今日からあなたが造物主です
第七話 魔法だけの戦い
今回もまったく楽しめなかった……。
いや、今回も私が悪いのだが。
一体何があったのかって?
あまり思い出したくはないのだが……前回の世界の対決を少し振り返るとしよう。自戒の意味もこめて。
私とアオイは闘技大会で決勝という名の決闘にのぞんだ。
「参るぞ! 卑怯者!」
アオイが野太刀を振りかざして突っ込んで来る。馬の突進と変わらない迫力なのは彼の怒りがそう見せるのか。
あんな重い太刀とまとみに打ち合えばこちらの刃はボロボロだ。最悪の場合、真っ二つにへし折れてしまうかもしれない。
真正面から受け止めるのではなく、当てて軌道を逸らすしかない。野球のバントのように、少ない力で刀にダメージを蓄積させずに払うのだ。受け止めるのではなく流すしかない。
カキッ。
アオイの刃に側面をあて、滑らせる。
シャリン。
アオイが太刀を振り直す。
カキッ、シャリン。
また受け流す。
カキッ、シャリン。
「正面から勝負しろ!」
アオイが私を罵倒する。そう言われてもまともに打ち合えば丸腰になってしまう。
カキッ、シャリン。
カキッ、シャリン、カキッ、シャリン、カキッ、シャリン、
ああ、もうこれ以上思い出させないでくれ!
つまり私に剣での斬りあいなんて描けるわけがなかったのだ!
そもそも運動神経ゼロ、剣などのこの世界に来るまで握ったこともない私に、どんな白熱するバトルが描けるというのか?
ただ武器が当たりさえすれば敵が蒸発する無双チートとはわけが違う。
私はそっとノートのページを破り捨て、全てをなかったことにしたのだった。
また数日ふてくされていたが、このままでは負けたような気がして、それも癪だ。
だがもう剣と剣のアクションものは描きたくない。いや描けない。
また自分の無能を痛感させられるのはゴメンだ。
肉体的なぶつかり合いがダメなら……そうだ、魔法はどうだろう?
魔法なら、この世の誰だって使える者はいない。手や目から光線やエネルギー砲を出すマンガや小説は山のようにあるが、作者自身がそれをできるわけではない。
つまり、私にでも描ける可能性が高いということだ。少なくとも剣や拳の戦いよりは分が悪くないはずだ。
そうだ、魔法で行こう!
◇ ◇ ◇
ロマール帝国。
広大な大陸を一国で支配する魔法の国だ。
ロマールでは魔法を使える者だけが貴族であり、それ以外は奴隷扱いされている。貴族の中でも王侯は魔術で不老不死に近い存在であり、王は文字通り神にも等しい存在だった。
今回の私は王国のいち魔術師だ。年齢はかなり若く二十一歳にした。
貴族と言えば聞こえはいいが家柄も魔術の才もさほどのものではなく、辛うじて人間扱いされる程度の下級貴族だ。不老不死になど到底及ばない程度の力しか持ち合わせていない。それでも奴隷扱いよりは各段にマシだが。
そんな私が奴隷たち、つまり非魔術師階級を束ね、帝国に反旗を翻すことになろうとは……。
半年前、私は一人の女性と恋に落ちた。
彼女は奴隷、つまり魔法を使うことができない不通の人間だった。
しかし私も貴族としてはたいした力もない。私と彼女の差はほんの少しのものでしかなく、せいぜい運動が得意か不得意とか、泳ぎが上手いとか苦手だとか、その程度のものでしかなかった。
しかし貴族と奴隷の結婚は許されていない。
貴族が奴隷を一晩の慰み者として使い捨てるのは日常だったが、私は彼女との結婚を真剣に考えていた。当然周囲は猛反対し、特に父に至っては「お前もあの卑しい奴隷と同じ、底辺に落ちたいのか」と面罵してきた。
たとえ奴隷の身に落とされたとしても私の決意は変わらない。そう思っていた。
だが父の思惑は全く別にあったのだ。
ある晩、私は家を出て奴隷になろうと決意したが、父は「最後に説得させてくれ」と私を強く引き留めた。
父はそれまでの態度を一変させ、いかに私の身を案じているか、いかに私を愛しているかを延々と説き、豪華な食事と酒で私をもてなし、引き留めた。
ここで疑うべきだったのだ。
