追放された付与術師、自分自身を『神』へと強化する。~捨てられた俺、実は万能チート。美少女と無双する間に、元仲間は全滅しているようですが?~

sika3

第5話 彼女の古びた剣を『聖剣』に強化してみた結果。

「……信じられません」

シルヴィアは、自身の手の中にある剣を呆然と見つめていた。
透き通るようなクリスタルの刀身。その中心を走る七色の光脈。
かつては古びて刃こぼれだらけだった『白銀の誓い』は、俺の付与によって『真・聖剣』へと生まれ変わっていた。

俺たちは現在、Sランク迷宮『奈落の顎』の第五十階層付近を歩いている。
最深部から地上への帰還ルートだ。
本来なら、このあたりの階層でもAランク級の魔物が跋扈する危険地帯なのだが、俺の【気配遮断(ステルス)】と【威圧(プレッシャー)】の併用により、雑魚敵は寄り付くことさえできないでいた。

「レント様、この剣……軽すぎます。まるで羽を持っているようです。それなのに、振ると大岩のような質量を感じる……。矛盾しているのに、完璧なバランスで融合しています」
「そりゃあ、【重量軽減】と【インパクト時質量増大】を同時に付与してるからな。普段は空気みたいに軽いけど、当たった瞬間だけ戦艦並みの重さになるように設定してある」
「せ、戦艦並み……?」

シルヴィアが引きつった笑みを浮かべる。

「それに、魔力の通りが良すぎて……少し魔力を込めただけで、剣が勝手に『もっと寄越せ』とねだってくるような感覚がします」
「ああ、それは【魔力超伝導】のせいだな。使用者の魔力に応じて切れ味が上がる仕様だ。まあ、暴発しないようにリミッターはかけてあるけど」
「リミッターがあってこれですか……」

シルヴィアは愛おしそうに剣を撫でた。
騎士にとって、武器は命そのものだ。それがこれほど強力に、美しく生まれ変わったのだから、彼女の喜びもひとしおだろう。

「よし、ちょうどいい実験台が来たぞ」

俺は足を止め、前方のア通路を指差した。
ズシン、ズシン、と重い足音が響いてくる。
現れたのは、身長五メートルはある巨体の牛頭魔人――『ミノタウロス・ジェネラル』だった。
中層のエリアボスとも言われる強力な魔物だ。
巨大な戦斧を担ぎ、鼻息荒くこちらを睨みつけている。

「ミ、ミノタウロス・ジェネラル……! Aランクパーティでも壊滅させられることがあるという、中層の悪夢……!」

シルヴィアが身構える。
その顔には、かつて刻み込まれたであろう強敵への恐怖が微かに浮かんでいた。
彼女のレベルなら、本来は苦戦必至、あるいは逃走推奨の相手だ。

「レント様、下がっていてください! 私が時間を稼ぎます!」
「いや、試し斬りしてみなよ」
「え?」
「今のその剣なら、そんな牛野郎、ステーキ肉にするより簡単だろ」

俺は腕組みをして、余裕の笑みを向けた。
シルヴィアは戸惑っていたが、手の中の剣が微かに脈動し、彼女に勇気を与えたようだった。

「……わかりました。レント様がそう仰るなら、信じます」

シルヴィアは深呼吸をし、ジェネラルに向き直った。
構えを取る。
洗練された、美しい騎士の構えだ。

「ブルルルァァッ!!」

ジェネラルが咆哮を上げ、突進してきた。
戦車のような質量が、猛スピードで迫る。
その戦斧が振り上げられ、シルヴィアの頭蓋を粉砕せんと振り下ろされる――その瞬間。

「はぁっ!」

シルヴィアが鋭い気合と共に、剣を一閃させた。
横薙ぎの一撃。
特別な技ではない、ただの基本通りの斬撃だ。

だが、結果は基本通りではなかった。

カッ!!

