ゲーム知識の使い方〜使い捨てキャラの抵抗録〜
12話
「シスタァーーッ!」
今にも押し負けそうに震えるシスターを助けるべくウィンドカッターを放つ。
「あァ?」
しかし男は剣から片手だけ離して腕を振るうだけでウィンドカッターを弾いた。
ほんの少し血が滲む程度の傷しかついていない。
「なっ?!ちっ、化け物が!」
勿論ただ見てるだけのはずがなく、『気配遮断』『身体強化』の併用ですでに駆け出しており、大男の背後に回り込んでいる。
そして得意の『天喰』フルスイング
「おらよ」
「ぐほッ?!」
の前に、大男に後ろ蹴りを入れられて吹き飛ばされた。
「ん?あぁ、てめぇが悪童か。って事はドッガーはやられたのかよ」
舌打ちしながら吐き捨てる大男は、しかしその最中も俺には目もくれずシスターを斬らんと力を込め続けている。
シスターも腕が震えており、あまり猶予はない。実際マッチョな巨漢相手に耐えれてるシスターがすごい事は置いておく。
しゃがみ込んでいる体勢も不味く、あそこから切り返したり逃げたりするのは難しいだろう。
「ドッガーは短剣使いの事かよ?あんな雑魚差し向けて何がしたかったんだバーカ!」
ガキ丸出しの挑発をしつつ、ずっと建物内だからと使わなかったファイアボールを連続で発射する。もはや周囲への配慮なんて言ってられない。
これには大男も受けに回る気にはなれなかったようで、舌打ちしながら飛び退いた。
「はぁ、はぁ……クソガキ、遅いじゃないかい」
「こんな時でも悪態つけるの素直にすげぇよ」
しかしこの大男強いな。
さてどうするか。正直まともにやって勝てる気しないんだけど。
「……なあシスター、もういっそアレ撃っちゃう?」
「こんっバカタレェ!教会吹き飛ばす気かい?!」
ダメらしい。
でもなぁ、どうするよこの大男。
「でも正直二人がかりでもキツくないか?」
「……まぁねぇ。ったく面倒なヤツ引っ張ってきたもんだよ」
「ん?知り合い?」
大男は何を思ってか剣を肩に担いだまま偉そうにニヤニヤ笑って立っているだけ。
余裕なのか、それとも何か狙いでもあるのか……あ、あれは!
「知り合いとは言えないがね、ここらへんのスラムを仕切る頭だよ。スネイって名前でね、【灰蛇】なんて呼ばれる犯罪者で、まぁいわゆる賞金首さね」
「おっけ。それはともかくさ、アイツが攻め込んでこないのって、まだ別働隊がいてセレスを狙ってるとかあり得るかな?」
「はぁあ?!こっ、ばっ、バカタレェ!全員きっちり倒してから来んかい!」
「いや倒したけどさ、追加があるかもなって。だってあの男、さっきからニヤニヤ気持ち悪いし」
「確かに気色悪い笑い方してるねぇ。噂じゃあモテないって聞いたけど本当らしいね」
「てめぇらぶっ殺す!」
すっごくあっさり挑発に乗ってくれた大男ーースネイ。
この時を待っていた。
「今だっ!」
「ストーンスピアっ!」
「なっ、ぐぁッ?!」
背後からの奇襲が決まり、スネイは倒れこそしないものの背中に数本の岩の槍を突き刺されてその場に膝をつく。
その後ろには、爽やかな顔を汗まみれにして立つクラウスが立っていた。
「ナイスだ!」
「君もな!」
このチャンスに、示し合わせるまでもなく同時に駆け出す。
前後からの迫る俺とクラウスに、スネイは血を吐きながら舌打ちして横に跳んで距離をとろうとする。
「甘いねぇ!」
