ニートが死んで、ゴブリンに

ひじり

【1-3】「女の子が苛められている(その1)」

 ここは、ヤナエル地帯。
 生息するモンスターの種族・レベルが最も低く、人間たちにとって最も生活しやすい地帯とされている。

 モンスターは、人間の前に姿を現すことも稀で、先日のように、街中にまで入ってくることは滅多にない。

 これは、人間たちの考察だ。
 じゃあ、モンスター側の考えは、どうなのか。

「ふざけやがって、何が最もレベルが低いだ!」

 スライムが、怒りを露わにしている。
 プルプルと体を震わせているので、それほど怖くは無い。
 初めの頃に比べて、オレも慣れたものだな。

「おい、ニート。何を笑ってんだ」

「別に笑ってないぞ」

「嘘こけ! 今絶対笑ってた!」

 地面を飛び跳ね、オレの足に圧し掛かる。
 が、痛くない。柔らかいゼリー状のスライムに圧し掛かられても、少し重いと感じる程度で、脅威と呼ぶには程遠い。

 初っ端、腹に攻撃を受けた時は、目の前に光景に驚いていたってこともあって、スライムに対する恐怖が痛みを生み出していたのかもしれない。

 ……スライムに対する恐怖か、今考えると情けないな。

「いいか? この地帯の人間共は、おれたちモンスターを舐めていやがる」

 胸があるか否か不明だが、偉そうに胸の辺りを張って、スライムが口を開く。

「おれたちだって、レベルが上がればめっちゃ強くなるんだ! 人間たちに一泡吹かすことだってできんだ!」

「ほー、そうなのか」

「なんだその適当な返事はっ!」

 怒るな怒るな。
 いや、怒っても怖くないから別にいいけど。

 そもそも、モンスターって、レベルが上がるのか。
 単純なことだが、オレはこの世界について、何も知らない。
 だから、そんなことも言われなければ知ることはなかっただろう。

「スライム、お前って今レベル幾つなんだ?」

「おれか? おれは今レベル1だ!」

 レベル1、スライム。
 ……うん。弱そうだ。

「それって、どうやって確かめることができるんだ」

「ああ? んなことも知らねえのか、てめえは」

 と言ったところで、スライムは何かを思い出したかのような顔をする。

「そういやてめえ、元人間とか言ってたな? それが関係するのか?」

「まあ、そうなるな」

 関係ない、とは言えないか。
 というか、原因が何なのかすら理解できていないのが問題だが。

「鏡(メルア)を作ればいいんだ。ほら、やってみろ」

 そう言って、スライムは何事かを呟く。
 すると、スライムの目の前に、MMORPGでいうところのステータス画面のようなものが出現した。

「おおっ、なんだそれ?」

「これが《メルア》、おれたちの現在の状態を確認することができるぞ」

 スライムの《メルア》を、横から覗いてみる。



『ネロ スライム族 Lv1 所持スキル《無し》
 生命力8 精神力0 筋力8 敏捷3 耐久5 知力1 幸運3』



「……ネロって、もしかして名前か?」

「うっ、……それがどうした!」

 ネロ。
 これが、このスライムの名前のようだ。
 まあ、別に変な名前ではない。気にすることはないだろう。

「へえ、色々と分かるんだな」

 思いの外、分かりやすい。
 というか、ゲームが好きな人間なら、すぐに馴染めるような作りだ。

「ほら、ニートも作れよ」

「え、……ああ、えっと」

「《メルア》って言えばいいんだよ、ぐずぐずすんな」

 そんな単純なことで良かったのか。
 ふぅ、と一息ついて、オレは《メルア》と呟いた。

「お、……おおっ」



『ニート 半ゴブリン族 Lv1 所持スキル《人語、変化》
 生命力24 精神力0 筋力11 敏捷5 耐久3 知力6 幸運4』



 名前が、《ニート》になっていた。
 しかしまあ、平凡なステータスだな。

 せっかく異世界に転生したわけだ。
 もう少し、強くなっていても罰は当たらないと思うのだがな。

 というか、思いの外ネロと変わらない弱さだ。
 オレ、大したことないのか。

 だが、

「てめえ、スキル持ちか!」

 言われて、気付く。
 オレには、所持スキルがあった。
 それも一つではない。二つもだ。

「《人語》と《変化》か……」

 人語は、理解できる。
 これは恐らく、人間の言葉を話すことができる、ということだろう。
 元人間のオレからしてみれば、これはある意味当然のスキルだ。

 じゃあ、《変化》とは。

「ニート、てめえおれよりステータス良いじゃねえか! おれたちに囲まれた時、なんで攻撃してこなかったんだよ」

「そりゃ、右も左も分からない状態だぞ? 初めてのことだらけで、戦う選択肢なんてなかったからな」

 ああ、なるほど。
 と、スライム……じゃなくて、ネロは頷いた。

「まあいい。とにかく、これが《メルア》だ。しっかりと覚えとけよ?」

「分かった分かった」

「あー、あとな、……名前で呼んでいいから」

 ネロは、頬を描くような素振りを……勿論できないが、そのような仕草を見せたいと言わんばかりの表情で、視線を逸らす。

「……あ、……おう。分かった」

 出逢った頃より、ほんの少しだけ、ネロと近づけたような気がする。
 それがオレは嬉しかった。

「それで、これからオレはどうすればいいんだ」

「んー、先ずはおれ様のアジトに案内してやんよ」

 ついてきな、と言い、ネロが歩き始めた。
 歩くとは言っても、ゼリー状の生き物がうねうねと動いているだけだが。

 今後、どうなるのか。
 先行きは不安だが、とりあえず、オレはネロについて行くことにした。



=====【現在のステータス一覧】=====

『ニート 半ゴブリン族 Lv1 所持スキル《人語、変化》
 生命力24 精神力0 筋力11 敏捷5 耐久3 知力6 幸運4』

『ネロ スライム族 Lv1 所持スキル《無し》
 生命力8 精神力0 筋力8 敏捷3 耐久5 知力1 幸運3』

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