モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号

第2話



「ここがFLOSの世界か」


そんなことを彰……クラフは呟き、周囲の様子をきょろきょろと見回す。そこにはファンタジーによくある石畳とレンガ造りの家々が立ち並び、行き交う人たちもどことなくファンタジーチックな雰囲気を持っていた。


クラフが降り立った場所は、始まりの街【ファスタード】と呼ばれ、すべてのプレイヤーが最初に現れる街だ。クラフが辺りを見回している現在進行形でプレイヤーがログインしてきており、彼と同じく周囲の様子を確認しているプレイヤーが多数いた。


一通り見回したクラフが次に取った行動は、今自分が所持している所持品や所持金などの確認だった。頭で意識するとメニュー画面が表示され、いくつかある項目の中から【アイテム】と表記された部分をタップする。


「所持品は、HP回復用の【初心者用ポーション】が十個と、所持金は……1500ゼニルか。多いのか少ないのかわからないな」


クラフが所持していたのは、戦闘を想定しての初期装備品の一つとして初心者用ポーションと初期費用となる1500ゼニルだけだった。ちなみに、この世界でのお金は金貨のみで、単位はゼニルとなっている。


次に初心者用ポーションを【初級鑑定】を使って鑑定してみると、以下のような情報が得られた。





【初心者用ポーション】:その名の通り、初心者のために作られたポーション。その効果はそれなりで、あまり高くはない。 効果:HPを30回復 レア度:1 品質:★





鑑定の結果、名前に記載されていた通りの情報が表示され、クラフは「ふむふむ」と独り言を呟く。しかしながら、彼の中でこの情報は大きく、この鑑定結果で様々なことが推測できる。


まず、名前とどういった効果をもたらすアイテムなのかの説明と共に、アイテムが与える効果とレア度、並びに品質というものが表記されている。レア度は、このゲームでの価値を表し、基本的にレア度が高くなればなるほど素材として使用した場合の効果が高くなるため、値段が高くなったり、入手自体の難易度が高くなったりする。


品質は、そのアイテムの出来栄えや状態を表しており、その度合いは★で表現される。さらに★から★★の間に☆が五つ存在し、具体的には★→★☆→★☆☆→★☆☆☆→★☆☆☆☆→★☆☆☆☆☆→★★というような感じとなる。最高品質は★★★★★となっており、☆の表記を入れるとかなりの品質度合いがある。


「装備はどうなってんのかな?」


次に、クラフは自分が今装備している武器や防具がどうなっているのか確かめることにした。見た目的には、膝下まである皮の半ズボンと無地の麻布でできた服に、使い古された西洋風の革靴を装着しているようだ。




【武器】:木の棒

【頭】:なし

【胴】:布の服

【腕】:なし

【腰】:皮のズボン

【足】:革靴




ウインドウに表示されたのは、何の変哲もないどこにでもある装備で、まさにRPGのキャラクターが最初に手渡される装備そのものであった。


「木の棒って……」


初期装備でもらえる武器のあまりにもあまりな名前に一瞬呆れるクラフだったが、その性能を確認すると、意外にもちゃんとしていた。





【木の棒】:一番最初に与えられる装備。伝説によれば、これで魔王を倒そうとしたある意味で勇者な者がいたとかいなかったとか……。 効果:STR+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:∞



【布の服】:一番最初に与えられる装備。特にこれといった特徴はなく、ただ裸になるのを防ぐためだけの服。 効果:VIT+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:∞



【皮のズボン】:一番最初に与えられる装備。特にこれといった特徴はなく、ただ裸になるのを防ぐためだけのズボン 効果:VIT+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:∞



【革靴】:一番最初に与えられる装備。特にこれといった特徴はなく、ただ裸足になるのを防ぐためだけの靴 効果:AGI+1 レア度:1 品質:★ 耐久度:∞





木の棒の説明が引っかかるが、それ以外は特筆すべきことはなく、敢えて指摘するのなら、破損によるロストを防ぐため耐久度がなくならない仕様になっているところだろう。


装備品には耐久度というものがあって、モンスターの攻撃を受けたり、武器で攻撃したりすると少しずつその数値が減少していく。耐久度がゼロになった装備品は使えなくなり、そのまま消滅する。これを“ロストする”という。