しかし先読みしていたらしいシスターによって回り込まれており、跳んだ先のスネイの顔を錫杖で打ち抜いた。
「っしゃあナイス婆さん!」
体勢を崩すスネイに『天喰』を振るう。
ガァン、と人とは思えない音を立てて顎をカチ上げたが、間違いなく『身体硬化』を施されていた。
まだ仕留めてない、と直感で分かる。
追撃をかけようと振り上げた『天喰』を振り下ろすが、それより早くスネイが剣をコンパクトに俺へと振るう。
「っく、馬鹿力だね……!」
それを懐に潜り込んだクラウスが受け止めた。
守られた俺も驚くほど素早い立ち回りのクラウスに、目を瞠って舌打ちするスネイ。
そのチャンスに、心置きなく『天喰』を振り下ろす。
「おらぁッ!」
「がッ、く、そが!」
クリーンヒット!……なのに、またも身体硬化によって致命傷とはならず、血を流しながらもまだ動けるらしい。マジかこいつ。
しぶといスネイに更にシスターが追撃をかけようとするが、今度は地面を転がるようにして回避された。
そのまま転がる勢いで身体を起こそうするスネイに、いつの間にか詠唱していたらしいクラウスが魔術を放つ。
「ストーンバレット!」
放たれるのは10を超える石の弾丸。
質より量のチョイスは、仕留めるというよりは牽制と足止め、確実に当てつつ動きを阻害させる為だろう。
その隙を活かすべく駆け出す。
スネイは起き上がりかけの体勢で回避ができるはずもなく、低い体勢のままで腕を盾にストーンバレットを耐えていた。
(このチャンスで決めないと!ジリ貧だと負ける!)
俺は走る勢いを地面を蹴って上方向に転換させて跳び上がる。
放物線を描いて跳躍する途中、体勢を整えながらシスターに視線をやる。
その視線の意味に気付いてか、シスターが目を丸くした。
「ッ! くそ、この悪童めぇ!後で修理は手伝うんだよ!」
半ギレのシスターが錫杖をコンパクトに振り抜く。
しつこすぎる身体硬化を持つスネイにはあまりに威力が足りない一撃。
しかし。
「そんなも、の……っ?!」
シスターの一撃を耐えたスネイが立ち上がろうするも、くらりと足元が揺らいだようにまた膝をついた。
「あたしをなめんじゃないよ!」
上から見てたので分かりにくいが、恐らくピンポイントに顎を撃ち抜いたのだろう。
あのくっそ頑丈なスネイだから脳が揺れてる時間は短いだろうが、数秒その場に縫い止めてくれただけで十分だ。
そしてついに完全に真上をとった俺は、『天喰』を真下に向ける。
「吹き飛べや!ーー『空衝砲』ォ!!」
『天喰』に溜めに溜めた魔力。
威力の調整機能が欠けており全ての魔力を吐き出す欠陥品。
しかし、一撃ぶちかますには十分すぎる宝具。
その一撃が『天喰』の砲身から撃ち放たれた。
「な、なんだソレはッ?!」
漆黒の光線のような軌道で放たれた『空衝砲』は突き進む空間すらも黒で埋め尽くし、喰い潰すように全てを蹂躙する。
それは当然、スネイもだ。
「ぐ、おあああアッ?!」
慌てて防御したようだが、ほんのコンマ数秒だけ拮抗しただけですぐに崩れ……そして撃ち抜かれた。
体も消し飛ばされたようで、身体は完全に消滅している。
残ったのは幅数メートル程空いた床と、その下の地面にあいた深い穴だけだ。
……勝てた、か。マジで怖かったぁ……強すぎるだろアイツ。
今更ドッと押し寄せる恐怖や疲労やらで力が抜けるが、思わず綻んだ顔でシスターとクラウスに顔を向けると。
