TS転生、無自覚サキュバス異世界無双! ~魅了の力は無いはずなのに、みんなに好かれて最強です!?~

龍田たると

37.エピローグ


 竜人族の襲撃から数か月が過ぎた。
 大きな事件が起こることもなく、僕たちは穏やかな日々を過ごしている。

 先の決闘の後、ゴズマは宣言通り竜騎兵の軍団を撤退させ、以降も魔王軍に攻めてくることはなかった。
 名誉を重んじる武人である竜人族。
 侵略行為に躊躇はなくても、ひとたび相手を対等と認めれば、相応の敬意を払ってくれるらしい。
 ありがたいことに、僕の決闘で魔王軍全体が彼らのお眼鏡にかなったらしく、竜人たちは他の魔族ごとこちらを認めてくれるようになった。
 そして現在は、彼らの本国と交易を始めるため、会談を重ねている最中だ。
 魔王様の許可も取り、僕はロザリンドといっしょにその任務に当たっている。
 ……といっても、会談の最中、僕は横で座っているだけなんだけど。

 コウセイさんは、竜人に壊滅させられた人間の国に一度戻ることになった。
 王族や貴族はともかく、城下の人たちの復興を手伝いたいのだという。
 ただ、竜人が壊したのは主に王宮や宮殿で、町にそれほど大きな被害はなかったらしい。
 それでも、その状況にかこつけて、貴族たちが無法な搾取を行うおそれがある。
 勇者であるコウセイさんとしては、それを監視する目的もあるようだ。
 僕は、そんな彼を本当に偉いなと尊敬してしまう。
 ちなみに、時々はナナミさんの道場に来てくれて、ディノスも含めて皆で稽古している。その時に色々と報告してくれるのだ。
 ちょうどこの日も、彼も加えての稽古日で、ナナミさんとディノスの主導で剣の稽古をしている最中だった。

「うーん……『手で抜かないで、腰で抜く』っていうのがよくわからないんだよね……」

「ラテア、あまり考えすぎない方がいいぞ。まあ、とりあえず、手よりも体の方を動かすことを意識するんだ」

「ありがと、ディノス。体の方、体全体ってことかな……」

「手は動かさないで、な」

「いやだから、手は動かさないのに、どうやって鞘から剣を抜くのさ……」

「頼もーう!」

 と、その時、聞き覚えのある野太い声がこだまする。
 入り口の方を見ると、引き戸よりも高い背丈の男が立っていた。
 竜人ゴズマ。今日はタンクトップの私服姿でラフな格好だ。

「ご、ゴズマ……さん?」

「久しいな、ラテアにその取り巻きたち! 貴様らがここでいつも鍛錬していると聞いてな。加わらせてもらおうと思い、立ち寄ったのだ」

「と、取り巻きって……」

「加わる……立ち合いじゃなくてか?」

 コウセイさんは顔を引きつらせ、ディノスは少し緊張した様子で問う。
 ゴズマは「おうさ」と答えて、僕たちに言った。

「我らは友になったのだろう? 俺は立ち合いでも構わんが、ラテアはそれを望まんと思ってな。ならば、無理に戦う必要もあるまい」

 その表情は朗らかさとともに、こちらへの気遣いが見て取れるもので。

「何より、俺を手玉に取った技が、どんなものか知りたくてな。見せて欲しいのだ」

「僕は別に構いませんけど……。決闘の時に使った投げ技は、僕が自分で編み出したものじゃないですよ? 色々な技術を組み合わせただけで……」

「わかっている。だが、気構えや技の使いどころは、それぞれで考えていることが違うだろう? そういうことも含めて語りたいのだ」

 それで互いに研鑽できれば、この上ない成果とは思わんか──ゴズマは険の取れた表情で笑って言った。

「……ええ、そうですね」

 僕はなんだか嬉しくなって、同じように顔がほころんでしまう。
 ナナミさんへ振り返ると、彼女もゴズマを道場に上げることに異議はないようで、小さくうなずいてくれた。

「とりあえず、隅で座って見ていればいいか?」

「はい。座る時は、足を崩してもらって大丈夫ですから。あ、靴は脱いで下さいね」

「おお、そうなのか。了解した」

 そんな感じで、いつものメンバーに新しい稽古仲間が加わることになる。
 僕は多くの人との出会いに感謝しつつ、これからもこうやって日常を送っていくんだろうなあ……なんてことを、心穏やかに思うのだった。

 ただ──

「ねぇラテア、稽古中に悪いんだけど、あんたの領地の村から連絡が来てね。動画作成を教えて欲しいんですって。それを使って、もっと多くの村を魔王軍に取り込めるんじゃないかって言うんだけど……」

「えっ、フェルミー!? どうして道場に?」

 不意の声に振り向くと、そこにいたのはフェルミー。
 僕は驚いて声を上げ、「遠いのに、よく来れたね」と彼女に問い返す。

「うん、実は……ロザリンドとシャルロット様に道案内を頼まれちゃって。スケルトンに案内させるわけにもいかないし、そのついでに、伝えに来たのよ」

「って、ロザリンドと……シャルロット様も!? 来てるの!?」

「や、ラテア。調子はどうだい?」

「こっ、こんにちは、ラテアさん! あの……今日は、ラテアさんのお稽古を見せていただきたくて……きゅっ、急ですみませんっ!」

 その後ろからひょっこり姿を現したのは、ロザリンドとシャルロット様。

「ええと、ラテア。竜人のヤツが、君と組んで稽古したいって言うんだが……」

「すまんな、ラテアよ。やはり見ているだけというのは性に合わん。技を教えてくれ」

 すると今度は、コウセイさんが僕に言い、間を置かずにゴズマが寄って来た。

「……ラテア、とりあえず俺とコウセイとで、竜人は相手しておこうか……?」

「う、うん。ありがとうディノス。そうしてくれると助かるよ」

 ディノスは見かねて、僕にこっそりそんな耳打ちをしてくれる。

「ラテア、動画の返事だけ聞かせてくれる? それ聞いたら、私はすぐに帰るから」

「ラテア、クッションみたいなのはないのかい? シャルロット様を床に座らせるのは、ちょっと冷たいかなって」

「い、いえ、お構いなくです、ラテアさん。私は大丈夫ですからっ」

「ラテア、俺と組もうぞ!」

「おい、竜人。少しは遠慮しろって。……ラテア、大丈夫か?」

「ねぇ、ラテア」
「あのさ、ラテア」
「あのっ、ラテアさんっ」
「なぁ、ラテア!」

「~~~~~~っ、待って待って! そんなに一度に言われても、わからないよ!」


「……なんだかモテモテねぇ、ラテアちゃん?」

 一連の会話の様子を眺めていたナナミさんが、僕の後ろで苦笑する。
 僕はどうしたらいいのかとため息をつき、うなだれながら弱音を漏らした。
 そして、ナナミさんは、そんな僕の言葉に続くように、こう言うのだった。

「魅了の力は無いはずなのに……」

「みんなに好かれて最強ね?」




<FIN.>

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