第十七章 力

2009年、つまり一昨年。
ある友人から電話がかかってきて、彼の妹がおかしいらしく、何かにびっくりさせられたようだと言って、彼の代わりに見に行ってほしいと頼んだ。この友達はよく広東で私のために荷物を持ってきてくれるので、二人は親しくなっていた。その関係から、私は行った。
彼の妹は大学生で、南平の八キロのところにある大学に通っていた。もう4年生で、成績も品行も優れており、いい子だった。最近、彼らの父親が重病にかかり、巴南区の第七病院に入院していて、何日も昏迷しているが、生命体征は安定しているという。兄妹二人は毎日病院に父親を見舞いに行く。母親は何年も前に亡くなり、兄と嫁さんは老人の世話をするだけでなく、妹の学費を稼ぐ必要もある。
だからいつも彼に荷物を持ってもらうとき、私はいつも少し多めのお金を渡していた。彼の兄に会ったとき、彼はとても焦っている様子だった。妹がどうしたのかわからなくて、昨日の夜からぼんやりしていて、何を聞いても答えないし、食べも飲みもせず、ただぼんやりと座っていると言った。
今日も学校に行かなかったという。私は彼に妹は今どこにいるのか尋ねると、彼の妻が連れて病院に行って、父親のそばに付き添っていると言った。そこで私は彼と一緒に病院に行った。
病院の病室のドアを開けると、重圧感が襲ってきた。私はその重圧感が大嫌いだ。白い壁と青い床の狭い部屋で、どんな小さな動作でも消毒水のにおいをかき立てる。息苦しくて耐えられない。
これが私が初めて彼の妹に会ったときだ。小柄な体型で、黒いフレームの眼鏡をかけ、劉胡蘭みたいな髪型をしていた。彼女はずっとベッドの上で昏迷している父親を見つめていて、目はうつろで焦点を合わせていない。経験上、この子は何か不気味なものに取り付かれているわけではなく、本当にびっくりさせられたようだ。
奇妙な病気がある。何か信じられないことや突然の刺激を受けた後、一部の人は胸をなでおろしながら「こわいこわい」と言うかもしれないし、一部の人はぼんやりとしてしまうし、更に一部の人は狂って暴れ出すことさえある。よく言われる「失心瘋（気が狂うこと）」に似ている。精神的な問題である。
彼女の様子を見ると、彼も顔いっぱいに焦りを感じさせていた。彼の表情が言っているように、「父親がこんな状態で、妹もこうなってしまった。どうしたらいいんだろう」。彼が言わなくても、私は彼を助けるつもりだ。
私は小さな女の子のそばに座り、彼女の耳元に鎮魂と落ち着きをもたらす口訣を唱えた。やっと彼女もだんだんと意識を取り戻した。しばらく沈黙した後、彼女の顔に恐怖の色が浮かんできた。私は彼女の兄に言って、私と女の子だけで話したいと頼んだ。
そこで私は彼女を外の廊下に連れ出し、一体何が起こったのか尋ねた。彼女は学校を出てから、バスに乗り李家沱で降りたと言う。降りた後、病院に向かって坂を上るところ（小道がある）、突然三輪のオートバイが突っ走ってきて、もう避けられないと思ったけど、奇跡的に避けられたと言う。
オートバイの運転手は何も起こらなかったことを確認して、そのまま去ってしまった。彼女はその時からぼんやりし始めたと言う。そして彼女は私に、当時避けたとき、自分自身で避けたのではなく、誰かに押されたり引かれたりしたような感じだったと告白した。
彼女はとても怖いと言っていた。でも幽霊に出会ったことで怖いのではなく、助けてくれた力が昏迷している父親だったのではないかという恐怖を感じていた。彼女は父親が元気なときはまじめな農村人で、彼らの家族は何代も李家沱の今の群楽村あたりに住んでいたと言う。その後、開発が進み、土地が買収され、住宅が建てられた。土地がなくなった父親は仕事も失った。