「お、おいおいおいぃい!てめっクソガキィ!地面にまでこんな穴開けやがってぇ!埋めるのめんどくさっ!」
「いや言ってる場合じゃなかったろ!」
「はははっ、シスターすみません、僕もそう思います」
「やかましいわクソガキ共めぇ!」
倒したやったー、とかより早くブチギレるシスターに呆れる。
しかしだ。そんなことをしている場合ではなく。
「と、とりあえずセレスティア達の様子を見に行くぞ」
「おっと、そうだね。ほらシスター、急がないと」
「くっ……!分かってるよ!」
走り出すとシスターは怒りながら、クラウスは微笑みながらついてきた。
そして広くない教会を駆け抜けて、あっという間に子供部屋へと辿り着く。
「っ、シスターっ!」
「良かったぁー!」
開けてすぐにわっと集まる子供達がシスターへと飛びついた。シスターは「いたたっ!離れな!」と怒ってるが、明らかに顔がほっとしている。
「……何もなかったのか?」
「うん。なかった」
近くに来たメメリィに聞くと、どうやら追加の人員もなかったらしい。あのスネイのニヤケ面を深読みしたが、杞憂だったか。
はぁ〜……やっと気が抜けた。
どうにか無事に切り抜けれたらしい。
「ふぅ……お疲れさん」
「うん、君こそ。お疲れ」
相変わらずトーンの起伏がないメメリィだが、それでも安堵した気配は伝わってきた。
見ればディウスやカレンデュラもシスターに飛びついて半泣きになっている。
「なかなか強敵だったね」
「本当にな。マジで助かったよ、ありがとう」
クラウスも俺の横に立ってシスター達を見ながら爽やかに微笑む。
イケメンのくせにここまで中身もイケメンだと嫉妬も起きないな。爆発しないでヨシ。
「いいさ、代わりにまた面白い話を聞かせてくれたまえ」
「おう、面白い話から笑えない話まであるからな」
クラウスに至っては将来主人公達に討たれるしね。笑えないだろうよ。
「さて、そろそろ帰るかな」
「あ、だな……つかよく夜に抜け出せたな。怒られるだろうけど、悪いが代わってやれない身分でな」
「ふ、安心してくれたまえ。僕は言い訳が得意だ」
良い性格してるクラウスを、せめて見送りでもしようと歩き出した時だった。
「あれ、なんで生きてんの?しかも【白狼】と【鬼謀】までいるし……あれ、なんで?」
突如知らない声が部屋の中に響いた。
全員が即座に振り向くと、明るい緑色の髪と瞳を持った目つきの鋭い少年が立っていた。
「だ」
「誰でもいいでしょ?それより想定通りいかないと困るんだよね。だからさ」
口を開きかけたディウスよりも早くそう告げると、腰から剣を抜いたソイツはそのまま躊躇なく振るう。
咄嗟にセレスを庇おうとするシスターだが、その剣はしかし。
「死んでもらうよ、シスター」
最初からシスターを狙っていた。
もはや脊椎反射の域だった。
即座に右手からファイアボールをソイツに放つ。それと同時に駆け出した。
ファイアボールを払うべくソイツは剣の軌道を変えて炎を斬り捨てるが、すぐに一回転して再びシスターへと剣を振る。
しかしそれよりも早く、シスターと剣の間に割って入る事が出来た。
「ここじゃ狭い、外へ出るぞ!」
「いや、ここでいいよ」
人が集まりすぎてろくに身動きが取れないので指示を出すが、コイツは待ってはくれなかった。
「ぐ、なっ?!」
剣を受け止める『天喰』を手からすっぽ抜けるように下から蹴り上げ、即座に剣を振るってくる。くそ、動きが速すぎる!
