ゲーム知識の使い方〜使い捨てキャラの抵抗録〜

みどりぃ

15話

 朝メメが起きたのを確認してから迷宮へ向かう。
 
 オークをしばき回して魔石をもぎ取り、帰り道にホーンラビットとボアを一匹ずつ狩って持ち帰る。
 アイツはともかく、自分でこの日課じみた作業をするのは初めてだが……案外やれる、というか余裕だな。

 アイツのおかげでもらう事になった、ババアが遺した魔刻紋。
 アイツが便利便利とうるさかったけど……いやマジで便利だなこれ。

 あと『天喰』もな。オークの大鉈を受けてもへこむどころか傷すらつかない。
 頑丈で硬い。これだけで十分すぎる性能だ。

 アイツはやたら刃物を使いたがってたけど、刃物はそれなりに扱い慣れてねぇと上手く斬れねぇしな。
 俺はともかく、アイツじゃ最初は上手く扱えねぇだろうよ。つか打撃武器を舐めてやがるとしか言えねぇ。

「さて……面倒くせぇなぁ…」

 捌くのが一番面倒そうだったんだよな。ババアはサクサクやってたけど、アイツは苦戦してたし。
 まぁ切れ味が悪くなった包丁の代わりにあの男……ドッガーだっけ。あいつの短剣を使ってるから、いくらか切りやすくはなったけど。

「あん?内臓ぉ?レバーとハツってなんだよ……ビタミン?は?意味分からん」

 何やらアイツがうるせぇから捨てようとした内臓から心臓と肝臓を取り外す。
 それを切り開いて水で洗う。

「これなぁ……心臓はいいけど肝臓は不味いだろ…」

 ねっとりした口当たりがなぁ……アイツは嬉しそうに食ってたけど。舌おかしいんじゃねぇか?

「まぁいいか。続きは……」





 無事解体して、いらねぇ部分を適当に埋めておく。
 ババアは肉を棚に置いてたんだけど、今はアイツの指示に従ってボアの胃袋で包んで冷えた水桶に沈めてる。
 少しでも冷やした方が長持ちするらしい。ふーん、その場で全部食ってたから知らなかった。

「……昼飯ねぇ」

 ハッ、リッチなもんだぜ。どこの孤児院が一日三食食べるんだっての。
 まぁいいけどよ、これもババアの頼み事の範疇だ。

 昨日よりさらに多めに肉を突っ込んで作る。もうちょいでかい鍋欲しいな……。
 それをガキ共の所に持っていくと、朝よりはマシな顔になっていた。

「……ねぇ、私も料理作る」

 飯を食ってると、メメがそう言い出した。
 まぁ俺からしたらありがたい。地味に面倒だったし。

「助かるけどよ、無理して作られても迷惑だぞ?元気になってねぇのにしんどそうに作られたら食う気にもなれねぇからな」

「………そ、か」

「ああ、そうだ。ちゃんと元気になってから言え。そん時は作らせる」

 こいつは一番表情読めねぇからな。コキ使ってやりたいけど、もし無理して裏で泣かれてたらババアへの礼にならねぇ。
 俺もこの国に流されてすぐはそんなだったしな。
 しんどい時にコキ使われるのはマジできつい。二度とごめんだと思う。

「言っとくが他のヤツらもだ。なぁに、飯食って寝てりゃちっとはマシになる。そうなったら嫌って程コキ使ってやるよ」

 いつまでも甘ったれさせる気はねぇと釘を刺しておく。
 俺と違って孤児院に入れてるとはいえ、所詮はスラムのガキだ。てめぇの食い扶持はてめぇで稼げないと遠からず死ぬしかない。
 甘やかしてやるのは今だけだ。俺はババア程甘くねぇ。

 と、意地悪く笑ってやった……んだが、何故かまたポカンとされた。
 しかも、そこから何人かは笑いやがった。

 何がおかしいんだ?まさか口だけでずっと甘やかすとでも思って舐めてんのか?
 ……まぁいい、今のうちに笑っとけ。その時が来たら嫌でも思い知る。

「じゃあ俺は出てくる。外には出るなよ、こないだ追い払ったとはいえまた敵が来るかも知れねぇからな」

 とは言ったが、まぁしばらくは来ないだろうよ。
 あの規模を返り討ちにしたし、スラムの頭を討ったとなれば警戒するはずだし、次の頭を狙って勢力争いで忙しくなるだろうしな。

