追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

sika3

第3話 ステータス『無限』。その辺の石ころが神話級武器になりました。

迷宮の最深部、第百階層。
天井が見えないほど高く広大なドーム状の空間は、灼熱の息吹によって支配されていた。

「グオオオオオオオッ!!」

目の前に鎮座するエンシェントドラゴンが、空気を震わせる咆哮を上げた。
鼓膜を突き破り、精神を直接削り取るような『竜の威圧(ドラゴン・フィアー)』。
並の冒険者なら、この声を聞いただけで心臓が止まり、Sランクのベテランでさえ恐怖で動けなくなるという。

だが、俺はあくびを噛み殺していた。

「うるさいな。挨拶にしては大げさすぎるぞ」

俺の周囲には、薄い金色の膜――【精神守護(マインド・バリア)】が張られている。
俺が自分自身に付与した防御スキルの一つだ。
この膜がある限り、どんな精神攻撃も、威圧も、殺気も、俺の心には届かない。
今の俺にとって、伝説の竜の咆哮は、近所の犬が吠えているのと大差なかった。

ドラゴンは、自分の威圧が効いていないことに気づいたのか、金色の瞳を細めた。
知性のある魔物だ。
単なる餌だと思っていたちっぽけな人間が、平然と立っていることに違和感を覚えたのだろう。

次の瞬間、ドラゴンの喉元が赤く発光した。
熱波が空間を歪める。

「ブレスか」

回避? 防御?
いや、必要ない。

ゴオオオオオオオオオッ!!

ドラゴンの口から放たれたのは、すべてを灰燼に帰す『終焉の炎(エンド・フレア)』だった。
岩をも溶かし、鋼鉄を蒸発させる数千度の奔流が、俺の体を直撃する。
視界が真っ白に染まり、轟音がすべてを塗りつぶした。

炎の嵐が吹き荒れること数秒。
やがて煙が晴れると、そこには――。

「……ちょっと熱いな。サウナみたいだ」

服についた煤を払いながら、俺は無傷で立っていた。
着ていたボロボロのローブこそ燃え尽きてしまったが、俺の肌には火傷一つない。
【熱耐性(ヒート・レジスト)】の付与。
しかもただの耐性ではない。
『熱エネルギーを吸収し、魔力に変換する』という概念を追加した特製バフだ。
ドラゴンの最強攻撃は、俺にとってただの栄養補給(エネルギーチャージ)にしかならなかった。

「グルッ!? ガアアッ!?」

ドラゴンが明らかに動揺して後ずさった。
自分の最強の攻撃が通じない生物など、数千年の時を生きてきた彼(彼女?)にとっても初めてなのだろう。

「お返しをしなきゃな。……とはいえ、素手で殴ると汚れるし」

俺は足元を見やった。
ドラゴンのブレスで床が溶け、冷え固まってできた黒曜石のような瓦礫が転がっている。
ちょうどいい。
俺はその欠片を拾い上げた。
手のひらに収まる、なんの変哲もない黒い石ころ。

「さて、実験だ。俺のステータスは今、どうなってる?」

俺は意識を集中し、自分のステータスを詳細に確認する。
前回見たときは『限界突破』という表記だったが、さらに深く解析(アナライズ)してみる。

【筋力】測定不能(∞)
【魔力】測定不能(∞)
【付与容量】無限大

「……無限(インフィニット)、か」

どうやら俺の能力は、底が知れないらしい。
自分自身に強化を重ねがけし続けた結果、システム上の上限(カンスト)をぶち破り、文字通りの『無限』に到達してしまったようだ。
つまり、俺が注ぎ込める魔力量に制限はない。
この石ころ一つに、国家予算分の魔石すべてのエネルギーを注ぎ込むことだって可能だということだ。

「よし、やってみるか。この石を、世界最強の武器にする」

俺は石ころを握りしめ、イメージを流し込んだ。
付与術師の真骨頂。
物質の定義を書き換える。

まずは【硬度強化】。ダイヤモンドの数億倍、物理的に破壊不可能なレベルまで硬くする。
次に【重量操作】。見た目は軽いが、インパクトの瞬間だけ山脈一つの重さを与える。
そして【必中】。投げれば必ず当たる因果律の固定。
最後に――【神殺し(ゴッド・スレイヤー)】。対象の防御力、再生能力、不死性をすべて無効化し、魂ごと消滅させる概念付与。