「大丈夫、殺しはしない。君は死んでもらっちゃ困るからね」
「ぐ、ぁああっ!」
「抵抗しないでよ、加減間違え……あっ!」
回避しようもなく、かろうじて身体硬化で耐えるが、すぐに突破されて俺の身体に深い切り傷を負わせた。
痛い!痛みで視界がチカチカして、力が入らずその場に倒れ込んでしまう。
「うわ、やっちゃったかも……えー嘘、やば、救済措置キャラ殺しちゃったよ」
「っニクス!」
倒れ込む俺と入れ替わるように攻撃するクラウスとシスター。
だが、ソイツはするりと回避して、流れるような動作でそのままシスターへと剣を振る。
痛みで遠のく意識でそこまで見えて、暗くなる視界の中で手を伸ばしてーー
「じゃあシスター、さようなら」
「させると思ってんのかよクソがァ!」
勢いよく跳ね起こした身体は血を振りまいているが、それに構わずニクスはシスターへと向かう横薙ぎの剣撃を下から殴り上げる事で軌道をずらした。
唐突な事態に目を瞠る緑髪の少年に構わず、即座に殴った左手の反対、右手が獣のように真っ直ぐ少年の顔を喰らいつくように掴む。
そして。
「顔面焼かれてくたばれやボケが!」
掴んだ右手からファイアボールを連続でゼロ距離発射した。
当然ニクス自身も右手が焼けるが構わず撃ち続け、更に左手でガラ空きの腹をボディブローで打ち抜く。
身体強化と身体硬化を併用した一撃はハンマーで殴ったように重く鈍い音を立てた。
「さすがは【白狼】だね……」
しかし少年も身体硬化か、または別の方法で耐えたらしく、ニクスを前蹴りで蹴り飛ばす。
煙があがる顔も赤くなってはいるが焼けてはいない。
「が、っ……はぁっ、クソがァ、硬ぇなこいつ…!」
そうぼやきながらも既にニクスは走り出している。
少年も迎え撃つように剣を振り下ろすが、ニクスにとってその程度の剣は牽制にもならない。
完全に振り下ろされるほんの一瞬前、勢いが乗り切る前に、剣の柄の底を這うような軌道の掌底でピンポイントに打ち抜く。
すると先程『天喰』を蹴り飛ばされたのと同じように少年の剣もすっぽ抜けるように吹き飛び、天井へと刺さった。
これには流石に呆気にとられた少年に、ニクスは一瞬の停滞もなく返す拳で頬を殴り飛ばす。
「ぐうっ?!」
あまりの威力に床に着く事すらなく、弾丸のように吹き飛ばされて壁に叩きつけられた少年。
それを見送る事すらせず即座にニクスは並ぶように追いかけ、叩きつけれた壁からずり落ちようとする少年を縫い付けるように連続で拳を叩き込む。
「おらおらおらァ!」
音が連なってひとつの音にすら聞こえそうな高回転の連打に、しかし少年は抜け出せないまでも腕を盾に耐えてみせる。
しつけぇ、と内心で吐き捨てるニクスは得物を探すべく吹き飛ばされた『天喰』へと一瞬視線を向けた。
が、その一瞬を少年は見逃さない。
即座に体を捻るようにして五月雨のように降り注ぐ拳のひとつを選び、横から添えるようにして掌で受け流し、そのまま壁からするりと抜け出した。
その流麗な技術にニクスは舌打ちしながらも、今度は追撃ではなく『天喰』を掴む為に距離をとる。
それを読んでか、それとも同じ考えだったのか。少年もほぼ同じタイミングで跳んで天井に刺さる自らの剣を掴んだ。
しかしそこからの行動は全く異なるものだった。
『天喰』で仕留めんと駆けるニクスとは異なり、少年は抜いた剣を即座に投擲したのだ。
「なッ?!」
思わぬ行動に目を瞠るニクスは、しかし魔術よりも速く飛ぶ剣を目で追うしかできない。
そしてその剣の先は、この隙にと孤児達を外へと逃しているシスターへと向かっていた。
