追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

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第6話 一方その頃、元パーティは。「あれ、俺の剣こんなに切れ味悪かったか?」

レントを置き去りにしてから、数十分後。
Sランクパーティ『栄光の剣』の面々は、第九十階層のさらに奥、ボス部屋へと続くエリアを進んでいた。

「あー、せいせいした! あの陰気な顔を見なくて済むと思うと、空気がうまく感じるぜ!」

リーダーの剣聖ヴァルスが、大げさに肩を回しながら笑った。
その隣を歩く魔導師のエリナも、艶やかな唇を歪めて同意する。

「本当にね。いつもブツブツと『装備の耐久値が』とか『マナの残量が』とか、小姑みたいで鬱陶しかったもの。これでようやく、私たち本来のペースで探索ができるわ」
「まったくだ。報酬の頭数が一人減った分、僕らの取り分も増える。一石二鳥ですね」

盗賊のジャミルが、レントから奪ったマジックバッグを放り投げ、またキャッチして遊んでいる。
聖女アリアだけは少し浮かない顔をしていたが、ヴァルスに「何か言いたげだな?」と睨まれると、慌てて首を横に振った。

「ううん、何でもないわ。……そうね、これで良かったのよ。レントの為にも」
「ハッ、あいつの為とかどうでもいいだろ。魔物の餌になって役に立ったなら、それが奴の人生のハイライトだ」

ヴァルスは鼻で笑い、新しく加入した賢者ガイルの肩を叩いた。

「頼むぜ、先生。お前の『全体強化(フィールド・バフ)』の威力、見せてくれよ」
「ふふふ、任せてください」

ガイルは自信満々に眼鏡の位置を直し、杖を掲げた。
彼のまとう煌びやかなローブは、最高級の魔法絹で織られた一級品だ。ボロボロのローブを着ていたレントとは、見た目からして雲泥の差がある。

「我が魔力よ、英雄たちに力を与えよ! 【攻撃力上昇(アタック・ブースト)】【防御力上昇(ガード・ブースト)】【俊敏性上昇(スピード・ブースト)】――オール・エンハンス!」

ガイルの詠唱と共に、パーティ全員の体が赤い光に包まれた。
力が湧き上がる感覚。
ヴァルスは自分の拳を握りしめ、感嘆の声を上げた。

「おおっ! すげえ! 力が漲ってくるぞ!」
「これが賢者の魔法……! レントの地味な魔法とは輝きが違うわ!」
「ステータス画面で確認しましたが、全能力が30%も上昇しています! これはすごい!」

ジャミルが興奮して叫ぶ。
30%の底上げ。それは数値上、劇的な変化に見えた。
レントが掛けていたバフは、数値上の表記では10%程度だった(実際には『概念書き換え』による隠し補正が大量に乗っていたのだが、ステータス画面しか信じない彼らには見えていなかった)。

「見たか! これが本物の支援職だ! レントの野郎、一割しか上げられないくせに『俺のバフは質が違う』なんて強がってやがったが、完全に嘘だったな!」
「あはは! 本当ね。私たち、今までなんて無駄な縛りプレイをさせられていたのかしら」

彼らは勝利を確信していた。
賢者ガイルの強力なバフがあれば、この先のボスも、ダンジョン踏破も余裕だと。
しかし、その慢心が崩れ去るのに、時間はかからなかった。

「お、敵のお出ましだぜ」

通路の前方から、三体の魔物が現れた。
『アダマン・ビートル』。
全身が硬い甲殻に覆われた、巨大な甲虫型の魔物だ。
動きは遅いが、その防御力は生半可な攻撃を一切通さない。
Sランク迷宮では珍しくない、いわゆる「中堅」の敵だ。

「へっ、ちょうどいいサンドバッグだ。ガイルのバフの実験台になってもらおうか!」

ヴァルスが愛剣――国宝級の大剣『ドラゴンスレイヤー(偽)』を抜き放った。
この剣は竜の骨から作られた業物だが、日々のメンテナンスが非常に難しい。
ヴァルスはそんなことは知らず、いつものように地面を蹴った。

速い。
30%の速度上昇は伊達ではない。
一瞬でビートルの懐に潜り込む。

「らぁぁぁっ! 一刀両断!!」

ヴァルスは全力を込めて、ビートルの頭部へ剣を振り下ろした。
いつもなら。
レントが毎晩寝ずに『切れ味強化』『装甲貫通』『耐久度修復』を付与していたこの剣なら、ビートルの甲殻など紙のように切り裂いていたはずだった。

ガギィィィンッ!!!