 大人しく頷くガキ共に内心満足する。やっぱ指示する時は飯時に限るな。





「冒険者登録ぅ?噂の悪童がかぁ?」

 スラムから出て街に入り、冒険者ギルドとかいう建物に来た。
 受付のおっさんに話しかけると、呆れたように笑われる。周りはザワザワ遠巻きに見てくるだけだが。

「おいおい、どういう気の変わりようだよ?」

「るっせぇ。いいから登録させろよ、魔物ぶち殺しゃいいんだろ?」

「がはははっ、まぁそうだな、間違っちゃねぇよ!」

 ゲラゲラ笑う受付のおっさんにイライラするも、ここで殴り倒しても冒険者にはなれない。

「じゃあいいだろ、オークくらいなら一発だし、もうちょい強いのでも殺してもってきてやるからよ」

「へぇ!やるじゃないの、さすがは悪童。よーしいいだろ、おっちゃんが受付してやるよ」

 楽しげに笑うおっさんはいそいそと何か取り出してる。鼻につくおっさんだが、冒険者に登録してくれるならそれでいい。

「はっ、そんなガキが冒険者とはな!スラムの薄汚れたガキがよ、装備も買えねぇだろ!ええ?」

 ……なんかうるさいおっさんが出てきたな。どこ行ってもいるよな、こういうヤツ。周りのヤツらみてぇに黙ってビビってりゃいいのによ。
 まぁこういうヤツの対処法は決まってる。

 無視か、叩き潰すかだ。

「うるせぇ、装備なんざいらねぇよ」

「はっはっは!じゃあボアにでも吹っ飛ばされて死ぬんだな!」

「朝飯なんかに負けるかよ」

「は?朝飯?」

 おっと、最近朝飯でボア食ってるからつい。

「とにかくだ、痛い目見る前に帰るんだな!それとも俺がボコボコにして追い出してやろうか、あァ?!」

「……一応聞くが、俺を心配してるって訳じゃねぇよな?」

 アイツならそう考えそうなので一応確認すると、おっさんはバカにした顔で、ゴミを見る目で俺を見てきた。……だよな、普通こんなもんだ。
 ……ん?てんぷれ?何言ってんだコイツ。

「んなワケねーだろ!調子乗んな薄汚ねぇガキが!」

「おーい、あったぞ悪童。ほれ、ここに名前と、あとこっちにも名前書け」

「あー……まだ上手く文字書けねぇ」

「おっと、ははは、そりゃそうだ。しゃあねぇ、おっちゃんが代筆してやる。あ、内容も読めねぇよな」

 うるせぇおっさんを無視して受付のおっさんが話し始めたので会話してると、無精髭を指でさすりながらうんと頷いた。

「じゃあ口頭で言うかぁ。細かく話してもアレだし、さっと言うぞー。まず死んでも自己責任、次に犯罪者は登録剥奪だ。あー……あとは依頼人や俺ら従業員からの評価と依頼成功率でランクが決まる。最後に、冒険者同士の諍いも自己責任だ」

「自己責任?殺してもか?」

「いーや違う。余程の理由がなけりゃ殺人は基本犯罪だなぁ。要は兵士にお世話にならない範囲、俺たち同士の諍いで済む範囲の話だな。その中でなら、賠償やらはそいつら同士で話し合って決めろって事だ」

「へぇ……?」

 小難しい話だったが、アイツが手伝ってくれて理解した。
 つまり、このつるさいおっさんをボコボコにしても、兵士が来ない範囲なら問題ねぇってワケだ。

「無視してんじゃねぇよガキが!」

「はいはい。なぁおっさん、金賭けて勝負するか?勝った方が全財産だ」

 そう言って換金予定だった魔石の入った袋を見せる。

「は?……くく、ひゃははっ!おいおいおい、良いのかよ、死にたい上に金までくれるとはなぁ!バカが、やってやるよ、せいぜい後悔しなぁ!」


 依頼受ける前にお金ゲットした。





 登録を済ませて臨時収入を持って帰り、晩飯を食い終わったのを見てから言う。

「おいてめぇら、ババアが用意してた物の中で、今足りてなくなってる物はあるか?」

 この教会の購入物や備品の把握とかしてねぇし、本人達に確認すると、ガキ共は目を合わせて話し始めた。
 あったっけ、えーと、等と進まない会話に呆れてると、目を閉じていたカレンが口を開く。

