第二十六章 水跡

2009年の夏のことだ。朝早く、南岸区役所の近くのあるマンションの住人と名乗る人から依頼の電話がかかってきた。とても慌てて恐れているようで、真っすぐに私に言った。家に幽霊が出ていると。
彼を落ち着かせるため、外で会うように約束した。一方で、このような恐怖に襲われた人の神経をなだめるため、もう一方では、彼に落ち着いて、ことの経緯をじっくり話してもらおうと思った。
この依頼人の姓は朱で、彼は32歳だと言うが、私には20歳代の人に見える。背が高くて痩せている。数年前に重慶で大学を卒業し、家で中古マンションを買って一人暮らしを始めた。
彼は私にことの経緯を詳しく思い出して話した。彼のベッドの上の天井が、何らかの理由で水漏れしていると言う。天井には吊り灯が取り付けられていないので、配線火災の問題はない。最初の数日は気にしなかったが、先日の朝、水滴が顔に当たり、目が覚めて、とても怒った。そして、上の階の住人の家にドアをノックした。上の階の隣人がドアを開けると、家で水漏れはしていないと言った。そして、家の中と外を一通りチェックした。
その時、とても不思議に思ったので、管理会社に通知した。管理会社の人が現場に来ても、原因がわからなかった。その上、仕事もあるので、ベッドの上にバケツを置いて水を受けることにした。
夜、仕事から帰宅すると、水がもう滴っていないことに気づいた。もう滴らなければいいやと思ったが、翌日の朝、再び水滴で目が覚めた。前日の解決できない経験があるので、朱さんは直接バケツを置いて出勤した。夜帰宅すると、水も止まっていた。
朱さんは独身で、普段はオタクで、夕食は基本的に自宅で作らず、近くでハンバーガーなどのファーストフードを買う。自宅ではインターネットをしたり、ギターを弾いたりするだけだと言う。猫や犬、ハムスターや垂耳兎、魚や鳥を飼ったことがあるが、最後の二つを除いて、すべて生き残れなかった。
彼は私に見えて、志のない、落ちぶれた裕福な若者のように思えた。彼は続けて言った。2日目の夜も、彼はだんだん慣れてきた。今朝、再び水滴で目が覚めたとき、天井の水跡が人の顔になっており、滴り落ちる水滴はまるで人の目から泣いているかのように、目のところから滴り落ちていた。
これでやっと彼はびっくりして、急いで起き上がり、友人の紹介を頼って私に会いに来た。彼の話を聞いた後、彼は彼を紹介してくれた友人に電話をかけた。私と彼は、この友人が来るのを待って、一緒に彼の家に行って実際に見てみるつもりだった。
この友人は私の小学から高校までの同級生で、彼の両親と私の両親は同じ職場に勤めている。小さいころから一緒に遊んできた。後に国営企業に入り、毎日肉をたくさん食べ、酒をたくさん飲んでいた。数年で大腹便便になった。彼はずっと私がこの仕事をしていることを知っている。多分、朱さんの話を聞いて、直接私を彼に紹介したのだろう。朱さんの家に向かう途中、彼は私に言った。このやつは金持ちだから、面子を売るな。いくらでも請求していいと。
私の料金は相手によって決まります。これは師匠が教えてくれたことです。人が金持ちだからといってずっと追いつめるわけにはいきません。もし私がその人が好きでなければ、少し高く請求するかもしれません。もし可哀想な人なら、私は時には一文も請求しません。これが師匠が私に注意してくれたことです。仕事をする前に、まず人間としての生き方を学びなさいと。
朱さんの家に着くと、彼は私を彼の部屋に連れて行きました。私は天井を見上げると、あのやや大げさな水跡がまだあり、ただ水は垂れていないだけでした。
かすかに、ある人の顔に似ていることがわかりました。2階の部屋はおそらく寝室に相当するはずなので、水跡が出ることはありえません。しかも、真ん中で半ばに現れることはまったくありえないので、基本的にこれは異常な現象と断定できます。
道を尋ねるとき、私は特に彼の家の窓の向きに気をつけました。西日が当たり、毎日太陽が沈むときだけ部屋に日の光が入ります。部屋のドアは横の壁にあり、ちょうど太陽の光が当たらない場所です。ベッドの頭は壁に寄り、ベッドの足はドアに向かっています。天井にはケーブルを通すための溝が掘られておらず、照明は大きなフロアーランプに頼っています。部屋の状況から見ると、典型的な陰宅です。
