追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~
第7話 迷宮の主『エンシェントドラゴン』? ワンパンですが何か?
「……誰だ、お前ら? 浮浪者かと思ったら、元仲間か」
俺の言葉に、広場が一瞬で静まり返った。
誰もが羨むSランクパーティ『栄光の剣』に向かって、浮浪者扱い。
だが、現在の彼らの姿を見れば、その表現が強ち間違っていないことは誰の目にも明らかだった。
泥と煤にまみれ、装備はボロボロ、血を流して地面に這いつくばる姿は、英雄のそれとは程遠い。
「ふ、ふざけるなレントォォォッ!」
ヴァルスが血走った目で怒鳴り声を上げた。
彼はよろよろと立ち上がると、刃こぼれだらけの剣を俺に向けた。
「お前だろ! お前が何かしやがったんだ! 俺たちの装備に細工を……呪いをかけやがったな!」
「呪い?」
俺は呆れてため息をついた。
こいつらはまだ、自分たちの置かれた状況を理解していないらしい。
「俺は何もしていない。むしろ、今まで『していたこと』をやめただけだ」
「な、なんだと……?」
「お前らのその剣も、鎧も、杖も。俺が毎日寝る間を惜しんでメンテナンスし、強化付与を掛け続けていたからSランク迷宮で通用していたんだ。それがなくなれば、ただの金属の塊に戻るのは当たり前だろう」
俺は淡々と事実を告げた。
だが、ヴァルスのプライドはそれを認めようとはしなかった。
「嘘だ! そんなわけがあるか! 俺たちは選ばれた才能を持つ勇者パーティだぞ! お前ごとき底辺職の小細工で、ここまで差が出るはずがねえ!」
「現実を見ろよ、ヴァルス。お前らは中層の雑魚に負けて逃げ帰ってきた。それが全てだ」
「黙れぇぇッ! 殺してやる!」
ヴァルスが理性を失い、俺に向かって斬りかかってきた。
踏み込みは浅く、剣筋もブレている。
今の俺なら、指先一つで止めるどころか、カウンターで首を跳ねることも容易い。
だが、俺が動くまでもなかった。
キィィィンッ!
甲高い金属音が響き、ヴァルスの剣が虚空で弾かれた。
割って入ったのは、銀髪の美少女――シルヴィアだ。
彼女は鞘に収めたままの聖剣で、ヴァルスの斬撃を軽々と受け流していた。
「……私の主に剣を向けるとは、無礼にも程があります」
シルヴィアの声は冷徹で、絶対的な威圧感を放っていた。
彼女の背後には、憤怒のオーラが揺らめいているように見える。
「なっ……なんだこの女は!?」
「くっ、重い……! 女の腕力かよ、これが!?」
ヴァルスは剣を押し込もうとするが、シルヴィアは微動だにしない。
涼しい顔で、片手で鞘を持っているだけだ。
「貴様のような三流剣士に、レント様を煩わせる資格はありません。下がりなさい」
シルヴィアが手首を軽く返した。
ただそれだけの動作で、ヴァルスの体は木の葉のように吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!?」
ヴァルスは数メートル後ろへ転がり、無様に尻餅をついた。
「ヴァルス!」
エリナやアリアが駆け寄るが、彼女たちもシルヴィアの放つ気迫に押され、それ以上近づくことができない。
広場の冒険者たちが、どよめき始めた。
「おい見たか? あのヴァルスが、女の子に手も足も出ねえぞ……」
「しかも剣を抜いてすらいない……」
「あの娘、何者だ? レントの連れみたいだが」
「っていうか、レントの言ってたこと、本当だったんじゃねえか? あいつが抜けた途端に『栄光の剣』があんなに弱くなったってことは……」
周囲の視線が、侮蔑から疑惑、そして驚愕へと変わっていく。
『栄光の剣』の強さは、実はレントという土台があってこそだったのではないか。
そんな真実に、人々が気づき始めていた。
「くそっ、覚えてろよレント! この借りは必ず返す!」
「ギルドに報告してやるわ! あんたが元仲間に呪いをかけるような危険人物だってね!」
