第三十章 傘霊

2007年に外地の依頼を受けた。依頼主は電話の中で、自分の周りでいつも奇妙な現象が起こっていると感じており、たくさんの人に相談し、儀式などを行ったが、その感覚がいつまでも自分を取り巻いて離れないと言った。生活に大きな影響を与えるほどではないものの、非常に煩わしい思いをしているという。
彼は甚至に「天眼を開いた」人まで探したが、いつも原因が見つからなかった。そこで試しにと、私の同行者にたどり着いた。しかし、同行者は出発前に少し病気になり、この依頼を私に譲ってくれた。そのときは、成功報酬の2割を同行者に渡すことにした。
そして私は瀘州に向かった。瀘州についての印象は、ずっとテレビで繰り返される酒の広告に留まっており、この街は酒の香りに満ちていると感じていた。私のような酒好きにとって、その誘惑は大きかった。幸いにも、仕事の最中は絶対に酒を飲まないので、この酒の香りに溢れる美しい街を歩いていても、すぐに酔ってしまうことはない。
この依頼主は40歳近い男で、とても痩せているが、髪が長い。ついつい「義髪はどこで買ったのか」と尋ねたくなるほど、髪型と体型がマッチしていない。
干支の関係もあるかもしれない。彼はいつも少し無理が感じられる。昔、私が10歳前後でミドルカットを梳いて崔健を歌っていた頃、ある師匠が私の干支が硬すぎると断言し、破相しなければ災いを消すことができないと言った。そこで両親に連れられて強制的にピアスをしたが、あまり効果はなかった。いつものようにいたずらをし、トラブルを起こした。
この男と会った場所は、たくさんの工芸品が売られている通りだった。名前は忘れてしまった。彼は油紙傘屋の店主で、そのとき初めて、瀘州にこのような伝統工芸があることを知った。
彼は私を迎えて店に入れ、お茶を淹れてから、具体的に彼が遭遇した状況を話し始めた。彼の先祖代々が油紙傘の職人で、故郷は分水で、そこの多くの人が油紙傘の制作で生活を立てているという。
この男の両親も職人で、技術が非常に優れていた。父親には兄弟が6人いたが、何年前か父親が亡くなり、母親は独立して店を始めた。彼女の技術が抜群だったため、数年で瀘州の市内に店を開くことができた。
しかし、店を開いたばかりで、母親も重病で他界した。そこでこの男は外地の仕事を辞め、故郷に帰り、家業を継いだ。彼の話を聞くと、まるで現代版の「大染坊」の物語のようだ。
彼は続けて、自分の周りに何かがついているような感じがするが、それによって何か被害が発生したわけではないが、この感覚がいつまでも取り巻いているのは快適ではないと言った。そこでこの間、たくさんの業界関係者に相談し、この状況から解放される方法を探したが、いつも思うようにいかなかった。私を呼んできたのも、「外国の和尚は本当に念仏が上手いのか」と見てみたいという気持ちがあった。しかし、彼の話だけでは、事態の全貌を理解することができない。
そこで私は彼のいう「邪に襲われた」という経験について具体的に尋ね始めました。あるとき彼が道路を渡ろうとしたとき、突然足が重く感じられ、そこで道端に立って足を伸ばし、筋肉を弛緩させようとしているところに、目の前を車がスピードで通り過ぎ、あと少しで彼にぶつかるところでした。
また別のとき、大雨の中、彼は傘をさして街に出かけましたが、いつも自分の手が傘の柄をしっかり握れないと感じ、傘が揺れ動いて、彼も狼狽して家に逃げ帰りました。
そしてまた、家で料理を作っているとき、不注意でナイフを持ちきれず、落ちて足に向かって落下しましたが、幸いにも小指に軽く切り傷がついただけで、小さな怪我でした。彼はまた私にたくさんのこうした些細なことを話しました。彼の話では、何かの力がいつも彼の周りに影響を与え、彼を苦しめるが殺そうとはしない、つまり面倒くさいことをしつこくしているようでした。
しかし私には、彼の運が信じられないほど良いと感じられました。これだけの事件が続いても、すべて危機を回避してきたのはなかなか珍しいことです。長い間聞いても、彼がいったい何に取り付かれているのかわからなかった。もし超常現象であるなら、彼のいる部屋にはきっと魂の痕跡が残っているはずです。
