元勇者メイドのやり直し! ~「強すぎる」からと勇者追放されたけど、元魔王の黒猫とともに愛しのお嬢様との最愛百合ライフを守ります~
たいせつな記憶
「本当にありがとうございます魔王様ぁぁぁ、お友達にご迷惑をおかけしたのに許して下さってぇぇぇ、もう感激ですぅぅ」
「うむ、魔王軍に尽くしたことのある魔物は皆、我が手足なのニャ。たとえ魔王軍が滅んでもそれは変わらないのニャ」
仔猫を子供たちに託した後、水路に隠れ住んでいた大スライムも新たな門出を迎えた。
このまま暗くなるのを待ってから、水路を辿って海に出るようザカリアスからアドバイスされたのだ。スライムは水棲なので、水辺ならどこでも住める。
「本当にありがとうございますぅぅぅ住処を追われて仲間と散り散りになって以来、ずっと寂しくてぇぇ……でもおかげで魔王様に会うことができたので本望ですぅぅ」
「うーむ……お前みたいに呑気なやつが冒険者どもの討伐対象になるとは考えにくいニャ……」
「いえ僕はホント悪さなんてしないんですよぉぉ、沼地は何十年も僕含めた色んな魔物の住処でぇぇ、人間なんてやってくるようなスポットじゃなかったんですよぉぉ」
ザカリアスは「にゃに?」と首を傾げる。
スライムは悲壮な口調で続けた。
「魔物の間でよく噂されてるんですけどぉぉ最近増えてるんですよぉぉぉ、いきなり魔物の秘境的なスポットに冒険者たちがやってくるパターンがぁぁぁ。人間たちがシルバーとかゴールドってランクづけてる冒険者が多いんですよぉぉ」
「それは……どういうことニャ?」
グロリアに聞いた話では、冒険者ギルドが討伐対象に据えるのは人里に降りてきたり人間に危害を加えた魔物だけ。無駄に捕らえたり斬って捨てたりすることはない。
……表面上は?
ザカリアスは小さな眉間に皺を増やして考え込んでいた。
心配したスライムが声をかけてくる。
「ああ、すまんニャ。我ももう行くニャ、もうすぐ夕飯の時間だからニャ……」
「ああぁ~僕も早く海に出て美味しい海藻をたらふく食べたいですぅぅ」
「それではニャー」
ザカリアスは手の代わりに尻尾を振り、スライムは何本もの腕を振って別れの挨拶をした。
家に帰り、夕飯をもらったザカリアスは、そーっと廊下を踏んでフィリアナの部屋に行った。
あれだけのことがあった後の彼女の様子が知りたかった。
助け出されて以来、フィリアナはグロリアから絶対安静を告げられ、夕飯も部屋で取ったという。とはいえ、いつもの就寝時間より早いから、まだ寝てはいないだろう。
部屋の前でにゃーにゃー鳴いてみせると、フィリアナが扉を開けてくれた。
「マオちゃん、いらっしゃい」
フィリアナは白いレースのついたワンピースの寝間着姿で愛猫を迎える。
ザカリアスがぴょんとベッドに上がると、フィリアナもベッドに腰掛けた。
くしゃ、と小さな頭を撫でる手。
「マオちゃん、今日は大活躍でしたわ。仔猫たちも里親を探してもらえるみたいですし……本当にいいこ、いいこですわ」
そう言ってザカリアスを撫でながら、フィリアナは微笑む。
「本当に、いいこ」
目を閉じて、ザカリアスは自分を撫でる優しい手を思った。
少女のこの手は、スライムからザカリアスを取り戻そうと戦った手だ。
――人間は、矮小で愚かで、せせこましい生き物。
百年前、確かに自分はそう思っていた。
そして最近までその価値観は変わらないまま、猫の身で人と接していた。
ザカリアスは自分を見つめる少女を見上げた。
だが、この娘はどうだ。
自分よりも卑小な生き物であるはずのザカリアスを、身を呈して守った。
彼女は愛猫の正体を知らない。目の前の愛猫は一度滅んだ魔王ザカリアスの仮初めの肉体であることなど、微塵も把握していない。
彼女が救おうとしたのは、本当にただの猫なのだ。
飼い主としての責務を果たすため、自分の命も危険に晒して守り抜いた。
――それは、魔王が自らの手足である魔物たちをいたわるように。
懐かしい気持ちを呼び起こされて、ザカリアスは満たされた。
この少女からは、自分が大事にしていたものを思い出させられる。
不思議な心地だ。本当に、この少女は………。
ごろごろごろ、と無意識に喉を鳴らすザカリアスに、フィリアナはふふ、と声を立てて笑う。
「マオちゃん、仔猫みたいですわ」
仔猫。
昼間の厄介な赤ん坊たちを思い出したザカリアスは、不服のまなざしで彼女を見上げる。
そのあからさまに嫌がる反応に、フィリアナはさらに笑った。
「ときどき、マオちゃんは人の言葉がわかるのかと思いますわ」
ザカリアスはギョッとする。
正体がばれないように振る舞ってきたが、油断した。
もし飼い猫の正体が魔王ザカリアスであることが知られようものなら、恥ずかしくて存在できない!
