TS転生、無自覚サキュバス異世界無双! ~魅了の力は無いはずなのに、みんなに好かれて最強です!?~
16.勇者とサキュバス
「どうしよう……どうしたもんか……どうしよう……」
「……川柳ですか?」
「い、いや、適当に愚痴ってたら五・七・五調になっただけだけど。……なんで川柳なんて知ってるのさ」
魔王城の自室で。
マリーに妙なボケをかまされながら、僕は悩んでいた。
人間側の勇者──コウセイさんは、僕と同じ日本人だった。
でも、僕たちはそうとは知らずに出会い、お互いに気を許し合ってしまった。
おそらくコウセイさんはあと数日で、国境付近の村へと向かうつもりだろう。
そして、そこを突破して、魔王軍領に攻め入ろうとするに違いない。
しかし、僕は魔王軍としてそれを防ぎ、彼を倒さなければならない。
彼に勝てるのか……いや、そもそも彼と戦えるのか、正直言って、僕の心は揺らいでいた。
「……あの、『そうとは知らずに』出会ったのではなく、忘れていただけですよね。人間の勇者と戦わなければいけないことを」
「う、うるさいな。なんかマリーって、最近辛辣じゃない?」
「私が辛辣というよりは……ラテア様がお優しいというか……正味な話、甘ちゃんなのでは」
「うっ」
言い返せなくて、僕は口ごもる。
でも、仕方がないことだと思うのだ。
以前、フェルミーにも似たようなことを言われたけど、ある意味僕は魔族でも人間でもあるのだから。
両者を傷つけたくないと思うのは、当然の感情じゃないだろうか。
……たとえそれで甘ちゃんと言われても。僕がどう言われようとも、できることなら誰もが無事でいられる方法を採りたいんだけど……。
「……それではいっそのこと、その勇者に退いてくれるよう頼んでみては? 彼がラテア様と同じ価値観なら、その望みを聞き入れてくれると思うのですが」
すると、マリーは何でもないことのように、そんな提案を僕に申し出た。
「うーん、まあ、叶うならそれが一番だけど……逆にマリーたち魔族側は、勇者を殲滅しなくてもいいの? 人間に対する恨みとか、ないの?」
「勇者本人にはまだ直接的な被害を受けていませんし、魔族は別に他種族を絶滅すべしという主義があるわけでもありません。もちろん、個人個人での恨みはあるでしょうが」
勇者が退いてくれるなら、こちらもことさら追撃するつもりはないのだとマリーは言う。
「そうなんだ……。じゃあ、正体をバラして頼んでみるのも有りかもしれないな……」
今までの魔王様の策謀が無意味になるけど、平和に終われるならそれに越したことはない。
状況にもよるけれど、その方針も心に留めておくことにした。
それで、二日後。
『──ラテアさん! 勇者とその一行が、我々の村に現れました! 奴ら、村を通過してそのまま魔王軍領に入ろうとしています!』
部屋のテーブルに置かれた通信用の水晶玉から、そんな声が飛び込んできた。
声の主はリックさん。水晶玉は各村にも同じものが置かれていて、村人たちと即時に連絡を取ることができる。
フェルミーがもしもの時のためにと、用意してくれたのだ。
「わかりました、すぐにそちらに向かいます!」
僕はディノスにもそれを知らせると、一足先に翼で村へと飛翔する。
──そして、勇者、コウセイさんは。
村に降り立った僕を見て、驚愕の表情でつぶやいた。
「……ラテア、なのか、君は。どうして……」
「黙っていてごめんなさい、コウセイさん。ご覧の通り……僕は魔族に転生してしまったんです」
露出度の高いサキュバスの衣装のせいか、彼は頬を赤らめる。しかし、それでも構えた剣を収めようとはしなかった。
「俺をだましていた……とは、思いたくないんだがな……」
「結果的にそんな感じになってしまったので、どう言われても返す言葉がありません。ただ……村の人たちに危害を加えるのだけは、やめてもらえませんか」
勇者が村に着くタイミングは思ったよりも早く、これでもう、正体をバラして退いてくれるよう頼む、という感じではなくなってしまった。
加えて、今の僕の言葉はこちらの都合だけを考えた自分本位なものだ。
何故なら、リックさんをはじめとする村人は、鍬や鋤を武器として持ち、勇者パーティと戦う気満々だったからだ。
こちらから襲おうとしているのに傷つけるな、とは身勝手にも程があるだろう。
だから僕は、両者の間へと歩を進め、村人たちを制するように手を横へと突き出した。
「村の皆さんは下がっててください。ここは、僕が」
「いいえ、ラテアさん。やはり俺たちも一緒に戦います!」
「ラテア、君は……その恰好、サキュバスってやつなのか? まさか、この村人たちも君が操って──」
「いえ、それは違います。僕は……何故かわからないんですが、サキュバスとしての力が無いようなので……」
「おい勇者、俺たちは皆、自分の意思で魔王軍に味方しているんだ! 馬鹿にするな! そもそもお前が、ラテアさんの何を知ってるっていうんだ!」
コウセイさんはまだ戦おうとする様子はなかったけど、彼が僕に問いかけたその言葉は、リックさんたちにとって火に油だったらしい。
村の一人が激昂し、それを皮切りに皆が口々に罵倒の言葉を勇者たちへとぶつける。
帰れ帰れ、と野次や怒号がこだまして、それはどんどんヒートアップしていく。
勇者一行はその勢いに圧され、少しばかりの怯みを見せる。
するとその時、西側の森──村の外から、一つの影がこちらへと飛び込んで来た。
それはまるで漆黒の矢。黒い甲冑をまとい、同じく真っ黒な剣を持ったその影は、そのまま一直線にコウセイさんへと斬りかかった。
「──人間の勇者よ、その命、俺がもらい受ける! 覚悟っ!」
