どうか、いかないで。

青空ちゃん

あの子がまた、笑えるように。(前編)

あの子は、もういない。
あの子達はもう戻らない。









あの子は____________


いじめられていた。


_______________________________________

「早紀ー!はやくっ。いかないとだよ、移動教室!」
「ああ、待って。美香。今行くっ…」

ここは普通の、ごくふつーの海辺の中学校。
私は、ここの学校の生徒。
ザ・平凡の道を行く私だから、特にこれと言った特徴はない。
ただ、一つ。自慢できるとするなら、わたしたちの学校はオーシャンビューで風が気持ちいいってこと。
それ以外は学校も普通だし、クラスもそう。


ある問題だけを除いて。


それは「いじめ」だ。





「うわ、きっしょ」
「死ね」
「それな」


いじめられているのはあの子。
周りの子とはちょっとちがう雰囲気の。

あの子はきれいだ。

黒髪ロングのきれいな髪に真っ黒い透き通った瞳。うちは私服登校オッケイだから、まっしろなワンピースをよく着ている。
まるで神様がつくった女の子みたい。


彼女の名前は 「架園 月華」といった。
読み方はわからない。
いつも「クソ女」とか「ビッチ」とか「キモお嬢」とか呼ばれてるから。
先生からも、呼ばれているのは殆ど聞いたことがない。

頭も良くって、
たしか、ハープが得意らしい。

ハープなんてできるのはお嬢様だし美しいからといって、男子によく好かれていた。
それが女子には気に入らなかったのだろう。

最初は悪口だけだったけれど、
いじめ段々とエスカレートして、月華の物を隠したり、捨てたりするようになった。

今は暴力なんて日常茶飯事。


彼女が好んできているらしいまっしろいワンピースはやがて
赤い跡がつくようになった。




けれど、

彼女は動じなかった。
どんなにひどいいじめにも屈しなかった。

彼女は強かった。



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「おい!この糞女!」
そういっていじめの主犯格の愛海がいう。
愛海はひどかった。惨たらしかった。
自分が全てにおいて月華に劣っているのが気に食わなかったのだろう。
犯罪と言えることを平気でしてのけた。


この日は真冬のような寒い日。
けれども外にいる月華に堂々とつめたい水道水をかけた。
「っ…」
月華は後ずさる。

「きっしょ!死ね!」
「あはは、愛海いえてるー」
「キモいもんね!このビッチ!ブスのくせに!」
5、6人が月華を囲む。
私は見ていることしかできなかった。



でもやはり月華は屈しなかった。


きれいな透き通る声で言う。
「あんたたち、何が楽しいの?死んだほうが良いのは、どっちかしらね」

________________________________________


すごいと思った。
強い子だと、
だから私たちは助けなくて大丈夫だろうと。

でもちがった。
彼女は。

ちゃんと、愛海たちに。わたしたちに。

復讐をした。

そう、3年生に上がる、直前だった。







彼女は、いじめっ子と彼女だけを集めた理科室で有毒ガスを発生させた。

理科室にいた、彼女たちは

みんな





死んだ。


勿論月華も。


勿論愛海も。


あの日のことは、録音機によく記されていた。



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「あっいたいた〜うわあ、やっぱキッショ。ねえ、ここに洗剤があるんだけどさ」
「うっわーあ。最高!ねえ、あそこに汚いのがいるよ?」
「わははっかけちゃえ!」

愛海たちが理科室にいた月華を見つけた。
どうやら千聖に洗剤を浴びせようとしていたらしい。

「来たのね…」

ぼそっと呟いた月華の声が聞こえる。

「ねえ、先生来てないよね?」
「うん、ばっちり。ほら鍵かけて。」
かちゃっという音が響く。

それと同時に
「えーい」
「ぱしゃっ」
と聞こえた。

洗剤が月華にかかったらしい。
しかし、月華は続ける。

「あんたたち、ばかね。」

なにかを持ってくる音が聞こえる。
重そうな、何かが。

後ほどわかったことだが、死因は塩素系洗剤と酸性の洗剤を混ぜたことによる塩素ガス中毒だったらしい。

きっと重そうなものの正体もそれだろう。

ばしゃばしゃっと次々に大きな音が聞こえ、

「きゃああああっ何すん…」

と愛海たちの悲鳴の声が聞こえる。

「大丈夫。私も一緒に逝ってあげるから。」
と冷静にいう千聖。

やがて彼女らは少しずつ死んでいくことになる。

「ううう…苦し…たすけ…」
「あああっ…ううっ」
と周りが呻くなか、
月華ははっきりと

「…さようなら。みんな。ごめんなさい…」
といった。



それは彼女の最後の言葉になった。








私は___何一つ知らなかった。

私はみんなを助けられなかった。



月華を

助けられなかった。





わたしは、月華を助けられなかったことをひどく後悔した。
一週間ほどは罪悪感で眠れなくて、
ずっと、ずっと毎日悩んだ。
中3になった今も、悩んでいる。
ずっと、あの子が頭から離れなかった。


やがてその後悔は執念に変わった。


あの子を助けたい。



私の大切なものを失ってもいいから、あの子を助けたい。
何としてでもあの子を。
お願い。
時間を戻して____________











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