第二十三章 轆轤

2006年、暇を見つけて自分自身に旅行をしたが、旅の途中で偶然、無意識に一つの恨み事を解消した。その年、このような生活に少し飽き始めた。飽きていると言うより、むしろ逃避したいと思った。約1ヶ月の時間をとって、四川、甘粛、川西などの地域を行き来し、行ったり止まったりして、とても素敵な気分だった。
成都の近くにある平楽という古い町で、鳳凰や麗江の喧騒とは異なるその雰囲気に魅了され、縦横無尽の路地裏での川劇の唄声にしばしば惹かれ、毎日鐘を打って祈り、お茶を飲みながら落語を聞き、晴れた日には小川のそばで日向ぼっこをし、雨の日には宿屋で水滴が跳ねる跡を楽しみ、5日間滞在した。
しかし、最後の晩、レストランで食事をしているとき、隣の席の人が噂する怪談を聞いて、もう少し居座れなくなり、何度も考えた末、行って見ることに決めた。
平楽古鎮は成都の西にあり、平楽から更に西に行くと、邛崃という場所を通り抜ける。今回聞いた噂は、ここにある天台山という山で起こった話だ。
天台山は四川では道教の名山で、それ以前に私は一度も行ったことがなかったが、多少は耳にしていた。後に地形の関係で、冬暖かく夏涼しいため、観光地に開発された。理論的には、このような人気のある山の上の観光地では、幽霊が出ることはめったにないが、その日の夜、隣の席の人がこの話をしたとき、やはり事態がおかしすぎると感じた。
あの人が話した物語はこうだった。彼女の姪と姪婿が天台山で農家楽のような小さな山荘を開いており、山に登ってホテルに泊まれない散客を専門に受け入れており、商売もなかなか良いようだ。山の上で野菜を買うのは比較的困難で、下山する道のりが遠いため、多くの人は里山の農家で野菜を買うことを選んでいる。時には前日に何の野菜が欲しいか電話をかけると、自然と翌日野菜が家に届く。それほど面倒くさくはない。
しかし、あの日彼らが電話をしたとき、いつも野菜を届けてくれる野菜農の電話を他の人が受けた。訊いてみると、突然野菜農が発狂して、家族に家の中に閉じ込められていることがわかった。ただ野菜を届ける関係だけなので、農家楽の人たちもあまり尋ねなかった。山の上の人は本来そんなに多くなく、しかもお互い知り合いが多いため、すぐにいろいろな噂が近くに広まり始めた。
野菜農が住む里山の町には古い通りがあり、四川の民家の建築様式が残されている。長い青石の道があり、その先にはホウジャクソウの木があり、木の下にはここに最初に定住した人々が掘った石井がある。以前は水道が通っていない時、この井戸が皆が水を汲む場所だった。今でも多くの人が井戸から水を汲んで飲む習慣を保っている。
不思議なことに、野菜農が発狂する前、この井戸で水を汲んでいた。噂によると、野菜農が発狂する過程を目撃した人がいるという。彼がバケツを井戸の井戸轆轤にかけて水を汲み上げた後、バケツを捨てるほど恐れて、転げ回りながら家に逃げ帰り、間もなく狂ってしまったという。
そこで、井戸に関するたくさんの伝説が掘り起こされました。ある人は井戸から汲み上げた水が血のような赤色だと言い、ある人は「水霊」に出会ったと言いました。（水霊は水鬼ではなく、水に溶け込んでおり、飲むと臭玉に似た味がする霊体です。人間の脳と精神に影響を与えることができ、水霊が入った水を飲んでしまうと、軽い場合は吐き気や下痢が起こり、重い場合は狂って暴死することがあります。これについては今後詳しく説明します。）
流言はいつもこのように、伝わるほどに激しくなり、奇妙な話になります。皆がこのことについて勝手に推測しているが、正しい説明がないとき、ある人が板を持ってきて、井戸の口を覆いました。当時、私がこのことを聞いたとき、私の第一反応も水霊でしたが、水霊は一般的に流れる水の中に現れるもので、井戸の中に現れるのは今まで聞いたことがありませんでした。そこで、私はその晩荷物をまとめました。
翌日の朝、宿屋を出て、雅安行きのバスに乗り、邛崃で降り、その後バンに乗って天台山に登りました。残りの道は便乗で行きました。山の人々の素朴さに感心せざるを得ません。ただの里山の小さな町なので、町中を探しても宿屋は1軒しか見つけられず、しかもとても設備の簡素なものでした。このおそらく数百人しか住んでいない小さな田舎町では、私の存在はとても目立ち、不協和音に思えました。その晩は簡単に豆花飯を食べて、街をぶらぶら歩き始め、人が集まっているところを探し、そこの人たちから何か情報を引き出せないか試みました。
