第二十四章 童女

重慶市大渡口区で、2008年の地震の前、きっと誰かがこんな噂を耳にしたことがある。
巴国城から大渡口区役所までの区間に、トンネルがある。トンネルは大体500メートルほど。その年の3月、何台かの車がこのトンネルを通るとき、同じ奇妙な出来事に遭遇した。
毎晩9時44分、車がトンネルの入り口に入ると、もし車の後部座席に席が空いている場合、後部座席に突然赤い服を着た、ツインテールを結った女の子が現れ、突然大声で泣き出し、「ママ」と叫ぶ。
何人もの運転手がこのような状況に遭遇し、少し臆病な人は車を止めて逃げ、大胆な人はトンネルの出口を突き抜けた。女の子はトンネルを出た瞬間、姿を消した。
お金のない運転手は恐れて何日も家を出られないかもしれないし、少し金持ちの運転手は人を呼んで厄を払ってもらう。今回の依頼人は、そんな少し金持ちの人だ。
彼は何らかのルートを通じて私のことを知り、私がこの仕事をしていることを知って、自ら家を訪れ、何か手伝ってもらおうと希望した。当時の私はいわゆる憤青で、基本的に私の目には、金持ちは社会の一つのシンボルで、彼が代表するのは自身の優れた能力だけでなく、彼の足元に踏まれている何万人ものサラリーマンや農民工をも表している。
私は金持ちを嫌いも好きでもない。商売をする人として、基本的なマナーと職業意識は持っている。人の金を受け取って人の災いを払う。そして徐々に私自身もそのような人になっていった。
だからこの依頼人が私に相談に来たとき、私は一視同仁で、まず彼の話を聞くことにした。彼は3月のある夜、二郎付近で取引先のお客様を接待し、少し酒を飲んだが、全く酔っていなかったと言う。
夕食を終えて帰り道になった。そのトンネルを通ると、トンネルに入るとただちに車の中に何かが増えたような感じがした。そこでバックミラーを見ると、運転席の後ろに女の子の顔が鏡の中に自分の頭の後ろに現れた。
彼はその場でブレーキを猛踏し、その後、冷静に考えてみると、本当に酒を飲み過ぎたのかもしれないと思った。再びバックミラーを見ようとしたところ、女の子はまだそこにいた。座っているだけでなく、大声で泣き出し、「ママ」と叫ぶ。その声はとても大きかった。彼がこれが幻覚ではないことに気づくと、無意識に速度を上げ、すぐにトンネルを出た。トンネルを出ると、泣き声は途端に止まり、振り返ってみると、車の中には何もなかった。
そこで彼は再び自分が飲み過ぎたのではないかと疑い始めた。しかし、このすべてがあまりにも現実的に感じられた。疑念を抱え、安全を期して、彼は車を近くの道路脇に止め、車を降りて遠くへ走り、それからタクシーで家に帰り、翌日になって初めて会社の部下に車を取りに行かせた。
数日間、この事は彼の心から決して消え去らなかった。彼は時には自分自身を疑い、時には幻覚だと思い、そしてまた幻覚が自分自身を慰めるためのものではないかと疑い始め、このように繰り返し葛藤した。
この依頼人は賢い人だ。事後何日も解決策が見つからなかった後、彼は社会で情報を集めることを知っていた。そして、その調べた結果が彼が私に来るきっかけとなった。彼の前に二人の運転手が同じ出来事に遭遇し、彼の後3日目にまた一人のタクシー運転手が同じ出来事に遭遇した。同じ場所、同じ方法で、彼はついに自分が幽霊に出会ったことを確信した。
彼の話を聞いて、私の頭の中にはその時の場面が素早く浮かんだ。初步的には、これは恨みの魂であると判断した。依頼人の言う通り、何歳かの女の子かもしれない。おそらく死後どこに行くのかまだあまり分からないし、あるいはまだ自分が死んでいることすら知らない。そして、あるきっかけが死の直前の最後の記憶を再現すると、彼女は再び現れるのだ。
幸いにもこの恨みの魂は人を害さず、誰も死傷者を出さなかった。この点から考えると、この恨みの魂を鎮めることはそれほど難しいことではないはずだ。しかし、依頼人の口述だけでは足りない。判断の根拠としては不十分だ。そこで私は彼に事件の現場に連れて行ってもらうよう提案した。
彼の車に乗って、私は車の中に仏具がいっぱい掛けられ、大きな小さな札が貼ってあるのを見つけた。難しくも彼は車にゾンビが乗ったとでも思っているのか。私は助手席に座り、運転席の後ろの席をよく観察した。それらの札の他に、後部座席のヘッドレストに大きさ適度の水跡があることに気付いた。
私は依頼人にこの水跡はずっとあったのかと尋ねた。彼は気付いていなかったし、多分自宅の子供がいたずらしたのだろうと言った。
当時私もあまり気にしなかったので、もう質問はしなかった。そのトンネルの入り口に着くと、私は依頼人にちらりと目をやった。彼は明らかに緊張して怖がっていた。私は彼に慰めるように、この世界では何事も原因がなければ結果が出ない。ほとんどないが、幽霊が何の理由もなく無縁の人に取り付くことはめったにない。あまり心配するなと言った。