いわゆる陰宅とは、必ずしもその家に幽霊が出没するというわけではありません。多くの人はこの2文字を聞くと怖がりますが、実は適切に鏡を掛けたり、ベッドの位置を変えたり、部屋の4隅に赤糸で巻いた釘を打ったり、生き生きとした植物を置いたりすれば、これらの問題は解決できます。しかし、この人はそうしませんでした。
このような陰宅は、他の家よりも幽霊が寄りやすいだけです。なぜなら、幽霊は太陽が嫌いで、1日のうち夕方に少し日に当たっても何の害もありません。しかし、夜になると、もともと暗いうえに、家自体が陰宅なので、あなたの部屋が幽霊たちの集まり場になる可能性があるのです。
幸いこの人は風鈴を掛けていなかったので、もし掛けていたら、大変な目に遭ったでしょう。羅針盤を水跡に近づけると、指針が激しく回り、これは完全に超常現象と断定できます。
なぜこのような状況が起こるのか、私にもわかりません。いたずら好きな幽霊かもしれませんが、何日も連続してこんなことをやると、人でも飽きてしまうでしょう。
恨みを抱いた幽霊かもしれませんが、2階の住人は元気で、大きくドアを開けて私たちを入れてくれました。だからこの理由も除外できます。実体を持って人間に見える幽霊は、人為的に召喚されない限り、比較的強力な能力を持っています。前の2つの可能性を除外すると、他に答えが思い浮かびません。
そこで私は夜になって何か起こるか見ようと思いました。夜は適当に食べ物を食べて、私と私の友人は彼の寝室に座り続けて話をしていました。朱さんも私たちとついでついでに話をしていました。
私はもちろん、彼がすぐに現れる涙を流す人の顔にとても不安を感じていることを知っています。夜の3時頃、皆少し疲れてきました。そのとき、私は明らかに1滴の水が私の頭に落ちるのを感じました。
私は無意識に頭を上げて見ると、あの水跡が白い天井に際立って見え、朱さんの言う通り、人の顔で、午後彼の家に着いたときよりもはっきりと見えました。
この顔の表情からすると、とても無表情で、ぞっとする感じがします。「起きて、水が垂れ始めた！」と私の友人が朱さんを呼び起こしました。彼は狂ったように飛び起き、そしてベッドから離れて、壁の角に立ち、恐怖におびえた表情を浮かべていました。
私は腰掛けをベッドの上に置き、そして腰掛けの上に立ち、手を伸ばしてその水跡に触れ、水がどこから染み出しているのかを探そうとしました。しかし、私が触れた瞬間、この水跡は実は少しだけぬれているだけで、私たちが普通思う水が染み出す感じとは違うことに気付きました。
ただ、その人の顔の目から垂れる水滴が、この時には格別にはっきりと見えるようになりました。原因がまだわからないので、私は少し焦り始めました。その顔は誰かを傷つけるつもりがないように見えましたが、それが1秒でも多く存在することは間違っていると思いました。そのとき、私の友人が言った一言が私を急に目覚めさせました。
彼はこの水跡がどう見ても少し緑がかっていると言いました。私は突然、朱さんの家に来る途中のことを思い出しました。彼らのコミュニティの環境を見て、各棟の最上階に屋上のような建物があることに気付きました。最初は最上階の小屋だと思っていましたが、友人の言葉をきいて、これはタワータンクではないかと思いつきました。
こう思った途端、私は彼ら二人に一緒に行くように言いました。彼らもここにこのままいる勇気がないと思ったからです。このビルは全部7階で、朱さんの家は4階にあります。私たちは階段を上って、屋上のドアを開けると、先ほど私が言った建物のそばに鉄製のはしごが一列に並んでいるのを見ました。そこで私は、これがタワータンクだと断定しました。
嫌な予感が私の心に広がりました。コミュニティで断水が起こると、通常屋上のタワータンクがコミュニティの利用者に一時的に生活用水を供給するために使われることを知っているからです。朱さんの家の上の住人に漏水が起こっていないのなら、この水跡の由来は必然的にこの近くの水源と関係があります。