そんなうちに、ついにこの大通りの終わりまで歩いてしまいました。終わりを見たとき、目の前の光景と、私がこのことを聞いたとき頭の中に描いたイメージを比較しました。大まかにはほとんど同じでしたが、2つのものが私の注意を引きました。1つは井戸のそばにある小さな文字が書かれた石碑で、もう1つは大通りの終わりから約30メートル離れたところにある木造の鳥居です。
少し日が暮れてきており、石碑の字も見えませんでした。引き返す途中、ついにタバコを吸いながら集まって雑談している老人たちを見つけました。そこで、近寄って、老人に近くに面白いところはないか尋ねました。そのように、お互いに会話をしているうちに、私は簡単に話題をその狂った菜農に持ち込むことができました。
ここの老人たちによると、その菜農の先祖は地元で最大の一族で、自ら祠堂を建て、以前は大きな庭園もあり、鳥居、石碑、井戸はすべて彼の先祖の庭園の範囲内にありました。その後、土地改革と土匪の事件を経て、家柄が落ちぶれ、比較的裕福な家庭も一般の庶民と同じようになり、さらに塀を取り壊し、庭園の一軒家を他人に売り、彼ら自身は古井戸の左側の家に住んでいます。家の後ろには農地があり、普段は村人から野菜を買い集めて山下の農家レストランに売り、それで生活を維持しています。
老人たちは私に彼の狂気によって引き起こされた伝説についてあまり話さなかったようです。多分私が外国人だと見て、あまり明かさないと思ったのでしょう。だから、私もあまり尋ねませんでした。ホテルに戻り、翌日直接菜農の家族に訊こうと思いました。
その夜、私は何度も考えました。どのように訊けば菜農の家族が警戒心を下げて実情を教えてくれるのか。なぜなら、私が具体的な実情を知らなければ、この問題を解決することができず、そうなると、私が山に登った意味が薄れてしまうからです。
考えて考えて、ついに本当の身元を明かして話そうと決めました。翌日の朝、街のレストランで「油醪糟玉子焼き」を食べ、口いっぱいに香りが広がりました。その後、私は直接昨夜の老人が言った菜農の家に向かいました。
玄関は閉まっており、門前には80歳を超えるように見えるおばあさんが腰掛けに座って、黙々とタバコを吸っていました。私はこのおばあさんが菜農の家族の人だと思いました。そうでなければ、こんなに不機嫌そうに人の門前に座るはずがありません。
私は近寄って、しゃがんで、おばあさんにあいさつをし、自己紹介をして、何か事情を訊きたいと言いました。私はこの仕事をしていると言いました。長い間話しましたが、おばあさんはずっと冷たい目で私を見つめ、一言も口を開きませんでした。
私はどう言ったらおばあさんに信じられ、受け入れられるか考えていたところ、菜の籠を持った40歳過ぎの女がやってきた。彼女は警戒心を持って私が誰で、何をしに来たのか尋ねた。私は彼女がこの家の女主人、菜農の妻か妹だと推測し、私の来訪の目的を正直に話した。私は重慶から旅行に来た人で、偶然このことを知り、何かお手伝いできるか見に来たと話し、お金を取らないし、ただあなたの家の難題を解決したいだけで、職業的な習慣だと約束した。
本当にお金を取ると、手に焼けて震えるぐらいだ。根気よく説得した結果、多分このお姉さんも私が何も求めていないことに気付いた。良い言い方をすれば才能のある人、悪い言い方をすればつまらないことに興味を持つ暇人で、彼女に何の影響も与えないと思ったのだろう。
それでやっと家に入れてもらった。入ると、彼女は私に水を注いでくれた。ただ、それが門前の近くの井戸から汲んだ水かどうかはわからない。私は菜農の様子を見に行きたいと申し出たが、彼女は拒否し、彼女に尋ねればいいと言った。
