ダンジョン爆破計画!
第5話
ダンジョンにはボス部屋がある。正確には、ボス部屋と呼ばれるスペースがある。
階層を移動する手前の広場には、その階層の中で比較的強力な魔物が集まりやすいため、ボス部屋とよばれることがあるのだ。
ダンジョンの構造は、一階ごとの階層に分かれている。地下に伸びるように、第一階、第二階、第三階と、時間が経ちダンジョンが育つたびに深いダンジョンへと変化していく。
そして、各層の境目には階層をつなぐ階段が設けられている。そのため、ボス部屋を乗り越えた先には次階層への階段があり、逆に言えば、ボス部屋を突破しなければ次の階層にはたどり着けないのだ。
「ここがボス部屋っぽいな」
散々迷った挙句、「もう帰ろうか」なんて弱音を吐きながらも歩き続けた結果、ひらけて天井の高い場所にでた。
「あきらかに強そうなやつがいるからのう。どうする? 戦えるか?」
俺よりも体力のないイグナは、歩き疲れた様子だ。
広場の中心には、腕や足が丸太のように太く、身長が三メートルはありそうなでかいゴブリンがいた。普通のゴブリンの三倍近い大きさだ。大の字になって、鼻提灯を膨らませながら寝ている。
肌の色は黒く、金属のような光沢を帯びている。ずいぶんと強そうだ。おそらくボスモンスターだろう。
「ここまで来て帰るわけにもいかないよな。寝ているようだし、横を通ってすり抜けられないかな」
「周りに普通のゴブリンがおるから難しそうじゃの。ボスゴブリンの取り巻きといったところか」
「そうだな、見張りをしているみたいだ。倒すしかないか。ボスが寝てるうちに、先手を取りたいな。最初から最大火力でいこう」
そうして、俺たちのボス部屋攻略がはじまった。
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〈イグナの数行クッキング〉
イフリート試作機βマークⅠ
材料:
爆裂岩(ベース素材) 大サイズ十個
はじけ礫(補助素材) 少々
水入りガラス瓶(補助素材) 一本
ガムねんど(補助素材) 一握り
イグナ「わし特製の高火力爆弾シリーズ、イフリートの新作じゃ。まずはベース素材となる、爆裂岩から説明しよう」
リク「ベース素材は爆弾の威力を決定づける、重要な素材です」
イグナ「爆裂岩はつよい爆発を引き起こす強力な素材である反面、扱いずらい特徴がある。それは、水分と反応してのみ、爆発するということじゃ。言い換えれば、どれだけ強い衝撃をあたえても爆発することはない」
リク「爆弾は投げて使うことが多いので、衝撃と反応して爆発する素材のほうが使い勝手がいいですね」
イグナ「じゃから、起爆のための機構には一工夫加える必要がある。用意したのは水入りのガラス瓶じゃ」
リク「科学で使う試験管のような形状のものですね」
イグナ「今回はこれを爆裂岩で包んで投げるんじゃ。ぶつけた衝撃でガラスを割って、漏れ出した水と反応させて爆発させる」
リク「ガラス瓶は壊れてしまう前提です。安いものでもないので、もったいないですが、背に腹は代えられません」
イグナ「ガラス瓶には補助素材として、少量のはじけ礫も入れておく。はじけ礫は少しの衝撃で破裂するので、ガラス瓶を割る補助をしてくれるじゃろう。最後に、ダンジョンで採取したガムねんどでガラス瓶と爆裂岩を固定して完成じゃ」
リク「あるもので作る都合上、ガムねんどを使用いたしましたが、ガムねんどは水分を吸ってしまう上に、衝撃も吸収しやすいので、今回の爆弾とは相性の悪い素材といえます。使用は最小限の量とどめるように注意しましょう」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
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〈イグナの数行クッキング〉
広範囲しびれボム
材料:
はじけ礫(ベース素材) 少々
風塵タンポポの綿毛(補助素材) 2個分
シビレ漆の樹液(効果素材) カップ一杯
イグナ「今回作る広範囲しびれボムは、戦闘を補助するためのものじゃ」
リク「以前つくった煙幕みたいなものですね」
イグナ「うむ。即席けむり筒爆弾じゃな。それと、用途は似ておる。爆弾の破壊力そのものよりも、相手の行動を制限するための爆弾じゃな」
リク「なるほど。爆弾にも様々な用途があるんですね」
イグナ「今回の中心となる素材は、シビレ漆を削り集めた樹液じゃ。これは、神経毒を含んでいて、触れた者をシビレさせる効果がある。素手で触るのは厳禁じゃぞ」
リク「気を付けます。もう二度と痺れたくないので」
イグナ「……リクはさっき、採取のときに、一度しびれておったの。体力バカですぐ回復して助かったわい。通常なら触れると12時間はしびれて動けん猛毒じゃ」
リク「ゴブリンは人型の魔物なので、よく効果がありそうですね」
