第十九章 赤い蝋

今日私が話したいことは、重慶の地元の友人の中には耳にしたことがある方もいるかもしれません。
2009年、美術トレーニング機関のオーナーから依頼を受けました。彼のパートナーが幽霊に取り付かれているということです。1ヶ月間も食べることも寝ることもできず、精神的にはもう崩壊の寸前にありました。
そこで重慶の黄角坪にあるある美術系の大学の近く、大小様々な美術トレーニング機関が林立する中で、この美術機関を見つけました。私の依頼人は40歳過ぎの中年男性で、ヘアースタイルはヘアバックで、髪の先が少し外側に曲がっていました。職業を教えてもらわない状態で彼を見ると、もし「生活麻辣燙」の俳優でなければ、きっと美術関係の仕事をしている人だと思いました。
私の美術に対する理解は非常に限られています。小さい頃太陽を描いても、毛の生えた卵のようにしか描けませんでした。この家の者でなければ、この家のドアをノックしません。
中年男性が「私は芸術家であり、雇い主である」という態度を見ると、心の中で多少排斥感を感じました。墨絵をすることに関しては、私は素人ですが、鬼神のことになると、あなたは私の相手になれません。
中年男性は私の職業に対して疑いを持っているようで、「私がお金を払うから、君は仕事をしろ」という感じもありましたが、少なくとも会話は丁寧でした。彼は私を玄関で待ち、階上に連れて行きました。途中、いくつかの画室を通り過ぎ、何人かの未熟な大学生が石膏像に向かって絵を描いていました。目は集中しており、10年前の私もこのような姿でした。
中年男性は私を彼のオフィスに連れて行き、巨大なボスチェアに座ると、もう動こうとしないような様子でした。多分10年後の私の姿になるのかもしれません。タバコを1本吸ってから、やっと今回の依頼のことを話し始めました。彼のパートナーは彼の大学の同級生です。彼ら二人はこの近くの美術系の大学から卒業した学生で、この中年男性の姓は鄧で、幽霊に取り付かれた方の姓は陳です。
この事件の概要はこのようなものです。陳さんは既に結婚して何年も経っていますが、子供がいません。おそらく芸術をやっている人の性質上、率直でロマンチックですが、思わず逸脱したことを何度もしてしまいました。最後の回は自分がトレーニングしていた学生との不倫でした。彼の奥さんは我慢できなくなり、夫婦で家で喧嘩をしました。陳さんはドアをぶち閉めて出て行き、再び家に戻ったとき、彼の奥さんはバスタブの中で腕を切って自殺していました。
彼は急いで警察に通報し、同時に鄧さんに電話をかけました。鄧さんは近くに住んでいたので、110よりも早く彼の家に着きました。鄧さんによると、もともと自殺ということであれば、私たちには相談しないで済むはずでしたが、彼が陳さんの家に着いて、陳奥さんの死体を見たとき、非常に不気味な感じを受けました。陳奥さんは柄の付いたパジャマを着て、足に赤い布靴を履いていました。
110が現場に到着し、死体を運ぶ途中で靴が1本落ちました。そして鄧さんは陳奥さんの爪に、赤色のものが塗られているのを見ました。最初はマニキュアだと思ったのですが、後に陳さんから検死報告の結果を聞いて、それはマニキュアではなく、赤い蝋燭を溶かしたものだと分かりました。
元々はあまり気にしていませんでした。法医学者は自殺と判定しました。悲しみと遺憾の中、二人は葬式の準備を手伝いました。死体が火葬された後、不審なことが起こり始めました。鄧さんによると、陳さんは奥さんの死後、彼に「あの日、怒ってドアをぶち閉めて出て行ったことをとても後悔している。夜はよく家で奥さんの写真を見て悲しんでいる。多分、恋しさのせいで」と言い、いくつかの「幻覚」を見始めたということです。
この幻覚は少し恐ろしいです。彼は「夜、眠れないし、よく半夢半醒の状態で陳奥さんがベッドのそばでくるくると踊っているのを見る。起きてからは夢だと思ってあまり気にしなかったけど、だんだん食欲も減退して、後には食べ物を見ると吐き気がして、粥と水しか飲めない」と言いました。
鄧さんは最初、彼が奥さんに対する恋しさと罪悪感だけだと思っていましたが、後に陳さんの状態がますます悪くなり、一人でバブルを吹いたり、意識もだんだん曖昧になり始めました。時には真夜中に鄧さんに電話をかけ、「寝ているといつも手が首を撫でている感じがする」と言って、これでやっと鄧さんは怖くなりました。彼はだんだん「もはや恋愛病だけではないかもしれない。本当に幽霊に取り付かれているのかもしれない」と感じ始めました。
そこで、急いで陳さんの家のすべてのナイフや尖った物を収め、彼の鍵を没収し、看護婦を雇い、24時間彼を見張りました。彼の話を聞いて、私はおそらく何が起こったのかわかったと思います。人によると、自殺した人の亡霊は超渡できないと言われています。なぜなら、これは不慮の死と呼ばれるからです。不慮の死とは、本来やるべきでないことをやってしまったという意味で、だからあなたは罰を受けることになります。あなたが人間であれ、幽霊であれ関係ありません。実際、私が学んだことでは、自殺した人は必ずしも超渡できないわけではありません。ただ、怨み、憤り、絶望などのネガティブな感情を持って死んだため、通常は自発的に去ろうとしません。そして、この種の幽霊はしばしば目的を持っており、よく言われる復讐の幽霊となることがあります。この種の幽霊を導くことは比較的面倒で、その自殺の「因」が「果」となるようにするだけでなく、その幽霊自身が他人を許し、自ら離れる意志がある必要があります。そうでなければ、私のような人間は粗暴にその幽霊を消滅させるしかありません。