「シスター!」
常に警戒していたであろうクラウスがそれを弾こうと剣を伸ばす。
しかしあと一歩距離が足りない。
いや、何もなければ詰めれたのだが、その手前にセレスティアが立っていたのだ。
まさか王女を吹き飛ばしながら走る訳にもいかず、その一瞬の躊躇によって投擲された剣はクラウスの剣の横を無情にも通り抜けた。
「っ、ちぃっ!」
しかしシスターも年齢からは考えられない速度で振り向き、錫杖を剣に合わせる。
どうにか防ぎきった。
誰もがそう思ったのだが。
「なっ……ご、ふ」
剣はあっさりと錫杖を貫通して、シスターの左胸を貫いていた。
今にも押し負けそうに震えるシスターを助けるべくウィンドカッターを放つ。
「あァ?」
しかし男は剣から片手だけ離して腕を振るうだけでウィンドカッターを弾いた。
ほんの少し血が滲む程度の傷しかついていない。
「なっ?!ちっ、化け物が!」
勿論ただ見てるだけのはずがなく、『気配遮断』『身体強化』の併用ですでに駆け出しており、大男の背後に回り込んでいる。
そして得意の『天喰』フルスイング
「おらよ」
「ぐほッ?!」
の前に、大男に後ろ蹴りを入れられて吹き飛ばされた。
「ん?あぁ、てめぇが悪童か。って事はドッガーはやられたのかよ」
舌打ちしながら吐き捨てる大男は、しかしその最中も俺には目もくれずシスターを斬らんと力を込め続けている。
シスターも腕が震えており、あまり猶予はない。実際マッチョな巨漢相手に耐えれてるシスターがすごい事は置いておく。
しゃがみ込んでいる体勢も不味く、あそこから切り返したり逃げたりするのは難しいだろう。
「ドッガーは短剣使いの事かよ?あんな雑魚差し向けて何がしたかったんだバーカ!」
ガキ丸出しの挑発をしつつ、ずっと建物内だからと使わなかったファイアボールを連続で発射する。もはや周囲への配慮なんて言ってられない。
これには大男も受けに回る気にはなれなかったようで、舌打ちしながら飛び退いた。
「はぁ、はぁ……クソガキ、遅いじゃないかい」
「こんな時でも悪態つけるの素直にすげぇよ」
しかしこの大男強いな。
さてどうするか。正直まともにやって勝てる気しないんだけど。
「……なあシスター、もういっそアレ撃っちゃう?」
「こんっバカタレェ!教会吹き飛ばす気かい?!」
ダメらしい。
でもなぁ、どうするよこの大男。
「でも正直二人がかりでもキツくないか?」
「……まぁねぇ。ったく面倒なヤツ引っ張ってきたもんだよ」
「ん?知り合い?」
大男は何を思ってか剣を肩に担いだまま偉そうにニヤニヤ笑って立っているだけ。
余裕なのか、それとも何か狙いでもあるのか……あ、あれは!
「知り合いとは言えないがね、ここらへんのスラムを仕切る頭だよ。スネイって名前でね、【灰蛇】なんて呼ばれる犯罪者で、まぁいわゆる賞金首さね」
「おっけ。それはともかくさ、アイツが攻め込んでこないのって、まだ別働隊がいてセレスを狙ってるとかあり得るかな?」
「はぁあ?!こっ、ばっ、バカタレェ!全員きっちり倒してから来んかい!」
「いや倒したけどさ、追加があるかもなって。だってあの男、さっきからニヤニヤ気持ち悪いし」
「確かに気色悪い笑い方してるねぇ。噂じゃあモテないって聞いたけど本当らしいね」
「てめぇらぶっ殺す!」
すっごくあっさり挑発に乗ってくれた大男ーースネイ。
この時を待っていた。
「今だっ!」
「ストーンスピアっ!」
「なっ、ぐぁッ?!」
背後からの奇襲が決まり、スネイは倒れこそしないものの背中に数本の岩の槍を突き刺されてその場に膝をつく。