「――は?」

嫌な金属音が響き、ヴァルスの腕に強烈な痺れが走った。
剣が、止まった。
ビートルの甲殻に食い込むどころか、表面で弾かれたのだ。

「な、なんだ!?」

ヴァルスが目を見開く。
ビートルは無傷だった。
それどころか、ヴァルスの剣の刃に、小さくない「刃こぼれ」が生じているのが見えた。

「嘘だろ!? 俺の剣だぞ!? なんで弾かれる!?」

驚愕するヴァルスに、ビートルの反撃が迫る。
巨大な角がヴァルスの横腹を薙ぎ払おうとする。

「くっ、調子に乗るな!」

ヴァルスはバックステップで回避しようとした。
だが。
ガシャッ。
足がもつれた。
鎧の関節部分が妙に重い。
いつもならスムーズに動くはずのグリーブが、錆びついたように軋んだのだ。

「ぐわっ!?」

回避が遅れた。
角がヴァルスの脇腹を掠める。
ガガガガッ!
火花が散り、ヴァルスは壁まで吹き飛ばされた。

「ヴァルス!?」

アリアが悲鳴を上げる。
ヴァルスは壁に背中を打ち付け、激痛に顔を歪めた。

「いってぇ……! なんだこれ、鎧が重い……衝撃が全然吸収できてねえぞ!?」

おかしい。
この『ミスリル・フルプレート』は、衝撃耐性の付与がされているはずだ。
ビートルのカス当たり程度なら、痛みすら感じないはずなのに。
まるで、ただの鉄板を身につけているかのように、衝撃が骨まで響いた。

「ちっ、私がやるわ!」

エリナが杖を構えた。
前衛が不甲斐ないなら、魔法で焼き払えばいい。

「燃え尽きなさい! 【爆裂火球(エクスプロージョン・ボール)】!」

彼女の得意とする上級攻撃魔法。
杖の先端に巨大な火球が生成され――るはずだった。

ボシュッ。

情けない音と共に、握り拳程度の小さな火の玉が現れ、ビートルに向かって飛んでいった。
パァン。
ビートルの甲殻に当たって、爆竹のように弾ける。
ビートルは「何か当たったか?」というように首を傾げただけだった。

「は……?」

エリナは自分の杖を見つめた。

「な、なによこれ! 魔力が全然通らないじゃない! 詰まってる感じがする……!」

彼女の杖は、魔力伝導率を高めるために繊細な調整が必要な代物だ。
レントは毎日、彼女の杖の『魔力回路』を掃除し、流れをスムーズにする付与を施していた。
それがなくなれば、この杖はただの「魔力の通りが悪い木の棒」でしかない。
本人の魔力がどれだけ高くても、出口が詰まっていれば魔法は発動しないのだ。

「お、おいおい、どうなってんだよ!」

ジャミルが焦った声を出す。
ビートルたちが、鬱陶しそうにこちらへ向かって行進を始めた。

「ガイル! もっとバフをかけろ! 足りねえんだよ!」
「え、ええっ!? もうフルにかけてますよ! これ以上は魔力が持ちません!」

ガイルが悲鳴を上げる。
彼の『全体強化』は、強力だが燃費が悪い。
すでに彼のMPは半分を切っている。

「くそっ、やっぱり俺がやるしかねえのか!」

ジャミルがナイフを構えて飛び出した。
彼はビートルの背後に回り込み、関節の隙間を狙う。

「ここだっ!」

キンッ!