彼女の口から私は、菜農は狂ったわけではなく、何かにびっくりしてぼんやりしているだけだと分かった。お姉さんは私に、あの日、彼女の夫が井戸から水を汲みに行き、ブろぐいにバケツをつけて井戸に下ろし、水を汲み上げると、普通は水面に浮かんでいる苔やホテイアオイなどを指で取り除くが、菜農が取り除こうとしたところ、水中に大きな山のような雑多な物があることに気付いた。手を入れて掴んで見ると、大きな束の髪の毛だったと話した。
彼はなぜ井戸に髪の毛があるのか不思議に思い、井口に顔を出して見ると、井戸の底に白衣を着た、散髪の、顔色の青白い女がいて、真っ向から目を見開いて表情なしに彼を見つめていた。
これで菜農は大変恐れて、バケツを投げ捨てて家に向かって走り始めた。家に帰ると、妻にこのことをでたらめに話し始めた。お姉さんは、彼の様子を見ると本当にびっくりしたらしく、当時は彼が何を言っているのかよく聞き取れなかったと言う。夜になって少し落ち着いた後で、やっと事情を話したが、この時の菜農はすでに恐怖で精神が恍惚としていた。
お姉さんがここまで話すと、私はある日本の映画を思い出した。ある女の子が惨殺され、ビデオテープに憑依し、見た人はみな死んでしまうという映画で、中でも最も恐怖的なシーンは、まず井戸から這い上がり、次にカメラの前に近づき、そしてテレビの中から這い出るというものだ。
日本の鬼神文化は独自で、その妙味がある。鬼の分類が非常に細かく、人為的な精神創造によって生み出された鬼もいる。私はこの映画を思い出したが、やはり実際に起こったことに基づいて判断しなければならない。
お姉さんは続けて、その夜、夫がふしぎな振りを始めたとき、また奇妙なことが起こった。小さな町の街の犬が、その夜突然一家の門前に集まり、井口に向かって狂ったように吠え続け、一晩中吠えていたと言った。
この不気味な現象が地元の人々の噂を呼び起こし、菜農一家もそれ以降人と接触しなくなった。
しかしこのおばさんは、自分の夫が突然びっくりしてびっくりして言ったことを半信半疑で、事後に井戸の口に行って見たところ、水がきらきらと輝いていて、まったく女の人はいなかった。元々は迷信的な山の人であっても、このようなことが突然起こるのはあまりにも荒唐無稽だと感じていた。また、噂が広まった後、地元の警察署も通りでデマを否定し、誰かが板を持ってきて井戸の口を覆ったので、この事件は笑い話になった。
このおばさんと話し終わった後、私はいつもこの事件がそんなに簡単ではないと感じていた。私の経験に基づいて判断すると、井戸のそばに碑を立てるのは、通常、当時の井戸掘りの人に立てる功徳碑で、いわゆる「水を飲んで掘った人を忘れず」ということだ。野菜農が言ったことは、精神状態から言えば、半分しか信じられない。そして、事件の夜の群犬の狂吠えは、きっと何か他の理由があるはずだ。
もし本当に幽霊が出るなら、犬の吠えは比較的説明しやすい。なぜなら、幽霊は天生的に犬を恐れており、犬の吠え、犬の牙、犬の血、犬の毛はすべて幽霊を震え上がらせることができる。中国には「犬の目は人を見下す」ということわざがあるが、犬を侮蔑する意味ではなく、単にこの言葉を言うだけである。
この言葉が悪口になる前に、典故があった。犬は霊気のある動物で、人とは異なる何かを見ることができる。だから、犬がある場所をなぜかわからないでひどく吠えるとき、少し気をつけた方がいい。もちろん、ここで言う「ひどく吠える」とは、凶暴で、少し怖がっているような吠えのことである。
犬を飼うのは家を守るためで、人や幽霊を防ぐ。これが、昔から今までたくさんの人が家に犬を飼う理由である。もしあなたの家に飼っている犬がなぜか玄関に向かって凶暴で怖がって吠えるなら、玄関の真向かいに鏡を掛け、玄関の左から右に香りの灰を撒けば、幽霊は自然に去るはずだ。
だから、犬は宝物なのだ。
おばさんが私にこれらを話し終わったとたん、玄関でタバコを吸っていたおばあさんも入ってきた。彼女は私に話しかけ、その口調は彼女の滄桑（そうそう）たった外見とは似合わず、賢い老人のような印象を与えた。老人は明らかに先ほど玄関で私とおばさんの会話を聞いていたので、入ってきて続けて話した。この事件を話し終えて、私はもうぼんやりしなくなり、ここで何が起こったのか予想がついた。
老人は今年86歳で、地元では最も年配の人である。彼女はこの野菜農の祖母で、かつて一時輝いた一族のお嬢様でもある。