ロストを防ぐためには、その都度耐久度を回復させる必要がある。耐久度の回復には、生産職を持ったNPCまたはプレイヤーがそれぞれの装備に対応するスキルと素材を使って回復させる必要があるのだ。


「さて、とりあえず所持品の確認はこれくらいにして……っと。どこか座れる場所は……ああ、あそこでいいか」


一通りの確認を終えたクラフは、近くにあったベンチへと歩き出し、そこに腰を下ろす。通常であれば、ウインドウに表示されているチュートリアルの指示に従って行動することになるのだが、その前にクリフはさらに確認すべきことがあるため、その確認に時間が掛かると判断した彼は、どこか腰を下ろせる場所を探していたのである。


腰を下ろしたクラフは、メニュー画面のヘルプの項目を開き、このゲーム……FLOSの詳細について調べ始めた。そう、彼はゲームをプレイする前に取扱説明書を事前に読むタイプのゲーマーなのだ。


ゲームをプレイする際、ゲームに同封されている取扱説明書を事前に読んだうえでプレイする人間と、読まずにとりあえずそのままプレイしながら内容を確認していくタイプの人間がいる。彼はどちらかというと前者のゲーマーであり、今回もそれに従ってゲームの詳細を調べることにしたのだ。


人の価値観はそれぞれ異なり、事前に取扱説明書を読んでしまったらネタバレになってしまうから、ゲームをプレイしながら覚えていけばいいという人もいれば、あらかじめ予備知識を頭の中に入れたうえでプレイしたいという人もおり、その点についてはどちらがいいとは言い切れない。


少なくとも、クラフはあらかじめ知識を頭の中に入れておきたいという価値観を持った人間であり、それが功を奏した結果、初見殺しと言われているギミックをいくつか回避できたという経験を持っていた。まさに情報は武器である。


「なるほどなるほど。じゃあこれは……ほうほう、そういう仕様になっていると」


おそらくゲームが始まって、いきなりヘルプ画面の内容を熟読し始めるプレイヤーなど、すべてのFLOSプレイヤーを監視している運営視点から見れば、珍しいと言わざるを得ない。


そのままヘルプ画面を読むこと実に数時間が経過し、いくつか理解が難しい点についてはGMコールや運営への問い合わせのチャット欄で確認をしていきながら、FLOSの理解をクラフは深めていく。


凝り性の彼からすれば、ひたすら同じ作業を何時間も続けることは慣れており、寧ろその作業を楽しんでしまえるほどの猛者であるため、たかがヘルプ画面を読み切る二時間や三時間などまったく苦にならない。


「よし、ヘルプ画面についてはこれくらいか。細かい情報については掲示板というものがあるらしいから、ある程度はそこで情報収集するとしてだ。チュートリアルを終わらせますかね」


クラフはヘルプ画面を読み始めて実にゲーム内時間で三時間が経過している。ちなみに、このFLOSでの時間の流れは現実世界の四分の一となっており、ゲーム内での一日が現実での六時間に相当し、四日経過で二十四時間が経過することになる。


この手のゲームにはよくあることなのだが、一時的にログアウトすることなく仮想現実にずっとログインし続ける廃人プレイヤーがいる。最悪の場合、体調異変による急病で死亡するいう事故が過去に何度か起こっている。


それを防ぐため、一定の時期から連続でログインできる時間に制限を掛けており、今の規定では最大で八時間という時間制限が設けられ、八時間のログアウト後次のログインまでに二時間経過しなければ再ログインできない仕組みとなっている。ちなみに、再ログインの時間はログインしていた時間数によって決まり、一時間で十五分、二時間で三十分、四時間で一時間、八時間で二時間となっている。計算式としては、ログイン時間の四分の一が再ログインまでの時間となっているようだ。


