ダンジョン爆破計画!
第2話
「しっ。敵がいる」
俺は唇に指を当て、静かにするように伝える。俺がイグナに仕込んだ、地球式ジェスチャーだ。
俺達は今、隠密しながらダンジョンを進んでいる。俺の実力ではゴブリン相手に攻撃が当たらないことが分かったし、イグナも現状の素材では敵を倒すほどの火力のある爆弾を作れない。
それでも、俺達はダンジョンの奥を目指すことにした。
「ゴブリン2匹だ。道は一本道。どうする? 分かれ道まで戻るか?」
「いや、ここを通るべきじゃ。ゴブリンの足元にあるあれは風塵タンポポじゃ。どうやら先に、群生しとるらしい。あれは回収しておきたいの」
風塵タンポポは爆弾の素材になる。何が約に立つか分からない現状では、なるべく回収しておきたい。
「それなら、さっきと同じ作戦でいくか」
イグナは小さく頷いて、大きなお団子ヘアーから着火の魔道具を取り出すと、筒状の爆弾へと火をつけ、ゴブリンの足元へと放りなげた。
「たんと召し上がれ、即席けむり筒爆弾じゃ!」
ぼふん、と音をたてて、筒から黒の濃い煙が立ち上げた。ダンジョンで取れる素材を使った、即席の煙幕である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〈イグナの数行クッキング〉
即席けむり筒爆弾
材料:
火薬草(ベース素材) 少々
燻煙松の皮(補助素材) 一巻き
麻縄(補助素材) 二十センチほど
燻煙松の葉(効果素材) 一束
イグナ「まずは、燻煙松の葉を一束。軽く繊維を壊すように、両手でごりごりと擦り合わせるのじゃ」
リク「これは力がいる作業ですね」
イグナ「燻煙松の葉は、燃えると大量の煙を出す。この効果を利用して、爆弾に煙を出す効果を付与する」
リク「今回の爆弾の肝となる素材です」
イグナ「次に、布や紙などで葉を筒状にまとめるぞ。今回は、一緒に採れた燻煙松の皮で代用じゃ」
リク「なるほど、その場にあるものを工夫して使うのですね。効率的です」
イグナ「導火線となる麻紐と、火力を強めるための少量の火薬草を一緒につつんむのじゃ。最後に縛って完成!」
リク「青葉のままでは火が付きにくいので、少し火薬草を混ぜるのがポイントですね。燻製松の葉を乾燥させてから作ると、さらに火が付きやすくなりますよ」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ンギャ?! ギャホッ、ギャホッ」
二匹のゴブリンは煙に包まれた。混乱し、やみくもに棍棒を振り回しているようだ。ゴブリンは身長が低いので、足元から噴き出すけむりは相性最悪だ。
「よけられないならこっちのもんだ」
俺は素早くゴブリンに近づくと、大きく体を捩り、ゴブリンの胸にむかってピッケルを振りぬいた。
「グギャッ!」
野球のスイングのように下から上へと振りきったピッケルを、位置エネルギーを保ったまま持ち直し、今度は頭上から振り下ろすようにしてもう一匹のゴブリンの頭を貫いた。ゴブリンが二匹刺さったままのピッケルが地面を貫く。
「どんなもんよ!」
ずりゅ、っと音をたてながらゴブリンの串刺しからピッケルを引き抜く。今日はこれで、キルスコアが二桁になった。
「相変わらず、ものすごい怪力じゃ。それなのになんで、おぬし一人でゴブリンに勝てんのかのう」
「筋トレの甲斐があったな。ただ、どんだけ威力が高くても避けられたら意味がない。普通にピッケル振っても当たんないし」
「つぎから、ピッケルの素振りも筋トレのメニューに加えんか、ばか。相手に当てる技術が足りとらんのじゃろう。振るときも隙だらけじゃ」
小言をいいつつも、イグナはゴブリンの解体を始めた。といっても、ゴブリンから採れる素材は多くない。必要な部分だけ簡単に抜き取るだけだ。
「ほう。こいつもなかなかいい魔石じゃの。ここのゴブリンの魔石は高品質なのかもしれん。この調子でガンガン倒してくれ」
心臓にナイフを差し込んで開き魔石の確保をすると、イグナは少し上機嫌になる。
魔物の体内には、魔石と呼ばれる石が存在する。魔道具の動力になるため、それなりの価格で売れるのだ。
ちなみにイグナは魔石を爆弾に利用する実験もしている。まだ成功の目途は経っていないようだ。