イグナ「……リクのような体力バカでも、数分は動けなくなっていた。即効性もある。ゴブリンにどれだけきくかはわからんが、戦闘を優位に運ぶくらいはできるじゃろう」
リク「いいから、早く作ってください」
イグナ「はあ。まあよい。それで、今回は補助材料として風塵タンポポ、ベース素材としてはじけ礫を使う」
リク「風塵たんぽぽはさきほど採れたものですね。爆風ににって綿毛が飛び、爆弾の効果範囲を広げる効果があります。あらかじめ、茎の部分を外し、綿毛のみの状態にしてあります」
イグナ「今回のレシピは簡単じゃ。はじけ礫と風塵タンポポ。シビレ漆の樹液をゆっくりと混ぜ合わせるだけじゃ。綿毛全体に樹液がしみこむように、かつ綿毛が潰れないように気を付けながらやさしく混ぜ合わせる」
リク「やり方は簡単ですが、間違って飛沫が体につかないように丁寧に行いましょう」
イグナ「あとはこれを団子状にする。シビレ漆の樹液はややドロッとしているから、すぐに纏まるんじゃ。これを投げると、衝撃で爆破し、綿毛にしみこんだ樹液が広範囲に広がり、あたりの敵を一度に麻痺させることができる」
リク「衝撃で破裂するはじけ礫をつかうのがポイントです。風塵タンポポは高温の爆弾をつかうと簡単に引火して燃え尽きるので、温度が上がらない素材を使って爆破させましょう」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
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「そうしてようやく、ボス戦ってわけだな。いっぱい料理してつかれたよ」
「なんの話じゃ?」
「いいや、なんでもない。こっちの話だ」
『おれっちは好きだよ。リクの脳内クッキング』
「うるさい」
相変わらず脳内を読んでくる図鑑を閉じ、ボス部屋の中心に向き直る。
「とりあえず、麻痺させてから数を減らすか? ボスは寝ているが、取り巻きは起きてるし、数も多いから面倒だな」
ボスの周りには、ゴブリンが七匹。最初は二匹を相手にするのも大変だったが、いまならなんとかなりそうな気がしている。慣れってすごい。
「そうじゃの。もしかすると広範囲しびれボムだけで完封できるかもしれんからの」
ほんとは道中で効果を試してみたかったが、あいにく材料のはじけ礫が尽きてしまい、量を確保できなかった。広範囲しびれボムとイフリート試作機βマークⅠ、それぞれ一つづつしか用意が出来ていない。それに加えて、作っておいた即席けむり筒爆弾が三つ。それが俺たちの手札だ。
「即席けむり筒爆弾は帰り道に温存しておきたいな。ボスに爆弾投げて、勝てなさそうだったら、さっさと撤退しよう」
「えらい弱気じゃのう。らしくないわ」
ボスの実力もわからないのだ。スムーズに倒せればいいが、全く適わない可能性もある。
俺一人なら、ダンジョンの外へ走ってでも逃げれるだろうが、イグナを連れてとなるとやや自信がない。イグナは俺ほど体力はない。荷物を全部捨てて、イグナを担いで走ることになるだろう。
「生きて帰るのが一番大事さ。そもそも、爆弾を使うと俺たちにできることはないんだ」
「ふむ。それはそうじゃの」
両手の爆弾を見つめながら、イグナが答える。頭の中は、爆弾を爆発させることでいっぱいのようだ。
「確認するぞ。まずは俺が近くまでいって、広範囲しびれボムを投げる。イグナは離れた後ろで見て、当たってないやつがいたら教えてくれ。ボスはでかいから当たるだろうが、取り巻きのやつら全員にあたるとは限らない。取り巻き七体のうち、外れたやつが一、二体程度なら俺が仕留めてみる。三体以上外れたら、一時撤退だ」
「わかっておる。無理するんじゃないぞ」
爆弾を作ったイグナは、戦闘中にはあまりやることがない。危険な前線に出て欲しくないということもあり、それとなく後方からの確認をたのんだ。イグナをこっそり安全圏に逃がしたことに、気づいているのかいないのか、「軍師みたいじゃな!」と楽し気な声を上げていた。
「それじゃあ、行ってくる」
俺は、右手に広範囲しびれボム持って、身をかがめ中腰になりながら忍び足で近づく。
ダンジョンに潜って気が付いたことだが、ゴブリンはあまり視力がよくないらしい。近視のようなものだろうか。近くの敵は見えているようだが、遠い敵の警戒はお粗末なものだ。
しびれボムの大きさは、ハンドボールほど。重さはもう少し重く、表面が凸凹かつ厚手の手袋ごしに持つため掴みにくい。
鍛えている俺でも、40メートルほど飛べばいいところだろう。衝撃を与えたら爆発するため、慎重に投げる必要があることも考えると、30メートルくらいまでは近づきたい。
まだ。
まだだ。
あとすこし。
じわりじわりとにじり寄る。手前のゴブリンがこっちを見ている。気づかれたか? それにしては反応がない。ボーっとしているだけか?