「チュートリアルの前に、設定で【プライベート設定】と【PK禁止モード】を切り替えておかねば」


ヘルプ画面でクラフが入手した情報の中に【プライベート設定】と【PK禁止モード】というものが存在する。まずプライベート設定だが、これは単純に無断撮影によるスクショやムービーに対して許可を出すか出さないかの設定だ。


かつて前作のFLOでは、女性プレイヤーの姿をスクショやムービーに収め、それをランキング形式にして掲示板で発表するという悪質なプレイヤーが存在していた。それが本人たちの許可が取れていれば問題はなかっただろうが、そのほとんどが盗撮まがいのものばかりであり、中には倫理的に問題のあるものまであった。


そんなことをされて何も起こらないはずもなく、瞬く間に炎上し、数多くのクレームが運営に寄せられる事態となった。それを重く見た運営は、件のプレイヤーに処分を下し、次のアップデートにおいて本人の許可なくスクショやムービーを撮れないようにする【プライベート設定】が導入されることとなったのだ。


続いて【PK禁止モード】とは、PKを有効かどうかにする設定であり、PKをする側とされる側両方に対して効果がある。PKとはプレイヤーキルまたはそれを行う人物プレイヤーキラーを指す言葉で、通常NPCやMOBなどといったAIによるキャラクターを相手にせずプレイヤーに直接攻撃を仕掛ける行為だ。


ゲームよっては、PKが推奨されていたり、逆にPK行為自体が禁止されていたりとまちまちだが、FLOにおいてはPKが禁止されていないため、そういった行為を苦手とするユーザーの参加が難しいとされていた。


その点を考慮した結果、PKを許容できるプレイヤーと許容できないプレイヤーとを分ける【PK禁止モード】と呼ばれるものが実装されたのだ。このモードをオンにしておくことで、PK行為をさせないようにするためにプレイヤーからの直接攻撃が無効となる。


このモードが追加されたことで、女性や低年齢層のユーザーでも手軽にゲーム参加できるようになり、FLOはゲーム業界における不動の地位を確立させたのである。


「これでよしと」


設定画面からプライベート設定とPK禁止モードをオンにしたクラフが満足気に頷く。彼は気付いていなかったが、この行為自体が初見殺しを回避する結果となっていた。


ゲームにつきものなのが、経験者であれば知っている情報でも、初めての人間が引っ掛かってしまうちょっとした罠、所謂初見殺しと呼ばれるものが存在する。大概がゲームオーバーとなってしまう結果を招く初見殺しだが、今回は少し毛色が異なる。


プライベート設定が導入されたとはいえ、かつてそういった行為に手を染めていた人間は一定数存在しており、運営のペナルティを受けないぎりぎりのスクショを投稿したりしている連中は未だに存在しているため、まだまだ完全に安心できるレベルとは言えない。


そして、PK行為に関してはPK禁止モードが告知されるタイミングに問題があった。なんと、一度PKを経験しないとゲーム側から説明自体がされない仕様であり、ヘルプ画面での記載はされているものの、初心者のほとんどが一度PK被害に遭ってからこのモードの存在を知ることがほとんどだったのだ。


この不親切な設計に毎日のように運営宛にクレームが寄せられているらしいが、今まで改善されたことはない。理由としては、他に手を付けなければならない案件が山積みになっており、運営の管理体制も十分な人手を確保できていないという裏事情もあって、改善したくてもそれができないというのが現状だ。


こういう言い方は言い訳のように聞こえるかもしれないが、実際人気オンラインゲームの運営組織は、ほとんどブラック企業といっても過言ではないほどの過酷な労働状況にあり、細かいバグ一つ修正するのにも多大な労力を割くことになってしまう。あとは運営会社の上層部の思惑などにより、余計なコストは掛けたくないというのが本音で、ゲームを進行するうえでプレイの妨げにならなければ、コスト削減のため修正の必要なしと結論付けてしまうのが実情だったりするのだ。


