サーヴァント・ウォーズ
7話
「──来たわね」
──昼休み。高校の屋上。
金髪を揺らす雲雀が、現れた逸騎を見て微笑を漏らした。
よく見ると逸騎の横には、青い瞳を持つ金髪の天使──『豊穣の天使 プリアポス』がいる。
「お前が言ったんだろ。話を続けたいなら、昼休みに屋上に来いって」
「来いとは言っていないわ」
「どっちでもいいんだよ、そんな事は──それより」
逸騎の瞳が、雲雀を鋭い目付きで睨み付けた。
「『サーヴァント・ウォーズ』ってなんだ? これに勝ち続ければ、本当に願いが叶うのか?」
「落ち着きなさい。初めてウォーズをして、気分が高揚しているのはわかるけれど……少しは落ち着かないと、話にならないわ」
「……ああ、そうだな」
大きく深呼吸をし──逸騎は雲雀に視線を向け直した。
その視線は、先ほどまでとは違う──真っ直ぐに雲雀を見据えている。
「落ち着いたみたいね?」
「……質問に答えろ。『サーヴァント・ウォーズ』に勝ち続ければ──俺の願いは、叶うのか?」
逸騎の問い掛けに、雲雀は目を閉じた。
「わからないわ。50連勝できたプレイヤーはいないから……これが本当なのか、希望に見える嘘なのか……それは、私にはわからないの」
「そうか……知らないなら、別にいい──50連勝すればわかるんだし」
逸騎の言葉を聞き、雲雀はキョトンと目を見開いた。
そして──ふふっと笑う。
「50連勝……そうね。たった50回連続で勝てば、わかる事だからね」
「ああ。勝てばいいんだろ」
「──たかが1勝しかしていないのに、これから先も勝ち続けられると思っているの?」
小さく笑う雲雀──その目は、笑っていなかった。
「意気込み程度で勝ち続けられるのなら、苦労なんてしないわ」
「……………」
「勝てばいい……そんな言葉を言うのなら──この場で、私に勝つ気があるのよね?」
雲雀の言葉を聞き──逸騎は待っていたと言わんばかりに、デッキケースを構えた。
「うふふっ──なら、戦りましょうか」
──────────────────────
「──俺はフィールド上の『憤怒の騎士 ラース』を生贄にし、手札から中級サーヴァントの『憤怒の悪魔 サタン』を召喚ッ! この方法で召喚した時、俺は召喚権を使用しないッ!」
大声を上げながら、逸騎はカードを屋上の床に叩き付けた。
「そして俺はッ、『憤怒の騎士 ラース』の効果を発動ッ! フィールド上のこのカードが破壊ゾーンに送られる時、デッキから『嫉妬の騎士 エンヴィ』を手札に加えるッ!」
「……なかなかやるわね」
「そして俺は──『憤怒の悪魔 サタン』で、『絶風のフェニックス』を攻撃ッッ!!」
──逸騎のフィールドに存在する『憤怒の悪魔 サタン』は、 ATK 2000、DEF 1000。対する雲雀のフィールドに存在する『絶風フェニックス』は、ATK2500、DEF2000。
逸騎のサーヴァントでは敵わない──逸騎の攻撃宣言を聞き、雲雀は何を言っているのかと眉を寄せた。
「『憤怒の悪魔 サタン』の効果を発動ッッ!! このカードが相手サーヴァントとバトルする時、相手サーヴァントのATKを、このカードのATKに加えるッッ!!」
「サーヴァントのATKを加える、ですって……?!」
「だけど、この効果を発動するターンのバトルタイム中、相手はバトルダメージを受けない──サタンのATKは4500に上昇するッッ!! お前のフィールドの『絶風のフェニックス』を破壊だッッ!!」
──逸騎の中級サーヴァントが、雲雀のエクストラサーヴァントを破壊する。
これで、雲雀の召喚ゾーンはガラ空き──勝ちを確信し、逸騎はニヤッと笑みを浮かべた。
「くっ……『絶風のフェニックス』の効果を発動するわ。このカードが破壊された時、プレイヤーはこのカードのATK分HPを回復する──『絶風のフェニックス』のATKは2500。よって私は、HPを2500回復するわ」