剣閃が光の波となって放たれた。
それはジェネラルの持つ鋼鉄の戦斧をバターのように切断し、そのままジェネラルの胴体を通り抜け、背後の壁にまで到達した。

一瞬の静寂。

ズズ……ン。

ジェネラルの上半身が、斜めにズレ落ちた。
断面は鏡のように滑らかで、血が出る暇さえなかったようだ。
そして、その数秒後。
ドゴォォォォォン!!
背後の壁が数百メートルにわたって崩落し、轟音と共に土煙が舞い上がった。

「…………へ?」

シルヴィアが間の抜けた声を上げた。
彼女は自分の剣と、目の前の光景を交互に見ている。

「わ、私……今、軽く振っただけ……ですよね?」
「うん。ナイススイング」
「戦斧ごと……? それに、あの壁の惨状は……?」
「【空間切断】の概念もちょっぴり混ぜといたからな。射程距離が伸びちゃったみたいだ」

俺は笑いながら彼女に近づいた。

「どうだ? 使い心地は」
「使い心地というか……これは、もはや剣というカテゴリーに収まるものではありません……。国宝級(アーティファクト)を超えて、神話級(ミソロジー)の兵器です……」

シルヴィアは震える手で剣を鞘に納めた。
カチン、と涼やかな音が鳴ると同時に、彼女はその場に片膝をつき、俺に向かって頭を垂れた。

「レント様。改めまして、心よりの感謝と、そして謝罪を」
「謝罪?」
「はい。私は貴方様の力を、まだ過小評価しておりました。貴方様は、ただの付与術師ではありません。この剣を作り出せる技術、そしてドラゴンをも屠る力……貴方様こそが、真の『勇者』あるいはそれ以上の存在であると、この身に刻み込みました」

彼女の声は震えていたが、そこには確固たる意志が宿っていた。

「私の命も、この剣も、すべて貴方様から頂いたものです。私は亡国の姫として、国を救う使命を持っていますが……それ以上に、貴方様にお仕えしたいという強い思いが芽生えました」

シルヴィアが顔を上げる。
そのアメジストの瞳は、熱っぽい光を帯びて俺を見つめていた。

「レント様。どうか私を、貴方様の従者(シモベ)にしていただけないでしょうか? 盾となり、剣となり、貴方様の覇道の露払いをさせていただきます。もちろん、夜のお世話も含めて……」
「ん? 最後なんか言った?」
「い、いえ! なんでもありません! とにかく、お側に置いてください!」

必死な形相の美少女姫騎士。
悪い気はしない。というか、男として最高の気分だ。
かつてのパーティでは、荷物持ち以下の扱いだった俺が、今はこうして一国の姫に傅かれている。

「いいよ。俺も一人旅は寂しいと思ってたし、美人の相棒なら大歓迎だ」
「あ、相棒……! 従者ではなく、相棒と呼んでくださるのですか……!」
「ああ。背中は預けるぜ、シルヴィア」

俺が手を差し出すと、シルヴィアは感激のあまり涙ぐみながら、その手を両手で握りしめた。

「はいっ! 一生、離れません!」

重い誓いだった。
まあ、俺のバフがあれば彼女も死ぬことはないだろうし、気楽な旅の道連れができたと思えばいい。

こうして俺たちは、実質的に最強の二人組(ペア)となって、地上への残りの道のりを進んだ。

道中、シルヴィアのレベルアップも兼ねて何度か戦闘を行ったが、結果はすべてワンサイドゲームだった。
Aランクの『デス・マンティス』も、Sランクに近い『キング・バジリスク』も、シルヴィアの剣の前では紙切れ同然だった。
彼女自身も、俺が付与した【身体能力強化】と【成長率補正(極大)】のおかげで、戦うたびに目に見えて強くなっていく。