そのしわ寄せが開発スタッフに及んでおり、快適なプレイを要求するユーザーとお金を掛けたくない上層部との板挟みになっていたりもするのだ。


そういった事情から、この二つの設定を初心者が知ることになるのは、概ねPKの被害に遭った後であることがほとんどであるため、FLOのプレイヤーの大多数がPKの被害に遭ったことのある人間で溢れ返っているのである。


だが、事前に取扱説明書を熟読する癖を持つクラフは、こういった情報を被害に遭う前に得ることができたため、PKの被害に遭うことなくPKを無効化することができたのであった。


「さてと、改めてチュートリアルをやっていこうか。なになに、“冒険者ギルドで冒険者登録をする”か」


ようやくゲームを進行する気になったクラフは、チュートリアルの項目をタップし、そこに記載されたミッションの名前を口にする。すると、別ウインドウが出現し、そこに表示されたマップに緑色のマークが表示される。その場所が目的地の冒険者ギルドで、最初のミッションはそこに向かい冒険者登録をするというものだった。


彼がゲームを開始して既に三時間ほどが経過しているが、未だに最初に出現する場所に留まっている。この状況を他のプレイヤーが見れば怪訝な表情を浮かべてしまうこと必至なのだが、一人用ゲームをプレイしてきた彼にとっては日常茶飯事なことであるため、それが異常であることに気付いていない。


尤も、ゲームをプレイするペース配分は人それぞれであり、どういった方針でゲームを攻略していくかはプレイヤーの采配に任されているため、問題ないといえば問題ないのだが……。


そんな思いも虚しく、すたすたと指定された場所に向かってクラフは歩を進める。街の様子は、彼が今までプレイしてきたゲームとそれほど遜色なく、行きかう人々やNPCで賑わっている。だが、一つ違うことがあるとすれば、彼以外にもプレイヤーがいるということだ。すなわち――。


「あいてっ」

「おっと……おうおう坊主。そんな余所見してたらあぶねぇじゃねか?」

「あ、ごめんなさい」


いつもは一人でゲームをすることが多いクラフは、よくこうして街の風景を見ながら歩くことが多かった。その癖はこのFLOSの世界でも変わらないようで、わき見運転ならぬわき見歩きをしてしまっていた。その結果、前から歩いてきたプレイヤーと接触事故を起こしてしまったのだ。


事故といっても、車と車ではなく人と人、それもゲーム内でのぶつかりであったため、二人に怪我はないのだが、それでもぶつかってこられた側からすればあまりいい気分ではないだろう。


「次からはちゃんと前を見て歩くことだな。でないと、また同じ目に遭うぞ?」

「は、はい。わかりました」


などと言いながら、クラフがぶつかったプレイヤーは去って行った。こちら側に全面的に非のあることだったため、クラフは自分の行いを反省する。


「いつもの感じでやってたけど。そうだ。ここには俺以外のプレイヤーもいるんだ」


こういった小さなことでも、大事になってしまうのが社会でありコミュニティだ。そういったことに巻き込まれないようにするためには、そうならないように常に注意しておかなければならないと、クラフは心に誓った。


気を取り直して、今度はきょろきょろとせずに前方に注意しながら歩いていると、目的地の冒険者ギルドが見えてくる。石造りの建物が主流な中、街にある建物でも数少ない木造の建築物が見えてくる。その建物こそ冒険者ギルドだ。


中に入ると、右手に受付カウンターが数か所設置された場所があり、左手には十数組のテーブルと椅子が置かれた休憩スペースのような場所がある。休憩スペースには何組かのプレイヤーが座っており、他愛のない雑談をしている者もいれば、ゲームに関する情報を話し合っている者もいた。


クラフは受付カウンターの一つに向かうと、そこにいた受付嬢に話し掛けた。受付嬢は金髪碧眼の巨乳美人さんで、胸元が大きく開いた服を着ているため目のやり場に困る。


「あ、あのー」

「いらっしゃいませー、冒険者ギルドへようこそ。本日はどういったご用件ですか?」

「冒険者登録をお願いしたいんですけど」

「かしこまりましたー。すぐに登録の手続きをいたします。……終わりましたー。こちらがあなたのギルドカードとなります」


登録はすぐに終わり受付嬢がギルドカードを手渡してくる。ギルドカードを手渡すとき彼女が前かがみになったことで、彼女の大いなる胸の谷間が露わになり、クラフとしてはさらに気まずい思いを抱く。