「チッ……バトルタイム終了時、『憤怒の悪魔 サタン』のATKは元の数値に戻る。俺はこれでエンドタイムだ」
「私のターンね」
雲雀がデッキからカードを引き──手札からサーヴァントカードを取り出した。
「私はサーヴァントカード、『SB 薫風のアイビス』を召喚。そして、『薫風のアイビス』の効果を発動。自分の破壊ゾーンから、ATK1000以下の『SB』サーヴァントカードを召喚するわ」
雲雀が破壊ゾーンからサーヴァントカードを引き抜き、そのまま屋上の床に叩き付ける。
「私が召喚するのは、ATK500の『SB 疾風のラーク』。そして私は、破壊ゾーンに存在する『SB 旋風のオウル』の効果を発動。私のHPを1000減らす事で、破壊ゾーンから召喚する事ができる」
雲雀のフィールドが、サーヴァントで埋め尽くされた。
だが──逸騎の『憤怒の悪魔 サタン』のATKには及ばない。
「『薫風のアイビス』と『疾風のラーク』、そして『旋風のオウル』を破壊ゾーンに送り──エクストラサーヴァント、『HSB 光風のハルピュイア』を召喚」
──『HSB 光風のハルピュイア』。ATK3000 DEF2000のエクストラサーヴァント。フィールドから『SB』サーヴァントを3枚も破壊ゾーンに送る事で召喚可能──『憤怒の悪魔 サタン』を上回るATKを見て、逸騎は舌打ちを漏らした。
「『光風のハルピュイア』の効果を発動。このカードが召喚された時、自分の破壊ゾーンからサーヴァントカードを召喚する。私が召喚するのは──『HSB 絶風のフェニックス』」
「エクストラサーヴァントを復活させるだと……?!」
「ただし、この効果により召喚されたサーヴァントの効果は無効化され、ATKは0になる」
──雲雀のフィールドに、二体のエクストラサーヴァントが並んだ。
だが、『絶風のフェニックス』の効果は無効化され、ATKは0──なら、そこまで警戒する必要はない。
「さらに私は、破壊ゾーンに存在する『HSB 暴風のヤタガラス』の効果を発動。このカードが破壊ゾーンに存在する時、プレイヤーのHPを2000減らす事で、破壊ゾーンから召喚する事ができる」
「三体の、エクストラサーヴァント……」
雲雀のフィールドに並んだ、三体のエクストラサーヴァント──だが、逸騎にはセットカードがある。
『憤怒の悪魔 サタン』が破壊されても──まだ、どうにかなる。
「そして、私は『HSB 絶風のフェニックス』と『HSB 光風のハルピュイア』、『HSB 暴風のヤタガラス』を生贄にし──エクストラサーヴァント、『HSB 神風のガルーダ』を召喚」
『HSB 神風のガルーダ』──ATK4000 DEF3000のエクストラサーヴァント。
エクストラサーヴァント3枚を生贄にする事で召喚できるカード──どんな効果を持っているのだろうか。
「『神風のガルーダ』の効果を発動するわ。このカードが召喚された時、相手の設置ゾーンに置かれているカードを全て破壊する──あなたが設置ゾーンに置いている2枚のカードを破壊するわ」
「マジかよ……」
「……あら、『九死に一生』と『決して消えぬ罪禍』だったのね。手札を全て破壊ゾーンに送る事で相手の直接攻撃を止めるカードと、このターンのバトルタイム中に破壊されたサーヴァントを破壊ゾーンからフィールドに召喚するカード……強力なセットカードだったのに、残念ね」
雲雀がニイッと邪悪な笑みを浮かべた。逸騎の背筋に悪寒が走る。
だが──『神風のガルーダ』のATKは4000。『憤怒の悪魔 サタン』のATKは2000。
攻撃されても、まだ逸騎のHPは残る。
「──私は、手札から『SB』サーヴァントカードを破壊ゾーンに送る事で、『神風のガルーダ』の効果を発動」
「まだ何かあんのかよッ……」
