今日からあなたが造物主です
第八話 ちゃんと世界をつくろう
まさか、世界がまるごと吹き飛んで滅ぶとは思わなかった……。
私は皇帝との一騎打ちで様々な魔法を連続して繰り出した。皇帝も負けじとあらゆる魔法を繰り出して対抗してきた。
私と皇帝の魔法合戦は意地と意地のぶつかり合いだった。
お互いエスカレートにエスカレートを重ね、ついには核融合に匹敵する威力の魔法を打ち合うまでに至った。
その結果、王宮や帝国どころか、国や大陸そのものが灼熱の炎に包まれ、ついには星そのものが太陽と同じ核融合を繰り返す巨大なエネルギーの塊と化してしまい、世界は滅びたのだった。
迂闊だった。
考えてみれば力の強さに制限をかけずに軍拡を繰り返せば土台となる国や星のほうがもたなくなるのは当たり前だ。
バトルものの漫画で主人公たちの力がインフレを起こしすぎた結果、思う存分戦えなくなったり見た目が地味で原始的な徒手空拳に戻ってしまうのはこういう理由からだったのかと実感する。
剣もダメ、魔法もダメ、なら一体どうすりゃいいんだ。
……と、以前の私ならまたふて腐れて数日を寝て過ごしただろうが、さすがに二度も失敗すればある程度学習する。
要するに力を無制限にしたのが失敗だったのだ。つまり、人間が使用できる上限と下限が決まっていればいい。
いくらなんでも個人で核融合ができるレベルの力を使えるのはマズイ。そこは文字通り身をもって理解できた。
かといって、三日三晩不眠不休で呪文を唱えて体力や精神をすり減らし、その結果紙を焦がす程度の熱しか生み出せないというのでは話にならない。
力のバランスが必要だ。
そう考えた私は魔法の上限と下限について、バランスを取ることに集中した。
ところがこれがとんでもなく手間だった。
考えてみればRPG等のゲームでもバランス調整が一番大変だというのはよく聞く話だ。
炎の呪文、とひとつ設定するだけでもかなりの時間とバランス調整が必要になった。
さらに炎だけでは整合性が取れても、氷の呪文、風の呪文、と種類が増えれば増えるほど整合性とバランスを取るのが難しく、簡単に調和は崩れてしまう。風だけが強くなりすぎたり、逆に弱くなりすぎたりと、力のバランスは行ったり来たりだ。
そしてまた最初からやり直してはまた崩れ、これを繰り返すことになった。
一か月程バランスの調整に集中し、ようやくある程度のひな型ができた。
今回は実際に話を作り出すまでにもっとも長い時間がかかってしまったが、以前のようにスネて時間を無駄に浪費していたわけではない。必要な手間と時間だったのだ。
その結果、偶然の産物ではあるが剣術などの物理的な破壊力についてもある程度の目安が見えてきた。
人間が修行を続けてどこまで破壊力を得ることができるのか、武器での強化は、防具による軽減は、これらは魔法のバランスを調整してできたひな型をほぼそのまま応用できた。なんのことはない。私は力のバランス配分を考えていたつもりだったが、世界の物理法則を物語の範囲内で設定していたのだ。
ゲームなど作ったこともない私にとっては大変な作業だったが、やってみるとパズルを組み立てていくようで実に楽しかった。上手くいかなくてイライラしたこともあったが、その点もパズルとよく似ていた。そう考えると、これまで物語を描く以外の時間でもっとも楽しかったと言えるかもしれない。
全てのバランス調整が終了し、いよいよ実際に稼働させる時が来た。
もちろん、実際に運用した結果、またゼロから作り直しになる可能性は否定できないが、それはそれでやり甲斐がある。
人間の強化の上下限を設定しただけで満足してしまいそうになったが、そこは当初の目的に立ち返らねばならない。
◇ ◇ ◇
今回の私は自分を冒険者ギルドの能力査定を行うギルドマスターに設定した。
と言っても、私は冒険者ギルドという安直でバカげた設定が大嫌いだ。
以前にも冒険者という呼称そのものが欺瞞に満ちたものであることは話したと思うが、そんな連中がギルド、つまり職能組合を結成するなどどう考えても矛盾しかない。
互助会と言い換えて抗弁する者もいるだろうが、そもそも互助という社会的な活動ができない者だからこそ一発あてたい山師になるのだ。堅実に生きるなら農夫なり鍛冶屋なり、まっとうに産業に従事し、労働や修練に励めばいいだけの話だ。それらの地道な努力や忍耐に耐えられない社会不適応者どもに互助などできるとは思えない。結成したところですぐに瓦解するだろう。なにせ全員が「宝くじ当たんねーかな」と妄想しているに等しい輩だ。違いはくじの購入を金銭ではなく、体力や暴力で支払っているだけだ。
