スケルトン商人と獣人メイドの異世界転移繁盛記(インフィニティ)

ヒィッツカラルド

13【ゼニルバイヤー】

 異世界に朝日が昇り始めると、大木の袂で眠っていたチルチルが目を覚ます。俺があげた毛布をめくったチルチルが、寝ぼけ眼を擦りながら朝の挨拶をかけてきた。

「むにゅむにゅ……。おはようございます、シロー様……」

『やあ、おはようさん、チルチル』

 俺は腕立て伏せを繰り返しながら挨拶を返した。

 昨晩、現実世界から帰ってきて、ずっと筋トレに励んでいた。疲れないから無限に筋トレができるのだ。そのせいでついつい夢中になってしまっていた。脳筋キャラの性である。

 しかし、筋肉どころか贅肉すら無い俺が筋トレに励んでもトレーニングになるのかは不明であった。それでもトレーニングは辞められない。

 腕立て伏せを中断した俺は、アイテムボックスからメロンパンとオレンジジュースを取り出すと、チルチルに差し出す。

『チルチル、朝ご飯だ。食べなさい』

「ありがとうございます……。シロー様、この食べ物は何ですか?」

『メロンパンだ』

「メロンパン……?」

『いいから食べなさい』

 チルチルは少し戸惑いながらも、メロンパンの袋を破いて中身を取り出す。

『ゴミは預かっておこう』

「はい……」

 そう言い、俺はチルチルから空袋を受け取った。チルチルには空袋がゴミだと理解できていなかったようで首を傾げていたが、俺に袋を取られると、やっと理解できたようだった。

 そして、一口メロンパンを齧ると、瞳を輝かせる。

「甘いです! このパンも甘いです!」

 アンパンを食べた時と同じようなリアクションだった。当然ながらオレンジジュースを飲んだ時も同様である。

 それにしてもチルチルのリアクションは素晴らしい。これからもチルチルにはナイスリアクションを見せてもらいたいから、いろいろな食べ物を与えてみたい。これはしばらく楽しめると俺の心も躍っていた。

 それから俺たちは再び町を目指して歩き出す。

 俺がチルチルのほうを見たのならば、彼女は昨晩食べたカップラーメンの器を大切層に両手で抱えていた。それが可愛らしく見える。

 そして、少し歩くと、高台から遠くに町の姿が見えた。

 麦畑のど真ん中に、石造りの防壁に囲まれた町が見える。かなり広い町に見えた。その町の中央には、西洋風の城が聳えている。ザ・ファンタジーな景色であった。

 チルチルが、その町を指差しながら言った。

「あれが、サン・モンの町です。フランスル王国の首都パリオンに次ぐ都市だと聞いています。商業が発展している町だとか――」

『商業の町か――』

 さすがは大店の娘さんだ。なかなか詳しいな。

 俺はアイテムボックスから塩が入った袋を取り出すと、チルチルに見せる。

『なあ、チルチル。この塩なんだが、町で売れるかな?』

 チルチルは俺が見せた塩を見て、少し驚いていた。

「この純白の塩、上物ですね。これは高く売れますよ!」

『そうなのか?』

「サン・モンは海から離れた町です。だから塩は貴重品なのです。さらには、これだけ純白で混じりっけのない塩なんて、一般人ではなかなか手に入らない高価な代物です。高く売れないわけがないですよ!」

『いくらぐらいで売れるの?』

「3000ゼニルは堅いかと」

『3000ゼニルっていくらだよ?』

「小銀貨三枚ですね」

『ますます意味がわからない……』

「んん……?」

『すまない。俺は他所の国から来たから、この国の物価や通貨単位が分からないんだ。よかったら説明してくれないか、チルチル』

「分かりました、シロー様……」

 それからサン・モンの町に向かいながら、チルチルの講義が始まった。通貨単位や物価の説明を俺は彼女から受ける。

 チルチル曰く――。

 この国、フランスル王国では通貨をゼニルに統一している。そのゼニルには、日本の円と同じように通貨別の単位があるらしい。

 1ゼニルが小銅貨一枚。
 10ゼニルで大銅貨一枚。
 100ゼニルで小銀貨一枚。
 1000ゼニルで大銀貨一枚。
 10000ゼニルで小金貨一枚。
 100000ゼニルが大金貨一枚らしい。

 大体、一般人の一食の食費が10ゼニルから30ゼニルらしい。そして、月の給金が3000ゼニルから5000ゼニルぐらいとのこと。

『それじゃあ、この塩袋一つで、0.5金貨ってわけなんだな』

「おかしな計算をしますね、シロー様……」

『それで、小金貨は一枚で何グラムあるんだ?』

「小金貨のグラム数は、一枚当たり1.5グラムと統一されているはずです」

『じゃあ、大金貨は十倍の15グラムなんだな』

「はい、当然です」

 ――と、なるとだ。月々に大金貨を二枚稼げれば、ゴールド商会の提示している目標をクリアできるわけだ。200000ゼニル必要になる。

 ならば塩袋が最低限3000ゼニルで売れたとして、200000ゼニル稼ぐには……。電卓、電卓……。

 俺はスマホを取り出すと電卓アプリを開いて計算する。そのスマホを、チルチルが興味深そうに覗き込んでいた。

『3000ゼニルで売ると、200000ゼニル稼ぐのに66袋は売らないとならないのか……。5000ゼニルで売れても40袋か……。これは大変だな』

 何が簡単な仕事だ。全然大変じゃないか。鬼頭の野郎、騙しやがったな。

 しかし、袋の塩は500グラムだ。日本円に換算すれば700円もしない。

『700×66=46200円が十倍ぐらいの価格に変わるなら凄いのか……』

 それを考えれば、確実にボロ儲けなのだろう。

『まあ、とりあえずは、売れるか売れないか試してみてからの話だな……』

 こうして俺たちはサン・モンの町に向かう。


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