「うへー、ほんと、よくやるよ。俺にはグロくて無理だ」
東京生まれ東京育ちの俺には、心臓を切って魔石を掻き出す作業はハードルが高い。この世界にきて十数年は立つが、未だに生き物の解体は慣れない。まして、今日初めて戦った人型魔物の死体など、見るのも嫌になる。
「ピッケルで串刺しにしておいて、どの口がいうんじゃ。ほれ、いつまでわし一人にやらせるつもりじゃ。もう一匹はおぬしがやらんか」
ピッケルは長いからあんま手に感触こないし、マシなんだよ。あと、煙が残っているうちは、よく見えないから平気だし。俺は文句を言いながらも仕方なくゴブリンの死体と向き合った。
ダンジョンに潜り始めて三時間は経っただろうか。俺たちは、素材を集めながら、少しづつ進んでいた。
最初に「即席けむり筒爆弾」をいくつも確保できたのが幸いだった。このダンジョンには今のところゴブリンしか出てきていない。索敵を視覚に頼っている魔物には、この単純な煙幕でも効果てきめんだ。
ゴブリンを煙で包みさえすれば、逃げるもよし、奇襲するもよし、なんでもござれの対ゴブリン必殺爆弾である。
作成に残りの火薬草をすべて使い切ってしまったが、仕方がないだろう。ダンジョンには火薬草も自生しているが、爆弾の材料とするには乾燥させる必要があるため、補充は叶わなかった。
そのため、爆弾の材料になりそうな、めぼしい素材は回収しながら地道に先を目指している。
あれもこれも、役に立つのかわからないようなものまで集めているうちに、気が付くと来る前より荷物が多くなっていた。背負い袋がパンパンである。
「リク! すごいぞ! ここから奥までずっと風塵タンポポじゃ!」
「うお、すっげえ。売ったら幾らだ? いくら軽い素材とは言え、さすがにこれ全部は持ち帰れないな」
「そんなの嫌じゃ! 全部採るんじゃ! 全部わしのじゃあ!」
風塵タンポポは爆弾の素材として使うことができる。軽い綿毛を飛ばすことによって、爆弾の効果範囲を広げる、補助素材になるのだ。
綿毛を集めて服やクッションの材料とすることもできる。一般的な使い道はそちらだろう。そのため、そこそこの値段で売ることができる。爆弾の材料に使っているやつなんて、イグナしかみたことがない。
イグナはぶちぶちと綿毛をちぎりながら歩く。
「ほんとは根っこも売れるんだけどなぁ」
「しかたないのう。根の採取は時間がかかる。それに、爆弾に使えん」
後の理由が本音だろう。
「爆弾の材料買うのにも金がかかること知ってんだろ。まったく、少しは金儲けにも興味もてよ」
「そのへんの面倒ごとは、お前の担当じゃ」
イグナは綿毛をたくさん抱えた両手を頬に近づけ、にやりと笑っていう。
「頼りにしてるぞ。相棒」
目つきの悪く性格も粗暴な幼馴染は、時々とてもあざと可愛い。
「しかし、このダンジョンゴブリンしかでんのかの? 随分簡単なダンジョンじゃ」
「おいおい、やめてくれ。そういうの、フラグっていうんだよ」
ダンジョンの攻略はおおむね順調だった。最初の戦闘が一番ピンチだったといえる。
俺もある程度敵の動きを見て行動できるようになってきた。今なら、ゴブリン一体くらいなら、即席けむり筒爆弾がなくても勝てるかもしれない。やりたくはないが。
もし仮にこの世界にゲームのようなレベルシステムがあるとしたら、俺たちはレベル2になった、というところだろう。残念ながらそんな話は、転生してから一度も聞いていないのだが。
「でも確かに、ゴブリンしかいないのは驚いたな。出来立てのダンジョンはそんなもんなのかな? それに、宝箱も一度も見かけてないし」
「宝箱! そうじゃ、宝箱見つけんとのう!」
イグナは目を輝かせていう。イグナは爆弾と同じくらい、ダンジョンが好きなのだ。
ダンジョンに宝箱は欠かせない。ダンジョンにある宝箱には、いろんな物が入っている。
魔法の剣に黄金の鎧。空飛ぶ靴に、次元を超えるカバン。
いったい、誰が用意して、なんのためにそこにあるのか。
過去の文明の遺物、異世界の道具、神の奇跡の物質化など、いろんな噂はあるが、実際のところはわかっていない。
おとぎ話で散々聴かされたその話が、初めてダンジョンを訪れる俺たちに期待を抱かせるのは当然だった。