「この効果は、自分のターンに一度だけ発動できる。相手フィールドのカード1枚を破壊し──それがサーヴァントカードの場合、破壊したサーヴァントのATK分のダメージを、相手プレイヤーに与える」
「──は……?」
「私が破壊するのは、『憤怒の悪魔 サタン』。そして、『憤怒の悪魔 サタン』のATKは2000──よってあなたに、2000ダメージを与えるわ」
逸騎のHPが、5000から一気に3000へと削られた。
マズイ、これは──
「『神風のガルーダ』で、あなたに攻撃」
──たった1ターンで、逸騎のHPが全て削られた。
これが、小鳥遊 雲雀の実力──逸騎は肩を落とし、ため息を吐いた。
「私の勝ちね──と言っても、別にウォーズをしていたわけではないから、あなたのカードを貰ったりはできないのだけど」
「……なあ、この戦いも連勝記録に加えられるのか?」
「いいえ。あくまでウォーズで50連勝する事で願いが叶うのだから、こうしてウォーズをせずに、ただのカードゲームとして戦う場合は、連勝記録に影響はないわよ」
逸騎と雲雀は、『サーヴァント・ウォーズ』で戦っていた。
実際にウォーズをしていたわけではなく──単純にカードゲームとして。
「チッ……強いな、小鳥遊」
「こう見えても、17連勝しているから。始めたばかりの初心者には負けないわ」
「そうかよ……俺たち以外に、『サーヴァント・ウォーズ』のプレイヤーって学校にいるのか?」
屋上の床上に置かれたカードを回収し、逸騎が雲雀に問い掛ける。
「いないわ。まあ、もしかしたら私が気づいてないだけって可能性もあるけど」
「……なあ」
「何かしら?」
「なんでお前、俺とウォーズをしないんだ?」
そう──何故雲雀はウォーズを受けず、カードゲームとして戦う事を逸騎に提案してきたのだろうか。
「……特に理由なんてないわ。ただ……同じ学校の人とウォーズなんてしたら、気まずいでしょう?」
「それだけか?」
「それだけよ」
「そうか……なんか、悪かったな。昨日も今日も、いきなりウォーズを仕掛けて」
「別に気にしてないわ。それだけ、あなたには叶えたい願いがあるって事でしょう」
雲雀の言葉を聞き、逸騎は気まずそうに顔を背けた。
「さて……それじゃあ、教室に戻ろうかしら。明日もまた、屋上に来れる?」
「え? ……まあ、行けると思うけど……」
「明日も『サーヴァント・ウォーズ』をしましょう。ウォーズで勝つには、何度も戦ってカードを理解する事が大切だから。剣ヶ崎君の戦い方は、まだまだ無駄が多いわ。少しでもウォーズを経験して、実力を身に付けるのが大事よ。もちろん本当にウォーズをするんじゃなくて、さっきみたいにカードゲーム形式で、ね?」
「……別にいいけど……なんでそこまで俺に気を使ってくれるんだ?」
逸騎の返事に、雲雀はふふっと小さく笑った。
「だって、『サーヴァント・ウォーズ』をしている友達なんて、初めてだから。『サーヴァント・ウォーズ』のプレイヤーとは仲良くなんてなれないし、クラスメイトに話しても信じてもらえない……こうして誰かと『サーヴァント・ウォーズ』について話せるなんて、私にとっては夢みたいだもの」
「……………」
「ふふっ、意味わからないって顔してるわね。まあ、いつかあなたにもわかるわ。それじゃあね」
ひらひらと手を振り、雲雀が屋上を後にする。
一人残った逸騎は──自分のデッキケースに視線を落とした。
「……何度も戦って、カードを理解する……」
「──そうですねー、まあマスターは『サーヴァント・ウォーズ』を始めたばかりなので、自分のデッキの事を理解できてなくても仕方ないと思いますけどね」
逸騎の隣に、プリアポスが現れた。
「ボクもちゃんとしたウォーズなら、もっとマスターの役に立てるんですけどねー」
「どうだか……」
「あー! 信じてないですねマスター!」
ギャーギャーと騒ぐプリアポスに苦笑を漏らし、逸騎も教室に向かい始めた。
──昼休み。高校の屋上。