ヴァルスとエリナは捨て台詞を吐きながら、逃げるようにその場を去っていった。
その後ろ姿は、かつての栄光など見る影もなく、ただの負け犬そのものだった。
「……愚かな人たちです」
シルヴィアが冷ややかに呟き、俺の方を向くと、途端に表情を和らげた。
「お怪我はありませんか、レント様」
「ああ、ありがとうシルヴィア。でも、あんな連中の相手、君がするまでもなかったよ」
「いいえ。主への侮辱は、私への侮辱以上に許せませんので」
彼女は誇らしげに胸を張った。
忠誠心が厚すぎて、少し怖いくらいだ。
「さて、気を取り直してギルドに行こうか。いろいろと手続きがある」
俺たちは騒然とする広場を後にして、冒険者ギルドの建物へと入っていった。
ギルドの中もまた、多くの冒険者たちで賑わっていた。
俺たちがカウンターに向かうと、受付嬢のレイナさんが目を丸くして出迎えてくれた。
彼女とは顔なじみだ。俺がいつもパーティの雑用を一手に引き受けていたのを、同情の目で見てくれていた数少ない人物でもある。
「レ、レントさん!? ご無事だったんですか!?」
「レイナさん、久しぶり。無事も何も、ピンピンしてるよ」
「よかった……。『栄光の剣』の皆さんが戻ってきた時にレントさんの姿がなかったので、てっきり……」
レイナさんは言葉を濁したが、要するに「死んだと思っていた」ということだ。
まあ、深層に置き去りにされれば普通はそうなる。
「ちょっと野暮用で残ってただけさ。それより、素材の買取をお願いしたいんだけど」
「はい、もちろんです! Sランク迷宮の素材ですね。査定室へどうぞ」
俺とシルヴィアは、レイナさんに案内されて奥の特別査定室へ通された。
ここは高ランク冒険者が大量の素材や、希少なドロップ品を持ち込む際に使われる部屋だ。
「では、こちらに素材をお出しください」
レイナさんが大きなトレイを用意する。
俺はポケットに手を入れ、【四次元収納】を開いた。
「結構な量があるけど、大丈夫かな?」
「ふふ、ご心配なく。この部屋はマジックバッグの中身を全部ぶちまけても大丈夫なように作られていますから」
レイナさんは微笑んでいる。
彼女は俺が持っているのが、精々深層の雑魚モンスターの素材だと思っているのだろう。
俺が「栄光の剣」のお荷物だったという認識は、ギルド内でも一般的だったからだ。
「じゃあ、出すよ」
俺は収納の口を広げ、逆さにした。
ドサドサドサドサドサッ!!
まず出てきたのは、キメラの牙、皮、爪の山。
続いて、ゴーレムの核(アダマンタイト製)、謎の古代兵器のパーツ。
そして――。
ズガァァァァンッ!!
部屋全体が揺れるほどの質量と共に、巨大な赤い鱗と、人の背丈ほどもある牙、そして輝く宝箱が数個、床に積み上げられた。
「…………え?」
レイナさんの笑顔が固まった。
手にした羽ペンが、ポロリと床に落ちる。
部屋の中は、素材の山で埋め尽くされていた。
特に、一番上に鎮座する巨大な赤い鱗。
そこから放たれる熱気と魔力は、鑑定スキルを持たない者でも肌で感じるほど強烈だ。
「こ、これは……キメラに、アダマンタイト・ゴーレムの動力炉……? それに、この鱗はまさか……」
レイナさんの声が震えている。
彼女は恐る恐る、赤い鱗に触れた。
「熱い……! こ、これ、『エンシェントドラゴン』の逆鱗ですか!?」
「当たり。さすがレイナさん、目がいい」
「エンシェントドラゴンって……! 第百階層の、あの伝説の!?」
レイナさんが悲鳴のような声を上げる。
その声を聞きつけて、奥からギルドマスターのガンドルが飛び出してきた。
元Sランク冒険者の、厳ついドワーフの男だ。
「なんじゃなんじゃ! 魔物でも出たか!?」
「ギ、ギルドマスター! 大変です! レントさんが、ドラゴンの素材を……!」
「なんじゃと?」
ガンドルは目を細め、素材の山を見上げた。
彼の顔色が、一瞬で青ざめ、次いで紅潮した。
「馬鹿な……! これは本物じゃ! 数百年前に英雄王が持ち帰ったという鱗よりも、遥かに魔力が濃い! しかも、ほぼ無傷の完全な状態じゃ!」