「……あ」

ナイフの切っ先が、関節の柔らかい部分に刺さらず、折れた。
安物のナイフではない。ミスリル製だ。
だが、手入れのされていないミスリルは、意外と脆い。

「嘘だろ……」

呆然とするジャミルの目の前で、ビートルが振り向く。
その複眼が、ギロリと彼を睨んだ。

「ひっ!」

ジャミルは慌てて逃げようとしたが、マントが岩の突起に引っかかった。
いつもなら【自動回避】や【摩擦軽減】の付与で、スルスルと抜けられるはずのマントだ。

「離せっ! このボロ布!」

バリッ!
マントが破れる音と共に、ビートルの前脚がジャミルの背中を打ち据えた。

「ぎゃあああああああっ!」

ジャミルがボールのように転がり、地面に叩きつけられる。
HPバーが一気にレッドゾーンまで減った。

「ジャミル!」

アリアが慌てて回復魔法を唱える。
「【治癒(ヒール)】!」

光がジャミルを包む。
だが、その光は弱々しく、傷の塞がりも遅い。

「えっ……嘘、なんで? 回復量が、いつもの半分も出てない……」

アリアは青ざめた。
彼女は自分の魔力が低下したのかと思った。
だが違う。
レントは、アリアの聖印(ホーリーシンボル)に【回復効果増幅】と【詠唱短縮】を付与していたのだ。
さらに、パーティメンバー全員の防具に【被回復量上昇】の付与まで仕込んでいた。
それら全てが失われた今、彼らの回復効率はガタ落ちしていた。

「くそっ、どうなってやがる!」

ヴァルスが痛みを堪えて立ち上がる。
三体のビートルが、獲物を追い詰めるようにじりじりと迫ってくる。
たかが中堅モンスター相手に、Sランクパーティが全滅の危機。
ありえない事態だ。

「おいガイル! お前のバフ、本当に効いてんのか!?」
「き、効いてますよ! ステータスは上がってるはずです! でも、皆さんの装備の状態が悪すぎます!」

ガイルが叫び返した。
賢者である彼には分かっていた。
彼らの装備が、Sランク迷宮の負荷に耐えきれず、悲鳴を上げていることが。
剣は刃こぼれし、杖は魔力詰まりを起こし、鎧は留め具が緩んでいる。
まるで数年間、一度も手入れをしていないかのような劣化具合だ。

「装備の状態だと!? ふざけるな、さっきまで新品同様だったんだぞ!」
「レントが! レントがいなくなってから急に……!」

エリナが叫び、ハッとした表情になる。
全員の脳裏に、追放した男の顔がよぎった。

『お前の付与は地味で役に立たない』

ヴァルスが吐き捨てた言葉。

『一割しか上げられないお前とは格が違う』

ガイルと比較して嘲笑った言葉。

だが、現実はどうだ。
レントがいた時は、ヴァルスの剣は岩をも切り裂き、エリナの魔法は爆炎を撒き散らし、ジャミルは風のように舞い、アリアの回復は一瞬で傷を癒やしていた。
それは彼ら自身の才能だと思っていた。
自分たちが強いからだと。

「まさか……あいつ、俺たちが寝てる間に……」

ヴァルスは、夜営の時の光景を思い出した。
自分たちが酒を飲んで寝静まった後、焚き火のそばで一人、黙々と自分たちの装備を磨き、魔力を注いでいたレントの背中を。
「趣味みたいなもんだから」と笑っていたあいつを。