まだだ。
まだ……。
いまだ!
俺はさっと立ち上がり、大きく振りかぶってしびれボムを投げた。
飛んで行った爆弾は寝ているボスの腹に当たり、やわらかそうなぽっこりお腹の見た目の裏腹に、キンッという硬質な音がひびいた。
そうして、爆発音とともに俺たちの初のボス戦が幕を開けた。
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リクメモ!(※リクが転生してから書いている、素材の簡易メモです)
ガムねんど
レア度:★1
分類:補助素材
説明:
柔軟性と弾力性を持ち、触るとガムのように粘りけを持つねんど。ダンジョンの湿気の多い地面や壁面から採取できる。水を一時的にもの同士をくっつけることに適している。衝撃を緩和し、水分を吸収する性質がある。
注意:
湿気の少ない場所で保管すること。水分を吸収しすぎると粘着性が落ちる。
ひとこと:
‘‘ガムねんど‘‘はガムとねんど 両方の性質を持つ
シビレ漆
レア度:★2
分類:効果素材
説明:
毒性植物。まっすぐ伸びた幹と、黒色の葉が特徴。森や一部のダンジョンに生息する。幹を傷つけると、粘性の高い紫色の樹液がにじみ出る。この樹液には神経毒が含まれており、皮膚に触れると麻痺効果がある。
注意:
素手では扱わないように。また、飛沫が飛ぶのを防ぐため、扱う際は全身を覆う衣服の着用がのぞましい。
ひとこと:
もうにどと採取したくない植物ナンバーワン。麻痺すると、樹液が触れた箇所から全身にアリが登ってくるような気持ち悪さがある。
階層を移動する手前の広場には、その階層の中で比較的強力な魔物が集まりやすいため、ボス部屋とよばれることがあるのだ。
ダンジョンの構造は、一階ごとの階層に分かれている。地下に伸びるように、第一階、第二階、第三階と、時間が経ちダンジョンが育つたびに深いダンジョンへと変化していく。
そして、各層の境目には階層をつなぐ階段が設けられている。そのため、ボス部屋を乗り越えた先には次階層への階段があり、逆に言えば、ボス部屋を突破しなければ次の階層にはたどり着けないのだ。
「ここがボス部屋っぽいな」
散々迷った挙句、「もう帰ろうか」なんて弱音を吐きながらも歩き続けた結果、ひらけて天井の高い場所にでた。
「あきらかに強そうなやつがいるからのう。どうする? 戦えるか?」
俺よりも体力のないイグナは、歩き疲れた様子だ。
広場の中心には、腕や足が丸太のように太く、身長が三メートルはありそうなでかいゴブリンがいた。普通のゴブリンの三倍近い大きさだ。大の字になって、鼻提灯を膨らませながら寝ている。
肌の色は黒く、金属のような光沢を帯びている。ずいぶんと強そうだ。おそらくボスモンスターだろう。
「ここまで来て帰るわけにもいかないよな。寝ているようだし、横を通ってすり抜けられないかな」
「周りに普通のゴブリンがおるから難しそうじゃの。ボスゴブリンの取り巻きといったところか」
「そうだな、見張りをしているみたいだ。倒すしかないか。ボスが寝てるうちに、先手を取りたいな。最初から最大火力でいこう」
そうして、俺たちのボス部屋攻略がはじまった。
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〈イグナの数行クッキング〉
イフリート試作機βマークⅠ
材料:
爆裂岩(ベース素材) 大サイズ十個
はじけ礫(補助素材) 少々
水入りガラス瓶(補助素材) 一本
ガムねんど(補助素材) 一握り
イグナ「わし特製の高火力爆弾シリーズ、イフリートの新作じゃ。まずはベース素材となる、爆裂岩から説明しよう」
リク「ベース素材は爆弾の威力を決定づける、重要な素材です」
イグナ「爆裂岩はつよい爆発を引き起こす強力な素材である反面、扱いずらい特徴がある。それは、水分と反応してのみ、爆発するということじゃ。言い換えれば、どれだけ強い衝撃をあたえても爆発することはない」
リク「爆弾は投げて使うことが多いので、衝撃と反応して爆発する素材のほうが使い勝手がいいですね」
イグナ「じゃから、起爆のための機構には一工夫加える必要がある。用意したのは水入りのガラス瓶じゃ」
リク「科学で使う試験管のような形状のものですね」