女性の胸に関しては、保奈美の熱烈なアプローチのお陰というべきかせいというべきか、これでもかというほどお目に掛かっているのだが、これだけの美人さんの胸となればいくら朴念仁のクラフとて多少は意識せざるを得ないのである。


そんなこんなで、冒険者登録もつつがなく終わり、次のミッションが表示される。その内容とは……。


「“クエストを受注して戦闘してみよう”か……」


そう、RPGでは定番中の定番であるクエストと戦闘であった。FLOSをジャンル分けするとVRMMOとなるのだが、その本質はRPGである。故に、モンスターとの戦闘は切っても切れない要素であり、VRMMOをプレイするにあたって避けては通れないといっても過言ではないのだ。


しかしながら、生産メインでプレイしてきたクラフにとって戦闘はあまり得意ではなく、まったくの未経験ではないが、他のプレイヤーと比べて明らかに戦闘が下手であった。


本人も自覚があり、そのために余計に生産作業に力を入れることになってしまったのだが、それよりも問題はミッションである。


「さっそく、クエストをお受けになられますか? 今ですと【スライム三匹の討伐】がおすすめです!」


可愛く握った両手の拳を胸の辺りに持ってきながら受付嬢がそう告げる。そして、そのモーションに連動するかのように彼女のそれはそれは大きな双丘がふるりと上下に揺れ動く。


それを見た他のプレイヤーが野太い歓喜の雄たけびを上げ、口々に感想を述べ合っている。


「やっぱ、ニーナちゃんは最高だぜ」

「あのおっぱいは反則すぎる」

「はぁー、助かる」

「捗るぅ、捗るぅぅー!!」


受付嬢の妖艶な姿を見てテンションの上がった男性プレイヤーとは対照的に、一緒にいた女性プレイヤーは冷ややかな目を向けていた。


「何よ、あんなの脂肪の塊ってだけじゃない」

「そうよ、寧ろ今の時代スレンダー女性がトレンドよ」

「別に男ってそういうもんじゃない? 今も昔も」

「それはあなたが向こう側の人間だから言えることだわ。こちら側に付くのなら、その胸もいで差し上げましょうか?」


などと、こっちはこっちで何か空恐ろしいものを感じる雰囲気だったが、そんな状態の外野にいたたまれなさを感じつつ、クラフはクエストを受けることにする。


クエストとは、主に困っている人のお願いを聞くことで物語のイベントが進むフラグのようなものであり、逆を言えばそのフラグを踏まなければイベントが進まず詰んでしまうゲームすら存在する。


しかし、今回はそれほど重いものではなく、依頼主の依頼を達成することで、幾ばくかの報酬を得ることができるという小遣い稼ぎ的な要素の強いものだ。もちろん、何かのイベントが発生する要素である場合もあるため、小遣い稼ぎなどと一概には言い切れない。


「お願いします」

「かしこまりました。では、クエスト受注を承ります。標的となるスライムは、この街の正門を出てすぐの場所【ビギニング平原】に生息しておりますので、そちらへ向かってください。最弱モンスターとはいえ、モンスターであることには変わりないので、お怪我をされませぬよう、お気をつけていってらっしゃいませ」


そう言いながら、受付嬢が再び両の拳を胸の辺りに持ってくる。そして、先ほどと同じように彼女の持つ双丘もまたふるりと上下に揺れ動く。まるでこれから討伐しに行くスライムのようだと、クラフは思ってしまった。


「さすがニーナちゃん。乳揺れ助かる!」

「おい、いつものアレだ! アレをやるぞ!!」


そんな彼女の姿を見た男たちが、テンションが上がったのか、何かをしようとしていた。一方の女性プレイヤーは、またいつものアレが始まるのかと言わんばかりに呆れた表情を浮かべていたが、テンションが上がり切った男たちがそれに気付くことはない。