犯罪者ギルドは一般人のコミュニティからドロップアウトした者たちの受け皿としてまだ分かる。戦争をするための傭兵ギルドも仲介や給金の支払い、戦争がない時の抑え役として必要性があるのは分かる。どちらもろくでなしの集団には変わりないが、それでも社会から必要悪として一定の需要がある。何よりどちらも犯罪、戦争という一定の技量を持った職人とみなすことができる。少なくとも、どちらも一般人がおいそれと関われることではない。
だが冒険者などという得体の知れない連中はどうか。
犯罪者として町の裏側のルールに従うのもイヤ、戦争という命のやり取りもイヤ、そんなムシのいい奴らがアリもしない妄想を「夢」だの「ロマン」だのと言い換えているだけで、互助ができるような素養など最初から持ち合わせていないのだ。
旅や野営をするプロだから職人だ、などと言う者もいるだろうが、ならばどうして“旅人ギルド”というものがこの世のどこにも存在していないのか。
理由は行商人やジプシー、遊牧民などの一定の目的をもった者たちがその互助会を結成しているから不要なためだ。ただ単にあてもなくフラフラ各地を放浪し、定住しないだけの連中を誰が助けるというのか。旅も野営も目的があるからするものなのだ。
……話が逸れてしまったが、そんないかにも作者が何も考えていない手抜きの証明のような冒険者ギルドなど、本当は設定したくはなかった。
だが今回の目的は私の考えたパワーバランスがどこまで通用し、破綻をきたさないかを調べるデータ収集が目的だ。私の個人的感情は抜きにして、システムとして便利だから採用することにした。実に不本意ではあるが。
とは言え、私も作家を目指した者の端くれ。存在するわけもない矛盾だらけの稚拙な組織を置き、まして自分がその一員になるなど我慢ができない。
そこで今回は王家の直轄による組織を便宜上“冒険者ギルド”と呼ぶことにした。
そして隣国と頻繁に小競り合いがあり、戦争のための傭兵ギルドも兼任することにした。これなら国境を超えて旅をする定住しない者たちから情報を集め、一定の監視を施すことができる。
モンスターの類は存在しないことにした。
よくこの手のギルドを成立させる力技として、国土の付近に突然ダンジョンが現れた、という手法を取る者がいるが、そんなことで何故食い詰め浪人たちが集まってくるのか説明がつかない。
穴ぐらから怪物たちがのべつまくなし溢れてくるのでもない限り、まずは穴を封鎖、あるいは監視だろう。常備軍がないとしても、まずは国に選ばれた調査隊が派遣されるはずだ。その調査隊が全滅したために冒険者を……という展開は多い。しかしそもそも国が選んだエリートが頓挫するような危険領域に住所不定無職のゴロツキどもが挑むと本気で思うのだろうか? 死刑囚が懲罰隊として無理矢理突っ込まされるのならまだしも、流浪のゴロツキなどさっさとその国から逃げ出すだろう。何せ定住していないのだから逃げるのにも身軽だ。英雄願望の愚か者は数人挑むかもしれないが、ギルドが必要になるほどの多数が集まるとは思えない。
しかもお宝が眠っているという確たる情報がなければなおさらだ。お宝があるならあるで、国が発掘のために封鎖、独占に動くだろうから踏み込みようがない。嘘のお宝情報で冒険者を釣って送り込むという手法は考えられなくもないが、目端のきく連中なら「じゃあなんで国が自分で独占しないんだ」という疑問にいきあたり、捨て駒にされている事実に気づいて結局逃げられる。
どこのバカな国が豊富な金脈の発掘や持ち出しを素性の知れない者に許可するというのか。安い労働力として酷使するならまだしも、契約のない雇用に誰が応じるのか。金が欲しいのは国だって同じだ。
だいたい突発的な異常事態に対して、どうしてギルドなどという文化が突然ポンとわいて出ると思えるのか疑問でならない。人間社会はそんな器用に、迅速に対応できるわけではない。震災から十年以上経過してなお復興が進んでいないことを見れば分かりそうなものだ。治安の良い日本ですらこの有様だ。弱肉強食の中世ヨーロッパならなおさらだろう。
ならば成立する要件は限られる。
つまり行政による管理、監督、そして戦争という“他者からの略奪管理”の用途だ。
十六世紀頃に英国が私掠戦の免許を発行したのが一番近いだろうか。奪う相手がいて、それが人間だからこそ人は対応できるし、組織を組むことができる。そこに行政としての金や手間が介入するならなおのこと確固たる利益が明示されていなければならない。
つまり、冒険者という名の傭兵兼敵国監視員、それも使い捨ての連中を管理する組織ということだ。