そこで私は彼に協力してもらう必要がありました。彼は店のドアを閉め、部屋のすべての電灯をつけ、私と一緒に部屋の真ん中に置いてあった茶の机を引きずり出し、彼に部屋の真ん中に座りこませました。業界のルールを説明した後、私は布で彼の目を覆いました。
この行動は私の思いつきで、実際には必要ないことでした。ただ、この人に対する第一印象と、彼が説明する過程で、この未知の霊体に対して恐怖を感じているのではなく、極度の嫌悪感を感じていることがわかりました。もちろん、彼が最近ビジネスに失敗したり、恋愛トラブルを抱えている可能性も排除できません。
そこで、いくつかの状況は彼が見ない方が良いと思い、実際には私もこれから行うことがどのような状況を引き起こすのかわかりませんでした。
ただ、すでにイライラしているこの男がさらにイライラしないようにするだけでした。彼の目を覆い、座りこませた後、私はコップを彼の膝の間の床に置き、コップに浸した米を入れ、三寸の線香を取り出し、点けてコップの口に横置きしました。
煙が立ち上がったとき、私は羅針盤に合わせて、煙についていきました。この方法について説明しなければなりません。私たち業界ではこれを「線香を請う」と呼んでいます。もし部屋に魂がいるなら、平らな線香はそれらに対する敬意の表れで、もしそれがあなたの敬意を受け入れるなら、「線香を食べに」来るでしょう。そして、点された線香の煙は連続しているので、煙の流れを見て、羅針盤を結びつけることで魂の位置を知ることができます。
これはただの第一歩ですが、最も重要な手がかりをつかむことができます。それ自体が非常に葛藤している魂でなければ、把握した状況に基づいて基本的な判断を下すことができます。ただ、この方法にも欠点があり、成功率が比較的低いことです。なぜなら、一部の魂はすでに本性を失っており、鶏を飼うように、あなたが米を撒くと、鶏が集まって食べ、食べ終わったら去っていき、猫や犬のように尻尾を振って、少しでも感謝の気持ちを表すことはありません。
煙について、自分の経験に基づく判断で、私は部屋の魂が壁に掛けられた、交差して置かれた2本の油紙傘の上に隠れていることを確定しました。
そして、この魂は非常に微弱です。私は人に、動物に、甚至車に憑依する幽霊を見たことがあります。しかし、傘に憑依する幽霊を見たことはありません。あまりに微弱で、姿形を持てないので、煙のようにあちこち漂っているのでしょうか？
一瞬、私は全く手がつけられませんでした。私は男の頭の目隠し布を外し、確かに魂があり、その魂が今は壁の傘に長期的に付着していることを彼に告げました。私はとりあえずそれを、傘霊と呼びます。私は男にもう少し手がかりを提供して欲しいと思いましたが、何度も尋ねても、彼はたまに口汚くののしるばかりで、何の役に立つ手がかりも提供できませんでした。
仕方ないので、私は魂を呼び出して直接尋ねることにしました。残念なことに、私が何度も呼びかけても、この魂は現れたくないのか、何かの理由で現れないのです。男は少しイライラし始め、彼は少し暴れ出して、もっと簡単明快な方法はないのかと私に尋ねました。
例えば、油紙傘を一発で燃やすといった方法です。現在掌握しているすべての情報に基づいて、少なくともこの魂が男を悪意を持って傷害していることは見つかっていません。このような状況で、私はそんな非道なことをするわけにはいきません。クライアントの前で、どんなにイライラしても怒り出せません。心の中で黙々と軽蔑しているうちに、やがて納得しました。
私たちの職種はいつもこうです。自分自身をある境界線を越えないように制約しなければならない一方、境界線の向こう側の人々を見つめてため息をつくしかありません。それで、何度も自分自身に言い聞かせます：人の言葉を話し、人のことをする。
ただ、私の心の中にはいつも奇妙な感じがするんです。今回出会ったのは、悪霊ではないんです。逆に、善意を持っているんです。
私はこう分析してみました：彼が道路を渡るとき、足が重いと感じ、立ち止まって足腰を伸ばしました。彼にとって、飛び交う車が彼をびっくりさせたのですが、その重い足があってこそ、車に飛び出される厄介な目に遭わなかったのではないかということを彼は無視しているのではないでしょうか？
雨のとき、傘の柄を持ちきれないのは、このような魂がいて、彼が濡れないように、勝手に傘で彼を雨から守っているのではないでしょうか？