自殺以外に、鄧さんは彼女の爪に赤い蝋を塗っていたと言いましたが、これは私がまだ聞いたことがありませんでした。私は何かの理由で出かけて、地元の先輩に電話をして尋ねました。そうすると、赤い蝋を爪に塗り、赤い布靴を履くことは、強い怨念の呪いであることがわかりました。先輩は私に、布靴は多くが黒色で、黒色は死の色で、つまり死人が黒色を着るのは正しい道であるが、赤い布靴を履くことは、死後自分自身を見下ろしたときに「目を惑わされる」ため、復讐を忘れないようにするためだと教えてくれました。

また、蝋自体は比較的中立的な物質で、火に触れると溶けるが消えないし、水に触れても濡れず、水を吸い込まない。爪に塗るのは、魂が地面から昇天する際に足から始まるため、蝋が良い包みの役割を果たすからで、この意味は昇天する魂をとらえるためで、赤い蝋を加えると怨念がさらに強まる。先輩は私に、このような状況に遭遇したら、できるだけ単独で対処しない方がいい。そうしないと命を落とす可能性があると教えてくれました。

これを聞いて、私の気持ちはとても重たくなりました。私は人の怨恨がこれほど強いことを理解しにくいです。安全上の理由から、私は同行者を呼ぶことにしました。私は階上に戻り、鄧さんに、夜に同行者が到着したら、陳さんの家に連れて行ってもらうことを伝えました。

夕食には、鄧さんが私を黄角坪で有名な屋台に連れて行ってくれました。値段が安くて品が良く、味も素晴らしかったです。同行者が到着したとき、もうすでに夜の8時過ぎでした。ここでこの同行者について紹介しましょう。12歳の時に甘粛で師匠につき、18歳で独立し、その間一度本行を離れてビジネスを始めましたが、損をしてから再び元の仕事を始めました。現在は35歳で、自殺した屈死の魂に対してかなりの経験を持っています。

陳さんの家に向かう途中、私は自分が知っている状況を同行者に再度説明しました。彼は、着いたところで見てから言うと言いました。もし難しすぎる場合は、もう一人呼ぶかもしれないと言いました。

陳さんの家に着いた後、鄧さんは看護婦に先に出てもらい、その後私たちを陳さんの寝室に連れて行きました。目の前の男はとても憔悴しており、クマがひどく、部屋の吸い込み式照明を映して、見ると気持ちが悪くなります。同行者は私と一緒に部屋の隅々に米を撒き始めました。これは神様や鬼を祀るための行為です。

そして羅針盤を使って道を尋ねました。結果、この部屋の中に、自殺した屈死の魂がずっといて、特定の場所に立っているのではなく、部屋全体に漂っていました。これで陳さんがここまで憔悴しているのも納得できます。同行者はずっと眉をしかめていましたが、難しいのかどうかわかりません。

私たちはまた、カメラで屈死の魂がどこにいるのかを見ることもできません。この種の魂は見えないからです。経験上、私たちは直接屈死の魂に驚かせることはできません。その魂が人に影響を与え始めたときに、戒めを与える必要があります。もし無効な場合は、魂を叩く必要があります。
私たちは鄧さんに家に帰るように勧め、私たちだけが残ればいいと言ったが、彼は不安そうで、リビングルームに座って私たちを待っていた。彼が私たちを待っている間、私たちは寝室でも怨霊を待っていた。夜になり、もうすぐ12時になると、陳さんがベッドから起き上がり、両目を開いてベッドのそばを見つめ、うっとりして痴笑し、その後また寝込み、独り言を言いながら、時には女性のようなポーズで自分の首を撫でていた。