実際には、宝箱はそれほどよく見つかるものでもないらしい。もし仮にみつけても、ガラクタが入っていることもある。
それでも、俺たちは宝箱を愛する。宝箱には、ダンジョンのロマンが詰まっているのだ。
「ボス部屋には高確率で宝箱があると聞く。期待するならそこしかないかな。まあ出来立てダンジョンだし、中身もそれほど期待できやしないが」
「そうじゃの! お宝でるといいの! おたっからおったから! ふんふふん!」
イグナは手に持った少し長めの枝をぶんぶん振り、鼻歌を歌いながら歩いている。武器の替わりらしい。
「おいおい、気をつけろよ。ダンジョンには罠があるんだぞ」
「心配性じゃのう。出来立てのダンジョンの罠なんて、そうそう引っかかることはないと、ルークのアニキも言うとったじゃろ」
「アニキは‘‘よほどのバカじゃない限り‘‘引っかからないて言ったんだ。お前はよほどのバカだろ」
「なんじゃと? バカなのはリクもおなじじゃろうが! この脳筋!」
低レベルな言い争いをしているとき、視界の隅、背の高い植物群のなかに、きらりと光るものが見えた。
その光が、念願の宝箱の光沢であることに気が付くまで、それほど時間はかからなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
リクメモ!(※リクが転生してから書いている、素材の簡易メモです)
燻煙松(くんえんまつ)
レア度:★1
分類:効果素材
説明:
燃やすと特有の強い煙を発する、針葉樹の低木。煙は視界を遮るため、戦闘時に混乱を引き起こしたり、敵の追尾を振り切るのに使える。別名、煙幕草。煙幕の材料とする場合、一般的に乾燥させたものを使用する。これは保存性を高めるためである。本来ならば青葉のまま燃やしたほうがたくさんの煙がでる。
注意:
煙は無害だが、過剰に吸い込むと目や喉を刺激するため、使用の際は十分な通気性を確保すること。
ひとこと:
熟練の冒険者の中には、生の燻煙松の葉を噛んでタバコのように楽しむ人もいるらしい。試したが、臭くて苦くて俺には無理だった。
俺は唇に指を当て、静かにするように伝える。俺がイグナに仕込んだ、地球式ジェスチャーだ。
俺達は今、隠密しながらダンジョンを進んでいる。俺の実力ではゴブリン相手に攻撃が当たらないことが分かったし、イグナも現状の素材では敵を倒すほどの火力のある爆弾を作れない。
それでも、俺達はダンジョンの奥を目指すことにした。
「ゴブリン2匹だ。道は一本道。どうする? 分かれ道まで戻るか?」
「いや、ここを通るべきじゃ。ゴブリンの足元にあるあれは風塵タンポポじゃ。どうやら先に、群生しとるらしい。あれは回収しておきたいの」
風塵タンポポは爆弾の素材になる。何が約に立つか分からない現状では、なるべく回収しておきたい。
「それなら、さっきと同じ作戦でいくか」
イグナは小さく頷いて、大きなお団子ヘアーから着火の魔道具を取り出すと、筒状の爆弾へと火をつけ、ゴブリンの足元へと放りなげた。
「たんと召し上がれ、即席けむり筒爆弾じゃ!」
ぼふん、と音をたてて、筒から黒の濃い煙が立ち上げた。ダンジョンで取れる素材を使った、即席の煙幕である。
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〈イグナの数行クッキング〉
即席けむり筒爆弾
材料:
火薬草(ベース素材) 少々
燻煙松の皮(補助素材) 一巻き
麻縄(補助素材) 二十センチほど
燻煙松の葉(効果素材) 一束
イグナ「まずは、燻煙松の葉を一束。軽く繊維を壊すように、両手でごりごりと擦り合わせるのじゃ」
リク「これは力がいる作業ですね」
イグナ「燻煙松の葉は、燃えると大量の煙を出す。この効果を利用して、爆弾に煙を出す効果を付与する」
リク「今回の爆弾の肝となる素材です」
イグナ「次に、布や紙などで葉を筒状にまとめるぞ。今回は、一緒に採れた燻煙松の皮で代用じゃ」
リク「なるほど、その場にあるものを工夫して使うのですね。効率的です」
イグナ「導火線となる麻紐と、火力を強めるための少量の火薬草を一緒につつんむのじゃ。最後に縛って完成!」
リク「青葉のままでは火が付きにくいので、少し火薬草を混ぜるのがポイントですね。燻製松の葉を乾燥させてから作ると、さらに火が付きやすくなりますよ」