その後ろには、爽やかな顔を汗まみれにして立つクラウスが立っていた。
「ナイスだ!」
「君もな!」
このチャンスに、示し合わせるまでもなく同時に駆け出す。
前後からの迫る俺とクラウスに、スネイは血を吐きながら舌打ちして横に跳んで距離をとろうとする。
「甘いねぇ!」
しかし先読みしていたらしいシスターによって回り込まれており、跳んだ先のスネイの顔を錫杖で打ち抜いた。
「っしゃあナイス婆さん!」
体勢を崩すスネイに『天喰』を振るう。
ガァン、と人とは思えない音を立てて顎をカチ上げたが、間違いなく『身体硬化』を施されていた。
まだ仕留めてない、と直感で分かる。
追撃をかけようと振り上げた『天喰』を振り下ろすが、それより早くスネイが剣をコンパクトに俺へと振るう。
「っく、馬鹿力だね……!」
それを懐に潜り込んだクラウスが受け止めた。
守られた俺も驚くほど素早い立ち回りのクラウスに、目を瞠って舌打ちするスネイ。
そのチャンスに、心置きなく『天喰』を振り下ろす。
「おらぁッ!」
「がッ、く、そが!」
クリーンヒット!……なのに、またも身体硬化によって致命傷とはならず、血を流しながらもまだ動けるらしい。マジかこいつ。
しぶといスネイに更にシスターが追撃をかけようとするが、今度は地面を転がるようにして回避された。
そのまま転がる勢いで身体を起こそうするスネイに、いつの間にか詠唱していたらしいクラウスが魔術を放つ。
「ストーンバレット!」
放たれるのは10を超える石の弾丸。
質より量のチョイスは、仕留めるというよりは牽制と足止め、確実に当てつつ動きを阻害させる為だろう。
その隙を活かすべく駆け出す。
スネイは起き上がりかけの体勢で回避ができるはずもなく、低い体勢のままで腕を盾にストーンバレットを耐えていた。
(このチャンスで決めないと!ジリ貧だと負ける!)
俺は走る勢いを地面を蹴って上方向に転換させて跳び上がる。
放物線を描いて跳躍する途中、体勢を整えながらシスターに視線をやる。
その視線の意味に気付いてか、シスターが目を丸くした。
「ッ! くそ、この悪童めぇ!後で修理は手伝うんだよ!」
半ギレのシスターが錫杖をコンパクトに振り抜く。
しつこすぎる身体硬化を持つスネイにはあまりに威力が足りない一撃。
しかし。
「そんなも、の……っ?!」
シスターの一撃を耐えたスネイが立ち上がろうするも、くらりと足元が揺らいだようにまた膝をついた。
「あたしをなめんじゃないよ!」
上から見てたので分かりにくいが、恐らくピンポイントに顎を撃ち抜いたのだろう。
あのくっそ頑丈なスネイだから脳が揺れてる時間は短いだろうが、数秒その場に縫い止めてくれただけで十分だ。
そしてついに完全に真上をとった俺は、『天喰』を真下に向ける。
「吹き飛べや!ーー『空衝砲』ォ!!」
『天喰』に溜めに溜めた魔力。
威力の調整機能が欠けており全ての魔力を吐き出す欠陥品。
しかし、一撃ぶちかますには十分すぎる宝具。
その一撃が『天喰』の砲身から撃ち放たれた。
「な、なんだソレはッ?!」
漆黒の光線のような軌道で放たれた『空衝砲』は突き進む空間すらも黒で埋め尽くし、喰い潰すように全てを蹂躙する。
それは当然、スネイもだ。
「ぐ、おあああアッ?!」
慌てて防御したようだが、ほんのコンマ数秒だけ拮抗しただけですぐに崩れ……そして撃ち抜かれた。
体も消し飛ばされたようで、身体は完全に消滅している。
残ったのは幅数メートル程空いた床と、その下の地面にあいた深い穴だけだ。
……勝てた、か。マジで怖かったぁ……強すぎるだろアイツ。
