ニートが死んで、ゴブリンに

ひじり

【3-4】「ヘリ城の専属魔法使いに会おう!(その1)」

「あの町は、もう終わりね」

 ラビアが言った。
 あの町とは、ソムニウムの町のことだ。

 クエスト依頼所で毒の欠片を求め、それを集めてヘリ城へと運ぶ役割を担っていたが、町が毒の病に感染した今、人が住み続けるのは難しいだろう。

「自業自得とはいえ、なんとも言えないねえ」

「ダーリン、悲しいの?」

「悲しくないさ、ハニー。僕の故郷は無事だからね」

 演技っぽく語り合う二人をよそに、オレは後ろを振り返る。

 ソムニウムの町を、かなり遠くまで離れた。
 青い髪の女も、あの状態では追ってくることはできまい。

「次会ったら、おれが止めを刺してやるからな!」

「その前に、ネロはもっと強くならなきゃな」

 息巻くネロに、苦笑する。
 先ずは、体当たり以外にも有効な技をもっと覚えないとだな。

「ダンジョン以外では、モンスターに遭遇する期会も少なそうだ」

「まあ、見ての通りよね。ヤナエル地帯そのものが平和だもん」

 何処までも続く草原に、モンスターの影は見当たらない。
 遠目に見えたとしても、近づく前に姿を見失う。
 南のモンスターたちは、シルワンス山脈へと戻って行くのだろう。

 ソムニウムの町を西に行くと、シルワンス山脈に近づく。
 と同時に、その真北にあるのが、ヘリ城だ。

「城下町か、なんか広そうだ……」

「そりゃ、ここら一帯では最も活気のある場所だからねえ。ホディエ城にも負けてないはずだよ、というか勝っているさ」

 相変わらず、ホディエ城と比べたがるハーフェルだが、オレはホディエ城を見たことがないので、何とも言えないのが現状だ。

 やがて、オレたちは、ヘリ城の城下町へと着いた。

     ※

 城下町には、数え切れないほどの人たちがいた。
 露店が軒を連ね、美味しそうな匂いが漂っている。

「フード、しっかりかぶっときなさい」

「分かってるよ」

 万が一にも、こんなところでバレてしまえば、即死亡だ。
 モンスターには、人権も糞も無い。

「来たまえ、僕の家へ招待しよう」

 まず、何処に行くか。
 それを切り出す前に、ハーフェルが口を開く。

「ダーリンの家へ? きゃあっ、これで千二百二回目ねっ!」

「多すぎだろ……」

 この二人のことを、世はリア充と呼ぶのだろう。
 バカップルすぎて怒る気にもなれない。

「いいからさっさと案内しなさいよ」

 少し怒り気味のラビアが、鼻息荒く言い立てる。

 ハーフェルの家は、城下町の中央付近に建てられていた。
 建物自体は大きいが、中には別の人も住んでいるらしい。

「さあ、寛いでくれたまえ」

「ダーリンの隣で寛ぎまーす」

「……狭いわ」

「狭いね」

「せめえな、おい」

 四畳半程度の部屋に、人が三人とゴブリンが一体、スライムが一体、何とも窮屈な空間である。

「家族は?」

「西にある小さな村に住んでいるさ。僕は剣士として有名になる為に、ここに住み、剣の腕を磨いているのでねえ」

 ヘリ城から更に西に行くと、村があるのか。
 あとで、地図のようなものを探してみよう。
 この世界のことをもっと理解する必要がある。

「さて、これからどうするかについてだけど……」

 本題に入る。

 オレは、ラビアへと視線を向けた。
 すると、ラビアはコホンと咳を吐く。

「毒の欠片の集まるところに行って、裏を取るわ。そして、その情報をホディエ城の奴らに売って金儲けをする――のは、反対なのね?」

「当然だねえ。ホディエ城の奴らの味方をするつもりなら、僕は今すぐにきみを斬り殺すことだろう」

「あんたにできるかしら?」

「ダーリンにはわたしもいるってことを忘れないでよね」

「土女に何ができるってのよ」

「まあ、落ち着けって」

 命懸けの喧嘩へと発展しそうなので、仲裁に入る。
 気を抜けば、血を見ることになりそうだ。

「あたしは別に、金儲けできる手段が他にあるなら、それで構わないわ」

「もちろんあるさ。僕を誰だと思っているんだい?」

「バカップルの片割れでしょ?」

 正にその通りだ。
 ハーフェルは、肩を竦めた。

「ホフラに、会う方法があると言ったら?」

 ホフラとは、ヘリ城の専属魔法使いであり、毒の病を作り出した張本人だ。
 その人物に、会う手段があると、ハーフェルは言った。

「あんた、コネでもあるの?」

「いいや、全くないねえ」

「使えないゴミね」

 容赦ない言葉を投げる。
 だが、そんなラビアを鼻で笑い、ハーフェルは顎を上げた。

「だが、彼が住んでいるところは知っているさ」

「……直接、会いに行くのか」

 アポなし訪問を強行するというわけか。
 なるほど、強引ではあるが、そうすれば会うことも可能だ。

「だが、気を付けたまえよ?」

 ここで、ハーフェルが釘を刺す。

「ホフラは、ヘリ城でも随一の腕を持つ魔法使いさ。機嫌を損ねれば、僕等なんてあっという間にあの世に逝くだろうねえ」

 その言葉に、ネロが唾を呑む。
 もちろん、オレも同じく。

 お抱え魔法使いで、随一の腕を持つ魔法使い。それがホフラ。
 毒の欠片の管理を任されているだけのことはある。

 だが、会わないわけにはいかない。
 ラビアの目的を果たす為には、毒の欠片の作り方を知る必要がある。
 本人は言わないが、それを知ることで、金儲けに変えるつもりなのだろう。

 まあ、まさか自分で作ろうだなんて大それたことはしないと思うが。
 ……しないよな。

「ハーフェル、頼む」

「任せたまえ、ニートくん」

 ハーフェルは、二つ返事で頷いた。

 ホフラの住む家へ行くのは、日が落ちてからだ。
 辺りが静まり返った頃に、正面から堂々とお邪魔しよう。

「なあ、ニート」

 すると、ネロが口を開く。

「なに、どうした」

 何か思ったことがあるのか、と周りのみんなも注目する。
 ネロは、真面目な顔のまま、深呼吸する。そして、

「そろそろお腹空かねえか? 飯でも食おうぜ」

 気が抜けた。
 相変わらずのネロだ。

「こいつ、なんて言ったの?」

「腹減ったってよ」





 ラビアの蹴りが、ネロに直撃した。

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