私は皇帝との一騎打ちで様々な魔法を連続して繰り出した。皇帝も負けじとあらゆる魔法を繰り出して対抗してきた。
私と皇帝の魔法合戦は意地と意地のぶつかり合いだった。
お互いエスカレートにエスカレートを重ね、ついには核融合に匹敵する威力の魔法を打ち合うまでに至った。
その結果、王宮や帝国どころか、国や大陸そのものが灼熱の炎に包まれ、ついには星そのものが太陽と同じ核融合を繰り返す巨大なエネルギーの塊と化してしまい、世界は滅びたのだった。
迂闊だった。
考えてみれば力の強さに制限をかけずに軍拡を繰り返せば土台となる国や星のほうがもたなくなるのは当たり前だ。
バトルものの漫画で主人公たちの力がインフレを起こしすぎた結果、思う存分戦えなくなったり見た目が地味で原始的な徒手空拳に戻ってしまうのはこういう理由からだったのかと実感する。
剣もダメ、魔法もダメ、なら一体どうすりゃいいんだ。
……と、以前の私ならまたふて腐れて数日を寝て過ごしただろうが、さすがに二度も失敗すればある程度学習する。
要するに力を無制限にしたのが失敗だったのだ。つまり、人間が使用できる上限と下限が決まっていればいい。
いくらなんでも個人で核融合ができるレベルの力を使えるのはマズイ。そこは文字通り身をもって理解できた。
かといって、三日三晩不眠不休で呪文を唱えて体力や精神をすり減らし、その結果紙を焦がす程度の熱しか生み出せないというのでは話にならない。
力のバランスが必要だ。
そう考えた私は魔法の上限と下限について、バランスを取ることに集中した。
ところがこれがとんでもなく手間だった。
考えてみればRPG等のゲームでもバランス調整が一番大変だというのはよく聞く話だ。
炎の呪文、とひとつ設定するだけでもかなりの時間とバランス調整が必要になった。
さらに炎だけでは整合性が取れても、氷の呪文、風の呪文、と種類が増えれば増えるほど整合性とバランスを取るのが難しく、簡単に調和は崩れてしまう。風だけが強くなりすぎたり、逆に弱くなりすぎたりと、力のバランスは行ったり来たりだ。
そしてまた最初からやり直してはまた崩れ、これを繰り返すことになった。
一か月程バランスの調整に集中し、ようやくある程度のひな型ができた。
今回は実際に話を作り出すまでにもっとも長い時間がかかってしまったが、以前のようにスネて時間を無駄に浪費していたわけではない。必要な手間と時間だったのだ。
その結果、偶然の産物ではあるが剣術などの物理的な破壊力についてもある程度の目安が見えてきた。
人間が修行を続けてどこまで破壊力を得ることができるのか、武器での強化は、防具による軽減は、これらは魔法のバランスを調整してできたひな型をほぼそのまま応用できた。なんのことはない。私は力のバランス配分を考えていたつもりだったが、世界の物理法則を物語の範囲内で設定していたのだ。
ゲームなど作ったこともない私にとっては大変な作業だったが、やってみるとパズルを組み立てていくようで実に楽しかった。上手くいかなくてイライラしたこともあったが、その点もパズルとよく似ていた。そう考えると、これまで物語を描く以外の時間でもっとも楽しかったと言えるかもしれない。
全てのバランス調整が終了し、いよいよ実際に稼働させる時が来た。
もちろん、実際に運用した結果、またゼロから作り直しになる可能性は否定できないが、それはそれでやり甲斐がある。
人間の強化の上下限を設定しただけで満足してしまいそうになったが、そこは当初の目的に立ち返らねばならない。
◇ ◇ ◇
今回の私は自分を冒険者ギルドの能力査定を行うギルドマスターに設定した。
と言っても、私は冒険者ギルドという安直でバカげた設定が大嫌いだ。
以前にも冒険者という呼称そのものが欺瞞に満ちたものであることは話したと思うが、そんな連中がギルド、つまり職能組合を結成するなどどう考えても矛盾しかない。
互助会と言い換えて抗弁する者もいるだろうが、そもそも互助という社会的な活動ができない者だからこそ一発あてたい山師になるのだ。堅実に生きるなら農夫なり鍛冶屋なり、まっとうに産業に従事し、労働や修練に励めばいいだけの話だ。それらの地道な努力や忍耐に耐えられない社会不適応者どもに互助などできるとは思えない。結成したところですぐに瓦解するだろう。なにせ全員が「宝くじ当たんねーかな」と妄想しているに等しい輩だ。違いはくじの購入を金銭ではなく、体力や暴力で支払っているだけだ。