このとき、事前に話し合った通り、私の同行者は石灰を一把つかんで投げ、私はベッドのそばに駆け寄り、赤い紐で陳さんの首を縛り、力いっぱい彼を揺り動かし始めた。石灰が舞い上がる中、私たちは石灰の粉の動きから怨霊の位置を判断することができ、石灰自体は人間にも幽霊にも傷害を与えるので、私たちはずっと目を細めていた。

同行者はすぐに怨霊を部屋の隅に追いやり、そして床に墓の土を一把撒き、赤い糸を輪にして隅に投げると、浮かんでいる赤い糸の輪が明らかに怨霊が捕まったことを示していた。

同行者は口訣を唱えながら怨霊をなだめ、私に目配せをして、早く陳さんを起こすようにと言った。しかし、彼はどうしても起こせなかったので、仕方なく、私は彼に何度かビンタを食らわせてやっと目を覚ました。彼がまだ意識があるうちに、同行者がなだめている間に、私は状況を陳さんに告げた。彼はしばしば頭が混乱しているが、妻の自殺につながった不倫行為についてはかなり自責しているようだ。私の言葉を聞き、壁の隅に宙に浮かんでいる赤い糸を見て、彼は妻が彼を許さないで、彼を苦しめにきたことを理解した。

彼は40歳を超える男なのに、実に泣き出した。鄧さんは彼の泣き声を聞いて、部屋に飛び込んできたが、目の前の光景は明らかに彼の認知範囲を超えていた。このとき、陳さんはよろめきながらベッドから降り、床にぶつけるように壁の隅に向かってざまつき始めた。

後悔の言葉や、妻に会いたいという言葉を始め、妻に許しを求めた。彼は言った、あなたが私と一緒になったときはまだ20歳だった。これらの年間、あなたに苦労をさせてしまった。あなたは女性として最も貴重な青春を捧げて私のそばにいてくれたのに、私は何度もあなたを裏切った。私は彼の行いを非常に軽蔑しているが、私はいかなる理由があっても、幽霊が人を害ってはいけないことを深知っている。

女性の絶望が生み出す悪果は男性よりも恐ろしい。私は考えている、なぜ多くの男性がこのようになるのか。単に刺激を求めるためだけなら、納得いかない。私は小さいころから反抗的だったが、家庭での教育は常に正統的だった。しかし、女性が自分の最も貴重な20代を捧げるということは、すでに最大の信頼と愛だ。この信頼を裏切ることはもはや原則の問題ではなく、人柄の問題だ。
感情や肉体の浮気はついに、本来仲睦まじいであった家庭をばらばらにし、甚だしき場合は家破人亡に至る。自分の生徒と不倫関係を持つなど、ますます許しがたい。このような人間の依頼を引き受けたことを少し後悔し始めた。ただ、私が軽蔑しているだけで、同行者が呪文を止め、その怨霊が静かになったと言った。やはり女性の心は柔らかく、このような局面になっても、どんなに憎しみがあっても、彼女はやはり許しと寛容を選んだと思う。
同行者は陳氏が話し終えると、私に呪文を唱えて道案内を始めるように言った。私はやってみたが、裏切られるのが怖かった。しかし、彼女にはもう悪意がなく、静かに私が連れて行くのを待っている感じがした。赤い紐が落ちたとき、すべてが終わったことがわかった。陳氏はまだ泣き止まなかったが、私は彼を引き上げ、ベッドに座らせた。私は彼に、何を弄んでも感情を弄ってはいけないと言った。人間として、この世界でおそらくこれくらいのことが信頼できるものだと告げた。
このような慰めの言葉を口にしているけれど、私は本当に彼を軽蔑している。私の考えでは、愛情は一対一の関係であるべきだ。誰もが誘惑に直面する。これら基本的な道徳観に関する問題について、私は多く言う必要はない。正しいか間違っているかは誰でもわかっているが、いつも誰かが意図的にまたは無意識に越えてしまう。
彼らは、夜涼しくなったとき、いつも誰かがあなたに布団をかけてくれることを考えたことがないのだろうか。風邪を引いて咳をするとき、手を伸ばすといつも用意された錠剤と温かい水が手に入る。私は必ずしも誰もがこのような愛情観を持つことを強要しないが、これが間違っていないことはわかっている。
少なくとも私は恋愛から結婚まで、深い感慨を抱いている。傘を持ち忘れて雨の中を長い時間歩いて家に帰ると、妻はきれいなタオルと熱いスープを持ってきてくれる。誰かは乾かしてスープを飲んで終わりにするけれど、私はそのスープの味を味わうのが好きだ。
陳夫人を送り出して7日後、鄧氏から電話がかかってきて、陳氏の状態が大分良くなったと言い、私たちに感謝する代わりに鄧氏が謝意を伝えるとのことだった。そして約束通りに私の口座に報酬を振り込んだ。お礼として、その半分を同行者に渡した。