しかし、私の言いたいことは、彼自身が何か人知れずの悪事をしていないか考えさせることだった。世の中には通り抜けない壁はない。いくらよく隠しても、いつかは秘密が明かされる日が必ず来る。
因果応報、善悪は報われる。自分自身が正しい行いをしている人なら、何の理由があって汚いものに取り付かれることを恐れるのか。
このトンネルは私にとって、非常に普通のトンネルだ。トンネルの上の山には装飾塔があり、そこは公園だ。重慶は山城で、山が多くて連なっている。昔の開発建設の際、山に出会うと穴を掘ることが多かった。しかし、多くの人があることを忘れていた。当時の日本軍の大爆撃の際、重慶の大きな小さな山には無数の防空壕が掘られた。そして、この特殊な地理環境のおかげで、重慶は全国で最もトンネルの多い地方になった。
私は依頼人に丁寧に尋ねました。小さな女の子はどこから現れ、どこで大声で泣き始め、どこで消えたのか。そして、これらの地点を詳細にメモしましたが、やはり手がかりが見つかりませんでした。私は彼に、夜になったらこの時間に私を連れてもう一度その場所を歩いてみるよう提案しました。
彼は長い間躊躇した後、やっと承諾しました。夕食は私と彼が外で適当に食べました。彼は明らかに付き合い上手で、私とは一回限りの純粋な提携関係であっても、彼はコミュニケーションの達人のような態度を見せました。私はうなずきながら応え、夜に直面する事件について、すでに十分に準備ができているとも言え、まったく準備ができていないとも言える気持ちでした。
夜の9時半、我々はトンネルの入り口から約500メートル離れた道路脇に到着し、ハザードランプを点けて停車しました。
口頭で依頼人に緊張しないように勧めましたが、私もそれが不可能であることを知っていました。我々一人一人がこのように、自分たちの未知のものには常に恐怖を抱いています。受け入れようとしないうちに、すでに恐れ始めています。そして、恐怖という感情自体が重ねられるものなので、考えれば考えるほど恐くなります。
私は師匠に付き従う前は、幽霊にとても恐れていました。鬼神の言説は私にとって、まるで真っ暗なドアのようなもので、ドアの向こうに何があるのかを見たいと思いながらも、いつまでもドアノブを回す勇気がなく、見たこともないうちに、心の中ですでにそれらに恐ろしいイメージを作り上げていました。牙をむき出し、青い顔に牙を生やし、醜い顔つきで、静脈が浮き出ている。
この仕事に就いてから、大きな小さなたくさんの亡霊と接触して、やっと彼らのことが自分にとってまだまだ分からないことだらけであることに気づきました。
私はこの入り口を通り過ぎる車の流れを見ていました。夜が更け、トンネルの照明は黄色で、赤緑の電子表示板のほかに、速度制限60の看板も掛かっていました。
私は突然何かを思いつき、急いで依頼人に尋ねました。当時トンネルを通過するときの速度はいくらだったか。彼は私に、たぶん90だと答えました。私は言いました。今度は90の速度でトンネルを通過しましょう。
9時44分、我々が90の速度で入り口に突入したとき、小さな女の子が現れました。彼女は私の目の前の1メートル以内のところに現れました。顔色がやや青白く疲れているだけで、とても可愛い子供でした。私がちょうど彼女に手を伸ばして触れようとしたとき、小さな女の子は私の予想を超える音量で大声で泣き始めました。
泣きながら母を呼びました。私は彼女の突然の叫び声にびっくりし、伸ばしかけた手を急いで引き戻し、目を見張って彼女を見つめました。10秒も経たないうちに、車はトンネルを出て、私の目の前で薄れ、消えてしまいました。
車が止まった後、依頼人は両手でハンドルを握り、震えていました。彼がこのすべてを私に見せるために多大な勇気を振り絞ったことがわかります。驚きはしましたが、私もこれだけの年月を経てきたので、この事件の進行にある種の法則を感じ取りました。そのため、調査することに決めました。
私は依頼人に、この数日家で線香を焚き、仏を拝み、誠心誠意善を行うようにと伝えました。本当に小さな女の子の怨霊が彼に付いて家に帰り、他の人を脅かすのを心配していました。それはやはり良くないことだからです。
先に目撃したことに基づき、車の中に現れた幽霊の影は仏具などに反応しなかった。そのため、私はこの小さな女の子がただ怨霊の残像であると判断しました。この残像は、彼女の生前の記憶の中で非常に印象的なあるシーンに似ており、死後も消え去ることができず、トンネルの中をあちこち飛び回り、ランダムに車両を選ぶのではなく、自分の記憶に似たシーンを選んで繰り返し再現しているのです。

