百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
第17話 たい焼きの好み
渋滞のせいでバスは大幅に遅れてしまった。
時刻表通りに到着していれば待ち時間もほとんどない状態でバスを乗り継いで家まで帰れたのだが、次のバスが来るまで三十分ほど空き時間が出来てしまった。
普段であれば三十分くらい椅子に座って黙って待っている工藤珠希なのだが、今日に限ってはただ黙って待っているという事がどうも落ち着かない。隣に栗宮院うまながいるというだけなのだが、どうにも落ち着かなかった。
「バスの時間まで少し時間があるみたいなんだけど、うまなちゃんは何かやりたいこととかあったりするかな?」
「少しって言っても三十分も無いよね。どこかのお店に入るにしては微妙な時間だし、まだ結構残高も残ってるしお菓子でも買いに行こうか?」
「そうだね。あんまり無駄遣いするのは良くないって思うけど、今回は特別ありかもね。この辺ってあんまり来たことが無いから詳しくないんだけど、うまなちゃんは何か食べたいものとかあるのかな?」
「私もこの辺は詳しくないからよくわかってないんだけど、珠希ちゃんは洋菓子と和菓子だったらどっちが好きかな?」
「その選択は酷だね。洋菓子も和菓子もボクは好きなんだけど、今の気分だと日本茶と和菓子って感じかも。日本茶と洋菓子も有りだと思うけど、やっぱり日本茶にあうのは餡子だと思うんだよね。うまなちゃんは粒あんとこしあんならどっちが好きなのかな?」
「え、その聞き方は何か怖いんだけど。選択をミスしたら殺されるとかないよね?」
「そんなわけないじゃない。そもそも、ボクがうまなちゃんを殺せるわけないってわかってるよね。普通の人間のボクがサキュバスであるうまなちゃんに勝てるわけないって。ボクは太郎と違って普通の人間なんだからね。いや、太郎も普通の人間なんだけど、何か特別な力があるように思えるんだよね。中学の時も凄かったって思ってたんだけど、高校に入ってからはそれまでとは別次元の凄さを感じてるんだよ。もしかして、ボクを指名推薦してくれたのって太郎をこの学校に入れるためだったって事?」
「全然違うって。そりゃ、太郎ちゃんは確かに凄い人間だと思うけど、私たちは純粋に珠希ちゃんの事が好きだって思ったからみんなで指名させてもらったんだよ。サキュバスに好かれるのって嫌だったりするかな?」
「嫌じゃ、ないけど。よくわからないかも。好かれること自体は嬉しいんだけど、ボクもサキュバスのみんなも女の子だから大丈夫なのかなって思っちゃうんだ。ほら、学校の外にいる一般的なサキュバスはうまなちゃんたちの事を目の敵にしてるわけでしょ、だからサキュバスが女の子を好きになるのはダメなコトなのかなって思っちゃって」
「誰を好きになるかなんて誰にも責められるような事じゃないと思うんだ。今は人間の世界でもそう言ったことに寛容になってるって聞くんだけど、それってとても素晴らしいことだと思うんだ。ただ、私としては野良サキュバス達に理解してもらわらなくても問題ないって思ってはいるんだよ。そりゃ、認めて貰えた方が嬉しいとは思うけど、あいつらって自分たちだけが正しいって思いこんでるからあまり相手にしない方がいいんじゃないかなって思ってはいるけどね。頭の固い人達を説得することに時間を使うよりも、私たちは私たちの好きなことをやろうって決めてるんだよ。だから、私たちはみんな珠希ちゃんに振り向いてもらえるように頑張るだけなんだよ」
自分の思いを伝えた栗宮院うまなに対する工藤珠希の答えは沈黙であった。
良い感じだと思っていたので思いを伝えた栗宮院うまなではあったが、工藤珠希のこの反応は全くの予想外であった。そのままお互いの思いを伝えあい、そのまま抱きしめあって良い感じに終わるものだと思っていたのだが、その想像とは全く逆と言ってもいいこのリアクションは栗宮院うまなを完全に動揺させてしまっていた。