イグナ・リク「「それではまた次回!」」
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「ンギャ?! ギャホッ、ギャホッ」
二匹のゴブリンは煙に包まれた。混乱し、やみくもに棍棒を振り回しているようだ。ゴブリンは身長が低いので、足元から噴き出すけむりは相性最悪だ。
「よけられないならこっちのもんだ」
俺は素早くゴブリンに近づくと、大きく体を捩り、ゴブリンの胸にむかってピッケルを振りぬいた。
「グギャッ!」
野球のスイングのように下から上へと振りきったピッケルを、位置エネルギーを保ったまま持ち直し、今度は頭上から振り下ろすようにしてもう一匹のゴブリンの頭を貫いた。ゴブリンが二匹刺さったままのピッケルが地面を貫く。
「どんなもんよ!」
ずりゅ、っと音をたてながらゴブリンの串刺しからピッケルを引き抜く。今日はこれで、キルスコアが二桁になった。
「相変わらず、ものすごい怪力じゃ。それなのになんで、おぬし一人でゴブリンに勝てんのかのう」
「筋トレの甲斐があったな。ただ、どんだけ威力が高くても避けられたら意味がない。普通にピッケル振っても当たんないし」
「つぎから、ピッケルの素振りも筋トレのメニューに加えんか、ばか。相手に当てる技術が足りとらんのじゃろう。振るときも隙だらけじゃ」
小言をいいつつも、イグナはゴブリンの解体を始めた。といっても、ゴブリンから採れる素材は多くない。必要な部分だけ簡単に抜き取るだけだ。
「ほう。こいつもなかなかいい魔石じゃの。ここのゴブリンの魔石は高品質なのかもしれん。この調子でガンガン倒してくれ」
心臓にナイフを差し込んで開き魔石の確保をすると、イグナは少し上機嫌になる。
魔物の体内には、魔石と呼ばれる石が存在する。魔道具の動力になるため、それなりの価格で売れるのだ。
ちなみにイグナは魔石を爆弾に利用する実験もしている。まだ成功の目途は経っていないようだ。
「うへー、ほんと、よくやるよ。俺にはグロくて無理だ」
東京生まれ東京育ちの俺には、心臓を切って魔石を掻き出す作業はハードルが高い。この世界にきて十数年は立つが、未だに生き物の解体は慣れない。まして、今日初めて戦った人型魔物の死体など、見るのも嫌になる。
「ピッケルで串刺しにしておいて、どの口がいうんじゃ。ほれ、いつまでわし一人にやらせるつもりじゃ。もう一匹はおぬしがやらんか」
ピッケルは長いからあんま手に感触こないし、マシなんだよ。あと、煙が残っているうちは、よく見えないから平気だし。俺は文句を言いながらも仕方なくゴブリンの死体と向き合った。
ダンジョンに潜り始めて三時間は経っただろうか。俺たちは、素材を集めながら、少しづつ進んでいた。
最初に「即席けむり筒爆弾」をいくつも確保できたのが幸いだった。このダンジョンには今のところゴブリンしか出てきていない。索敵を視覚に頼っている魔物には、この単純な煙幕でも効果てきめんだ。
ゴブリンを煙で包みさえすれば、逃げるもよし、奇襲するもよし、なんでもござれの対ゴブリン必殺爆弾である。
作成に残りの火薬草をすべて使い切ってしまったが、仕方がないだろう。ダンジョンには火薬草も自生しているが、爆弾の材料とするには乾燥させる必要があるため、補充は叶わなかった。
そのため、爆弾の材料になりそうな、めぼしい素材は回収しながら地道に先を目指している。
あれもこれも、役に立つのかわからないようなものまで集めているうちに、気が付くと来る前より荷物が多くなっていた。背負い袋がパンパンである。
「リク! すごいぞ! ここから奥までずっと風塵タンポポじゃ!」
「うお、すっげえ。売ったら幾らだ? いくら軽い素材とは言え、さすがにこれ全部は持ち帰れないな」
「そんなの嫌じゃ! 全部採るんじゃ! 全部わしのじゃあ!」
風塵タンポポは爆弾の素材として使うことができる。軽い綿毛を飛ばすことによって、爆弾の効果範囲を広げる、補助素材になるのだ。
綿毛を集めて服やクッションの材料とすることもできる。一般的な使い道はそちらだろう。そのため、そこそこの値段で売ることができる。爆弾の材料に使っているやつなんて、イグナしかみたことがない。