そこでオートバイを買って、毎日その辺りで乗客を引きつけていた。母親が早く亡くなり、兄も結婚したので、父親一人が全力で彼女を育ててきた。天下の親心、自分は苦しんでも、子供に他の子供と同じ生活をさせたいと思っていた。
幸いにも彼女は物足りないことを感じないような子で、父親の苦労も理解できるので、勉強も真面目だった。家を手伝い、父親の家事の負担を軽減するために、わざわざ家の近くの大学に入った。だが2009年の初めに父親が肝癌にかかり、もう稼げなくなった。また、治療費ですべてのお金を使い果たしてしまった。父親は彼女に借金をしないようにと言ったので、一日一日辛く耐えているしかなかった。
直近、脳の昏迷状態が起こり、人は大半の時間ショック状態にありました。兄と義理の姉が交代で看病し、自分も放課後すぐ病院に行って父親のそばにいました。彼女はとても慌てて、父親はもう死んでしまったのか、父親の亡霊が彼女を救ったのかと私に尋ねました。正直なところ、私も本当にそう思います。
しかし、私はそう答えることができません。心拍計がまだ動いていることは、父親の命がまだあることを示しています。しかし、体は生きているけれども、魂がすでに離れてしまった現象もあります。体の死は、ただ時間の問題にすぎません。確定できないので、彼女に答えることができません。私はまず試してみることに決めました。
私は彼女に答えを与えると約束しました。
病室に戻った後、私はこっそり羅針盤を取り出しました。羅針盤の針の動きが私に教えてくれました。この病室には、本当に魂がいるのです。それは彼女の父親に違いありません。他には誰もいないからです。心の中で少し残念な気持ちを感じましたが、生死は運命で、私は医者ではないので、瀕死の人を救うことはできません。華佗は人を治し、孫文は国を治め、私はただ魂の導き手になることができるだけです。私は兄を病室から呼び出し、父親が最も心配していることは何かを尋ねました。
兄は、彼と妹のことだと言いました。
私はあなたの父親を救うことはできませんが、彼が安心して逝けるように、あなたの妹が絶望して何か愚かなことをしないようにするために、たぶん私はあなたに一緒に冒険をしてもらわなければなりませんと言いました。幸いなことに、彼は承諾しました。
兄は妹に家の鍵を借りて、私を妹と父親が住んでいる家に連れて行きました。
私と彼女の兄がビルの下に着いたとき、戻し住宅なので、ビルの下に座っているのはお互い知り合いで、耕地を失って何もすることがなく、ぶらぶらしている近所の人たちでした。
彼らのそばを通り過ぎるとき、私でさえ背中に向けられたまなざしを感じることができました。そのまなざしは、見てごらん、あの家のおやじはもうすぐ死ぬだろうと言っているようでした。
可哀想です。善良な人には良い運命がありません。これは彼の息子ですか？病気になってから帰ってきました。不気味です。人の口は恐ろしいもので、人心も同じです。兄も明らかに同じ感じをしていました。尋ねるのが不便なので、私も彼に勝手にさせておきました。家に着いた後、父親の物をいくつか取り出しました。ペンギョーサムを呼び出し始めました。私が前に言ったことを覚えていますか？ペンギョーサムや皿サムのようなものは比較的危険だと言いました。神様を招くのは簡単ですが、神様を送り返すのは難しいです。ペンギョーサムや皿サムの現身には陰寿が消費されます。善良なものに出会えばまだしも、悪いものに出会った場合は、きっとあなたから何かを取り返します。あなたがそれに何かを借りたら、返さないわけにはいきません。
私が接したペンギョーサムを呼び出す人の中には、神様をどう送り返すか分からないために、不運が続き、甚だしき場合は命まで失う人もいます。私は神様をどう送り返すか言うことはできません。なぜなら、私が呼び出す神様が何であるか分からないからです。他人には試さないように勧めるだけです。本当にトラブルに巻き込まれた場合は、あなた自身以外の誰も助けてくれません。