「──ディノス!」
「……川柳ですか?」
「い、いや、適当に愚痴ってたら五・七・五調になっただけだけど。……なんで川柳なんて知ってるのさ」
魔王城の自室で。
マリーに妙なボケをかまされながら、僕は悩んでいた。
人間側の勇者──コウセイさんは、僕と同じ日本人だった。
でも、僕たちはそうとは知らずに出会い、お互いに気を許し合ってしまった。
おそらくコウセイさんはあと数日で、国境付近の村へと向かうつもりだろう。
そして、そこを突破して、魔王軍領に攻め入ろうとするに違いない。
しかし、僕は魔王軍としてそれを防ぎ、彼を倒さなければならない。
彼に勝てるのか……いや、そもそも彼と戦えるのか、正直言って、僕の心は揺らいでいた。
「……あの、『そうとは知らずに』出会ったのではなく、忘れていただけですよね。人間の勇者と戦わなければいけないことを」
「う、うるさいな。なんかマリーって、最近辛辣じゃない?」
「私が辛辣というよりは……ラテア様がお優しいというか……正味な話、甘ちゃんなのでは」
「うっ」
言い返せなくて、僕は口ごもる。
でも、仕方がないことだと思うのだ。
以前、フェルミーにも似たようなことを言われたけど、ある意味僕は魔族でも人間でもあるのだから。
両者を傷つけたくないと思うのは、当然の感情じゃないだろうか。
……たとえそれで甘ちゃんと言われても。僕がどう言われようとも、できることなら誰もが無事でいられる方法を採りたいんだけど……。
「……それではいっそのこと、その勇者に退いてくれるよう頼んでみては? 彼がラテア様と同じ価値観なら、その望みを聞き入れてくれると思うのですが」
すると、マリーは何でもないことのように、そんな提案を僕に申し出た。
「うーん、まあ、叶うならそれが一番だけど……逆にマリーたち魔族側は、勇者を殲滅しなくてもいいの? 人間に対する恨みとか、ないの?」
「勇者本人にはまだ直接的な被害を受けていませんし、魔族は別に他種族を絶滅すべしという主義があるわけでもありません。もちろん、個人個人での恨みはあるでしょうが」
勇者が退いてくれるなら、こちらもことさら追撃するつもりはないのだとマリーは言う。
「そうなんだ……。じゃあ、正体をバラして頼んでみるのも有りかもしれないな……」
今までの魔王様の策謀が無意味になるけど、平和に終われるならそれに越したことはない。
状況にもよるけれど、その方針も心に留めておくことにした。
それで、二日後。
『──ラテアさん! 勇者とその一行が、我々の村に現れました! 奴ら、村を通過してそのまま魔王軍領に入ろうとしています!』
部屋のテーブルに置かれた通信用の水晶玉から、そんな声が飛び込んできた。
声の主はリックさん。水晶玉は各村にも同じものが置かれていて、村人たちと即時に連絡を取ることができる。
フェルミーがもしもの時のためにと、用意してくれたのだ。
「わかりました、すぐにそちらに向かいます!」
僕はディノスにもそれを知らせると、一足先に翼で村へと飛翔する。
──そして、勇者、コウセイさんは。
村に降り立った僕を見て、驚愕の表情でつぶやいた。
「……ラテア、なのか、君は。どうして……」
「黙っていてごめんなさい、コウセイさん。ご覧の通り……僕は魔族に転生してしまったんです」
露出度の高いサキュバスの衣装のせいか、彼は頬を赤らめる。しかし、それでも構えた剣を収めようとはしなかった。
「俺をだましていた……とは、思いたくないんだがな……」
「結果的にそんな感じになってしまったので、どう言われても返す言葉がありません。ただ……村の人たちに危害を加えるのだけは、やめてもらえませんか」
勇者が村に着くタイミングは思ったよりも早く、これでもう、正体をバラして退いてくれるよう頼む、という感じではなくなってしまった。
加えて、今の僕の言葉はこちらの都合だけを考えた自分本位なものだ。
何故なら、リックさんをはじめとする村人は、鍬や鋤を武器として持ち、勇者パーティと戦う気満々だったからだ。
こちらから襲おうとしているのに傷つけるな、とは身勝手にも程があるだろう。
だから僕は、両者の間へと歩を進め、村人たちを制するように手を横へと突き出した。
「村の皆さんは下がっててください。ここは、僕が」
「いいえ、ラテアさん。やはり俺たちも一緒に戦います!」
「ラテア、君は……その恰好、サキュバスってやつなのか? まさか、この村人たちも君が操って──」
「いえ、それは違います。僕は……何故かわからないんですが、サキュバスとしての力が無いようなので……」
「おい勇者、俺たちは皆、自分の意思で魔王軍に味方しているんだ! 馬鹿にするな! そもそもお前が、ラテアさんの何を知ってるっていうんだ!」
コウセイさんはまだ戦おうとする様子はなかったけど、彼が僕に問いかけたその言葉は、リックさんたちにとって火に油だったらしい。
村の一人が激昂し、それを皮切りに皆が口々に罵倒の言葉を勇者たちへとぶつける。
帰れ帰れ、と野次や怒号がこだまして、それはどんどんヒートアップしていく。
勇者一行はその勢いに圧され、少しばかりの怯みを見せる。
するとその時、西側の森──村の外から、一つの影がこちらへと飛び込んで来た。
それはまるで漆黒の矢。黒い甲冑をまとい、同じく真っ黒な剣を持ったその影は、そのまま一直線にコウセイさんへと斬りかかった。
「──人間の勇者よ、その命、俺がもらい受ける! 覚悟っ!」
「──ディノス!」
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