元勇者メイドのやり直し! ~「強すぎる」からと勇者追放されたけど、元魔王の黒猫とともに愛しのお嬢様との最愛百合ライフを守ります~
はじめての冒険②
眠らせた幼ゴブリンは、リーヴ氏から借りた獣の用の檻に詰められた。
生け捕りの魔物はギルドの本部に送られることになっている。一行はギルドの使者が来るまで、時間を持て余していた。
「ゴブぅ……」
荷馬車の上の檻の中で、幼いゴブリンたちは悲愴に呻く。
「依頼とはいえ、なんだか可哀想、だね……」
ルカが同情したように呟く。
そう思うのも無理はない。ゴブリンたちは互いに身を寄せ合い、慰め合うような仕草をしていて、胸が痛む。
「そうは言うけど、倒したりするよりはましだろ。まだ命があるんだ」
「生け捕りの魔物はどうなるんだっけ?」
「そりゃ……ギルドの闘技場に行ったり、魔術の研究に使われたり……」
思わず言葉を濁すニコラ。
いったいどっちがましなんだと思わされる二択だった。
ますます、どんよりと暗くなる雰囲気。
その後味の悪さを振り切るように、ニコラとルカはリーヴ氏のもとに書類を貰いに行ってしまう。
残されたグロリアとニーナは、相変わらず檻のそばでゴブリンたちと一緒だった。
ぐるるるる、と腹の音が鳴る。
ゴブリンたちだ。
「……これ、食べるかな?」
ニーナは手持ちの荷物から白パンを出すと、檻の方に近づけた。
パンを近づけられたゴブリンは一瞬怯えたようにしたが、食べ物の匂いにつられたのか、急いでパンをもぎとった。
一人でがっつくでもなく、パンを小さく割って他の仲間に振る舞う。
こんなときでも細々とした量を分け合ういじらしい姿に、グロリアも切なくなった。
「魔物にも、こんなに仲間思いなのがいるんですね……って、え?」
振り返ったグロリアは、だばーっ、と滝のような涙を流すニーナを見て、呆然とした。
「うぇっえぐ、うぇええ………! この子たちはっ仲間思いで優しい子たちばっかりなのに、こんなの間違ってるよぉ……! うぅおえええ……!!」
涙をすすり、ニーナは声を震わせた。
あまりの泣きっぷりにグロリアは少し戸惑った。
当然、感情的には理解できるが、この場合ほかにどうしようというのだろう。
曇った気持ちでグロリアは考え込んでしまった。
すると、耳元に声が響く。
ザカリアスだ。
(我もそこの脳天気娘と同じ気持ちだニャ……!!)
ザカリアスは声を震わせそう言った。
その目元はうるうるに濡れている。
ザカリアスはバッグパックから飛び出すと、檻の方に寄っていき、幼ゴブリンたちに話しかけた。
「ゴブっ、ゴブゴブ、ゴブ! ゴブブ!」
「ゴブ……?」
「ゴブー!」
ザカリアスはどうやらゴブリンたちと同じ言葉で会話しているらしい。
(にゃんだと……!?)
何か衝撃を受けるザカリアス。
彼はグロリアのもとに駆け戻ると、彼らとの会話で得た詳細を告げてきた。
(あいつらは兄弟ゴブリンで、母親のゴブリンが病気で臥せってるから自分たちで食い扶持を集めようと必死だったんだニャ……! あいつらはまだ幼い、森で食料を集めるのはまだ難しくて、ノーガードの畑の野菜に手をつけてしまったんだニャ!)
(そんな経緯が……?)
ザカリアスはすっかり同情に走ってしまったらしく、グロリアに懇願するようにそう言った。
(頼むニャ……あいつらを解放して、母ゴブに会いに行かせてほしいニャ!)
私に言われても、とグロリアは一歩引いて物事を考えてしまうが、ザカリアスはとっくに火がついている。
(頼むニャ~~~勇者! 我とお前だけの仲だニャ……!!
あんな幼い兄弟たちを不幸にはさせられないにゃあああ……!!)
元魔王が、ただのゴブリンの子供に必死になっている。
プライドも何もなく、足元にまとわりついてくる姿を見て、グロリアは息をついた。
「あの、ニーナさん、提案があるんですが」
「うぉえええ、えぐえぐえぐ………え、どうしたのグロリアさん?」
「ゴブリンたちを解放して、様子を見てあげたいのですが……」
グロリアの言葉に、ニーナは眼を見開く。
「どっ、どういうことさ!?」
「ええと、言い方に迷うのですが……」
グロリアはなるべく言葉を選び、その先を続ける。
「一般的に、幼体のゴブリンだけで行動することはほぼありません。考えるに、彼らは親となるゴブリンが不在か、何か他の理由があるんです。そのわけを追求すれば、生け捕り以外の道もあると思うんですが……」
さすがにザカリアスがゴブリン語を用いて入手した情報をそのまま打ち明けるわけにはいかない。
別の言い方で誘導できないかと苦心した結果だった。
ニーナは涙を拭き、幼いゴブリンたちを見る。
「……なるほど、人間と同じで子供だけでいるのにはなにかわけがあるってことだね」
「そうです。その理由は彼らに教えてもらうほかないと思うんです」
ニーナは考え込んだ。そして、またゴブリンを見て、力強く頷く。
そのときルカとニコラが戻ってくる。
ニーナは二人を見ると、「話があります!」と大きく片腕を上げ、さきほどのグロリアの提案を打ち明けた。
「逃がすって……せっかくクエスト完了の書類にサインまで貰ったのに、今さらかよ!?」
「本当にこの子たちがわけありだったら、可哀想だろ? それに解決できることがあったら、この子たちも人間の領域を侵さずに済むかもしれないし」
「確かに、それだったらお互い良いことしかないよね……!」
ルカは目を輝かす。だが、ニコラは承服しかねる様子で、ニーナに食ってかかる。
「お前が甘っちょろいのは知ってる。だけど、せっかく捕まえたゴブリンをあっさり逃がして、そのまま森に消えられたらどうする? クエスト完了どころじゃない!
せっかくリーヴさんにも生け捕りで納得してもらってサインも貰ったんだ。それもやっぱナシでなんてことになったら、ギルドからの信用問題だぞ!」
「このまま見送った方が現実的だってことはボクもよくわかってるよ! でも、解決できる余地がまだ残ってるのに、努力せず放り出すのはよくないって思う」
「お前……冒険者は趣味でやってんじゃねえんだぞ」
ニコラは低い声でそう言う。
だが、ニーナは臆さず、むしろ堂々と胸を張り、言った。
「冒険者だからじゃないか! 好きなように生きたいから冒険を選んだんだよ! だからすっきりしないまま先に行くなんて、ボクにはできない!」
グロリアはその言葉にはっとなった。
あまりの言い切り方に、ニコラも呆然となる。
そして、ガクッと頭を垂れると、観念したように溜め息をついた。
「ったく……甘っちょろすぎて、嫌になるぜ。お前のそういうところ」
「じゃ、パーティー抜ける?」
「冗談だろ。俺がいなくなったらバカしかいなくなる」
「おい! グロリアさんに失礼だぞ!!」
「自分がバカなのは認めるのかよ!!!」
ぎゃーぎゃー。
一瞬、一触即発かと危ぶまれた二人だったが、いつものようにじゃれ合い始める。
ルカはそれを見て安心したように笑った。
「ニーナちゃん、いつもあんな感じなの」
「………良いリーダーなんですね」
「良いかどうかはわかんないんだけど、私たちは大好きだから、それでいいの」
ルカの一言が、グロリアにはとても印象的だった。
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