「それじゃあ、今日は寝るまでにマオちゃんとたくさんお話ししますわね」
内心冷や汗をかいているザカリアスをよそに、フィリアナは言う。
「マオちゃんが来てくれて、本当によかった。グロリアも、マオちゃんに向ける視線が前より優しいし、きっとマオちゃんを大切に思ってくれてますわ……」
それはどうだろうかニャ……、とグロリアの顔を思い浮かべる。
「ふふ、本当ですのよ。……それに、グロリアって以前はもっと私以外寄せつけないところがあって。そこにマオちゃんが来てくれたことで何かが変わったと思いますわよ。パーティーの皆さんとのことだってそう。私以外の人たちと仲良しのグロリアなんて、ちょっぴり驚いちゃいましたわ。ちょっぴり嫉妬もしましたけれど……」
こほん。
自分で咳払いをひとつ立て、誤魔化すフィリアナ。
「グロリアはああ見えて、全然完璧なんかじゃないんですのよ」
不意に言われた言葉に、ザカリアスはグロリアがメイドの仕事をやっているとき、ギルドの依頼された内容をこなしているときの姿を思い浮かべた。
どっちも完璧にこなす超人の類だとずっと思っていたが。
フィリアナは声をひそめると、ザカリアスに言った。
「なんでもできて完璧に見えますけれど………それが壁になってグロリアの本当のところが見えにくくなっているんですわ。多分、本人も気がついてないところが危うくて、ときどき、ちょっと心配になりますのよ……」
フィリアナは小さな不安を逃がすように、ザカリアスの身体をゆっくりと撫でていく。
大人しくされるがままになっていると、フィリアナに微笑みが戻ったが、やがて話した言葉に、また顔色は曇る。
「私が8歳のとき、流行病でお父様とお母様が亡くなってしまって、幼いものだから私がなかなかその事実を受け入れられなかった時期がありますの。本当に駄々をこねて、グロリアを困らせ続けたんですわ。今じゃ恥ずかしいぐらい……。部屋にこもって泣き続けて、食事を持ってこられても『お父様お母様といっしょじゃなきゃイヤ!』って……わがままを言い続けていたら、もうノックも聞こえなくなって、何時間も経って。私がわがままでついに見放されたものだと思って、部屋を出たら、お盆を抱えて廊下に倒れるみたいに座り込むグロリアがいたんですわ。頬にいっぱい涙の痕を貼りつかせて」
フィリアナは、笑いかけた。
それは優しい泣き笑いにも似た、曖昧な表情だった。
「私が食事を取りたがらないから、何時間もどうしようもなくて座り込んでいたんだと思ったら、また涙が出てきて、泣きながらグロリアに謝ったら、抱き締めてくれて、ふたりで一緒に泣いたんですわ。
グロリアだって、お父様とお母様を亡くして寂しいのは一緒だったんですのよ。それで、私まで心を開かなくなったから、子どもみたいに涙を流してそのままにして……あれが、グロリアの本当の顔みたいで、今もときどき思い出しますの。私、ああいう顔にさせることから、グロリアを守ってあげたいと思うんです、今でもずっと……」
ザカリアスはフィリアナの目を見た。
大切な人を想うフィリアナの瞳は強く、気高い。
『守ってあげたい』。そう思う彼女の気持ちに半端なものは滲んでいない。
実際に彼女に守られたザカリアスがそう思うのだ。
にゃおん、と励ましで鳴くと、フィリアナはまた笑った。
「守ってあげたいなんて、余計なお世話かもしれないですわね。グロリアは十分強いし、気高くて……まるで、そう、“勇者様”みたいだな、なんて思いますの……」
ザカリアスはこれほど笑いを堪えるのに苦労したことがない。
猫の身では腹を抱えて大爆笑なんてすることもできず、ただ目の前のシーツをこねこねすることで気を紛らわす。
シーツをこねるとき、猫はいつだって心静かに、穏やかになる……。
「私が勇者ロバート様が大好きなのは、そういう理由だからでして……えへへっ、マオちゃん相手でもこういうのはなんだか照れますわね!」
フィリアナはそう言うと、シーツを揉むザカリアスを抱き上げ、ベッドに仰向けにぼふんと寝そべった。
宙に持ち上げられたザカリアスは、その下にきらきらした笑顔を見た。
「だーいすきですわ。マオちゃんのことも」
ぴと。
フィリアナの鼻先と、ザカリアスの鼻先がくっつく。
猫の挨拶ではよく見られる鼻チューだが、不意に起きてしまった行為にザカリアスは戸惑う。
しかし、フィリアナは、ふふふ、とばら色を浮かべた頬で嬉しそうに笑った。
「マオちゃんにチューされちゃいましたわ」
(嫌な風聞が立ちそうだからやめてほしいニャ……)
そのとき、部屋の外から「お嬢様、まだ起きていらっしゃいますか?」と声がかかる。
フィリアナは急いでザカリアスを身体の横に降ろすと、「は、はい! どうぞですわ!」と少しドキドキしながら言う。
グロリアがドアを開いた途端、ザカリアスは駆け込むように部屋を出た。
病み上がりの人間のベッドに遊びに来ていたことで叱られるのはわかっていたし、それに、さっきの話を聞いた後では、ふたりきりにせずにはいられなかった。
(愚かな人間どもよ、幸せになるがいい!)
ザカリアスは夜の散歩に出かけながら、月を見上げてそう念じた。
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