ただ方法が少し過剰かもしれませんが、本心は良いのではないでしょうか？
野菜を切るとき、包丁が落ちて、彼のつま先を切り傷つけ、彼を非常にイライラさせましたが、この力の影響で、彼が足全体ではなく、つま先だけを切り傷つけたのではないでしょうか？
私の考えを確定できないが、否定する理由もありません。考えた後、私はやはり自分の推測をこの男に告げることに決めました。彼は明らかにこれまでこのように考えたことがありません。彼はいつも自分がどんなに不運かと考えていたんです。私が彼に私の推測を告げると、彼は沈黙しました。
彼はもはや口汚くののしることもなく、無表情に頭を下げて、まるで考え込んでいるかのようです。
しばらくすると、彼は口を開いて話し始めた。私は彼の声が少し震えているのを察知した。彼は私の言葉に触発されて、あることを思い出したと言った。彼が自分がとても不運だと思う前日の夜には、いつも亡くなった母親を夢見るという。
これで私は基本的に断定できた。この魂はこの男の母親のものだ。
業界用語で言うと、「鬼は九回の想いを託す」という意味で、死者であっても、その魂がどんなに強くても、生者にはただ九回の夢を託すことができる。夢を託すことは陰寿を消耗し、消耗するほど、そのものが弱くなる。
私は断言できる。生きている誰一人として、亡くなった親戚に夢を託される回数は九回を超えない。先祖から伝わる言葉は、信じた方がいい。
多分この男が何度も不運なことが起こるのは、母親が事前に夢を託してヒントを与えているからだ。ヒントを与えても彼の注意と重視を引き起こせないので、自分自身を消耗して彼を守らざるを得ない。
もちろん、これらの言葉を私はこの男には話さなかった。
でも私は彼が少なくとも、これが母親がひそかに彼を守っていることを知っていると思う。
長い間が経った後、私が彼に母親を案内し始めてもいいか尋ねると、彼は私に、母親と数言話す方法はないかと尋ねた。条件が限られているので、いくつかのものは簡単に用意できなかった。だから私は丁寧に彼を断った。私が道具を取り出して彼の母親を案内し始めると、彼は突然ざんと音を立てて、壁に向かって、傘の前にひれ伏した。
このとき私は彼を阻止しなかった。私も彼が今、たくさんのことを言いたいと思っていることを知っていた。両親が亡くなるとき、彼はそばにいて孝行することができなかった。彼の心の中にはきっとたくさんの罪悪感がある。中国には「慈しみ深い母の手の糸、旅立つ子の身に着る衣」という俗語がある。
多分この男は彼の母親にとって、空に放たれた凧のような存在だ。糸をしっかり握りつかなければ、風に吹かれて、もう二度と見つけられなくなるかもしれない。
私はあまり長所の多くない人間だ。小さいころからいたずらばかりして、通信ハトを盗んだり、煙突をふさいだり、電球を割ったり、担任の先生の茶碗にも小便をしたりして、両親にたくさんの迷惑をかけた。でも彼らはいつも前向きに私を教育して、何をすべきで、何をすべきでないかを私にわかってもらった。
それで反抗期を過ぎて大人になった後、いつも両親の晩年をどうやって楽しく過ごさせるか考えていた。私は目の前のこの男より幸運だ。両親に会いたいと思ったら、電話をかけるだけでいい。何の通知も必要なく、直接家に帰ればいい。でも彼はできない。母親が亡くなったことも、近所の人や親戚から電話をもらって初めて知ることができる。彼が不孝ではない。残念なのは孝行を尽くせなかったことだ。
だから私はこれも彼の奇妙な心理の原因だと思う。
彼が起き上がって、タバコを吸いながら内の部屋に入ったとき、私は彼がもう多くのことを話したくないことを知った。だから私は彼の母親を案内し始めた。途中で私は彼の母親に、道中ご自愛を告げ、光があるところに向かって進むようにと言った。
一年後、私はこの男に電話をかけた。嬉しいことに、当時の彼はもはやそんなに世間を皮肉るような態度をとらなくなり、明るくなっていた。
多分母親の愛情が彼に影響を与えたのか、あるいは彼自身が徐々に納得したのか。これらはすべて重要ではない。私たちは生きているうちに死んでしまう。死んでからでも、いっぱいの不運や厄介なことを抱えた鬼になりたいと思うのだろうか。