犯罪者ギルドは一般人のコミュニティからドロップアウトした者たちの受け皿としてまだ分かる。戦争をするための傭兵ギルドも仲介や給金の支払い、戦争がない時の抑え役として必要性があるのは分かる。どちらもろくでなしの集団には変わりないが、それでも社会から必要悪として一定の需要がある。何よりどちらも犯罪、戦争という一定の技量を持った職人とみなすことができる。少なくとも、どちらも一般人がおいそれと関われることではない。
だが冒険者などという得体の知れない連中はどうか。
犯罪者として町の裏側のルールに従うのもイヤ、戦争という命のやり取りもイヤ、そんなムシのいい奴らがアリもしない妄想を「夢」だの「ロマン」だのと言い換えているだけで、互助ができるような素養など最初から持ち合わせていないのだ。
旅や野営をするプロだから職人だ、などと言う者もいるだろうが、ならばどうして“旅人ギルド”というものがこの世のどこにも存在していないのか。
理由は行商人やジプシー、遊牧民などの一定の目的をもった者たちがその互助会を結成しているから不要なためだ。ただ単にあてもなくフラフラ各地を放浪し、定住しないだけの連中を誰が助けるというのか。旅も野営も目的があるからするものなのだ。
……話が逸れてしまったが、そんないかにも作者が何も考えていない手抜きの証明のような冒険者ギルドなど、本当は設定したくはなかった。
だが今回の目的は私の考えたパワーバランスがどこまで通用し、破綻をきたさないかを調べるデータ収集が目的だ。私の個人的感情は抜きにして、システムとして便利だから採用することにした。実に不本意ではあるが。
とは言え、私も作家を目指した者の端くれ。存在するわけもない矛盾だらけの稚拙な組織を置き、まして自分がその一員になるなど我慢ができない。
そこで今回は王家の直轄による組織を便宜上“冒険者ギルド”と呼ぶことにした。
そして隣国と頻繁に小競り合いがあり、戦争のための傭兵ギルドも兼任することにした。これなら国境を超えて旅をする定住しない者たちから情報を集め、一定の監視を施すことができる。
モンスターの類は存在しないことにした。
よくこの手のギルドを成立させる力技として、国土の付近に突然ダンジョンが現れた、という手法を取る者がいるが、そんなことで何故食い詰め浪人たちが集まってくるのか説明がつかない。
穴ぐらから怪物たちがのべつまくなし溢れてくるのでもない限り、まずは穴を封鎖、あるいは監視だろう。常備軍がないとしても、まずは国に選ばれた調査隊が派遣されるはずだ。その調査隊が全滅したために冒険者を……という展開は多い。しかしそもそも国が選んだエリートが頓挫するような危険領域に住所不定無職のゴロツキどもが挑むと本気で思うのだろうか? 死刑囚が懲罰隊として無理矢理突っ込まされるのならまだしも、流浪のゴロツキなどさっさとその国から逃げ出すだろう。何せ定住していないのだから逃げるのにも身軽だ。英雄願望の愚か者は数人挑むかもしれないが、ギルドが必要になるほどの多数が集まるとは思えない。
しかもお宝が眠っているという確たる情報がなければなおさらだ。お宝があるならあるで、国が発掘のために封鎖、独占に動くだろうから踏み込みようがない。嘘のお宝情報で冒険者を釣って送り込むという手法は考えられなくもないが、目端のきく連中なら「じゃあなんで国が自分で独占しないんだ」という疑問にいきあたり、捨て駒にされている事実に気づいて結局逃げられる。
どこのバカな国が豊富な金脈の発掘や持ち出しを素性の知れない者に許可するというのか。安い労働力として酷使するならまだしも、契約のない雇用に誰が応じるのか。金が欲しいのは国だって同じだ。
だいたい突発的な異常事態に対して、どうしてギルドなどという文化が突然ポンとわいて出ると思えるのか疑問でならない。人間社会はそんな器用に、迅速に対応できるわけではない。震災から十年以上経過してなお復興が進んでいないことを見れば分かりそうなものだ。治安の良い日本ですらこの有様だ。弱肉強食の中世ヨーロッパならなおさらだろう。
ならば成立する要件は限られる。
つまり行政による管理、監督、そして戦争という“他者からの略奪管理”の用途だ。
十六世紀頃に英国が私掠戦の免許を発行したのが一番近いだろうか。奪う相手がいて、それが人間だからこそ人は対応できるし、組織を組むことができる。そこに行政としての金や手間が介入するならなおのこと確固たる利益が明示されていなければならない。
つまり、冒険者という名の傭兵兼敵国監視員、それも使い捨ての連中を管理する組織ということだ。
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