「そんな……まさか、あいつの付与が、これほどまで影響していたっていうのか!?」

ヴァルスの剣が、恐怖で震えた。
ビートルの一体が、トドメとばかりに突進の構えを見せる。

「くるぞ! 迎撃しろ!」
「無理よ! 魔法が出ないの!」
「俺も武器がねえ!」
「MPがもうゼロです!」

絶体絶命。
Sランクパーティの連携は崩壊していた。
個々の能力が高くても、それを支える土台(装備とコンディション)が腐っていては戦えない。

「ちくしょうッ! 撤退だ! 『帰還の水晶』を使え!」

ヴァルスが屈辱にまみれた命令を下した。
深層からの撤退。
それはSランクパーティとしての名声に泥を塗る行為だ。
だが、死ぬよりはマシだ。

ジャミルが震える手で、懐から水晶を取り出した。
高価な消費アイテムだ。これ一つで、金貨数百枚が飛ぶ。

「早くしろ!」

ビートルの角が迫る。
ジャミルが水晶を地面に叩きつけた。

パリーン!

光が溢れ、空間が歪む。
間一髪。
ビートルの突進が彼らのいた場所を通り抜けるのと同時に、彼らの体は光の彼方へと消えた。



光が収まると、そこはダンジョンの入り口広場だった。
周囲には、多くの冒険者たちがたむろしている。

ドサッ、ドサッ。

『栄光の剣』のメンバーたちは、地面に無様に転がった。
ヴァルスは脇腹から血を流し、鎧は凹み、剣は刃こぼれだらけ。
エリナは煤まみれで、髪はボサボサ。
ジャミルは全身打撲で呻き、アリアは魔力枯渇で失神寸前。
ガイルだけは外傷こそないが、MP切れで泡を吹いて倒れている。

「おい、あれ……『栄光の剣』じゃねえか?」
「うわ、ひっでえ姿!」
「Sランク迷宮で何があったんだ?」
「全滅寸前じゃねえか……」

周囲の冒険者たちがざわめき、奇異の目で彼らを見る。
トップランカーとして崇められていた彼らの、見るも無残な敗走姿。

「くそ……くそぉッ……!」

ヴァルスは地面を拳で叩いた。
痛い。拳の皮が剥け、血が出る。
以前なら、皮膚に【硬化付与】がかかっていたから、こんな怪我はしなかった。

「なんなんだよ……! なんで急に弱くなるんだよ!」

認められない。
自分たちが弱かったなんて。
レントのおかげだったなんて。

「あいつだ……レントの呪いだ……!」

ヴァルスは血走った目で叫んだ。

「あいつが、出て行く時に俺たちに呪いをかけやがったんだ! 装備を劣化させる呪いを! なんて卑怯な野郎だ!」
「そうよ……そうに決まってるわ!」

エリナもヒステリックに叫ぶ。
自分の杖が役立たずになったのを、自分のせいだとは認めたくない。

「絶対に許さない……! 街に戻ったら、あいつを見つけ出して、呪いを解かせてやる!」
「ああ、そうだ。ただじゃおかねえ。土下座させて、靴の裏を舐めさせてやる!」

彼らはまだ気づいていなかった。
自分たちが逆恨みをしている相手が、すでに自分たちの手の届かない「雲の上」の存在になっていることを。
そして、自分たちの装備が劣化したのではなく、それが「本来の実力」であるという残酷な真実を。

「おい、見ろよ。あっちから誰か来るぞ」

野次馬の一人が声を上げた。
広場の反対側、迷宮の出口から、悠然と歩いてくる二人組。
漆黒のコートを纏った男と、光り輝く聖剣を帯びた銀髪の美少女。

圧倒的な強者のオーラ。
誰もが道を譲るその二人組が、満身創痍の『栄光の剣』の横を通り過ぎようとしていた。

ヴァルスは霞む目でその男を見た。
見覚えのある背格好。
だが、纏っている雰囲気がまるで違う。

「……レ、レント?」

ヴァルスの掠れた声が響いた。
黒いコートの男が、足を止めた。
ゆっくりと振り返る。
その瞳には、かつてのような怯えも、媚びへつらいもなかった。
あるのは、虫を見るような冷徹な眼差し。

「……誰だ、お前ら? 浮浪者かと思ったら、元仲間か」

レントの言葉に、周囲の空気が凍りついた。
『栄光の剣』の転落は、まだ始まったばかりだった。

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