引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号

第37話


素材ダンジョンから戻ってきた俺は、すぐに生産ギルドへと向かった。ちなみに今回ダンジョンで入手できた素材は、マイエリアの生産活動で入手することができるものも含まれていたが、その他にもまだ入手が確認されていないものもあったので、マイエリアに戻ってから検証をする予定だ。


そんなことを考えながら生産ギルドへと戻って来ると、俺はクエスト一覧のウインドウを開いた。


目的はギルドのランクを上げるということと、他のプレイヤーとの交流の場を少しずつ増やしていきたいということだ。


クエストは主にギルドから出されることが多いのだが、ギルドと関係のないNPCやプレイヤー自身も依頼を出そうと思えば出すことが可能だ。


直接的なプレイヤーとの交流はリスクが高いが、プレイヤーが出した依頼を請け負うという間接的なものであれば問題ないと判断し、クエストの内容を確認していく。


依頼の内容はあまり難易度の高いものなどはなく、精々が素材の納品や一定の素材を使用した装備の納品が主でこれといって珍しいものはなかったが、その中でも興味が沸いたものを見繕って依頼を受注していった。


今回挑戦する依頼は木系・石系・鉄系の装備の納品系のクエストとある程度の性能を持った固有武器の作製依頼だ。その中でも目に留まったのが、魔法使いが使用する杖の作製依頼と武器の種類は指定されていないが重量のある武器が欲しいという依頼だった。


クエストの内容を確認しそれらの依頼を遂行するべく、俺は一度マイエリアに戻ることにする。






「ただいまーっと。ああ? なんだあれ?」


数時間ぶりにマイエリアへと帰還すると、珍しくドロンが襲い掛かってこなかった。そのことに疑問を抱いていると、当事者であるドロンが何か謎の物体と口論しているのが目に飛び込んできた。


現場に近づいていくとドロンと口論している相手が俺に気付きこちらへと向かってきた。


「シィー、シィー、シィー!!」

「うおっ、ってなんでお前がここにいるんだ? ダンジョンで別れたはずだろう」

「ご、ご主人、こいつのこと知ってるニワか?」

「ああ、実はかくかくしかじかでな」

「なるほど、そういうことニワか」


俺の言葉に納得したように頷くドロン。ってか、お前かくかくしかじかで通じたのかよ。


俺とドロンがそういうやり取りをしている間も俺の手の中で子蜘蛛がもぞもぞと嬉しそうに動き回っている。個人的に蜘蛛に対して忌避感はないが、嫌いな人からすれば悶絶してもおかしくない光景だろう。


そんなぱっと見わけのわからない状況の中、ドロンがこちらを非難するような発言をした。


「ご主人、ボキというものがありながら、こんな毛むくじゃらの虫に心を奪われるなんて酷いニワ!」

「はあ? お前は何を言っているんだ?」

「浮気だニワ! 浮気だニワ、浮気だニワ、浮気だニワ、浮気だニワ!!」

「……」


まるでこちらに全て非があるかのような物言いに若干の殺意が芽生えてくる。しかも俺の周囲をぐるぐると回りながら喚き散らすという行為もまた俺の神経を逆なでする。


「……ふんっ」

「浮気だニ――はがっ」

「おい、小僧。俺がいつ浮気をしたって言うんだコラ。大体俺とお前は相思相愛じゃねぇだろうがよ!」

「ぐぐぐぐぐ」


あまりにイラっと来たので、ドロンの顔を片手で捕まえそのままホールドしながら俺の目の前まで持ってくる。そして、奴の言っていることを真っ向から否定してやる。


「シィー」

「ん? ああ、そうだったお前のことをすっかり忘れていた。なんでここにいるんだ?」

「シィー、シィー!」

「うーん、何を言っているのかさっぱりわからん」

「わからないって言ってるニワ。気付いたらここに居たって」

「お前、この蜘蛛の言葉がわかるのか?」

「当たり前ニワ」

「……お前でも役に立つことがあるんだな」

「ご、ご主人、なにげに辛辣ニワよ!」


その後ドロンの通訳を介して子蜘蛛から事情聴取すること十分、なんとなくではあるがその概要が見えてきた。子蜘蛛の証言によれば、俺が素材ダンジョンから帰還するための魔法陣に入っていった直後、寂しくなってしまい光り輝く魔法陣に突っ込んで行ったところ、気付いた時にはこの場所に居たとのことらしい。


子蜘蛛の証言を受けて俺の中で様々な可能性を考えた結果、導き出された答えは一つだった。


「こりゃ……バグだな」

「シィー?」

「バグ?」

「お前らに言って通じるかわからんが、こういうオンラインゲームの新実装系のものって、総じて開発側でも想定してなかったバグがつきもんなんだよ」

「シィー」

「よくわからんニワ」

「だろうな」


アップデートというイベントにおいて開発側が注意しなければならない要素といえば、やはりプログラム上の不具合によるバグである。


仕様書通りにプログラムを組んでも、想定していた内容と異なる動きを見せるといったことはよくあることで、それを実装前にデバッグと呼ばれる作業でプログラムの書き換えを行い修正する。


デバッグを行っても実際動かしてみると別の個所で不具合が生じていたりするため、プログラムの記述を見ただけではバグが修正されているかどうかがわからない場合もある。


場合によっては、一度実装し不具合が生じたら緊急メンテナンスを入れてバグを修正するといった横着をする運営も少なくない。


今回もその類のバグが発生した可能性があると俺は結論付け今後のことに意識を向ける。


「とりあえず、お前をどうするかだな」

「シィー、シィー!」


俺の言葉に子蜘蛛が何か訴え掛けていたので、ドロンに通訳を頼もうとしたがそれを遮るようにメッセージが表示される。


⦅ベビースパイダーが仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか? 【はい】 / 【いいえ】⦆


……そうきたか。


今の状況をわかりやすく説明すると、目の前には瞳をうるうるとさせながら前脚を擦り合わせこちらに向かって懇願する小さな蜘蛛がいる。こんな状態でこいつを仲間にしないのやつは、罪悪感というものを持ち合わせていない心の狭い人間だけだろう。


当然だが俺はそんな人間ではないので、当たり前のように【はい】を選択する。するとすぐに子蜘蛛の名前を設定してくださいと出たので、俺は迷うことなく子蜘蛛に名前を付けた。


「今日からお前の名前はケダマだ。よろしくなケダマ」

「シィー!!」

「ぐぬぬぬぬ、ラ、ライバル出現ニワ……」


実のところこの子蜘蛛を仲間にしたくなかったわけではなかったというか、むしろ全然仲間にすることについては肯定的だった。それ故にこいつが仲間になったらどういう名前を付けてやろうかな、という想像を頭の中でシュミュレートすることは極々自然な流れなわけで、その中で思いついたのがケダマという名前だったのだ。


そんな誰に聞かせるわけでもない言い訳染みたことを思っていると、ドロンがなにやらケダマに対して謎な対抗心を燃やしているようだったが、特に興味はなかったのでスルーした。


それから、ドロンにケダマの指導を任せると俺は一度工房へと足を向けることにした。

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