彼女は言う。60年以上前、彼女がまだ家のお嬢様のころ、一族は従来の封建的な家庭の習俗を維持していた。彼女の父は6人の妻を娶り、彼女は2人目の妻の娘である。6人目の妻を娶ったとき、彼女の父はすでに60歳を超えていたが、六姨太は20歳ちょっとだけだった。
寵愛を受けながら、亭主の関係で子供を産めず、女としての喜びすら味わえなかった。他の妾たちに排斥され、外のいじめっ子とつき合い、子供もできた。
この事が発覚した後、家法によって生き埋めにされることになった。まず暗い部屋に閉じ込められ、跪き刑に処され、鞭で打たれ、肉体的および精神的な苦痛のため、お腹の中の子供を失った。やっと逃げ出したところ、そのいじめっ子はすでに亭主から金を受け取って遠くへ飛び出してしまったことがわかった。
万念倶灰のうち、彼女は絶望と憎しみを抱えて自ら井戸に飛び込んだ。すぐに死体が引き上げられ、亭主は面子を重んじ、外には六姨太が子供ができないことに鬱々として亡くなったと偽った。
それに特別に門を建て、六姨太を厚葬しました。私はおばあさんを途中で遮り、それが何年前のことか尋ねました。おばあさんは数えて、66年前だと教えてくれました。私はまた、六姨太が亡くなったときの年齢を尋ねました。おばあさんは22歳だったと言いました。
時間を計算して、私は大胆にも、他の妾の子孫の中に22年前と48年前に亡くなった人はいないか尋ねました。おばあさんは、48年前に大姨太の息子が亡くなり、22年前に四姨太も家で急死したと言いました。
ここまで聞いて、私は確信しました。これは100％幽霊が出ていることで、しかも怨霊です。怨霊は復讐を目的として現れる少数の幽霊で、怨念が強すぎて、それ自身が去る気にならない限り、誰も連れ去ることができず、甚だしき場合は命の危険さえあります。
この種の幽霊には明らかな特徴があり、それは人間の寿命の年数ごとに復讐に出ることで、それが仇がいないと思うまでです。私はお姉さんに、私が方法を考えると言いました。必ずしも本当にあなたたちを助けることができるとは限りませんが、私は全力を尽くすつもりです。
家を出て、市に行って何か役に立つものが買えないか見ようと思い、わざわざ石碑の前に行き、その上の文字を見ました。この石碑は古いものではなく、80年代にこの井戸が地元の文化財であることを標榜するために菜農の家族の人が建てたものです。
私はある重要なことに気づきました。それは水を汲むための井戸車です。外見から見ると、木は磨き上げられて輝いており、黒ずんでいます。この井戸車はこれまで何年もの間、水を汲むロープ以外は何も交換されていないことがわかります。つまり、井戸のそばのマメギの木と井戸口の井戸車が、六姨太が井戸に飛び込んで自殺したことを目撃した唯一の生存証人になったのです。
ただし、もしそれらが人間だったとしたら。市で必要なものを用意しながら、私は心の中であの家のおばあさんの言葉を思い出していました。
不禁にして井戸の底の女性が実は最大の被害者であると思い始めました。若いうちに60歳を超える老人と一緒になり、その時代では子以て母貴という考えがあり、この女性は永遠に正当な方法で子供を産むことができませんでした。不倫は間違っていることは間違いありません。たとえ強いられたからといっても、一番怒りを買うのはあのいたずら者で、一言も残さず、何もなかったかのように、まるで子供が彼のものではないかのように、遠い異郷へと旅立ってしまいました。私は今の社会であれば、男女関係がどんなに勝手で乱雑であっても、私は確かにこの女性の行為を見下しますが、もしこの男に出会ったら、私の拳は微笑まないだろうと思います。
必要なものをそろえたとき、もう午後になっていました。私は再び菜農の家にやってきて、夜になってから、井戸の底の女性を引き出そうと試みるつもりです。
日が暮れてから、私は井戸を最初の点として、方位に応じて6つの点をとり、地面に釘を打ち、釘の頭に赤い紐を1周巻き、墓の土でこの6つの点をつなぎました。この陣は家畜や昆虫が近づかないようにするもので、もし夜が更けて大勢の犬がやってきて吠えたら、私は何もできなくなります。

