バッドエンドってなんですか、それはこっちのセリフですよ

soltier

第三話 エルフの国へ

勇者討伐から50年、私はお父様の命によって魔族国内の旅をしていた
約20年前にお兄様が姿を消し、その穴埋めもかねての大変な旅をして、やっと国内が落ち着いたため次は人間の国へと移行としていたところだ。

「テーナーとはここでお別れですね」

「いいえ、メーベル様、私はこれからもお供を」

「そんな魔族らしい立派な見た目をしていたら目立つでしょう?」

「そんなこと言って、国内の旅でも常識しらずのメーベル様がおひとりでなんて、最悪全面戦争になってしまうのでは」

「そんなへましません。それに荒っぽい魔族たちをおとなしくさせたのをその目でしっかり見てたでしょう?」

「それでも、メーベル様の親代わりとして長年仕えていた身としては心配なのです」

私としてはテーナーの方が心配なんですけどね
テーナーは戦闘向きの能力をしておらず、国内の旅では危険な目にあわせてしまったこともあった

「大丈夫ですよ、テーナーほどではありませんが、優秀なしもべがいるので。それと、私からのお願いを聞いていただけますか?」

「城に帰れというお願いは聞けませんよ」

「テーナーには私の代わりをしてほしいのです」

私が魔族のもとから離れてしまったらまた不安定な状態になることも考えられる
テーナーには各地の魔族の監視と手助けをしてほしい

もちろん彼女にそんな力なんてないけど、途中で出会った信頼できる各地の統治者との連絡経路は確立してあるからね
あとは魔法でテーナーに私の知識を与えてあげれば

「あなたはもう私の魔法を受けすぎて耐性がついてますね」

「私が私でいられるのはメーベル様にお仕えしているからです。まったく、メーベル様からの信頼はよくわかりました。喜んであなたの代わりになって見せましょう」

「連絡はするので、そんな顔しないでください」

私もそろそろ親離れしないといけないですからね
魔族のことはテーナーとお父様に任せて、次は人間の国々だ
結局お兄様は国内で見つからなかった。おそらく私に見つからないように潜伏しているのだろう


テーナーと別れて次はエルフの国を目指す
エルフは人間の領域と魔族の領域のちょうど間に存在する大森林に存在し、両種族とも中立を保っている
ほかにもドワーフとか獣人みたいな人間よりの種族もいるが、基本は下等生物として魔族から見下されているためまともに交流があるのはエルフたちくらいだろう
魔族と同じく魔法に秀でていて寿命が長く技術力も高い
大昔に人口減少で絶滅しそうだったという話もあったが今ではそんな影もなく人口も多い

お父様が私を生み出すときに使ったエルフの秘薬、あれはもともとエルフの人口減少を解消するために神から授けられたという
いや、なんでそんなものが魔王城にあるの??

「エルフの国へは竜族が運営する交通機関を利用すればすぐですね」

30年魔王城で密かに育てられた私だけど、ここ20年で上層部には名が知られるようになった。まぁ魔王の娘ということもあるのでしょうが

最寄り駅からドラゴンたちが運ぶ籠に乗る。勇者に侵攻されてから魔族の交通網も麻痺していたのだが竜族を洗脳せっとくしたことでスムーズに再開した

魔族国内は荒野や山々が多く過酷な地ばかりで他の街へ行くことが困難なため経済的な発展が長らく停滞していたけど、平和になったことで近年は国内の交易は活発になっている
勇者襲来から混乱が続いていた国もやっと安定してきたということですね

「さすが!速いですね!」

安全性に考慮して速度を落としているとはいえ、歩くよりも何千倍速い
竜の持つ籠は魔法で守られているため多少揺れるものの壊れたりすることはない
それでも初めて乗ったときは本当に怖かった

ここから国境付近の大きな駅へ向かい、乗り換えればすぐエルフの国、ヴァレン共和国です

ヴァレンには王が存在しないらしい、というのもエルフの人口が増えたとはいえ魔族とは比べ物にならないくらいには差がある
それゆえに絶対的な権力がなくとも国が成り立つのだろう
でも長年同じ一族が中心になって統治しているみたいだから実質的に王のようなものはいるのかもしれない


そんなこんなで竜に揺られ、初めて外国へと渡った
入国には手続きが必要だけど、魔王の娘である私にその心配はない、お父様にエルフの長からの紹介状ももらってるからね~
仮になかったとしてもどうとでもなっちゃうけど

「おぉ~、豊かですね」

ほかの乗客は貿易商人、観光客もそれなりにいる。私の見た目は魔族らしくもエルフらしくもないから少し目立っちゃうんだけど
人の関心は魔法でどうとでもできるので問題ない

まずはヴァレンの中心都市に行って長に挨拶、お父様によればそこで人間の国での案内人を紹介してもらえるらしいけど

「っと、忘れてました。もう出てきていいですよ」

荷物から精巧に作られた人形を取り出すと、動き始める

「ありがとうございます。メーベル様」

魔王軍諜報部の構成のほとんどがレイスなどの実態を持たない存在や死を超越した存在で、過去勇者に責められていた時の四天王も姿を消したとはいえ本当に死んでしまったのか確認できていない
混乱状態であっても諜報部の統率が取れていたため、私はすぐにここを利用することにした
スパイがあってはならない諜報部は魔王への忠誠を誓っているからね、私の言うこともすんなり聞いてくれた
私の精神干渉魔法を教えてくれたのもここの出身魔族だった
まぁその魔族が書いた本で勉強しただけなんだけどね

「息苦しくありませんでしたか?」

「いえ、呼吸の必要はありませんので、問題ありません」

テーナーは人間の国へ行けないため、代わりに持ってきた

「これからもよろしくお願いしますね、ヤミたん」

「そのヤミたんってやめてもらえないでしょうか」

「やです」

この子の名前はヤミターヌ。めんどいので「ヤミたん」と読んでいる

ちなみにこの子の体は過去最も美しいとされている魔王がモデルとなっている
魔王としては珍しく小柄でかわいらしく、象徴である角もちっちゃくてかわいい
私も同じく魔族としての部分は他の人と比べて小さいため親近感がわいている
多少美化されてるのだろうけど、それでもかわいい

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