ガンドルは興奮して俺に詰め寄った。
「おい坊主! これをどこで手に入れた!?」
「どこって、そりゃ百階層のボス部屋だけど」
「拾ったのか!? いや、竜の死骸など放置されているはずがない……まさか、お主が倒したというのか!?」
ガンドルの大声に、開けっ放しのドアから覗き込んでいた他の職員たちも息を呑む。
俺は頭をかきながら、正直に答えた。
「まあ、そんなところです」
「そんなところ、で済む話ではないわ! 相手は神話級の怪物じゃぞ! 軍隊が動いても勝てるかわからん相手じゃ! それを、お主一人で……いや、そこの嬢ちゃんと二人か?」
ガンドルがシルヴィアを見る。
シルヴィアは首を横に振った。
「いいえ。私が到着した時には、すでにレント様が討伐された後でした。レント様は、単独で勝利されたのです」
「一人で……だと……」
絶句するガンドル。
沈黙が流れる中、レイナさんが恐る恐る質問した。
「あ、あの……レントさん。差し支えなければ、どのようにして倒されたのか、教えていただけますか? 今後の攻略データの参考に……」
激闘の記録。
命を賭した死闘。
誰もがそんな英雄譚を期待して耳を澄ませた。
「ああ、別にいいよ。えっと、石を投げたら死んだ」
「……はい?」
レイナさんが首を傾げる。
ガンドルも口をポカンと開けている。
「だから、そこら辺に落ちてた石ころに、ありったけの強化付与を掛けて投げたんだ。そしたら頭が弾け飛んで、ワンパンだった」
俺は身振り手振りで説明した。
デコピンの要領で、パシュッと。
「石……?」
「ワンパン……?」
理解不能、といった顔のギルド職員たち。
だが、そこにある素材は紛れもない真実だ。
嘘をついているようには見えない(実際、嘘ではない)。
「ぶ、ぶわっはっはっはっは!!」
突然、ガンドルが腹を抱えて爆笑した。
「石ころでドラゴンをワンパンだと!? 傑作じゃ! どんな冗談かと思えば、素材という証拠がある以上、信じざるを得ん! お主、とんでもない化け物じゃったんじゃな!」
ガンドルは俺の背中をバンバンと叩いた。
ドワーフ特有の重い手だ。痛くはないが、埃が舞う。
「『栄光の剣』の連中が、お主を追放したと聞いておったが……あやつら、世界一番の宝くじをドブに捨てたようなもんじゃな!」
「まあ、おかげで俺は自由になれましたけどね」
「違いない! よし、レイナ! 直ちに査定じゃ! と言っても、ギルドの金庫が空になる額になるぞこれは。国に予算請求せんといかん!」
「は、はいぃっ! 大至急手配します!」
レイナさんが慌てて走り出す。
部屋の中は、お祭り騒ぎのような活気に包まれた。
その時、騒ぎを聞きつけたのか、入り口の方に人だかりができているのが見えた。
その中には、先ほど逃げ帰ったはずのヴァルスたちの姿もあった。
彼らは、積み上げられたドラゴンの素材を見て、幽霊でも見たかのように顔を引きつらせていた。
「嘘だろ……あれ、ドラゴンの……」
「レントが倒したって? あいつが?」
「ありえない……そんな力、あいつにあるわけがない……」
彼らの呟きが聞こえてくる。
俺は彼らの方を一瞥し、ニヤリと笑って見せた。
そして、わざと聞こえるようにシルヴィアに話しかける。
「なあシルヴィア。ドラゴンの肉、今度ステーキにしようか。余るほどあるし」
「はい、レント様! 楽しみです!」
その言葉を聞いたヴァルスたちは、悔しさと絶望で顔を歪め、今度こそ無言でその場から姿を消した。
彼らの中で、何かが音を立てて崩れ去った瞬間だっただろう。
「さて、次はステータスの更新だな」
俺はギルドカードを取り出した。
Sランク迷宮を攻略し、ドラゴンを単独撃破したのだ。
ランクアップは間違いないし、ステータスの数値もどうなっているか楽しみだ。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
