第三章 義理の兄

今日私が話すことは、2001年に起こったことです。今回も私が師匠と最後に仕事をすることになりました。
私の師匠は何年も前にチベット族の友達と出会いました。彼の名前は木多桑其で、康巴地区を行き来し、タンカやチャンソンを売買して生活しています。正直者とは言えないけれど、非常に篤いチベット仏教徒です。彼にはもう一人の漢人の友達がいて、成都出身で、長年色須で薬局を経営しています。
この漢人の店主人が今回の依頼人です。私と師匠は西寧からずっと揺れながらそこに向かいました。当時は雲南・チベット間に検問所が設けられ、道も悪く、たくさんの時間を費やしました。この旅の間、師匠と雑談する以外、私は初めてこんな雄大な高原の美しさに深く打たれました。
道中で出会った人々も皆とても親切で素朴でした。私たちが車を止めて休憩するとき、知らない人たちがバターミルクティーを持ってきてくれました。私たちがお金を渡そうとすると、彼らは笑いながら手を振って拒否しました。言葉が通じなくても、この誠意がとても人を打ち動かしました。
その道のりで私は少しも抑圧感を感じませんでした。むしろ暖かい気持ちに包まれました。薬局に着くと、店主人は私の師匠の手を強く握り、「木多から君のことをよく聞いています。やっと来てくれましたね。」と言いました。その後、店主人は私たちに今回の事件を話しました。
店主人のいとこは彼と一緒に薬の商売をしていて、数年前に地元に定住し、きれいなチベット族の女性と結婚しました。結婚後、嫁の実家で奇妙なことが起こりました。実家の長女の夫が何のわけもなく姿を消し、長い間探しても見つかりませんでした。そこで村人たちは噂を広め始めました。ある人は狼に食べられたと言い、ある人は国外に逃げたと言い、いろいろなバラバラな噂が飛び交いました。
長女は長い間心配し続け、食事も茶も飲まず、自分を自虐的に苦しめ、菩薩から罰を受けていると言っていました。家の子供たちは一日中泣いていて、虫やネズミが大発生していました。いとこは彼らに彼の兄の友達の友達が私たちの仕事をしていると話したので、彼らはお金を持って薬局に来て店主人に助けを求めました。
店主人は、「私たちはチベット族の友達をとても貧しいと思っているけれど、実際はそうではありません。国は毎年牛や羊の子を無料で配布するだけでなく、彼らの子供たちにも無料で学校に通わせています。また、各家にも多くの助成金を支給しています。彼らのところの土は薄く、たくさんのものを育てることができません。そこで山を囲って牛を放牧し、冬には山でシメジを採り、夏にはチャンソンを掘り、一年でかなりの収入を得ています。ただ彼らのお金はすべて寺院の建設や仏様への供養に寄付されているので、貧しそうに見えるのです。今回彼らは寺院建設のお金を持って私に来てくれたので、私はあなたたちに助けを求めざるを得ませんでした。」と言いました。師匠はこれを聞いて、私を外に引きずり出してタバコを吸いながら、「今回は厄介なことに遭遇したよ。」と私に言いました。
なぜなら彼も今回対処する対象が何なのか、また本当に私たちが管轄すべきことなのかわからないからです。部屋に戻り、師匠は店主人に、「私と弟子を彼女の家に連れて行ってもらえますか。」と言いました。
店主人はまずいとこに電話をかけ、しばらくするといとこがバンの車でやってきました。道のりでいとこの妻は私たちに分からない言葉をたくさん話していました。いとこが通訳してくれたところ、お願いや感謝の言葉だったそうです。実家に着くと、家はかなり立派で、大きな庭があり、2階建てで、窓の輪郭は黒い台形で、白い格子状のものが間隔を空けてあり、窓際には皿のような石が置かれ、そこには密なチベット文字が刻まれていました。
門の上には羊か牛の頭蓋骨が掛けられ、地面はクルミの木の枯れ葉で覆われていました。師匠はたぶんここの民風がこういうものだと言いましたが、私は自分の生活環境とは大きく違うと感じました。
家に入ると、いとこの妻は私たちを彼女の姉のところに連れて行きました。このかわいそうな女性は小さなベッドの上に横たわっていました。ベッドと言っても、あまりそうではなく、いわゆる太師椅を長くしたようなものでした。その上には色とりどりの仏教の絵が描かれていました。女性はとても弱々しそうで、私たちが来ても起き上がろうとしませんでした。
いとこが今のところ通訳を務めて、私たちがやり取りをしながら、師匠も徐々に今回遭遇したことが何であるかを理解し始めました。その後、私たちは部屋を出て、師匠はいとこに、彼女の義理の兄を探すことはかなり難しいことで、まず家の大掃除をしてきれいにし、そして義理の兄の服を1着探して私たちに持っていくように弟婦に伝えさせました。