そして、それは始まった。まずは椅子に座っていた男たちが各々に片足を床に踏みつけることで一定のリズムを刻み始める。まるで某有名ロック歌手の歌う曲のイントロのような足踏みだが、メトロノームのように一定のリズムを刻んでいるため、あの曲とは似ても似つかない。


「ワン、トゥー、ワントゥースリーフォー。助かるラスカルヘクトパスカル」

「ベ〇サイユのばら、それはオ〇カル」

「中国のお酒、それはパイカル」

「バンドのメンバー、それはボーカル」


その足踏みと共に始まったのは、ラップ調の歌で、どうやら彼らのオリジナルの曲らしい。“カル”という言葉に対して韻を踏んでいるようで、曲調のテンポがいいことも相まって聞いているとどこか耳に残る曲だった。


それを延々と繰り返す光景は、どこか現実世界とは異なった異質な雰囲気を醸し出しており、ここは異世界なのではないかと錯覚させるほどだ。


「これが、ファンタジーというやつか? いや違うな。ただのプレイヤーの悪ノリだ」


一瞬、今起きていることをファンタジーで片づけようとしたクラフだったが、目の前の男たちが自分と同じプレイヤーであることを思い出し、その考えを即座に捨て去る。


これ以上この場にいてはあの曲に洗脳されそうだと思ったクラフは、逃げるようにそのまま冒険者ギルドを後にした。


余談だが、クラフがいなくなった後、さらに盛り上がりを見せた男たちが暴走し、あろうことか受付嬢に突撃しようとしたところで、その場にいた男たちが忽然と姿を消した。


NPCとはいえ女性に不埒なことをする悪漢をその場の女性が黙って見過ごすはずもなく、彼女たちのGMコールによってあえなく強制ログアウト&三日間のアカウント停止処分と相成った。


“通報しました”という文字が表示されたウインドウを尻目に、一人の女性が消え去った男たちに辛辣な一言を浴びせかける。


「馬鹿に付ける薬はない。何故なら、馬鹿は死んでも治らないからだ」


男たちの末路を的確に表しているとして、その場にいた全員が彼女の言葉に頷くのであった。


一方のクラフは、冒険者ギルドを去ったのち、街の正門へと向かっていた。すると、ピコンという音と共にウインドウが出現し、説明文が表示される。


「なになに、転移機能についてか。そういえば、これはヘルプ画面になかったな」


FLOSでは、移動の時間を短縮させるため、ある一定の距離を瞬時に移動できる転移機能が搭載されている。転移といっても万能ではなく、一度行ったことがある場所でないと転移が不可能であるため、実際にその場所を訪れなければならない。


現在、クラフが転移可能なのは、冒険者ギルドと彼が最初に出現した広場の二つであり、正門に行くためには一度その広場を通らなければならないため、ここから転移する方が時間短縮になるのだ。


「一回使ってみるか」


そのような説明があったため、わざわざ時間を掛けて同じ道を戻るのであれば、瞬時に移動できる転移を使った方がいいと判断したクラフは、転移機能を使って広場へと移動した。


彼の判断は正しかったようで、冒険者ギルドへと行くために通った道のりを飛ばして広場へと戻ってくることができた。あとは、冒険者ギルドとは真逆の方向に進んでいくだけである。


「これは便利だ。次からはこれを利用しよう」


この手の類のシステムは、クラフがやっていたゲームでも存在していたが、他のプレイヤーとの接触を極力避けられるという意味で、便利なものであると彼はそう思ってしまった。今のところ、他のプレイヤーに対していい思い出のないクラフにとっては特にだ。


何はともあれ、再び進行方向に注意をしつつ、街の正門へと向かっていく。今回は何事もなく正門に辿り着き、意を決してスライムが生息している【ビギニング平原】へとクラフは足を踏み入れた。












【雑談掲示板】いろいろ話そうPart0127



――――――――――――――――――――――――


340:ペティグリュー


今のところは前作のシステムで削除されているものはないってことだな?