夜半過ぎ、何やら胸騒ぎがした私は父の制止を振り切って家を飛び出し、彼女のもとへ走った。
そこで私が見たものは、愛する人とその家族が住む区画がまるごと火に包まれいてる光景だった。
父の手の者による放火だった。
この世界は間違っている。なにもかもが間違っている。誰かがそれを正すしかない。たとえ力づくであっても。
そう思った時、私の中で膨れ上がった怒りが隠されていた魔術の才能を開花させた。
……という設定で今回は行くことにした。
今、私は王宮の玉座の間に立っている。目の前にはこの帝国を数千年に渡って統治する皇帝が、後ろには何百人もの非魔術師階級の民衆がいる。
私は民衆たちにあらゆる魔法の効果を打ち消す呪文を施して貴族たちの魔術を無力化し、武装蜂起によってここまで辿り着いた。
当然私も民衆たちを魔術で支援することは一切できないが、もっとも単純で効果的な物理的な暴力と破壊の効果はてきめんだった。
これまで全ての治安維持を魔術に頼りきってきた貴族たちは丸裸も同然であり、なす術もなくこれまでの暴虐の報いの代償を支払うことになった。
私が目覚めた力は、無尽蔵にこの世界の魔力を使う方法だった。民衆たちがこれまで蜂起できなかったのは、呪文の無効化を施すのに莫大な魔力を必要としたためだった。だが、私にはほぼ無限ともいえる魔力を自然界から引き出すことができる。
おそらく貴族たちの不老不死もこの応用なのだろう。今の私なら、やろうと思えば不老不死もたやすい。ただどういうわけか、私が自然界から引き出せる力には制限がなかった。通常の貴族たちが不老不死に必要な魔力を引き出すにはかなりの時間と労力が必要だ。しかし私は願うだけで、念じるだけでいくらでも魔力が手に入る。
既にこの国の貴族の大半が殺され、私は皇帝に一騎打ちを申し出た。
勝った側がこの国の皇帝となる。
皇帝は玉座からゆったりと立ち上がり、威厳のある声で私に言い放った。
「息子よ。待ちわびたぞ」
「……なんだと?」
「皇帝とは、森羅万象の全てに認められ、一体化し、その全てを引き出すことができる者。その力をもちうる者だけが皇帝たりえる」
「なぜ私を息子と呼ぶ?」
「建国以来、数千年待ち続けた。もはや諦めかけていた。私と同じ力を持つ、真の後継者がが現れるのを。嬉しいぞ我が息子よ。血のつながりではない。ただ真の力、皇帝たる資質によってのみ、我らは受け継がれるのだ」
「私はこの帝国を滅ぼしに来たのだ1 人が人として、奴隷ではなく自由に生きられる国を新たに造るために! たとえあなたが血のつながった実の父であっても……私にとっては倒すべき敵だ!」
「……残念だ。息子よ。ようやく現れた我が後継者よ。お前を帝国の土へと還すことになろうとは」
「みんな、下がっててくれ! 私たちのそばにいるとただでは済まない!」
私は背後の民衆たちを下がらせた。彼らのおかげでここまで来れた。ここから先は、私の役目だ。
「行くぞ!」
私は皇帝を睨む。
視界が赤く、紅蓮に染まる。炎の呪文を使う前兆だ。氷なら青く、風なら白く視界が染まる。私が最初に怒りによって覚えたのが自然界から炎を引き出す力だ。
だが今回使うのはただの炎ではない。岩を、いやマグマすらも蒸発させる程の熱量をぶつけ、王級ごと吹き飛ばすつもりだ。
皇帝の目が青く染まるのが見える。私の意図を瞬時に察して氷で封じ込めようというのだろう。
私と皇帝、どちらの魔力が強いかは分からない。いや、普通に考えれば数千年この地に君臨し続けてきた皇帝のほうが強いと考えるのが妥当だ。
だが負けるわけにはいかない。
おそらく水蒸気爆発によってどの道王級は吹き飛ぶことだろう。もしかしたら帝国そのものが吹き飛ぶかもしれない。
ふと、私を支えてここまで来てくれた民衆一人一人の顔が浮かんだ。もしかすると、彼らごと吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがもう後には引けない。
私は戦う。
この国に住む虐げられてきた人々と、私自身のために……!