イグナはぶちぶちと綿毛をちぎりながら歩く。
「ほんとは根っこも売れるんだけどなぁ」
「しかたないのう。根の採取は時間がかかる。それに、爆弾に使えん」
後の理由が本音だろう。
「爆弾の材料買うのにも金がかかること知ってんだろ。まったく、少しは金儲けにも興味もてよ」
「そのへんの面倒ごとは、お前の担当じゃ」
イグナは綿毛をたくさん抱えた両手を頬に近づけ、にやりと笑っていう。
「頼りにしてるぞ。相棒」
目つきの悪く性格も粗暴な幼馴染は、時々とてもあざと可愛い。
「しかし、このダンジョンゴブリンしかでんのかの? 随分簡単なダンジョンじゃ」
「おいおい、やめてくれ。そういうの、フラグっていうんだよ」
ダンジョンの攻略はおおむね順調だった。最初の戦闘が一番ピンチだったといえる。
俺もある程度敵の動きを見て行動できるようになってきた。今なら、ゴブリン一体くらいなら、即席けむり筒爆弾がなくても勝てるかもしれない。やりたくはないが。
もし仮にこの世界にゲームのようなレベルシステムがあるとしたら、俺たちはレベル2になった、というところだろう。残念ながらそんな話は、転生してから一度も聞いていないのだが。
「でも確かに、ゴブリンしかいないのは驚いたな。出来立てのダンジョンはそんなもんなのかな? それに、宝箱も一度も見かけてないし」
「宝箱! そうじゃ、宝箱見つけんとのう!」
イグナは目を輝かせていう。イグナは爆弾と同じくらい、ダンジョンが好きなのだ。
ダンジョンに宝箱は欠かせない。ダンジョンにある宝箱には、いろんな物が入っている。
魔法の剣に黄金の鎧。空飛ぶ靴に、次元を超えるカバン。
いったい、誰が用意して、なんのためにそこにあるのか。
過去の文明の遺物、異世界の道具、神の奇跡の物質化など、いろんな噂はあるが、実際のところはわかっていない。
おとぎ話で散々聴かされたその話が、初めてダンジョンを訪れる俺たちに期待を抱かせるのは当然だった。
実際には、宝箱はそれほどよく見つかるものでもないらしい。もし仮にみつけても、ガラクタが入っていることもある。
それでも、俺たちは宝箱を愛する。宝箱には、ダンジョンのロマンが詰まっているのだ。
「ボス部屋には高確率で宝箱があると聞く。期待するならそこしかないかな。まあ出来立てダンジョンだし、中身もそれほど期待できやしないが」
「そうじゃの! お宝でるといいの! おたっからおったから! ふんふふん!」
イグナは手に持った少し長めの枝をぶんぶん振り、鼻歌を歌いながら歩いている。武器の替わりらしい。
「おいおい、気をつけろよ。ダンジョンには罠があるんだぞ」
「心配性じゃのう。出来立てのダンジョンの罠なんて、そうそう引っかかることはないと、ルークのアニキも言うとったじゃろ」
「アニキは‘‘よほどのバカじゃない限り‘‘引っかからないて言ったんだ。お前はよほどのバカだろ」
「なんじゃと? バカなのはリクもおなじじゃろうが! この脳筋!」
低レベルな言い争いをしているとき、視界の隅、背の高い植物群のなかに、きらりと光るものが見えた。
その光が、念願の宝箱の光沢であることに気が付くまで、それほど時間はかからなかった。
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リクメモ!(※リクが転生してから書いている、素材の簡易メモです)
燻煙松(くんえんまつ)
レア度:★1
分類:効果素材
説明:
燃やすと特有の強い煙を発する、針葉樹の低木。煙は視界を遮るため、戦闘時に混乱を引き起こしたり、敵の追尾を振り切るのに使える。別名、煙幕草。煙幕の材料とする場合、一般的に乾燥させたものを使用する。これは保存性を高めるためである。本来ならば青葉のまま燃やしたほうがたくさんの煙がでる。
注意:
煙は無害だが、過剰に吸い込むと目や喉を刺激するため、使用の際は十分な通気性を確保すること。
ひとこと:
熟練の冒険者の中には、生の燻煙松の葉を噛んでタバコのように楽しむ人もいるらしい。試したが、臭くて苦くて俺には無理だった。
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