341:モンチー


そうだな、特にはない。



342:エンペラード


で、肝心の新要素はどうなんだ? 何かわかったのか?



343:マッコリーニ


検証組が躍起になっているようだが、今のところ成果は出ていない。



344:シーカーフェイス


元々システム的には前作のアプデで完成度の高いシステムに引き上げられてるからなー。
ここから新要素を加えるとなると相当厳しいと思うぞ。



345:ぎがんとす


プログラマーに知り合いがいるから聞いてみたんだが、デスマーチを一週間繰り返したとしても、通常ではあり得ないほどのスピードでアプデが完了しているらしい。
できていることが奇跡だと力説していたよ。運営どんだけブラックなんだよ(汗)。



346:ニコルソン


本日、六度目の死に戻りだ!
実に順調、実に愉快なり!!



347:ほろ酔い伯爵


貴様ぁー! いい加減にしろぉー!!



348:ハッタリ半蔵


巻き添えで死ぬのはごめんでござるよ……。



349:ペティグリュー


でた、名物三人組ww



350:るるるのお姉さん


この人たちも相変わらずのようね。
まあ、それがいいところでもあるのだろうけど……。



351:ごるはちょふ三世


まあ、三人のうち二人は個人ランキングで上位にランクインしてるし、約一名がネタに走ってるせいでトップ攻略組には一歩届いてないけどな。



352:モンチー


それがなけりゃあ、トップを名乗れるのになー。
実に残念で仕方がないというかなんというか……。



353:ニコルソン


死に戻れないVRMMOなどVRMMOにあらず!!
そして、本日七回目の死に戻りに向けて、突貫いたす所存!
ほろ酔い、半蔵。後のことは任せた! 骨は拾ってくれよな!!



356:ほろ酔い伯爵


待でゴラァー!!
これ以上死に戻ったら、前線に戻るのにどれだけの時間が掛かると思ってるんだ!?
思い留まれ、この死に戻り馬鹿が!!



357:ハッタリ半蔵


結局はこうなる運命でござるか……。
人生諦めか肝心という言葉が、今の拙者たちの状況に合っているのは気のせいなのでござろうか?
まあ、とりあえず。ニコルソン殿を止めてくる故、拙者たちはこれにて失礼。どろん(>_<)



358:マッコリーニ


なんだか、気の毒過ぎて茶化す気すら失せたわ。
それよりも、FLOSが始まって一か月経つけど。そろそろ、第二陣がログインしてくる頃だよな?



359:エンペラード


そうそう、俺たち第一陣一万人に対して、二陣は二万人の予定らしいぞ。



360:シーカーフェイス


聞いたんだけどさ。
一陣の競争率が五千倍だったってマ?



361:ぎがんとす


らしいな。
そして、第二陣の競争率もそれと変わらなかったって噂だ。
一陣の中にはもう一本欲しくて応募したようだが、当然抽選から漏れたって聞いた。



362:ごるはちょふ三世


そもそも、一陣で当たった奴が二本目の抽選に応募して当てるとか、どんだけの豪運なんだよ! そいつは神か何かか?
それにしても、FLOS化け物タイトル過ぎるなww
第三陣の抽選も始まってるようだが、次の在庫が確保できるのは半年以上先だって話だ。



363:ペティグリュー


運営の狙いとしては、最初の一陣で本格的な配信に向けての試験運用をする予定だったけど、予想以上の反響に急遽ソフトを増産したってことらしい。



364:ネルトランダー


今北産業。
だから最初の発売から一か月後という中途半端な間が空いてるのかー。
でも、そういう意味では第二陣にとっては早くソフトが手に入ってラッキーだったな。



365:るるるのお姉さん


私も最初の第一陣に漏れちゃって、第二陣で参戦してきた口だったから、そういう意味では運営には感謝ね。



366:モンチョイ


おい、聞いたか?
第二陣参戦を記念してイベントがあるって噂。



367:ぎがんとす


マ?
一陣の時にはなかったよな?



368:モンチー


これはまた各掲示板が騒がしいことになりそうだ。



――――――――――――――――――――――――

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品