今更ドッと押し寄せる恐怖や疲労やらで力が抜けるが、思わず綻んだ顔でシスターとクラウスに顔を向けると。
「お、おいおいおいぃい!てめっクソガキィ!地面にまでこんな穴開けやがってぇ!埋めるのめんどくさっ!」
「いや言ってる場合じゃなかったろ!」
「はははっ、シスターすみません、僕もそう思います」
「やかましいわクソガキ共めぇ!」
倒したやったー、とかより早くブチギレるシスターに呆れる。
しかしだ。そんなことをしている場合ではなく。
「と、とりあえずセレスティア達の様子を見に行くぞ」
「おっと、そうだね。ほらシスター、急がないと」
「くっ……!分かってるよ!」
走り出すとシスターは怒りながら、クラウスは微笑みながらついてきた。
そして広くない教会を駆け抜けて、あっという間に子供部屋へと辿り着く。
「っ、シスターっ!」
「良かったぁー!」
開けてすぐにわっと集まる子供達がシスターへと飛びついた。シスターは「いたたっ!離れな!」と怒ってるが、明らかに顔がほっとしている。
「……何もなかったのか?」
「うん。なかった」
近くに来たメメリィに聞くと、どうやら追加の人員もなかったらしい。あのスネイのニヤケ面を深読みしたが、杞憂だったか。
はぁ〜……やっと気が抜けた。
どうにか無事に切り抜けれたらしい。
「ふぅ……お疲れさん」
「うん、君こそ。お疲れ」
相変わらずトーンの起伏がないメメリィだが、それでも安堵した気配は伝わってきた。
見ればディウスやカレンデュラもシスターに飛びついて半泣きになっている。
「なかなか強敵だったね」
「本当にな。マジで助かったよ、ありがとう」
クラウスも俺の横に立ってシスター達を見ながら爽やかに微笑む。
イケメンのくせにここまで中身もイケメンだと嫉妬も起きないな。爆発しないでヨシ。
「いいさ、代わりにまた面白い話を聞かせてくれたまえ」
「おう、面白い話から笑えない話まであるからな」
クラウスに至っては将来主人公達に討たれるしね。笑えないだろうよ。
「さて、そろそろ帰るかな」
「あ、だな……つかよく夜に抜け出せたな。怒られるだろうけど、悪いが代わってやれない身分でな」
「ふ、安心してくれたまえ。僕は言い訳が得意だ」
良い性格してるクラウスを、せめて見送りでもしようと歩き出した時だった。
「あれ、なんで生きてんの?しかも【白狼】と【鬼謀】までいるし……あれ、なんで?」
突如知らない声が部屋の中に響いた。
全員が即座に振り向くと、明るい緑色の髪と瞳を持った目つきの鋭い少年が立っていた。
「だ」
「誰でもいいでしょ?それより想定通りいかないと困るんだよね。だからさ」
口を開きかけたディウスよりも早くそう告げると、腰から剣を抜いたソイツはそのまま躊躇なく振るう。
咄嗟にセレスを庇おうとするシスターだが、その剣はしかし。
「死んでもらうよ、シスター」
最初からシスターを狙っていた。
もはや脊椎反射の域だった。
即座に右手からファイアボールをソイツに放つ。それと同時に駆け出した。
ファイアボールを払うべくソイツは剣の軌道を変えて炎を斬り捨てるが、すぐに一回転して再びシスターへと剣を振る。
しかしそれよりも早く、シスターと剣の間に割って入る事が出来た。
「ここじゃ狭い、外へ出るぞ!」
「いや、ここでいいよ」
人が集まりすぎてろくに身動きが取れないので指示を出すが、コイツは待ってはくれなかった。
「ぐ、なっ?!」
剣を受け止める『天喰』を手からすっぽ抜けるように下から蹴り上げ、即座に剣を振るってくる。くそ、動きが速すぎる!