いや、今回も私が悪いのだが。
一体何があったのかって?
あまり思い出したくはないのだが……前回の世界の対決を少し振り返るとしよう。自戒の意味もこめて。
私とアオイは闘技大会で決勝という名の決闘にのぞんだ。
「参るぞ! 卑怯者!」
アオイが野太刀を振りかざして突っ込んで来る。馬の突進と変わらない迫力なのは彼の怒りがそう見せるのか。
あんな重い太刀とまとみに打ち合えばこちらの刃はボロボロだ。最悪の場合、真っ二つにへし折れてしまうかもしれない。
真正面から受け止めるのではなく、当てて軌道を逸らすしかない。野球のバントのように、少ない力で刀にダメージを蓄積させずに払うのだ。受け止めるのではなく流すしかない。
カキッ。
アオイの刃に側面をあて、滑らせる。
シャリン。
アオイが太刀を振り直す。
カキッ、シャリン。
また受け流す。
カキッ、シャリン。
「正面から勝負しろ!」
アオイが私を罵倒する。そう言われてもまともに打ち合えば丸腰になってしまう。
カキッ、シャリン。
カキッ、シャリン、カキッ、シャリン、カキッ、シャリン、
ああ、もうこれ以上思い出させないでくれ!
つまり私に剣での斬りあいなんて描けるわけがなかったのだ!
そもそも運動神経ゼロ、剣などのこの世界に来るまで握ったこともない私に、どんな白熱するバトルが描けるというのか?
ただ武器が当たりさえすれば敵が蒸発する無双チートとはわけが違う。
私はそっとノートのページを破り捨て、全てをなかったことにしたのだった。
また数日ふてくされていたが、このままでは負けたような気がして、それも癪だ。
だがもう剣と剣のアクションものは描きたくない。いや描けない。
また自分の無能を痛感させられるのはゴメンだ。
肉体的なぶつかり合いがダメなら……そうだ、魔法はどうだろう?
魔法なら、この世の誰だって使える者はいない。手や目から光線やエネルギー砲を出すマンガや小説は山のようにあるが、作者自身がそれをできるわけではない。
つまり、私にでも描ける可能性が高いということだ。少なくとも剣や拳の戦いよりは分が悪くないはずだ。
そうだ、魔法で行こう!
◇ ◇ ◇
ロマール帝国。
広大な大陸を一国で支配する魔法の国だ。
ロマールでは魔法を使える者だけが貴族であり、それ以外は奴隷扱いされている。貴族の中でも王侯は魔術で不老不死に近い存在であり、王は文字通り神にも等しい存在だった。
今回の私は王国のいち魔術師だ。年齢はかなり若く二十一歳にした。
貴族と言えば聞こえはいいが家柄も魔術の才もさほどのものではなく、辛うじて人間扱いされる程度の下級貴族だ。不老不死になど到底及ばない程度の力しか持ち合わせていない。それでも奴隷扱いよりは各段にマシだが。
そんな私が奴隷たち、つまり非魔術師階級を束ね、帝国に反旗を翻すことになろうとは……。
半年前、私は一人の女性と恋に落ちた。
彼女は奴隷、つまり魔法を使うことができない不通の人間だった。
しかし私も貴族としてはたいした力もない。私と彼女の差はほんの少しのものでしかなく、せいぜい運動が得意か不得意とか、泳ぎが上手いとか苦手だとか、その程度のものでしかなかった。
しかし貴族と奴隷の結婚は許されていない。
貴族が奴隷を一晩の慰み者として使い捨てるのは日常だったが、私は彼女との結婚を真剣に考えていた。当然周囲は猛反対し、特に父に至っては「お前もあの卑しい奴隷と同じ、底辺に落ちたいのか」と面罵してきた。
たとえ奴隷の身に落とされたとしても私の決意は変わらない。そう思っていた。
だが父の思惑は全く別にあったのだ。
ある晩、私は家を出て奴隷になろうと決意したが、父は「最後に説得させてくれ」と私を強く引き留めた。
父はそれまでの態度を一変させ、いかに私の身を案じているか、いかに私を愛しているかを延々と説き、豪華な食事と酒で私をもてなし、引き留めた。
ここで疑うべきだったのだ。
夜半過ぎ、何やら胸騒ぎがした私は父の制止を振り切って家を飛び出し、彼女のもとへ走った。