しかし、この陣は霊をとらえることができません。そこで私は井戸蓋の板を外し、その上に朱墨で呪文を描きました。夜になり、四方が静かになった後、私は槐の木のそばに立ち、板を少し開け、そして菜農の靴につないだ赤い紐をゆっくりと井戸の中に下ろしました。私は老人とおばさんに、これから何を見ても声を出さないで、怖い場合は自分で部屋に帰るように言いました。

紐が水に入った感じがしたとき、私は静かに待ち始めました。そうして間もなく、手に持っている紐が突然引かれたように動いたのです。まるで釣りをしているときに魚が浮きを噛んだような感じでした。

しかし、それはたった数回で、力もそれほど強くなく、その後はまたしばらく静かになりました。私の心臓がドキドキと乱れ始めました。この種の幽霊には何度も対処してきましたが、かなり難しいものです。それは、通常の方法では野蛮で人を傷つけやすいだけでなく、怨念に満ちており、導くのが極めて難しいからです。

紐がこんなに長い間動かないのを見て、私は紐を引き上げて見ようと思いました。普通の赤い紐が無効なら、血を付けた紐を使わなければなりません。

もちろん、私の血のことを指しています。しかし、私が赤い紐を引き出したとき、菜農の靴の中に油布で包んだ物が入っているのが見えました。

これはその幽霊が靴の中に入れたものです。理論的には、このような魂の怨念は極めて強く、井戸の口に呪文があるために暴れて人を傷つけなかったとしても、こんなに冷静なのは初めて見ました。私は幽霊ではないので、それらの考えを推測するしかありません。そこで私は、この女性がまだ人間のときの少しの意識を強く守っており、井戸の底に持ち込もうとしたものを再び日光の下に出したいのではないかと推測しました。

私は板を再び被せ、赤い紐を槐花の木の幹につなぎました。ライターをつけて、油布の包みをよく見ました。上には苔が付いており、押し痕があり、おそらく彼女が井戸に飛び込んでまだ死に至らない間に井戸の壁の石の隙間にはめ込まれたものと思われます。

開けてみると、ピンク色の刺繍入りの小袋でした。小袋の中にはハンカチが入っており、ハンカチの一角には鴛鴦が刺繍されており、ハンカチには毛筆で文字が書かれていました。文言文なので、私はあまりよく分かりませんでした。そこでおばあさんのそばに行きました。彼女はお嬢様で、きっと分かるはずだと思ったからです。

彼女が読み終わってから、私に教えてくれました。これは、あの薄情ないたずらっ子に書いた別れの手紙で、大まかな意味は「私はあなたのためにこんなにたくさんのことをし、凌辱を受け、お腹の中の子まで失ってしまいました。逃げ出した後、少なくともあなたに連れて遠くへ行ってもらおうと心から願っていました。しかし、あなたはこの薄情な人で、一言も残さず、私この苦しみ深い女を捨て去ってしまった……」などの内容だそうです。