「あ、和菓子の美味しそうなお店が駅の中にあるよ。バスの時間まであまりないみたいだから急いで買いに行っちゃおうよ。それとも、ボクが一人で買いに行ってこようか?」
「行く。私も買いに行く。一緒に私も買いに行くよ」
「うん、そうだね。それだよね。うん、二人で買いに行こうか。うん、その方がいいよね」
お互いに微妙な空気間のまま和菓子屋へと歩いていったのだが、何とも間の悪いことに今日に限って臨時休業となっていた。
休業中の店の前にいても気まずいだけなので移動することにしたのだけれど、どこかに行くにしてもバスの発車時刻まで残された時間はわずかしかない。他の店に行くとしても近場に和菓子屋は無いので工藤珠希の和菓子を食べたいという気持ちは満たされないのかもしれない。
それでも、今のこの気まずい状況よりはずっとマシだと思った二人はこの店に来る途中にあったたい焼き屋に向かっていった。
「たい焼きでもいいかな?」
「うん、ボクはたい焼きも好きだから」
「私も好きだけど、あんまり食べたことないかも。たい焼きって粒あんだよね?」
「たぶんそうなんじゃないかな。ボクは粒あんの方が好きだから嬉しいかも」
「あ、でもこのお店は現金のみって書いてあるよ。私現金持ってないかも」
「それだったらここはボクが払うよ。さっきのお礼って事でね。うまなちゃんは何個食べるのかな?」
「私は一つでいいかな。珠希ちゃんは何個食べるの?」
「ボクも一つでいいかも。さっきたくさん食べてお腹いっぱいだからね。バスに乗ってる間にお腹もすくと思うけど、二つは食べきれないと思う」
「私も同じだよ。焼きそばもたこ焼きもフランクフルトも全部美味しかったもんね」
「うん、全部美味しかった。じゃあ、一つずつ買ってくるね。すいませーん、たい焼きのあんとクリームを一つずつお願いします」
あんとクリームを一つずつ。
珠希ちゃんはどっちを食べるつもりなんだろう。この時が栗宮院うまなが今まで生きてきた中で一番悩んだ瞬間かもしれない。
時刻表通りに到着していれば待ち時間もほとんどない状態でバスを乗り継いで家まで帰れたのだが、次のバスが来るまで三十分ほど空き時間が出来てしまった。
普段であれば三十分くらい椅子に座って黙って待っている工藤珠希なのだが、今日に限ってはただ黙って待っているという事がどうも落ち着かない。隣に栗宮院うまながいるというだけなのだが、どうにも落ち着かなかった。
「バスの時間まで少し時間があるみたいなんだけど、うまなちゃんは何かやりたいこととかあったりするかな?」
「少しって言っても三十分も無いよね。どこかのお店に入るにしては微妙な時間だし、まだ結構残高も残ってるしお菓子でも買いに行こうか?」
「そうだね。あんまり無駄遣いするのは良くないって思うけど、今回は特別ありかもね。この辺ってあんまり来たことが無いから詳しくないんだけど、うまなちゃんは何か食べたいものとかあるのかな?」
「私もこの辺は詳しくないからよくわかってないんだけど、珠希ちゃんは洋菓子と和菓子だったらどっちが好きかな?」
「その選択は酷だね。洋菓子も和菓子もボクは好きなんだけど、今の気分だと日本茶と和菓子って感じかも。日本茶と洋菓子も有りだと思うけど、やっぱり日本茶にあうのは餡子だと思うんだよね。うまなちゃんは粒あんとこしあんならどっちが好きなのかな?」
「え、その聞き方は何か怖いんだけど。選択をミスしたら殺されるとかないよね?」
「そんなわけないじゃない。そもそも、ボクがうまなちゃんを殺せるわけないってわかってるよね。普通の人間のボクがサキュバスであるうまなちゃんに勝てるわけないって。ボクは太郎と違って普通の人間なんだからね。いや、太郎も普通の人間なんだけど、何か特別な力があるように思えるんだよね。中学の時も凄かったって思ってたんだけど、高校に入ってからはそれまでとは別次元の凄さを感じてるんだよ。もしかして、ボクを指名推薦してくれたのって太郎をこの学校に入れるためだったって事?」