だから、私はこの子供がトンネルの中で亡くなったと考えています。おそらく交通事故で亡くなったと思われます。交通事故の原因は、運転者の飲酒運転やスピード違反の可能性が高いです。次の日の早朝、友人のチャネルを通じて調べたところ、2007年3月にトンネルの入り口で交通事故が発生していたことがわかりました。ある大型トラックがスピード違反で走行し、トンネルに入る際に横断中の母娘2人に衝突しました。母親は怪我を負い、娘は即死しました。

車速が速すぎたため、小さな女の子は衝突後10メートルも飛び出し、その後大型トラックは転覆しました。後に判明したところ、加害者の運転者は飲酒運転であったということです。調べてきた写真を見ると、この女の子は昨夜車の中にいた女の子そのものでした。

そこで私は整理して、次のような結論を得ました。

小さな女の子は突然疾走してきたトラックにぶつかり、即死しました。しかし、彼女の魂にとっては、幼いこともあり、自分が既に死んでいることを知らなかったかもしれません。彼女の魂は母親が倒れ怪我をしているのを見て、自分自身の恐怖を加えて、泣き叫びながら母を呼びました。

さらに、トンネル自体は特殊な環境です。私たちが通常車でトンネルに入るとき、一般的に窓を開けないのは、トンネルには2つの排気口しかなく、その他の部分は比較的密閉されているため、自動車の排気ガスや廃棄物がトンネル内に充満し、長い間消え去らないからです。私は、小さな女の子が1年間も同じ場所にとどまり、死の瞬間の残像を再現し続けているのも、おそらく魂が出て行けないからだと思います。もちろん、これは私の推測で、私自身では証明することができません。あちこち聞き回って、やっと当日の午後にこの小さな女の子の母親と連絡を取ることができました。

私は依頼人を呼び、小さな女の子の母親と会う約束をしました。娘に関するいくつかのことを聞きたいと言って、再び痛みを引き起こすことになるかもしれませんが、彼女の母親はやはり私たちと会うことを承諾しました。大渡口のあるコーヒーチェーン店で約束しました。私はコーヒーを飲まない人で、カフェには酒もないので、レモネードを注文するしかありませんでした。

娘を失うという打撃は、この母親にとって間違いなく大きいものです。私自身が父親になってから、今の心境で振り返ると、決して消え去らないあの痛みを感じ取ることができます。
しかし、この件を小さく言えば、彼女の娘は依然として「迷子」の状態で、大きく言えば、既に49日が過ぎている。もし早く彼女の娘を送り出さないと、本当に心配だ。彼女が永遠にこのように彷徨い続け、毎年3月に出て何人かを脅かすことが多くなると、必然的にいくつかの達人の注目を引きつけるだろう。その時、何か厳しい手段を用いると、それはまずいことになる。だから、私たちは率直にこの件の経緯を彼女の母親に告げることに決めた。

母親はそれを聞いて、手で口を覆いながら泣き始めた。予想されたことだ。なぜなら、私は女の子がまだとても小さいと思い、私がいつも他の魂を導く方法を用いるとしたら、それに1年もの時間が経過しているので、おそらくあまり容易ではない。もし彼女を脅かして、これから二度と現れなくなってしまったとしても、私は彼女がずっと真っ暗なトンネルの中を彷徨い続けるのを望まない。

だから、私は女の子の母親に手伝ってもらおうと思った。彼女に私たちを女の子の墓前まで連れて行ってもらい、私が彼女たち母娘に架け橋をかけ、母親に子供に告げさせ、すでに去る時が来たことを知らせる。彼女の母親は善良な人で、娘を失ったにもかかわらず、彼女はこのような罪責が交通事故の運転手以外の人に影響を与えるべきではないと思っていた。

だから、彼女は私に承諾した。まず母親を送り帰って娘の生前の服を1着持ってきて、そして墓地に着いた。私は牛油の灯と線香を使って母娘に架け橋をかけた。娘の魂は母親の言葉を聞くことができるが、母親は娘の言葉を聞くことができない。

母親が、彼女にきちんと去り、私と一緒に素直に行くように言ったとき、牛油の灯が消えた。私はこれが彼女が私と一緒に行くことを承諾したことを表すと知っていた。彼女を連れ去った後、私と依頼人は女の子の母親を家に送り返した。

私を江北に送り返す途中、依頼人は長い間沈黙し、一言も言わなかった。私は知っている。実は言う必要もない。このすべては「バタフライエフェクト」という映画のように、誰かが不注意にも引き起こした小さな変化が、まったく関係のない家庭に崩壊と悲しみをもたらすかもしれない。

その後、私は依頼人が私に手数料を支払うほか、女の子の母親にも少しお金を渡したことを知った。過程がどうであれ、結末がどうであれ、私たちが自分たちの物語から何かを学び始めるとき、それだけで十分なのだ。