師匠は、「今日は何の返答もできません。今日はここまでにしましょう。何か準備をしなければなりません。明日までにしましょう。」と言いました。そこで当日の午後、私と師匠は色須の街の様々な店をうろうろしながら買い物をしました。
蝋、獣の骨、香油、ナイフを買いました。その後、なかなか見つからなかった、汚くて雑な旅館を見つけました。
師匠はドアを閉めて私に言った。人を探すのは最も面倒なことで、しかもその人が生きているかどうかしかわからず、具体的な場所は見つけられない。ただいくつかの手がかりがあるだけだ。私たちは死人に尋ねなければならない。私は師匠に尋ねた。招くつもりなのか？
普通、師匠は以前、手がかりのないことに遭遇すると、札を描いて神様を招く。方法はいろいろあり、ペンシェアンに似ている。しかし今回の場合は、師匠が言うには死んだ人なら、どんな信仰や民族であっても呼び出すことができるという。
具体的にどのように呼び出すか、理解していただきたいが、私は言いません。とにかくあなたが見たペンシェアンとは違う。また、皆さんも簡単にペンシェアンや皿仙のような招き術を試さないでください。本当に招かなければならないときは、私の同行者を探してください。好奇心からやっては危険です。
俗に言う「神様を招くのは簡単で、送るのは難しい」という言葉は、本当に正しい。私がこう言うのも、皆さんに打ち明けるつもりです。師匠は呼び出した亡霊に尋ね、私たちは1つの答えを得た。義理の兄はもういない。しかし俗に言う「生きているときは人を見て、死んだときは死体を見る」。私たちがこのままいとこたちに告げると、誰も信じないだろう。
だから師匠は私に言った。彼らの前でもう一度招かなければならないかもしれない。ただ今回はもっと大きな騒ぎになるかもしれない。彼らに信じさせなければならない。師匠は今回、亡霊が実体を現すことができるかわからないと言った。成功の確率は実は高くないし、彼らがこんな怖いものを見たいと思うわけでもない。師匠は彼自身が師匠に付き、何度かやったことがあると言った。招き出された実体は、死んだときの姿である。
だから、受け入れにくいこともある。それに、今回私たちが招くのは義理の兄本人である。その夜、私と師匠は地元の四川料理店で少し食べてから、帰って休んだ。
師匠は夜中に1度出かけたが、私は寝ぼけていて何も気にしなかった。翌朝、私は師匠と薬屋に行き、ことを簡単に店の主人に話した。店の主人はいとこを呼び、いとこは義理の兄が既に亡くなったという知らせを聞いて、明らかに疑っていた。私たちはこうなることを予想していた。師匠は言った。お姉さんの家に行こう。あなたたちに直接話させる。姉の家に着くと、姉はまだベッドで憔悴していた。いとこが私たちの言葉を伝えるのを聞いて、大声で泣き出した。その悲しみは私まで気分を悪くさせた。
彼らはついに私たちが彼らの前で招くことに同意した。
ここで少し知識を普及させたいと思います。召喚術はかなり危険なことです。呼び出した後、正しい方法で送り返さないと、打ち砕くしかないです。だからこれから私が言うことは、姉の同意を得て、我々がそれを打ち砕いたことです。
また、私の師匠もこのような状況で、異なる民族の信仰に応じてどのように送り返すか知りません。呼び出して送り返せないと、大変なことになります。師匠は床に私たちが言う「敷」、つまり床の上の符号を描きました。コップを取り、血を入れました（私は後で師匠が夜出かけて取ったのだと知りました）、そしてお香の灰を混ぜました。
一枚の硬紙を水で濡らして蓋をし、その後コップを敷の真上に逆さに吊り下げました。中学で習った水がこぼれないような状態に似ています。具体的には私もあまりわかりませんが、要するにこのような状況です。なぜこうするのか、後で説明します。
師匠は魂を呼び始めました。方法は言えませんが、とにかく呼び出しました。姉は旦那を見ると、すぐに抑えきれず、大声で泣き出しました。しかし怖くて近づけませんでした。旦那の様子は見るのにやや不快でした。着ている服がぼろぼろで、血が付いており、目も大きすぎて少し恐ろしいです。師匠は弟に言いました、「君は姉にしっかり話させておけ。これからはもう機会がないぞ」