ブゥン……。

石ころが、どす黒い光を放ち始めた。
ただの石ではない。
周囲の空間が、そのあまりの魔力密度に耐えきれず、バリバリと音を立ててひび割れていく。
まるでブラックホールを手に持っているような感覚だ。

「名付けて、『終焉の礫(ペブル・オブ・エンド)』ってところか」

ネーミングセンスはいまいちかもしれないが、威力は保証付きだ。
かつてパーティメンバーの武器に付与していた『攻撃力+10%』なんて可愛いものじゃない。
これは、『存在消滅+100%』の凶器だ。

ドラゴンは本能的な恐怖を感じ取ったらしい。
鱗を逆立て、翼を広げて空へと逃げようとした。
賢い判断だ。だが、遅い。

「逃がさないよ。お前は俺の経験値だ」

俺は野球のボールを投げるようなフォームで、軽く石を振りかぶった。

「そらっ」

指先から石が放たれた瞬間。
音は置き去りにされた。

光の帯が走ったと認識するよりも速く、石はドラゴンの眉間に着弾していた。
硬い鱗?
魔法障壁?
強靭な頭蓋骨?
すべてが紙切れのように貫通された。

ズガアアアアアアアアアンッ!!!

着弾の瞬間、圧縮された付与効果が開放される。
ドラゴンの頭部が内部から破裂し、消し飛んだ。
さらに、その余波で背後の壁――いや、第百階層の迷宮外壁そのものが円形に抉り取られ、はるか彼方の地層まで貫くトンネルが出来上がった。

巨大なドラゴンの胴体が、糸の切れた人形のようにドサリと地面に落ちる。
地響きが止むと、あたりは静寂に包まれた。

「……あー、やりすぎた」

俺は頭をかいた。
手加減したつもりだったが、それでも威力が過剰だったらしい。
後ろの壁に空いた大穴からは、地底湖の水が滝のように流れ込み始めている。

「まあいいか。回収、回収」

俺はドラゴンの死体に近づいた。
討伐証明となる部位を採取しなくてはならない。
だが、近づいた瞬間、ドラゴンの死体が光の粒子となって崩れ始めた。
ダンジョンの魔物は死ぬと魔素に還るものが多いが、ボス級ともなるとアイテムをドロップする。

光の中に残されたのは、煌びやかな財宝の数々だった。

巨大な赤い魔石。
ドラゴンの牙から作られた大剣。
決して破れない竜鱗の鎧。
そして、山のような金貨と宝石。

「これがSランク迷宮の初クリア報酬か。すごい量だな」

かつての『栄光の剣』なら、これを見て狂喜乱舞し、誰が何を取るかで醜い争いを始めたことだろう。
ヴァルスなら大剣を独り占めし、エリナは宝石を、ジャミルは金貨を要求する。
そして俺には、「運ぶのを手伝え」と言って、何も分け与えなかったに違いない。

「全部、俺のものだ」

俺はポケットに手を入れ、【四次元収納】を発動させた。
掃除機のように、財宝が次々と吸い込まれていく。
数億ゴールドはあるだろう金貨も、国宝級の装備も、すべて無造作に放り込む。

その中で、俺は一つだけアイテムを手に取った。
ドラゴンの革で作られた、漆黒のロングコートだ。
鑑定してみる。

【黒竜王の外套】
等級:神話級(ミソロジー)
効果:火属性無効、物理耐性(大)、魔法耐性(大)、自動修復。

「うん、悪くない。さっき服が燃えちゃったし、ちょうどいいな」

俺は袖を通した。
サイズは自動的に調整され、俺の体にぴったりとフィットする。
黒いコートを羽織った俺の姿は、鏡がないから分からないが、以前の薄汚れたローブ姿よりはマシになっただろう。
これにさらに、俺の『付与』で【自動洗浄(クリーン)】や【温度調節】をつけておけば、快適な旅ができそうだ。

すべてのドロップ品を回収し終えると、ドラゴンのいた玉座の後ろに、小さな扉が出現していた。
ボスを倒した者だけが進める、さらに奥のエリアへの入り口か?
あるいは、地上への脱出ルートか?