「……そうね、そろそろ普段使いの布の交換が必要だわ。それと薪、最後にメメの服よ」

 おぉ?随分サクッと答えたな。

「布と薪は分かるけど、メメの服ってのは?」

「ここでは服はお下がりにして使い回すのよ。でも最年長のメメは新しく買う必要があるわ。もともとあった大きいサイズの服はこの前のでダメになってるの」

「あー……」

 結構暴れたもんな、ジークのせいで。
 
「分かったが……服かぁ。サイズ適当でいいか?」

「バカね、良いワケないでしょ、間違ってたら何の為に買うか分からないわよ」

 ……そりゃそうだ。
 
「ちっ、しゃあねぇ。メメ、明日買いに行くぞ」

 場所は分かるし、服くらいの金は余裕で払えるくらいの臨時収入は手に入れたしな。
 くくっ、ありがてぇ。また誰か絡んでくれねぇかな。

「……いいの?」

「あん?あぁ、少しくらい離れても大丈夫だろ。おいカレンとディウス、メメがいない間くらいチビ共の面倒見とけよ」

「わ、分かってるよ!」
「ふん、楽勝よ!」

 ほんっといちいちうるせぇよなこの二人は。
 いや、少しは元気になってきた、と喜ぶところか。

「ん、大丈夫だとよ」

「そこじゃなくて……いや……ふふ、そ。ならお願い」

「お、おう……?」

 何で笑ったんだこいつ?つか笑う事あるんだな。





「……ここ?」

「ああ、安い服屋だとここらしい」

 受付のおっさんに教えてもらったし間違いないだろ。違ったらしばくだけだ。

「いらっし……はぁ〜、出てけよ。ここはスラムのガキがくるところじゃないよ!」

「……うぅ」

 まぁこうなるよな。
 どこの店もこうなるから冒険者になったんだし。
 縮こまるメメの背中を軽く叩いて、アイツの助言に従う。
 
「あー、そう見えるだろうが違う。ほらこれ、冒険者証。少し依頼で手間取ってこんな格好になったんだよ、汚れてるのは悪いとは思うけど買わせてくれ」

 そう告げて冒険者証と金を見せる。
 すると店員のおばさんはゴミを見る顔からバツが悪そうに困り笑いに変わった。

「あ、あはは〜……失礼しましたぁ〜、どうぞごゆっくりぃ」

 ……こうなるとくだらないよな、階級制度って。
 見た目や格好とか、肩書きだけでこうも変わるか。
 どうせ服剥いで生身ひとつにしてやれば人間どれも似たようなもんなのによ。

 まぁいい、気分も良くねぇしさっさと買ってこ。
 ……今度クラウス連れてきたらどんな反応すんのかな。少し見てみてぇ。

「おら、買うぞ。またここに来るのも面倒だし二つくらい買っとけ」

「……いいの?」

「いいんだよ」

 金貨1枚と銀貨42枚、銅貨18枚。
 これが絡んできたおっさんが持ってた金だ。
 ババアいわく銀貨1枚が銅貨100枚、金貨1枚で銀貨100枚らしい。
 服屋にたてかけられた木の板に書かれた値段は銀貨2〜3枚だ。ふっ、余裕で買えるぜ。
 
 ちなみにアイツの感覚いわく銅貨10円、銀貨千円、金貨10万円らしい。
 それはよく分からなかったけど、あのおっさんが意外と金持ちだって意見は俺も同感だった。





「へぇ、野菜ってこんな種類あるのか……」

 帰り道に野菜屋に寄ったのだが、サンジン以外にも色々種類があった。
 頭の奥でアイツが興奮しててうるせぇけど無視しながらなんとなしに見てみる……なるほど、サンジンが一番安いのか。

「……ん?」

 何だよ……あの野菜が必要?マジかよ、てか野菜っているかぁ?葉っぱ食う意味が分からねぇんだけど。
 あーはいはいビタミンビタミン。何だよ毎回ビタミンってよ、うるせぇなぁもう。

「あー、それを二つくれ」
「まいどー」

 と、買ったこれ。名前はニンニクらしい。アイツの国でも同じ呼び方をするんだとか。

「……何それ?美味しいの?」

「知らん。なんか栄養があるらしい」

 不思議そうにするメメに答えつつ、一口齧る。
 まっっっず!

「おぇえ……」

「……不味いの?」

「くっそ不味い」

「なんで買ったの……バカ?」

「うるっせぇ。身体に良いんだとよ、あー、あとこれ大人の味なんだと」

「大人の味……ふぅん……はむ、おぇ」

「はっ、バーカ!」

「……うるっせー」

「口調真似すんな」


 アイツにすりおろせって怒られた。

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