引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号

第5話


「やっと、半分か……」


額に流れる汗を手で拭いながら、思わずそんな言葉が口をついて出る。あれから数時間という時間を使い、様々な道具を生産した。


尤も、手作業で加工できる材質に限りがあるため、大したものは生産できていないが、耐久度と品質がプロダクトで生産したときよりも格段に向上している。


今まで獲得したスキルレベルも順調に上がっており、現在のステータスはこんな感じだ。


【名前】:スケゾー

【職業】:生産職

【ステータス】


HP  30  レベルアップまであと119

MP  5   レベルアップまであと177

STR  H-   レベルアップまであと165

VIT  H-   レベルアップまであと171

AGI  H-   レベルアップまであと143

DEX  H+   レベルアップまであと170

INT  H-   レベルアップまであと133

MND  H-   レベルアップまであと155

LUK  H    レベルアップまであと260



【スキル】:初級鑑定Lv10、初級木工Lv11、初級農作Lv8、初級石工Lv6、初級採掘Lv7

【称号】:なし




最初は発現しなかった【初級農作】と【初級石工】のスキルが新たに追加されている。どうやら、特定の行動を特定回数こなすと発現する仕組みになっていたらしく、何回かその行動を取ることで無事に獲得することに成功した。


各能力値の右側のレベルアップまであと○○についても、推測の域は脱していないもののおそらくは何らかの行動を取った時、その行動に関連するステータスにポイントが追加されていき、それが規定数超えるとレベルが上がる仕組みになっているようだ。


今のところレベルが上がっていないので何とも言えないのだが、残りのポイントを集めるとステータスが一段階上の数値になるのではと睨んでいる。


HPとMPに関しては、どのような上昇の仕方をするのか未知数だが、少なくとも悪くなることはないと思うので、このままポイント稼ぎを行っていく。


「おいお前、もっとちゃんと腰を入れて叩けよ」

「な、なんで、ボキが、こんなことを、しなくちゃならない、ニワ……」

「お前、サポートキャラだろ? だったらそれくらいこなしてみせろ!」

「ハニワ虐待ニワ……」


まったく、何を言っているんだコイツは?


現在のハニワんずの状況を一言で表現するのであれば、木こり状態である。


俺が生産活動に勤しんでいる間、こいつがやっていたことといえば訳のわからん変なダンスを踊り続けていただけだ。


その踊りが口では言い表せないほどにキモくてウザかったため、頭に拳骨を落として「暇ならこの斧で木材を量産してろ!!」と指示を出していた。


ハニワんずを手に入れた時の補足説明では、“あなたの生産のサポートを行う助手”と表記されていたので、こいつに木材を生み出してもらう行為は立派な助手の仕事のはずなのだが、何故か不満タラタラな態度で仕事をしている。


ハニワんずというキャラクター自体がこんな性格なのか、それともこいつ個人だけが残念な性格をしているのかそれは分かりかねるが、一つだけ言えることがあるとすれば……こいつはハズレだ!


だが、抗議のメッセージを運営に伝えたところで得られる回答は「このゲームの仕様ですのでご了承を」というのが目に見えて想像できる。


だからこそ、今後こいつを躾ていかなければならないのだが、果たしてうまくいくのだろうかと今から不安だ。


兎にも角にも、さっき呟いた通り現在の所持金は、16000マニーほど貯まっている。あと14000マニー強ほど貯めることができれば、待望の【工房】を購入することができるのだが、現在困ったことが起きている。


「食料が尽きてしまった。このままでは腹具合を回復することができなくなる」


作業に集中するあまり、食料を確保することを失念するというミスを犯してしまっていた。このままではステータスが低下するというペナルティーを食らってしまい、生産活動の効率が低下してしまう。


この【メイク・オア・アドベント・オンライン】略してMOAOでは、生産の効率と出来上がった品物の質に影響を与える項目がいくつか存在する。


一つはスキルレベルで、特定のスキルがあるのとないのとでは作業効率と完成度に大きな影響を与える。


二つ目はステータスであり、STRやDEXなどの数値が高いほどスキルと同じように効率と完成度が変化する。


三つ目は作業を行う時に使用する道具の質で、簡単な例を挙げるのならば、石の道具と鉄の道具を使った時の作業効率と完成度は、鉄の方が高くなる。


その他にも多種多様な要素が絡み合って、作業効率と品物の質に影響を与えるようだが、基本的にはこの三つが重要な要素となっている。


どのようにして食糧確保をしようか頭の中で検討していると、木材を量産する指示を与えていたハニワんずの作業に違和感があることに気付く。


「あの野郎、手近な木からしか木材を取ってないっぽいな……」


それはちょっとした違和感だったが、奴の作業を見ていると明らかに特定の木からしか木材を取ろうとしていない。その理由は火を見るよりも明らかで、要はあまり動きたいくないということだろう。


今木の苗木を植えている植林場っぽい場所には、無数の成長した木が植えられている。通常であれば手で触れることで木材と木の苗木のアイテムを入手できるのだが、斧を使用すれば入手できる木材と木の苗木の個数が増量されることをハニワんず本人から聞いている。