私はタワータンクの上に登りました。高さは数メートルで、あまり高くありません。私は頭を伸ばしてタワータンクの中を見ると、真っ暗で何も見えませんでした。そこで朱さんに家に帰って懐中電灯を持ってくるように必死に説得しました。懐中電灯でタワータンクの中を照らすと、浮いている死体が見えました。
体の大きさからすると、小柄で、おそらく子供のようです。体の膨れ具合からすると、溺れて死んだのは多分何日も前のことで、既に水浸しの死体になっていました。（重慶では溺れて死んだ後、体が浸かって膨れる死体をこう呼ぶ）私の推測は大体当たっていました。この溺れ死んだ子供が、朱さんの家の天井の水跡の原因です。
陰宅の関係かもしれません。このかわいそうな魂はただこのような方法で朱さんに手がかりを告げ、朱さんに自分を見つけて欲しいと願っていたのでしょう。何度も自分の涙で朱さんにヒントを与えていました。
引き上げる道具がないので、私は警察に通報せざるを得ませんでした。警察が来る前に、私は石を拾い、ナイフでその上に魂を打つ呪文を彫り、再びタワータンクの上に登り、石を水の中に投げ込みました。この呪文の役割は、子供の魂を水中にとどめ、体と分離させ、私が乾燥した場所に持っていくのに便利にすることです。
その後、私は朱さんと友人に避けてもらい、いつもの方法で子供の亡霊を送りました。そして私たち三人で110番の人が来るのを待ちました。私たちは捜査官に、屋上に来て風を浴びているときに偶然死体を発見したと言いました。彼らは人を派遣して死体を引き上げた後、私たちも初めてのことで警察車に乗って事情聴取を受けに行きました。警察署で、私は外から裂けるような女の泣き声が聞こえました。しばらくすると、別の警察官が事情聴取をしている部屋に入り、外の状況を私たちに話しました。
さっき泣いていた女性は子供の母親で、以前すでに警察に届け出をしていました。自宅の子供が行方不明になったと言っていたのです。あの日、彼女は子供を連れてコミュニティで遊んでいました。子供が他の子供たちと一緒にとても楽しそうに遊んでいるのを見て、自分は茶室に行ってトランプをしに行きました。子供は茶室の外にいるし、そんなに遠くへ行かないだろうと思っていたのです。
トランプを終えて出てきたとき、あの子供たちはまだ鬼ごっこをしていましたが、ただ彼女の子供だけが姿を消していました。ここで慌てて、親戚に電話をかけてあちこち探し始めました。
ここまで聞いて、たぶん何人かの子供が廊下で鬼ごっこをしていて、その子供は多分いたずら好きで、水塔に登り、つまずいて落ちて、中で溺れてしまったのだと思いました。本当に残念です。ぽっちゃりとした元気な子供が、大人の遊び好きで監視が不十分になり、幼い命を失ってしまったのです。
今、多くの親はこのようです。いつも自分の子供はいい子で、あまりいたずらしないと思っています。また、先祖代々の子供たちも小さいころから「放し飼い」にされて育ったと思っています。そのため、親は楽になり、自分の好きなことをしに行きます。しかし、子供はいつまでも子供です。精神的にも認知的にもまだ未熟で、何が危険で、何が間違っているのか分かりません。親として、自分の子供を大切に守らないのは一体何のつもりなのでしょう。
感慨は感慨として、調書を取らなければなりません。朱さんはここ数年で出会った中で最も臆病な人だと思います。私は彼を連れて怖い思いをした後のお祝いをしに行かなければなりません。その後、彼は報酬を支払いました。子供が溺れたことは彼らのコミュニティでますます広まり、南岸区の友達の多くはおそらく耳にしたことがあるでしょう。私自身が父親になってから、親の責任の重大さを痛感しています。私はトランプをしないし、遊び好きでもありません。
私の子供には私の守りの下で元気に育ってもらおうと思います。しかし、私たちの周りにはこのような悲劇がたくさんあります。私たちは悲劇の発生を嘆く一方で、しばしばこのような悲劇は本来避けられるものだったことを見落としています。