「私、今なら帝国軍の精鋭騎士団相手でも一人で勝てる気がします……」
「気がするんじゃなくて、勝てるよ絶対」

俺は苦笑した。
彼女のステータスは、すでに人類の限界を超えている。
今の彼女なら、単身で城を落とすことさえ可能だろう。

そうして数時間後。
ついに、地上の光が見えてきた。
迷宮の入り口だ。

「久しぶりの太陽だ……」

外に出ると、まぶしい日差しが降り注いでいた。
時刻は正午過ぎだろうか。
新鮮な空気。風の匂い。
じめじめしたダンジョンとは違う、生の世界だ。

迷宮の入り口付近には、多くの冒険者たちが屯していた。
パーティメンバーを待つ者、怪我の手当てをする者、今日の収穫を自慢し合う者。
俺たちが姿を現すと、周囲の視線が一斉に集まった。

それもそうだろう。
俺は全身漆黒の『黒竜王の外套』を纏い、底知れないオーラ(隠しきれない魔力)を放っている。
その隣には、ボロボロだが高貴さを隠せない銀髪の美少女が、神々しい聖剣を腰に差して付き従っているのだ。
目立たないわけがない。

「おい、見ろよあの二人……」
「奥から出てきたぞ? まさか深層からか?」
「バカ言え、深層なんて『栄光の剣』みたいなトップランカーしか行けねえよ」
「でも、あの男の装備……鑑定スキルで見ても『測定不能』って出るぞ……?」

ざわめきが広がる。
俺は気にも留めずに、ギルドの出張所がある方向へ歩き出した。
まずは換金だ。
ドラゴンの素材や財宝をすべて売ったら、国の経済がおかしくなるかもしれないが、とりあえず当面の活動資金が必要だ。

「レント様、皆が見ていますね」
「まあ、美人と野獣ってところじゃないか?」
「誰が野獣ですか。レント様は……その、とても凛々しいです」

シルヴィアが顔を赤らめて囁く。
この娘、デレるのが早すぎないか?
まあ、吊り橋効果もあるのかもしれない。

その時、冒険者たちの会話の中から、聞き捨てならない単語が耳に飛び込んできた。

「……そういえば聞いたか? 『栄光の剣』の噂」
「ああ、ヴァルスたちのことか? なんか今日、すごい剣幕で戻ってきたらしいぞ」
「装備がボロボロで、這うようにして逃げ帰ってきたって話だ」
「嘘だろ? Sランク最強のパーティだぞ?」
「なんでも、ポーションが効かないとか、剣が急に錆びたとか、訳のわからんことを叫んでたらしいぜ」
「呪いでも受けたんじゃねえか?」

俺は思わず足を止めて、プッと吹き出しそうになった。
なるほど、もう戻っていたのか。
そして予想通り、ボロボロになっているらしい。

「レント様? どうなされました?」
「いや、なんでもない。ちょっと愉快な話が聞こえてきただけだ」

俺はニヤリと笑った。
『栄光の剣』の連中は、まだ気づいていないのだろうか。
彼らの強さが、彼ら自身の才能ではなく、俺の地道な『付与』によって支えられていたということに。
俺がいなくなった今、彼らの装備はただの鉄屑となり、彼らの身体能力も魔法耐性も、すべてが凡人のレベルまで低下しているはずだ。
それなのに、Sランク迷宮の深層に挑めばどうなるか。
生きて帰れただけでも奇跡と言っていい。

「さて、まずはギルドに行こうか。冒険者登録の更新もしなきゃならないしな」
「はい。私も同行します。……あの、もしよろしければ、この後、私の国……の話も聞いていただけますか?」
「もちろん。乗りかかった船だ。とことん付き合うよ」

俺たちは歩き出した。
新たな人生の、輝かしい第一歩を。

だが、ギルドに向かう俺たちの前には、予期せぬトラブル――というか、俺の能力が高すぎて巻き起こる騒動が待ち受けているのだった。
そして、転落を始めた元仲間たちの悲鳴も、すぐそこまで迫っていた。

(続く)

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品