弟も明らかに悲しみと恐怖に駆られていました。私はその瞬間、彼の世界観も大きく揺らがされたと思います。彼が姉に師匠の言葉を伝えた後、師匠は私と店の主人と一緒に部屋の外に出ました。家族同士に最後の会話をさせるためです。外でタバコを吸いながら雑談していると、店の主人は私たちに彼らの家族は実はずっと順調ではなかったことを話しました。
両親はとても早く亡くなり、家には2人の娘しかいませんでした。親戚はすべて遠く離れています。長女が結婚した後、旦那はとても勤勉な人でしたが、生活も大変でした。世間と争わず、家を取り壊されたり土地を収用されたりすることもなく、収入もまあまあで、2人の子供を産みました。
後に妹が弟と結婚し、また子供を産み、この家族は以前の2人から徐々に人気を取り戻し、生活は裕福ではありませんが、皆満足していました。私と師匠は店の主人の話を聞いて、お互い心の中で感慨深い思いをしたと思います。人の一生は、いつ不慮の災いが降りかかるかわからないものです。誰もが死ぬのですが、死んで人に罵倒される人もいれば、死んで人に悲しまれ涙を流される人もいます。これが師匠がずっと私に、いい人になれと言う理由です。私たちの職業は社会に大きな貢献をしているとは言えませんが、自分自身に納得できるように、他人を助けていることを知りながら生きるべきです。
今の社会では道徳が次々と堕落していますが、人の心はやはり善意を持つべきです。少し時間が経った後、弟が出てきました。彼は姉が旦那と別れを告げたと言いました。師匠に今どうすればいいか尋ねました。
師匠は私たちを連れて部屋に入り、弟に姉を慰めるように頼み、姉に告げました。「これから、旦那をあの世に送ります。これからはもう会えません。」チベット族の人々は輪廻転生を信じています。師匠もいい言葉を選んで話しました。私たちはこれまで何年も「転生」に本当に触れたことがないけれども、それが本当にないと否定することもできません。経験がなくても、師匠はとても誠実に、姉にこの善意の嘘を話しました。
彼は姉に言った、縁があればまた会おう。師匠は義理の兄の後ろに行き、椅子を持ってきて、椅子の上に立った。手でコップの上の厚紙を軽く持ちながら、姉に言った、さようならと言おう。そして師匠はその紙を引き抜いた、コップの中の水がこぼれ落ち、義理の兄もそれから消えてなくなった。私の師匠はとても心の優しい人です。
私は彼がこの家の姉にとても同情していることがわかる。だから、いとこが私たちに報酬を渡したとき、師匠は半分しか受け取らなかった。残りの分は、別れる前に、薬屋の店長に残しておいた。
私たちは元の道を戻り、途中で師匠はあまり話さなかった。考え込んでいるようだった。帰ってから、師匠は大病にかかり、だから師匠は笑いながらこんなことはできるだけ避けた方がいい、自分が不運になるからだと言った。でも私は知っている、もしまたこんなことがあれば、師匠はやはり一生懸命助けるだろう。
それ以降、師匠は言った、これからは君自身でやれ。私は彼の最後の弟子だった。私が去った後、師匠はもう弟子を引き取らなかった。その大病のため、師匠はその後数年も働かず、定年退職した。
私はこの掲示板の一部の友達が私たちの職業について誤解しているのではないかと思う。私たちは仏教でも道教でもなく、甚だしきに至っては何の信仰も持っていない。私たちは占いもできず、相面もできず、占いや風水を見ることなどもできない。
私たちが信じるのは、生命には三つの状態しかないということだ。生きている人間、これは最も一般的な状態で、死んだ後は二つの状態がある。つまり彷徨うか、完全に消滅するかだ。
私たちがこれまで出会った幽霊は、まだ彷徨っているタイプのものだ。そして彼らは形態と性質が同じであっても、多くの種類に分けられる。これは後で話そう。私が出会ったものについては、皆さんが自分で判断できる。いわゆる門派というものもあるらしく、お互いの手法も多少異なる。
でも大まかには同じだ。私は後に同業者に出会ったことがある。彼は赤ん坊の霊を追い払う方法としてシャムを打つのだ。目的は人間の体から魂を驚かせて出すことだ。私の師匠は怒鳴り声を出すのだが、実は原理は同じだ。
同じ師匠から教えを受けたわけではないが、今では科学技術などがとても進歩しているので、いくつかの手順は省略され、皆が大抵同じになってしまった。私がこう言って皆さんを混乱させてしまったかどうかわからない。
2001年の後半、私は独立して仕事を始めた。師匠の指導がなくなって、私はやはりたくさんの回り道をしてしまった。最初のころは、大きな仕事を引き受ける勇気がなく、依頼主に約束することも怖かった。やはり経験不足だったから、私は初級の仕事でしかやっていけなかった。