おばあさんがその老いた声で語り、私の心は妙な気持ちになりました。おばあさんが読み終わると、老涙が溢れ、震える声で「本当に柳嬢さんなのか？」と言いました。

井戸の口に行って見ようとするところを、私は阻止しました。私はおばあさんに、今この幽霊の怨念は非常に強く、近づくと危険があると言いました。おばあさんは、怖くないと言い、必ず柳嬢さんに直接話したいと言いました。柳嬢さんは生前、いろいろな排斥を受けていましたが、彼女にはとても親切でしたと言うのです。

老人が頑固なのを見て、私も仕方なく応えました。私は赤い紐につながった靴を外し、老人の手に巻きつけ、もう一方の端は依然として槐の木につなぎました。そして私は板の縁を手に持ち、様子がおかしくなったらすぐに被せるように準備しました。老人は震えながら井戸のそばに歩み寄り、突然ぶっこんと井戸の口にひれ伏し、泣き出し始めました。言葉もはっきりしないが、大まかには「うちの家はあなたにどんなに申し訳ないことをしたんだ」など、本音のことを言っているように聞こえました。 
老人の泣き声を混ぜた叫び声が井戸の壁の中でこだまし、その声はまるで若い女性の泣き声のようで、非常に不気味であった。私はずっと油断せずに対応しており、少しでも状況がおかしくなったら、直ちに力を入れて魂を取り戻さなければならない。
仕方がない。私は60年以上前に亡くなった人に、また80歳を超える老人を殺させるわけにはいかない。老人は長い間話していたが、突然、その女性のような泣き声のエコーが止まり、老人の声だけが残った。老人も気付き、頭を上げて私に、さっき誰かが彼女の額にキスをしたようだと言った。私は困惑しながらも、老人の言葉を聞いて、極めてまれな幽霊の現象について思い出した。彼らが誰かを許すとき、彼らは自分たちの方法でそれを表現する。これがその方法なのか？もうこの件は終わったのか？
信じられないことに、私は何もしていない。
板を下ろし、別の赤い紐を取り、試してみると、幽霊が本当に姿を消していったことがわかった。おばあさんの言葉が、彼女の心の中に66年間埋もれていた怨恨を呼び起こしたのだろう。信じがたいことに、あるエネルギーの存在が66年間憎しみに支えられていた。人間にとっても幽霊にとっても、これはきっと非常に苦しいことであろう。
人にはこのようなものがある。他人の一喝を必要として、やっと目覚める。鏡の前に立って、鏡の中の自分自身に向かって、これは成長と言えるのかと自問するとき、私たちは心の中で何度も考え始める。これまでの道のりで、私たちの足跡はどれほど幼稚であったのか、さらには悔やみ、なぜ誰かが私を喝破してくれなかったのか。
このような例は枚挙にいとまがない。ほとんどの人の人生は66年しかない。六姨太は22歳で亡くなったが、66年間憎んでいた。本当に恐ろしい。六姨太は恐ろしいのか？亭主は恐ろしいのか？妾たちは恐ろしいのか？ヤンキーは恐ろしいのか？六姨太を殺したのは、封建的な礼教だけではなく、人と人との間のあの赤裸裸たる裏切りと裏切りである。
人は自由に生きるべきだが、いつまでも本当に自由であることはできない。女の幽霊がもういないことを確認した後、私は油布の包みとそのハンカチをおばあさんとお姉さんに渡し、彼らに3つのことを注意した。
1. 井戸の井口のワインチを取り外し、この66年間の結び目を解く。
2. 木製の門を取り外し、それは六姨太を侮辱する象徴だ。
3. そのヤンキーの子孫を必ず探し出し、彼らに自分の祖先の代わりに六姨太の墓前で頭を下げて謝罪させる。
お姉さんは既にびっくりして口を開けっぱなしになっていた。彼女は私の注意したことを何度も承知した。私は彼女に菜農をしっかり世話して欲しいと頼み、早く回復することを願った。私は彼らの家から一文も受け取らないが、私はやはりお姉さんに車などを用意して、一晩で私を山を下ろして欲しいと懇願した。なぜなら、この場所にいると、私は少しも快適でないことに気づいたからだ。
お姉さんは承知し、親戚を呼んで、三輪のバイクで私を一晩で山を下ろした。邛崃市で一晩滞在した後、私はまた雅安康定の方向に向かって歩き続けた。