イグナ「今回はこれを爆裂岩で包んで投げるんじゃ。ぶつけた衝撃でガラスを割って、漏れ出した水と反応させて爆発させる」
リク「ガラス瓶は壊れてしまう前提です。安いものでもないので、もったいないですが、背に腹は代えられません」
イグナ「ガラス瓶には補助素材として、少量のはじけ礫も入れておく。はじけ礫は少しの衝撃で破裂するので、ガラス瓶を割る補助をしてくれるじゃろう。最後に、ダンジョンで採取したガムねんどでガラス瓶と爆裂岩を固定して完成じゃ」
リク「あるもので作る都合上、ガムねんどを使用いたしましたが、ガムねんどは水分を吸ってしまう上に、衝撃も吸収しやすいので、今回の爆弾とは相性の悪い素材といえます。使用は最小限の量とどめるように注意しましょう」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
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〈イグナの数行クッキング〉
広範囲しびれボム
材料:
はじけ礫(ベース素材) 少々
風塵タンポポの綿毛(補助素材) 2個分
シビレ漆の樹液(効果素材) カップ一杯
イグナ「今回作る広範囲しびれボムは、戦闘を補助するためのものじゃ」
リク「以前つくった煙幕みたいなものですね」
イグナ「うむ。即席けむり筒爆弾じゃな。それと、用途は似ておる。爆弾の破壊力そのものよりも、相手の行動を制限するための爆弾じゃな」
リク「なるほど。爆弾にも様々な用途があるんですね」
イグナ「今回の中心となる素材は、シビレ漆を削り集めた樹液じゃ。これは、神経毒を含んでいて、触れた者をシビレさせる効果がある。素手で触るのは厳禁じゃぞ」
リク「気を付けます。もう二度と痺れたくないので」
イグナ「……リクはさっき、採取のときに、一度しびれておったの。体力バカですぐ回復して助かったわい。通常なら触れると12時間はしびれて動けん猛毒じゃ」
リク「ゴブリンは人型の魔物なので、よく効果がありそうですね」
イグナ「……リクのような体力バカでも、数分は動けなくなっていた。即効性もある。ゴブリンにどれだけきくかはわからんが、戦闘を優位に運ぶくらいはできるじゃろう」
リク「いいから、早く作ってください」
イグナ「はあ。まあよい。それで、今回は補助材料として風塵タンポポ、ベース素材としてはじけ礫を使う」
リク「風塵たんぽぽはさきほど採れたものですね。爆風ににって綿毛が飛び、爆弾の効果範囲を広げる効果があります。あらかじめ、茎の部分を外し、綿毛のみの状態にしてあります」
イグナ「今回のレシピは簡単じゃ。はじけ礫と風塵タンポポ。シビレ漆の樹液をゆっくりと混ぜ合わせるだけじゃ。綿毛全体に樹液がしみこむように、かつ綿毛が潰れないように気を付けながらやさしく混ぜ合わせる」
リク「やり方は簡単ですが、間違って飛沫が体につかないように丁寧に行いましょう」
イグナ「あとはこれを団子状にする。シビレ漆の樹液はややドロッとしているから、すぐに纏まるんじゃ。これを投げると、衝撃で爆破し、綿毛にしみこんだ樹液が広範囲に広がり、あたりの敵を一度に麻痺させることができる」
リク「衝撃で破裂するはじけ礫をつかうのがポイントです。風塵タンポポは高温の爆弾をつかうと簡単に引火して燃え尽きるので、温度が上がらない素材を使って爆破させましょう」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
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「そうしてようやく、ボス戦ってわけだな。いっぱい料理してつかれたよ」
「なんの話じゃ?」
「いいや、なんでもない。こっちの話だ」
『おれっちは好きだよ。リクの脳内クッキング』
「うるさい」
相変わらず脳内を読んでくる図鑑を閉じ、ボス部屋の中心に向き直る。
「とりあえず、麻痺させてから数を減らすか? ボスは寝ているが、取り巻きは起きてるし、数も多いから面倒だな」
ボスの周りには、ゴブリンが七匹。最初は二匹を相手にするのも大変だったが、いまならなんとかなりそうな気がしている。慣れってすごい。
「そうじゃの。もしかすると広範囲しびれボムだけで完封できるかもしれんからの」