「全然違うって。そりゃ、太郎ちゃんは確かに凄い人間だと思うけど、私たちは純粋に珠希ちゃんの事が好きだって思ったからみんなで指名させてもらったんだよ。サキュバスに好かれるのって嫌だったりするかな?」
「嫌じゃ、ないけど。よくわからないかも。好かれること自体は嬉しいんだけど、ボクもサキュバスのみんなも女の子だから大丈夫なのかなって思っちゃうんだ。ほら、学校の外にいる一般的なサキュバスはうまなちゃんたちの事を目の敵にしてるわけでしょ、だからサキュバスが女の子を好きになるのはダメなコトなのかなって思っちゃって」
「誰を好きになるかなんて誰にも責められるような事じゃないと思うんだ。今は人間の世界でもそう言ったことに寛容になってるって聞くんだけど、それってとても素晴らしいことだと思うんだ。ただ、私としては野良サキュバス達に理解してもらわらなくても問題ないって思ってはいるんだよ。そりゃ、認めて貰えた方が嬉しいとは思うけど、あいつらって自分たちだけが正しいって思いこんでるからあまり相手にしない方がいいんじゃないかなって思ってはいるけどね。頭の固い人達を説得することに時間を使うよりも、私たちは私たちの好きなことをやろうって決めてるんだよ。だから、私たちはみんな珠希ちゃんに振り向いてもらえるように頑張るだけなんだよ」
自分の思いを伝えた栗宮院うまなに対する工藤珠希の答えは沈黙であった。
良い感じだと思っていたので思いを伝えた栗宮院うまなではあったが、工藤珠希のこの反応は全くの予想外であった。そのままお互いの思いを伝えあい、そのまま抱きしめあって良い感じに終わるものだと思っていたのだが、その想像とは全く逆と言ってもいいこのリアクションは栗宮院うまなを完全に動揺させてしまっていた。
「あ、和菓子の美味しそうなお店が駅の中にあるよ。バスの時間まであまりないみたいだから急いで買いに行っちゃおうよ。それとも、ボクが一人で買いに行ってこようか?」
「行く。私も買いに行く。一緒に私も買いに行くよ」
「うん、そうだね。それだよね。うん、二人で買いに行こうか。うん、その方がいいよね」
お互いに微妙な空気間のまま和菓子屋へと歩いていったのだが、何とも間の悪いことに今日に限って臨時休業となっていた。
休業中の店の前にいても気まずいだけなので移動することにしたのだけれど、どこかに行くにしてもバスの発車時刻まで残された時間はわずかしかない。他の店に行くとしても近場に和菓子屋は無いので工藤珠希の和菓子を食べたいという気持ちは満たされないのかもしれない。
それでも、今のこの気まずい状況よりはずっとマシだと思った二人はこの店に来る途中にあったたい焼き屋に向かっていった。
「たい焼きでもいいかな?」
「うん、ボクはたい焼きも好きだから」
「私も好きだけど、あんまり食べたことないかも。たい焼きって粒あんだよね?」
「たぶんそうなんじゃないかな。ボクは粒あんの方が好きだから嬉しいかも」
「あ、でもこのお店は現金のみって書いてあるよ。私現金持ってないかも」
「それだったらここはボクが払うよ。さっきのお礼って事でね。うまなちゃんは何個食べるのかな?」
「私は一つでいいかな。珠希ちゃんは何個食べるの?」
「ボクも一つでいいかも。さっきたくさん食べてお腹いっぱいだからね。バスに乗ってる間にお腹もすくと思うけど、二つは食べきれないと思う」
「私も同じだよ。焼きそばもたこ焼きもフランクフルトも全部美味しかったもんね」
「うん、全部美味しかった。じゃあ、一つずつ買ってくるね。すいませーん、たい焼きのあんとクリームを一つずつお願いします」
あんとクリームを一つずつ。
珠希ちゃんはどっちを食べるつもりなんだろう。この時が栗宮院うまなが今まで生きてきた中で一番悩んだ瞬間かもしれない。
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