金髪を揺らす雲雀が、現れた逸騎を見て微笑を漏らした。
よく見ると逸騎の横には、青い瞳を持つ金髪の天使──『豊穣の天使 プリアポス』がいる。
「お前が言ったんだろ。話を続けたいなら、昼休みに屋上に来いって」
「来いとは言っていないわ」
「どっちでもいいんだよ、そんな事は──それより」
逸騎の瞳が、雲雀を鋭い目付きで睨み付けた。
「『サーヴァント・ウォーズ』ってなんだ? これに勝ち続ければ、本当に願いが叶うのか?」
「落ち着きなさい。初めてウォーズをして、気分が高揚しているのはわかるけれど……少しは落ち着かないと、話にならないわ」
「……ああ、そうだな」
大きく深呼吸をし──逸騎は雲雀に視線を向け直した。
その視線は、先ほどまでとは違う──真っ直ぐに雲雀を見据えている。
「落ち着いたみたいね?」
「……質問に答えろ。『サーヴァント・ウォーズ』に勝ち続ければ──俺の願いは、叶うのか?」
逸騎の問い掛けに、雲雀は目を閉じた。
「わからないわ。50連勝できたプレイヤーはいないから……これが本当なのか、希望に見える嘘なのか……それは、私にはわからないの」
「そうか……知らないなら、別にいい──50連勝すればわかるんだし」
逸騎の言葉を聞き、雲雀はキョトンと目を見開いた。
そして──ふふっと笑う。
「50連勝……そうね。たった50回連続で勝てば、わかる事だからね」
「ああ。勝てばいいんだろ」
「──たかが1勝しかしていないのに、これから先も勝ち続けられると思っているの?」
小さく笑う雲雀──その目は、笑っていなかった。
「意気込み程度で勝ち続けられるのなら、苦労なんてしないわ」
「……………」
「勝てばいい……そんな言葉を言うのなら──この場で、私に勝つ気があるのよね?」
雲雀の言葉を聞き──逸騎は待っていたと言わんばかりに、デッキケースを構えた。
「うふふっ──なら、戦りましょうか」
──────────────────────
「──俺はフィールド上の『憤怒の騎士 ラース』を生贄にし、手札から中級サーヴァントの『憤怒の悪魔 サタン』を召喚ッ! この方法で召喚した時、俺は召喚権を使用しないッ!」
大声を上げながら、逸騎はカードを屋上の床に叩き付けた。
「そして俺はッ、『憤怒の騎士 ラース』の効果を発動ッ! フィールド上のこのカードが破壊ゾーンに送られる時、デッキから『嫉妬の騎士 エンヴィ』を手札に加えるッ!」
「……なかなかやるわね」
「そして俺は──『憤怒の悪魔 サタン』で、『絶風のフェニックス』を攻撃ッッ!!」
──逸騎のフィールドに存在する『憤怒の悪魔 サタン』は、 ATK 2000、DEF 1000。対する雲雀のフィールドに存在する『絶風フェニックス』は、ATK2500、DEF2000。
逸騎のサーヴァントでは敵わない──逸騎の攻撃宣言を聞き、雲雀は何を言っているのかと眉を寄せた。
「『憤怒の悪魔 サタン』の効果を発動ッッ!! このカードが相手サーヴァントとバトルする時、相手サーヴァントのATKを、このカードのATKに加えるッッ!!」
「サーヴァントのATKを加える、ですって……?!」
「だけど、この効果を発動するターンのバトルタイム中、相手はバトルダメージを受けない──サタンのATKは4500に上昇するッッ!! お前のフィールドの『絶風のフェニックス』を破壊だッッ!!」
──逸騎の中級サーヴァントが、雲雀のエクストラサーヴァントを破壊する。
これで、雲雀の召喚ゾーンはガラ空き──勝ちを確信し、逸騎はニヤッと笑みを浮かべた。
「くっ……『絶風のフェニックス』の効果を発動するわ。このカードが破壊された時、プレイヤーはこのカードのATK分HPを回復する──『絶風のフェニックス』のATKは2500。よって私は、HPを2500回復するわ」
「チッ……バトルタイム終了時、『憤怒の悪魔 サタン』のATKは元の数値に戻る。俺はこれでエンドタイムだ」