そこで私が見たものは、愛する人とその家族が住む区画がまるごと火に包まれいてる光景だった。
父の手の者による放火だった。
この世界は間違っている。なにもかもが間違っている。誰かがそれを正すしかない。たとえ力づくであっても。
そう思った時、私の中で膨れ上がった怒りが隠されていた魔術の才能を開花させた。
……という設定で今回は行くことにした。
今、私は王宮の玉座の間に立っている。目の前にはこの帝国を数千年に渡って統治する皇帝が、後ろには何百人もの非魔術師階級の民衆がいる。
私は民衆たちにあらゆる魔法の効果を打ち消す呪文を施して貴族たちの魔術を無力化し、武装蜂起によってここまで辿り着いた。
当然私も民衆たちを魔術で支援することは一切できないが、もっとも単純で効果的な物理的な暴力と破壊の効果はてきめんだった。
これまで全ての治安維持を魔術に頼りきってきた貴族たちは丸裸も同然であり、なす術もなくこれまでの暴虐の報いの代償を支払うことになった。
私が目覚めた力は、無尽蔵にこの世界の魔力を使う方法だった。民衆たちがこれまで蜂起できなかったのは、呪文の無効化を施すのに莫大な魔力を必要としたためだった。だが、私にはほぼ無限ともいえる魔力を自然界から引き出すことができる。
おそらく貴族たちの不老不死もこの応用なのだろう。今の私なら、やろうと思えば不老不死もたやすい。ただどういうわけか、私が自然界から引き出せる力には制限がなかった。通常の貴族たちが不老不死に必要な魔力を引き出すにはかなりの時間と労力が必要だ。しかし私は願うだけで、念じるだけでいくらでも魔力が手に入る。
既にこの国の貴族の大半が殺され、私は皇帝に一騎打ちを申し出た。
勝った側がこの国の皇帝となる。
皇帝は玉座からゆったりと立ち上がり、威厳のある声で私に言い放った。
「息子よ。待ちわびたぞ」
「……なんだと?」
「皇帝とは、森羅万象の全てに認められ、一体化し、その全てを引き出すことができる者。その力をもちうる者だけが皇帝たりえる」
「なぜ私を息子と呼ぶ?」
「建国以来、数千年待ち続けた。もはや諦めかけていた。私と同じ力を持つ、真の後継者がが現れるのを。嬉しいぞ我が息子よ。血のつながりではない。ただ真の力、皇帝たる資質によってのみ、我らは受け継がれるのだ」
「私はこの帝国を滅ぼしに来たのだ1 人が人として、奴隷ではなく自由に生きられる国を新たに造るために! たとえあなたが血のつながった実の父であっても……私にとっては倒すべき敵だ!」
「……残念だ。息子よ。ようやく現れた我が後継者よ。お前を帝国の土へと還すことになろうとは」
「みんな、下がっててくれ! 私たちのそばにいるとただでは済まない!」
私は背後の民衆たちを下がらせた。彼らのおかげでここまで来れた。ここから先は、私の役目だ。
「行くぞ!」
私は皇帝を睨む。
視界が赤く、紅蓮に染まる。炎の呪文を使う前兆だ。氷なら青く、風なら白く視界が染まる。私が最初に怒りによって覚えたのが自然界から炎を引き出す力だ。
だが今回使うのはただの炎ではない。岩を、いやマグマすらも蒸発させる程の熱量をぶつけ、王級ごと吹き飛ばすつもりだ。
皇帝の目が青く染まるのが見える。私の意図を瞬時に察して氷で封じ込めようというのだろう。
私と皇帝、どちらの魔力が強いかは分からない。いや、普通に考えれば数千年この地に君臨し続けてきた皇帝のほうが強いと考えるのが妥当だ。
だが負けるわけにはいかない。
おそらく水蒸気爆発によってどの道王級は吹き飛ぶことだろう。もしかしたら帝国そのものが吹き飛ぶかもしれない。
ふと、私を支えてここまで来てくれた民衆一人一人の顔が浮かんだ。もしかすると、彼らごと吹き飛ばしてしまうかもしれない。
だがもう後には引けない。
私は戦う。
この国に住む虐げられてきた人々と、私自身のために……!
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