「大丈夫、殺しはしない。君は死んでもらっちゃ困るからね」
「ぐ、ぁああっ!」
「抵抗しないでよ、加減間違え……あっ!」
回避しようもなく、かろうじて身体硬化で耐えるが、すぐに突破されて俺の身体に深い切り傷を負わせた。
痛い!痛みで視界がチカチカして、力が入らずその場に倒れ込んでしまう。
「うわ、やっちゃったかも……えー嘘、やば、救済措置キャラ殺しちゃったよ」
「っニクス!」
倒れ込む俺と入れ替わるように攻撃するクラウスとシスター。
だが、ソイツはするりと回避して、流れるような動作でそのままシスターへと剣を振る。
痛みで遠のく意識でそこまで見えて、暗くなる視界の中で手を伸ばしてーー
「じゃあシスター、さようなら」
「させると思ってんのかよクソがァ!」
勢いよく跳ね起こした身体は血を振りまいているが、それに構わずニクスはシスターへと向かう横薙ぎの剣撃を下から殴り上げる事で軌道をずらした。
唐突な事態に目を瞠る緑髪の少年に構わず、即座に殴った左手の反対、右手が獣のように真っ直ぐ少年の顔を喰らいつくように掴む。
そして。
「顔面焼かれてくたばれやボケが!」
掴んだ右手からファイアボールを連続でゼロ距離発射した。
当然ニクス自身も右手が焼けるが構わず撃ち続け、更に左手でガラ空きの腹をボディブローで打ち抜く。
身体強化と身体硬化を併用した一撃はハンマーで殴ったように重く鈍い音を立てた。
「さすがは【白狼】だね……」
しかし少年も身体硬化か、または別の方法で耐えたらしく、ニクスを前蹴りで蹴り飛ばす。
煙があがる顔も赤くなってはいるが焼けてはいない。
「が、っ……はぁっ、クソがァ、硬ぇなこいつ…!」
そうぼやきながらも既にニクスは走り出している。
少年も迎え撃つように剣を振り下ろすが、ニクスにとってその程度の剣は牽制にもならない。
完全に振り下ろされるほんの一瞬前、勢いが乗り切る前に、剣の柄の底を這うような軌道の掌底でピンポイントに打ち抜く。
すると先程『天喰』を蹴り飛ばされたのと同じように少年の剣もすっぽ抜けるように吹き飛び、天井へと刺さった。
これには流石に呆気にとられた少年に、ニクスは一瞬の停滞もなく返す拳で頬を殴り飛ばす。
「ぐうっ?!」
あまりの威力に床に着く事すらなく、弾丸のように吹き飛ばされて壁に叩きつけられた少年。
それを見送る事すらせず即座にニクスは並ぶように追いかけ、叩きつけれた壁からずり落ちようとする少年を縫い付けるように連続で拳を叩き込む。
「おらおらおらァ!」
音が連なってひとつの音にすら聞こえそうな高回転の連打に、しかし少年は抜け出せないまでも腕を盾に耐えてみせる。
しつけぇ、と内心で吐き捨てるニクスは得物を探すべく吹き飛ばされた『天喰』へと一瞬視線を向けた。
が、その一瞬を少年は見逃さない。
即座に体を捻るようにして五月雨のように降り注ぐ拳のひとつを選び、横から添えるようにして掌で受け流し、そのまま壁からするりと抜け出した。
その流麗な技術にニクスは舌打ちしながらも、今度は追撃ではなく『天喰』を掴む為に距離をとる。
それを読んでか、それとも同じ考えだったのか。少年もほぼ同じタイミングで跳んで天井に刺さる自らの剣を掴んだ。
しかしそこからの行動は全く異なるものだった。
『天喰』で仕留めんと駆けるニクスとは異なり、少年は抜いた剣を即座に投擲したのだ。
「なッ?!」
思わぬ行動に目を瞠るニクスは、しかし魔術よりも速く飛ぶ剣を目で追うしかできない。
そしてその剣の先は、この隙にと孤児達を外へと逃しているシスターへと向かっていた。
「シスター!」
常に警戒していたであろうクラウスがそれを弾こうと剣を伸ばす。
しかしあと一歩距離が足りない。
いや、何もなければ詰めれたのだが、その手前にセレスティアが立っていたのだ。
まさか王女を吹き飛ばしながら走る訳にもいかず、その一瞬の躊躇によって投擲された剣はクラウスの剣の横を無情にも通り抜けた。
「っ、ちぃっ!」
しかしシスターも年齢からは考えられない速度で振り向き、錫杖を剣に合わせる。
どうにか防ぎきった。
誰もがそう思ったのだが。
「なっ……ご、ふ」
剣はあっさりと錫杖を貫通して、シスターの左胸を貫いていた。
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4.8万
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2.3万
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1.6万
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1.1万
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2.4万
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2.3万
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5.5万
書籍化作品
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3
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37
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157
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971
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0
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769
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3395
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63
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76
コメント