「私のターンね」
雲雀がデッキからカードを引き──手札からサーヴァントカードを取り出した。
「私はサーヴァントカード、『SB 薫風のアイビス』を召喚。そして、『薫風のアイビス』の効果を発動。自分の破壊ゾーンから、ATK1000以下の『SB』サーヴァントカードを召喚するわ」
雲雀が破壊ゾーンからサーヴァントカードを引き抜き、そのまま屋上の床に叩き付ける。
「私が召喚するのは、ATK500の『SB 疾風のラーク』。そして私は、破壊ゾーンに存在する『SB 旋風のオウル』の効果を発動。私のHPを1000減らす事で、破壊ゾーンから召喚する事ができる」
雲雀のフィールドが、サーヴァントで埋め尽くされた。
だが──逸騎の『憤怒の悪魔 サタン』のATKには及ばない。
「『薫風のアイビス』と『疾風のラーク』、そして『旋風のオウル』を破壊ゾーンに送り──エクストラサーヴァント、『HSB 光風のハルピュイア』を召喚」
──『HSB 光風のハルピュイア』。ATK3000 DEF2000のエクストラサーヴァント。フィールドから『SB』サーヴァントを3枚も破壊ゾーンに送る事で召喚可能──『憤怒の悪魔 サタン』を上回るATKを見て、逸騎は舌打ちを漏らした。
「『光風のハルピュイア』の効果を発動。このカードが召喚された時、自分の破壊ゾーンからサーヴァントカードを召喚する。私が召喚するのは──『HSB 絶風のフェニックス』」
「エクストラサーヴァントを復活させるだと……?!」
「ただし、この効果により召喚されたサーヴァントの効果は無効化され、ATKは0になる」
──雲雀のフィールドに、二体のエクストラサーヴァントが並んだ。
だが、『絶風のフェニックス』の効果は無効化され、ATKは0──なら、そこまで警戒する必要はない。
「さらに私は、破壊ゾーンに存在する『HSB 暴風のヤタガラス』の効果を発動。このカードが破壊ゾーンに存在する時、プレイヤーのHPを2000減らす事で、破壊ゾーンから召喚する事ができる」
「三体の、エクストラサーヴァント……」
雲雀のフィールドに並んだ、三体のエクストラサーヴァント──だが、逸騎にはセットカードがある。
『憤怒の悪魔 サタン』が破壊されても──まだ、どうにかなる。
「そして、私は『HSB 絶風のフェニックス』と『HSB 光風のハルピュイア』、『HSB 暴風のヤタガラス』を生贄にし──エクストラサーヴァント、『HSB 神風のガルーダ』を召喚」
『HSB 神風のガルーダ』──ATK4000 DEF3000のエクストラサーヴァント。
エクストラサーヴァント3枚を生贄にする事で召喚できるカード──どんな効果を持っているのだろうか。
「『神風のガルーダ』の効果を発動するわ。このカードが召喚された時、相手の設置ゾーンに置かれているカードを全て破壊する──あなたが設置ゾーンに置いている2枚のカードを破壊するわ」
「マジかよ……」
「……あら、『九死に一生』と『決して消えぬ罪禍』だったのね。手札を全て破壊ゾーンに送る事で相手の直接攻撃を止めるカードと、このターンのバトルタイム中に破壊されたサーヴァントを破壊ゾーンからフィールドに召喚するカード……強力なセットカードだったのに、残念ね」
雲雀がニイッと邪悪な笑みを浮かべた。逸騎の背筋に悪寒が走る。
だが──『神風のガルーダ』のATKは4000。『憤怒の悪魔 サタン』のATKは2000。
攻撃されても、まだ逸騎のHPは残る。
「──私は、手札から『SB』サーヴァントカードを破壊ゾーンに送る事で、『神風のガルーダ』の効果を発動」
「まだ何かあんのかよッ……」
「この効果は、自分のターンに一度だけ発動できる。相手フィールドのカード1枚を破壊し──それがサーヴァントカードの場合、破壊したサーヴァントのATK分のダメージを、相手プレイヤーに与える」