俺のステータスが、ギルドの測定器の限界を遥かに超えており、とんでもない騒動を引き起こすことを。
(続く)
俺の言葉に、広場が一瞬で静まり返った。
誰もが羨むSランクパーティ『栄光の剣』に向かって、浮浪者扱い。
だが、現在の彼らの姿を見れば、その表現が強ち間違っていないことは誰の目にも明らかだった。
泥と煤にまみれ、装備はボロボロ、血を流して地面に這いつくばる姿は、英雄のそれとは程遠い。
「ふ、ふざけるなレントォォォッ!」
ヴァルスが血走った目で怒鳴り声を上げた。
彼はよろよろと立ち上がると、刃こぼれだらけの剣を俺に向けた。
「お前だろ! お前が何かしやがったんだ! 俺たちの装備に細工を……呪いをかけやがったな!」
「呪い?」
俺は呆れてため息をついた。
こいつらはまだ、自分たちの置かれた状況を理解していないらしい。
「俺は何もしていない。むしろ、今まで『していたこと』をやめただけだ」
「な、なんだと……?」
「お前らのその剣も、鎧も、杖も。俺が毎日寝る間を惜しんでメンテナンスし、強化付与を掛け続けていたからSランク迷宮で通用していたんだ。それがなくなれば、ただの金属の塊に戻るのは当たり前だろう」
俺は淡々と事実を告げた。
だが、ヴァルスのプライドはそれを認めようとはしなかった。
「嘘だ! そんなわけがあるか! 俺たちは選ばれた才能を持つ勇者パーティだぞ! お前ごとき底辺職の小細工で、ここまで差が出るはずがねえ!」
「現実を見ろよ、ヴァルス。お前らは中層の雑魚に負けて逃げ帰ってきた。それが全てだ」
「黙れぇぇッ! 殺してやる!」
ヴァルスが理性を失い、俺に向かって斬りかかってきた。
踏み込みは浅く、剣筋もブレている。
今の俺なら、指先一つで止めるどころか、カウンターで首を跳ねることも容易い。
だが、俺が動くまでもなかった。
キィィィンッ!
甲高い金属音が響き、ヴァルスの剣が虚空で弾かれた。
割って入ったのは、銀髪の美少女――シルヴィアだ。
彼女は鞘に収めたままの聖剣で、ヴァルスの斬撃を軽々と受け流していた。
「……私の主に剣を向けるとは、無礼にも程があります」
シルヴィアの声は冷徹で、絶対的な威圧感を放っていた。
彼女の背後には、憤怒のオーラが揺らめいているように見える。
「なっ……なんだこの女は!?」
「くっ、重い……! 女の腕力かよ、これが!?」
ヴァルスは剣を押し込もうとするが、シルヴィアは微動だにしない。
涼しい顔で、片手で鞘を持っているだけだ。
「貴様のような三流剣士に、レント様を煩わせる資格はありません。下がりなさい」
シルヴィアが手首を軽く返した。
ただそれだけの動作で、ヴァルスの体は木の葉のように吹き飛ばされた。
「ぐはぁっ!?」
ヴァルスは数メートル後ろへ転がり、無様に尻餅をついた。
「ヴァルス!」
エリナやアリアが駆け寄るが、彼女たちもシルヴィアの放つ気迫に押され、それ以上近づくことができない。
広場の冒険者たちが、どよめき始めた。
「おい見たか? あのヴァルスが、女の子に手も足も出ねえぞ……」
「しかも剣を抜いてすらいない……」
「あの娘、何者だ? レントの連れみたいだが」
「っていうか、レントの言ってたこと、本当だったんじゃねえか? あいつが抜けた途端に『栄光の剣』があんなに弱くなったってことは……」
周囲の視線が、侮蔑から疑惑、そして驚愕へと変わっていく。
『栄光の剣』の強さは、実はレントという土台があってこそだったのではないか。
そんな真実に、人々が気づき始めていた。
「くそっ、覚えてろよレント! この借りは必ず返す!」
「ギルドに報告してやるわ! あんたが元仲間に呪いをかけるような危険人物だってね!」
ヴァルスとエリナは捨て台詞を吐きながら、逃げるようにその場を去っていった。
その後ろ姿は、かつての栄光など見る影もなく、ただの負け犬そのものだった。
「……愚かな人たちです」
シルヴィアが冷ややかに呟き、俺の方を向くと、途端に表情を和らげた。
