ホラー短編集『情報提供求ム』

空わかめ

『生』

娘を残し妻は数年前、病で帰らぬ人となった。
幸いにして、妻の実家が近く日中は義父母が面倒を見てくれる。
仕事には支障はないものの、3歳になる娘には寂しい想いばかりさせてしまっている気がする。

…それと、1つ気がかりなことがある。
義理の妹のことだ。
義妹は妻ととても仲が良かったせいか、妻の死後塞ぎ込んでしまい、仕事も辞め部屋に籠もってしまっていた。

気持ちは分かる。
俺も娘が居なければ、彼女と同じ立場になっていただろう。
だが、娘のことは可愛がってくれているし娘もよく懐いている。
俺とは血の繋がりはないとは言え、家族には違いない。
義妹には立ち直って貰いたい。

ある日の仕事終わり、義父母の宅に娘を迎えに行くとやけに娘がご機嫌だった。
理由を尋ねても、ニコニコして「わたしとおばちゃんとの秘密」としか言わない。
何にしても娘が楽しいなら良いか、と安易に考えていた。

それから10日ほど過ぎた日の深夜、義父から電話があった。

「すまない。しばらく預かることが出来ない。」

焦燥しきった声色だった。
義父母はまだまだ元気とは言え、年なことは変わりない。
どこか体の調子でも悪いのだろうか。
心配になって尋ねるも、どうにも歯切れが悪い。
とは言え、あまり追求するのも悪い。
人に言えないことが1つや2つくらいあっても不思議じゃない。

「分かりました。すいません。」

と伝えて電話を切る。
参ったな…。
一先ず上司に事情を説明して、有給を…と考えていると寝かしつけた筈の娘が背後に立っていた。
思わず肩が跳ねる。

娘はニコニコと笑っていた。

「ママがねー、もうすぐ帰って来るんだよー。」

娘が物心つく前に妻は逝ってしまったが、夢の中で再会を果たしたのかと思い目頭が熱くなる。
だが、続く娘の言葉にぎょっとしてしまう。

「もう秘密じゃないから言っていいって言われたから、パパにも教えてあげるねー。今ママはねー、おばちゃんのお腹の中にいるんだって。」

意味がわからない俺を無視して、身振り手振りも交えて娘は尚も続ける。
普段は天使のように思える笑顔が今は空恐ろしい。

「おばちゃんのお腹、今こ~んな風になっててね!私が話しかけたらミユちゃんミユちゃん、早く会いたいなって言ってくれるの!」

情報の処理が追いつかない。
だが、親としての直感か、娘が嘘を言ってないことは分かった。

義妹に一体何が…。

ニコニコと笑う娘を見て、俺はどこか酷く冷静に引っ越しと転職のことを考えていた。

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