それに加えて、手で入手した時と斧で入手した時に違いが出るらしく、具体的には成長した苗木が残るか残らないかという違いだ。斧を使用すると、一旦成長した木から切り株の状態になり、その後その切り株から新たに成長した木へと変化するようだ。


「おい、お前何をやってるんだ?」

「ご主人の指示通り、木材を取ってるニワ」

「俺が聞きたいのはそこじゃない。なんで、あっちの木は取らないんだ」

「……」


おやおや、黙秘ですか? だが、残念だったな。俺は警察官じゃないから、黙秘権は行使できないぞ? 否、正確には行使させないぞ。


「あ、ちょ、ちょっとご主人。ボキの顔を掴むのはやめて欲しいニワ」

「では今一度聞くが、なんであっちの木は手付かずなんだ?」

「そ、それはその……」


いよいよ、お仕置きが必要だと手に力を込めようとしたその時、状況が一変する。ハニワんずが手を付けなかった木に視線を向けると、そこには果実が実っていたのだ。


「あれは、果物か」

「そ、そうニワ! 成長した木を一定時間放置してると、稀に果実を実らせることがあるニワ」


まるでこの状況に乗っかってしまえという雰囲気で、言い訳じみた内容を語るハニワんずだったが、当然そんなごまかしは俺には通用しない。


当然ながら「じゃあ、なんで最初からそれを言わなかったんだ?」という話になり、結局俺のアイアンクローを受ける羽目になった。哀れなやつだ。


そんなどうでもいいことがありつつも、木に生っている果物を採取する。腹具合もそろそろ限界に近づいていたため、さっそく食べてみることにした。


「見た目は完全にリンゴだけど、味はどうだ? ……はむ、もぐもぐ。うーん、シャキシャキとした歯ごたえと、爽やかな甘みの果汁が口の中一杯に広がる。現実世界のリンゴそのものだな」

「なんだかご主人、どこぞのグルメ番組の料理評論家みたいな感想ニワね」

「やかましい、そんなこと言ってる暇があったら木材をもっと量産しろ!」


その後の検証の結果、木に自生する果物の種類はリンゴ・みかん・ももの三つで、どの果物も15%ほど腹具合を回復させることがわかった。


とりあえず、飢え死にしない程度の食材を手に入れることに成功したが、まだ少し心もとないと感じた俺は、ショップでさらに畑に植える野菜の種を探そうとしたところ、不意にハニワんずが話し掛けてきた。


「ご主人」

「なんだ」

「もうそろそろ、ボキに名前を付けて欲しいニワ」

「お前、ハニワんずだろ?」

「それはボキたちの存在を表す名前であって、固有名詞じゃないニワ」


詳しい話を聞くと、ハニワんずというのはMOAOのマスコットキャラクター全体の総称であり、例えるなら自動車や電車という言葉と同じらしい。


自動車にも○○メーカーの○○の自動車という車種があり、電車にもちゃんとした型式が存在する。


「ふーん、じゃあ“役立たず”で」

「なんでニワ!? もっと真面目に考えて欲しいニワ」

「じゃあ……“穀潰し”は?」

「ボキは食事は必要ないから、穀は潰さないニワ」


その後、様々な固有名詞(ほとんど悪口)を羅列していくが、なにが不満なのかまったく納得してくれない。


そして、最後に考え付いた名前があったのでダメもとで言ってみた。


「じゃあ“泥人形”から取ってドロンってのはどうだ?」

「ボキは正確には土器なんだけど、役立たずだの穀潰しよりかはマシだから、この際ドロンでいいニワ」


散々ひどい名前を挙げていたことが功を奏したのか、不承不承といった感じで最後に言ったドロンという名前を受け入れたようだ。


ハニワんずの名前も決まったところで、畑で野菜を栽培するための種を購入するため、ショップを検索してみる。


すると、意外にも野菜の種を出品しているプレイヤーがちらほらといたため、目についたものを適当に放り込んでいく。


畑に関しては、詳細不明の【何かの草】をひたすらに栽培し続けているため、畑一面緑一色に染まっている。


購入した種を植えるスペースを確保するために、石のクワを使って畑の面積を拡張していく。木のクワとは違い、畑の畝が出来上がる速度が速いことに感動を覚えつつも、気付けば畑の広さが先ほどの二倍にまで増築された。


新たに追加されたスペースに、様々な野菜の種を等間隔に植えていき様子を見ることにする。


「さて、これで畑はいいとして。残りのお金を稼ぐために作業を再開しますかね」

「でもご主人、もうそろそろ一日が終わるニワよ?」

「なに?」


ドロンの言葉にメニュー画面のゲーム内時計を確認すると、時刻は夕方の六時を回っていた。朝の九時過ぎからスタートしたから、ゲームを開始して既に九時間ほど経過したことになる。


あまり根を詰めるのもよくないため、ここで一旦ログアウトして現実世界に戻ることにした。

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