「お怪我はありませんか、レント様」
「ああ、ありがとうシルヴィア。でも、あんな連中の相手、君がするまでもなかったよ」
「いいえ。主への侮辱は、私への侮辱以上に許せませんので」
彼女は誇らしげに胸を張った。
忠誠心が厚すぎて、少し怖いくらいだ。
「さて、気を取り直してギルドに行こうか。いろいろと手続きがある」
俺たちは騒然とする広場を後にして、冒険者ギルドの建物へと入っていった。
ギルドの中もまた、多くの冒険者たちで賑わっていた。
俺たちがカウンターに向かうと、受付嬢のレイナさんが目を丸くして出迎えてくれた。
彼女とは顔なじみだ。俺がいつもパーティの雑用を一手に引き受けていたのを、同情の目で見てくれていた数少ない人物でもある。
「レ、レントさん!? ご無事だったんですか!?」
「レイナさん、久しぶり。無事も何も、ピンピンしてるよ」
「よかった……。『栄光の剣』の皆さんが戻ってきた時にレントさんの姿がなかったので、てっきり……」
レイナさんは言葉を濁したが、要するに「死んだと思っていた」ということだ。
まあ、深層に置き去りにされれば普通はそうなる。
「ちょっと野暮用で残ってただけさ。それより、素材の買取をお願いしたいんだけど」
「はい、もちろんです! Sランク迷宮の素材ですね。査定室へどうぞ」
俺とシルヴィアは、レイナさんに案内されて奥の特別査定室へ通された。
ここは高ランク冒険者が大量の素材や、希少なドロップ品を持ち込む際に使われる部屋だ。
「では、こちらに素材をお出しください」
レイナさんが大きなトレイを用意する。
俺はポケットに手を入れ、【四次元収納】を開いた。
「結構な量があるけど、大丈夫かな?」
「ふふ、ご心配なく。この部屋はマジックバッグの中身を全部ぶちまけても大丈夫なように作られていますから」
レイナさんは微笑んでいる。
彼女は俺が持っているのが、精々深層の雑魚モンスターの素材だと思っているのだろう。
俺が「栄光の剣」のお荷物だったという認識は、ギルド内でも一般的だったからだ。
「じゃあ、出すよ」
俺は収納の口を広げ、逆さにした。
ドサドサドサドサドサッ!!
まず出てきたのは、キメラの牙、皮、爪の山。
続いて、ゴーレムの核(アダマンタイト製)、謎の古代兵器のパーツ。
そして――。
ズガァァァァンッ!!
部屋全体が揺れるほどの質量と共に、巨大な赤い鱗と、人の背丈ほどもある牙、そして輝く宝箱が数個、床に積み上げられた。
「…………え?」
レイナさんの笑顔が固まった。
手にした羽ペンが、ポロリと床に落ちる。
部屋の中は、素材の山で埋め尽くされていた。
特に、一番上に鎮座する巨大な赤い鱗。
そこから放たれる熱気と魔力は、鑑定スキルを持たない者でも肌で感じるほど強烈だ。
「こ、これは……キメラに、アダマンタイト・ゴーレムの動力炉……? それに、この鱗はまさか……」
レイナさんの声が震えている。
彼女は恐る恐る、赤い鱗に触れた。
「熱い……! こ、これ、『エンシェントドラゴン』の逆鱗ですか!?」
「当たり。さすがレイナさん、目がいい」
「エンシェントドラゴンって……! 第百階層の、あの伝説の!?」
レイナさんが悲鳴のような声を上げる。
その声を聞きつけて、奥からギルドマスターのガンドルが飛び出してきた。
元Sランク冒険者の、厳ついドワーフの男だ。
「なんじゃなんじゃ! 魔物でも出たか!?」
「ギ、ギルドマスター! 大変です! レントさんが、ドラゴンの素材を……!」
「なんじゃと?」
ガンドルは目を細め、素材の山を見上げた。
彼の顔色が、一瞬で青ざめ、次いで紅潮した。
「馬鹿な……! これは本物じゃ! 数百年前に英雄王が持ち帰ったという鱗よりも、遥かに魔力が濃い! しかも、ほぼ無傷の完全な状態じゃ!」
ガンドルは興奮して俺に詰め寄った。
「おい坊主! これをどこで手に入れた!?」
「どこって、そりゃ百階層のボス部屋だけど」