仏教では経を唱えて超渡し、到家では呪文を唱えて神様を送り返しますが、その前提はあなたがまだ生きていることです。このような方法で運命を変えようとしないでください。運命は元々そうであり、あなたに襲いかかったら、ただ運命に従うしかありません。
私と兄はペンギョーサムを呼び出す前に、指定された呼び方で呼び出しました。呼び方にもこだわりがあります。私たちが呼び出すのは彼の父親の亡霊です。
ある過程はあまりにも神秘的で、小説の中では詳しく語りにくい。そこで、話を飛ばして、私は父の亡霊に、私と兄が交差して握ったペンを借りて、妹に手紙を書かせた。病院に戻る前に、私はもう父と妹を見る勇気がなくなった。そこで、お辞儀をして、兄に必要があればいつでも呼びつけるように言った。
「あなたの父はもう数日でしょう」と彼に言い、また、手紙を妹に見せないように言った。妹が受け入れられないかもしれないからだ。数日後、兄から電話がかかってきて、父が他界したと告げられた。息を引き取るとき、涙が一行流れたという。私はすぐに四キロ離れた江南葬儀場に駆けつけた。老人の氷棺の前に、寂しげに三人の子供が跪いていた。
近所の人たちも次々と来て、多くの人は奠儀を残してすぐに帰った。一部の機嫌の良い人たちは麻雀を何局かした。私もどこからやってくる熱血かわからないが、彼らのそばに跪いた。
この老人と一生の間に一言も話したことがなかったけれど、この一跪きは、父がペンを借りて書いた手紙のおかげだ。重慶の習慣によれば、通夜は二晩を跨がなければならない。二晩目の朝には親戚や友人を集めて、告別式を行う。
そして、火葬する。
告別式では長男がある言葉を述べる必要がある。私は公私にわたって数え切れないほどの葬儀に参加してきたが、このようなとき、ほとんどの人は父がどんなに偉大で、どのようにして人間としての道を教えてくれ、どのようにして私の成長を支えてくれたかなどの話をする。
私は決して冒涜するつもりはないが、このように書くのは小説のストーリーのニーズだけだ。しかし、兄が発言するとき、彼はポケットから父が妹に書いたその手紙を取り出した。紙には何度も濡れて乾き、乾いて濡れた跡がいっぱいで、兄がこの手紙を見て何度も涙を流したに違いない。
内容は兄によって修正されていた。妹が父の亡霊が書いたことに気づかないようにするためだ。
「XX、お兄ちゃんに今この手紙を見せるように言ったんだ。お兄ちゃんは大変だから、できるだけ手伝ってあげてね。23年間、ずっと私の小さな子だったんだ。パパはとても幸せだった。一生懸命勉強して、いい人間になって、体に気をつけて、これから道を渡るときは気をつけてね。」
この手紙は私はもう前に見たことがある。しかし、今このとき、私はわざと妹の目線を避けた。血縁関係のない私でも、この父愛に感動された。たったこの短い手紙、地味で平凡で、数十の文字だけど、まるで何千言ものことばが込められている。
別れ際に、一行の老涙で子供たちに別れを告げる。私は目線を避けたけれど、妹の形容しがたい泣き声も聞こえてきた。
私は幸運なことに、私の家族は今まで元気でいる。
人の一生は、このような場面を避けることはできない。
そして、私ができることは、親が健在のとき、彼らと話をしたり、散歩に連れて行ったりすることだ。「お父さん、碁を二局やりましょう」と言えば、彼はそれで十分だと感じる。
私は火葬場まで同行した。親身に老人の胸に、その手紙を置いた。
それは私がこの父に書いた手紙で、内容は誰にも話していない。すべてが終わった後、私は奠儀を残した。
妹を義妹として認め、「これからも兄がいるから心配しないで」と言って、二人の兄妹と別れ、そして立ち去った。