「──は……?」
「私が破壊するのは、『憤怒の悪魔 サタン』。そして、『憤怒の悪魔 サタン』のATKは2000──よってあなたに、2000ダメージを与えるわ」
逸騎のHPが、5000から一気に3000へと削られた。
マズイ、これは──
「『神風のガルーダ』で、あなたに攻撃」
──たった1ターンで、逸騎のHPが全て削られた。
これが、小鳥遊 雲雀の実力──逸騎は肩を落とし、ため息を吐いた。
「私の勝ちね──と言っても、別にウォーズをしていたわけではないから、あなたのカードを貰ったりはできないのだけど」
「……なあ、この戦いも連勝記録に加えられるのか?」
「いいえ。あくまでウォーズで50連勝する事で願いが叶うのだから、こうしてウォーズをせずに、ただのカードゲームとして戦う場合は、連勝記録に影響はないわよ」
逸騎と雲雀は、『サーヴァント・ウォーズ』で戦っていた。
実際にウォーズをしていたわけではなく──単純にカードゲームとして。
「チッ……強いな、小鳥遊」
「こう見えても、17連勝しているから。始めたばかりの初心者には負けないわ」
「そうかよ……俺たち以外に、『サーヴァント・ウォーズ』のプレイヤーって学校にいるのか?」
屋上の床上に置かれたカードを回収し、逸騎が雲雀に問い掛ける。
「いないわ。まあ、もしかしたら私が気づいてないだけって可能性もあるけど」
「……なあ」
「何かしら?」
「なんでお前、俺とウォーズをしないんだ?」
そう──何故雲雀はウォーズを受けず、カードゲームとして戦う事を逸騎に提案してきたのだろうか。
「……特に理由なんてないわ。ただ……同じ学校の人とウォーズなんてしたら、気まずいでしょう?」
「それだけか?」
「それだけよ」
「そうか……なんか、悪かったな。昨日も今日も、いきなりウォーズを仕掛けて」
「別に気にしてないわ。それだけ、あなたには叶えたい願いがあるって事でしょう」
雲雀の言葉を聞き、逸騎は気まずそうに顔を背けた。
「さて……それじゃあ、教室に戻ろうかしら。明日もまた、屋上に来れる?」
「え? ……まあ、行けると思うけど……」
「明日も『サーヴァント・ウォーズ』をしましょう。ウォーズで勝つには、何度も戦ってカードを理解する事が大切だから。剣ヶ崎君の戦い方は、まだまだ無駄が多いわ。少しでもウォーズを経験して、実力を身に付けるのが大事よ。もちろん本当にウォーズをするんじゃなくて、さっきみたいにカードゲーム形式で、ね?」
「……別にいいけど……なんでそこまで俺に気を使ってくれるんだ?」
逸騎の返事に、雲雀はふふっと小さく笑った。
「だって、『サーヴァント・ウォーズ』をしている友達なんて、初めてだから。『サーヴァント・ウォーズ』のプレイヤーとは仲良くなんてなれないし、クラスメイトに話しても信じてもらえない……こうして誰かと『サーヴァント・ウォーズ』について話せるなんて、私にとっては夢みたいだもの」
「……………」
「ふふっ、意味わからないって顔してるわね。まあ、いつかあなたにもわかるわ。それじゃあね」
ひらひらと手を振り、雲雀が屋上を後にする。
一人残った逸騎は──自分のデッキケースに視線を落とした。
「……何度も戦って、カードを理解する……」
「──そうですねー、まあマスターは『サーヴァント・ウォーズ』を始めたばかりなので、自分のデッキの事を理解できてなくても仕方ないと思いますけどね」
逸騎の隣に、プリアポスが現れた。
「ボクもちゃんとしたウォーズなら、もっとマスターの役に立てるんですけどねー」
「どうだか……」
「あー! 信じてないですねマスター!」
ギャーギャーと騒ぐプリアポスに苦笑を漏らし、逸騎も教室に向かい始めた。
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