を使わないでくれよ? 心臓に悪い」
国王の切実な願いを聞き届け、俺たちは謁見の間を後にすることにした。
帰りは転移ではなく、普通に歩いて。
(また座標がズレて王様の寝室に出たりしたら、今度こそ心臓発作を起こしかねないからな)
城門を出ると、外は爽やかな風が吹いていた。
俺の手には、黒いギルドカード。
隣には、銀髪の姫騎士と、褐色の竜少女。
そして背後には、俺に頭を下げる騎士団と、敬礼する門番たち。
「ふう。地上への帰還、完了ってとこか」
長かったような、あっという間だったような一日が終わろうとしていた。
数日前、ダンジョンで泥水を啜っていた俺が、今は国のトップとも対等に渡り合い、英雄として讃えられている。
人生、何が起こるかわからないものだ。
「レント様、これからどうなさいますか?」
「うむ、とりあえず拠点が欲しいのう。宿暮らしも悪くないが、妾たちが愛を育むには狭すぎるぞ」
イグニスが俺の腕に胸を押し付けながら言う。
確かに、これだけの戦力と財力があるなら、自分たちの家(城)を持つべきかもしれない。
「そうだな。ギルドに行って、良い物件がないか探してみるか。城の一つでも買えば、イグニスも満足だろ?」
「ほう! 城を買うか! さすが我が主、スケールが違うのう!」
俺たちは笑い合いながら、王都の目抜き通りを歩き出した。
一方その頃。
俺たちが華々しく英雄として凱旋している裏で、あるパーティが暗い路地裏で膝を抱えていた。
「くそっ……なんなんだよ、あれは……」
元『栄光の剣』のリーダー、ヴァルスだ。
彼は街頭の魔法ビジョンに映し出された速報ニュース――『謎の英雄レント、王城にて国王より特級認定を受ける!』というテロップを、呆然と見上げていた。
「特級……? あいつが……?」
「嘘よ、間違いよ……。だってあいつは、ただの荷物持ちじゃない……」
エリナが爪を噛む。
彼女の杖は、今朝のメンテナンス不足により完全に魔力を失い、ただの木の棒になっていた。
アリアは虚ろな目で地面を見つめ、ジャミルは借金取りから逃げるようにフードを目深に被っている。
「俺たちの装備がボロボロなのも、クエストに失敗したのも……全部、あいつが抜けたせいだってのか……?」
認めたくない真実が、重くのしかかる。
彼らが失ったものの大きさ。
そして、これから彼らを待ち受ける転落の未来。
その足音が、確実に近づいていた。
起承転結の「起」、これにて完結。
次なる舞台は、俺の成り上がりと、元仲間の転落が交差する「承」の物語へ。
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