「……ん?」

俺の強化された聴覚が、微かな音を拾った。
扉の向こうから、人の声がする。
それも、苦しげな吐息と、金属が擦れる音。

「魔物じゃない。人間か?」

こんな最深部の、さらに奥に人間?
他のルートから侵入した冒険者だろうか。
それとも、遭難者か。

興味が湧いた。
俺は新しいコートの裾を翻し、その扉へと向かった。

ガチャリ、と扉を開ける。
そこは、ボス部屋とは打って変わって、静謐な石造りの回廊だった。
壁には青白い燐光を放つ苔が生え、幻想的な雰囲気を醸し出している。

その回廊の隅に、一人の人物が力尽きたように倒れていた。

ボロボロに砕けた鎧。
折れた剣。
そして、泥と血にまみれてはいるが、隠しきれない高貴な輝きを放つ銀色の髪。

「……女?」

俺は警戒しつつ近づいた。
彼女は俺の足音に気づき、ビクリと肩を震わせたが、顔を上げる力も残っていないようだった。
青白い顔。浅い呼吸。
出血量がひどい。このままでは数分で死ぬだろう。

「う……あ……」

彼女がうわ言のように何かを呟いた。
俺はしゃがみ込み、その顔を覗き込む。
驚いた。
泥だらけだが、信じられないほどの美少女だ。
整った顔立ち、透き通るような白い肌。
どこかの貴族、いや、王族と言われても信じてしまいそうな気品がある。
だが、その瞳は絶望に濁り、光を失いかけていた。

「助け……て……」

消え入るような声。
俺はその言葉を聞いて、ふと、数時間前の自分を思い出した。
仲間(ヴァルスたち)に見捨てられ、絶望の中で死を待っていた自分を。

今の俺には、彼女を助ける義理はない。
人間なんて信用できない。助けたところで、恩を仇で返されるかもしれない。
あのパーティのように。

だが。

「……気まぐれだ」

俺はそう呟き、彼女の体に手をかざした。
圧倒的な強さを手に入れた余裕か、それとも単なる同情か。
自分でも分からないが、見殺しにするのは寝覚めが悪い気がした。

「【完全治癒(フル・ヒール)】付与。ついでに【体力回復】と【解毒】もセットで」

俺の掌から、黄金の光が溢れ出す。
通常のヒール魔法ではない。
細胞の時間を巻き戻し、破損した組織を『元通り』以上に再構築する、付与術による再生だ。

光が収まると、彼女の傷は跡形もなく消えていた。
顔色に赤みが戻り、呼吸も穏やかになる。

「ん……ぁ……?」

彼女がゆっくりと瞼を開いた。
アメジストのような紫色の瞳が、俺を捉える。
彼女は自分の体が治っていることに驚き、慌てて体を起こそうとして――バランスを崩して俺の胸に倒れ込んできた。

「おっと」

俺は彼女の体を支えた。
柔らかい感触と、微かに甘い匂い。
彼女は呆然とした顔で、俺を見上げている。

「貴方は……? ここは……天国、なのですか?」
「残念ながら、まだ地獄の底(ダンジョン)だよ。でも、死神は俺が追い払っておいた」

俺はニヤリと笑った。
彼女の瞳に、俺の顔が映っている。
それは、かつてのおどおどした『役立たずのレント』の顔ではなかった。
自信と力に満ちた、強者の顔だった。

「私は……生きて、いる……?」
「ああ。運が良かったな。ここを通りがかったのが、世界で一番『付与』が得意な男で」

彼女は震える手で俺の袖を掴んだ。
その目には、涙が浮かんでいる。

「ありがとう……ございます……っ!」

彼女が誰なのか、なぜこんな場所にいたのかはまだ分からない。
だが、この出会いが、俺の『最強のハーレムパーティ』構築への第一歩になるとは、この時の俺はまだ知る由もなかった。

俺は立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。

「立てるか? お姫様」

彼女は涙を拭い、強く頷いて俺の手を取った。
その手は小さかったが、剣ダコがあり、戦士の手をしていることが分かった。
第一村人ならぬ、第一美少女の発見だ。

さて、元パーティの連中はどうしているだろうか。
俺がこうして美女を拾い、神話級の装備を手に入れている間に、彼らは精々苦労してくれているといいのだが。

――一方その頃。
地上へ続く階層で、ヴァルスたちは悲鳴を上げていた。

「くそっ! なんだこの硬さは! 俺の剣が通じないだと!?」
「やだ、私の杖にひびが! レントのメンテナンスがないと、こんなに脆いの!?」

俺の『加護』を失った彼らの装備は、急速に劣化を始めていた。
ざまぁみろ、という言葉すら生ぬるい。
彼らの転落劇もまた、静かに幕を開けていたのだ。

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