「拾ったのか!? いや、竜の死骸など放置されているはずがない……まさか、お主が倒したというのか!?」
ガンドルの大声に、開けっ放しのドアから覗き込んでいた他の職員たちも息を呑む。
俺は頭をかきながら、正直に答えた。
「まあ、そんなところです」
「そんなところ、で済む話ではないわ! 相手は神話級の怪物じゃぞ! 軍隊が動いても勝てるかわからん相手じゃ! それを、お主一人で……いや、そこの嬢ちゃんと二人か?」
ガンドルがシルヴィアを見る。
シルヴィアは首を横に振った。
「いいえ。私が到着した時には、すでにレント様が討伐された後でした。レント様は、単独で勝利されたのです」
「一人で……だと……」
絶句するガンドル。
沈黙が流れる中、レイナさんが恐る恐る質問した。
「あ、あの……レントさん。差し支えなければ、どのようにして倒されたのか、教えていただけますか? 今後の攻略データの参考に……」
激闘の記録。
命を賭した死闘。
誰もがそんな英雄譚を期待して耳を澄ませた。
「ああ、別にいいよ。えっと、石を投げたら死んだ」
「……はい?」
レイナさんが首を傾げる。
ガンドルも口をポカンと開けている。
「だから、そこら辺に落ちてた石ころに、ありったけの強化付与を掛けて投げたんだ。そしたら頭が弾け飛んで、ワンパンだった」
俺は身振り手振りで説明した。
デコピンの要領で、パシュッと。
「石……?」
「ワンパン……?」
理解不能、といった顔のギルド職員たち。
だが、そこにある素材は紛れもない真実だ。
嘘をついているようには見えない(実際、嘘ではない)。
「ぶ、ぶわっはっはっはっは!!」
突然、ガンドルが腹を抱えて爆笑した。
「石ころでドラゴンをワンパンだと!? 傑作じゃ! どんな冗談かと思えば、素材という証拠がある以上、信じざるを得ん! お主、とんでもない化け物じゃったんじゃな!」
ガンドルは俺の背中をバンバンと叩いた。
ドワーフ特有の重い手だ。痛くはないが、埃が舞う。
「『栄光の剣』の連中が、お主を追放したと聞いておったが……あやつら、世界一番の宝くじをドブに捨てたようなもんじゃな!」
「まあ、おかげで俺は自由になれましたけどね」
「違いない! よし、レイナ! 直ちに査定じゃ! と言っても、ギルドの金庫が空になる額になるぞこれは。国に予算請求せんといかん!」
「は、はいぃっ! 大至急手配します!」
レイナさんが慌てて走り出す。
部屋の中は、お祭り騒ぎのような活気に包まれた。
その時、騒ぎを聞きつけたのか、入り口の方に人だかりができているのが見えた。
その中には、先ほど逃げ帰ったはずのヴァルスたちの姿もあった。
彼らは、積み上げられたドラゴンの素材を見て、幽霊でも見たかのように顔を引きつらせていた。
「嘘だろ……あれ、ドラゴンの……」
「レントが倒したって? あいつが?」
「ありえない……そんな力、あいつにあるわけがない……」
彼らの呟きが聞こえてくる。
俺は彼らの方を一瞥し、ニヤリと笑って見せた。
そして、わざと聞こえるようにシルヴィアに話しかける。
「なあシルヴィア。ドラゴンの肉、今度ステーキにしようか。余るほどあるし」
「はい、レント様! 楽しみです!」
その言葉を聞いたヴァルスたちは、悔しさと絶望で顔を歪め、今度こそ無言でその場から姿を消した。
彼らの中で、何かが音を立てて崩れ去った瞬間だっただろう。
「さて、次はステータスの更新だな」
俺はギルドカードを取り出した。
Sランク迷宮を攻略し、ドラゴンを単独撃破したのだ。
ランクアップは間違いないし、ステータスの数値もどうなっているか楽しみだ。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
俺のステータスが、ギルドの測定器の限界を遥かに超えており、とんでもない騒動を引き起こすことを。
(続く)
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