ほんとは道中で効果を試してみたかったが、あいにく材料のはじけ礫が尽きてしまい、量を確保できなかった。広範囲しびれボムとイフリート試作機βマークⅠ、それぞれ一つづつしか用意が出来ていない。それに加えて、作っておいた即席けむり筒爆弾が三つ。それが俺たちの手札だ。
「即席けむり筒爆弾は帰り道に温存しておきたいな。ボスに爆弾投げて、勝てなさそうだったら、さっさと撤退しよう」
「えらい弱気じゃのう。らしくないわ」
ボスの実力もわからないのだ。スムーズに倒せればいいが、全く適わない可能性もある。
俺一人なら、ダンジョンの外へ走ってでも逃げれるだろうが、イグナを連れてとなるとやや自信がない。イグナは俺ほど体力はない。荷物を全部捨てて、イグナを担いで走ることになるだろう。
「生きて帰るのが一番大事さ。そもそも、爆弾を使うと俺たちにできることはないんだ」
「ふむ。それはそうじゃの」
両手の爆弾を見つめながら、イグナが答える。頭の中は、爆弾を爆発させることでいっぱいのようだ。
「確認するぞ。まずは俺が近くまでいって、広範囲しびれボムを投げる。イグナは離れた後ろで見て、当たってないやつがいたら教えてくれ。ボスはでかいから当たるだろうが、取り巻きのやつら全員にあたるとは限らない。取り巻き七体のうち、外れたやつが一、二体程度なら俺が仕留めてみる。三体以上外れたら、一時撤退だ」
「わかっておる。無理するんじゃないぞ」
爆弾を作ったイグナは、戦闘中にはあまりやることがない。危険な前線に出て欲しくないということもあり、それとなく後方からの確認をたのんだ。イグナをこっそり安全圏に逃がしたことに、気づいているのかいないのか、「軍師みたいじゃな!」と楽し気な声を上げていた。
「それじゃあ、行ってくる」
俺は、右手に広範囲しびれボム持って、身をかがめ中腰になりながら忍び足で近づく。
ダンジョンに潜って気が付いたことだが、ゴブリンはあまり視力がよくないらしい。近視のようなものだろうか。近くの敵は見えているようだが、遠い敵の警戒はお粗末なものだ。
しびれボムの大きさは、ハンドボールほど。重さはもう少し重く、表面が凸凹かつ厚手の手袋ごしに持つため掴みにくい。
鍛えている俺でも、40メートルほど飛べばいいところだろう。衝撃を与えたら爆発するため、慎重に投げる必要があることも考えると、30メートルくらいまでは近づきたい。
まだ。
まだだ。
あとすこし。
じわりじわりとにじり寄る。手前のゴブリンがこっちを見ている。気づかれたか? それにしては反応がない。ボーっとしているだけか?
まだだ。
まだ……。
いまだ!
俺はさっと立ち上がり、大きく振りかぶってしびれボムを投げた。
飛んで行った爆弾は寝ているボスの腹に当たり、やわらかそうなぽっこりお腹の見た目の裏腹に、キンッという硬質な音がひびいた。
そうして、爆発音とともに俺たちの初のボス戦が幕を開けた。
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リクメモ!(※リクが転生してから書いている、素材の簡易メモです)
ガムねんど
レア度:★1
分類:補助素材
説明:
柔軟性と弾力性を持ち、触るとガムのように粘りけを持つねんど。ダンジョンの湿気の多い地面や壁面から採取できる。水を一時的にもの同士をくっつけることに適している。衝撃を緩和し、水分を吸収する性質がある。
注意:
湿気の少ない場所で保管すること。水分を吸収しすぎると粘着性が落ちる。
ひとこと:
‘‘ガムねんど‘‘はガムとねんど 両方の性質を持つ
シビレ漆
レア度:★2
分類:効果素材
説明:
毒性植物。まっすぐ伸びた幹と、黒色の葉が特徴。森や一部のダンジョンに生息する。幹を傷つけると、粘性の高い紫色の樹液がにじみ出る。この樹液には神経毒が含まれており、皮膚に触れると麻痺効果がある。
注意:
素手では扱わないように。また、飛沫が飛ぶのを防ぐため、扱う際は全身を覆う衣服の着用がのぞましい。
ひとこと:
もうにどと採取したくない植物ナンバーワン。麻痺すると、樹液が触れた箇所から全身にアリが登ってくるような気持ち悪さがある。
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