「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城友麻

32. 異世界のリアル

 しばらく落ち続け、ようやく俺たちは床に降り立った――――。

 パァッと明るい景色が広がっていく。

 いきなりのまぶしい景色に目がチカチカしたが、その光景は、想像を超えた幻想的なものだった。

 なんと、そこには草原が広がっていたのだ。ダンジョンにはこういう自然な世界もあるとは聞いていたが、森があり、青空が広がり、太陽が照り付け、とても地下とは思えない風景だった。

「お、おい……。こんなところ聞いたこともないぞ? 一体ここは何階だ!?」

 ビビるジャック。その声には、狼狽ろうばいと恐怖が滲んでいた。

「少なくとも地下四十階までには、このような階層は報告されていません」

 僧侶のドロテは丸い眼鏡をクイッと引き上げながら、やや投げやり気味に言った。その冷静さが、逆に状況の深刻しんこくさを際立たせる。

 一同、無言になってしまった。その沈黙は、重く、深刻なことを意味していることが俺にも伝わってくる。

 地下四十階より深い所だったとしたらもう生きて帰るのは不可能、それが冒険者の間の常識だった。その事実が、みんなの心に重くのしかかる。

 パーティーは今、まさに全滅の危機に瀕していたのだ。


       ◇


 エレミーの切迫した声が沈黙を破った。

「魔物来ます! 一匹だけど……何なの、この強烈な魔力! ダメ! 逃げなきゃ!!」

 真っ青になって駆けだすエレミー。

「マジかよ!」「やめてくれよ!」「なんなのよ、も――――!!」

 みんな悪態をつきながら一斉にダッシュ! その足音が、草原に響き渡る。

 俺はみんなを追いかけながら後ろを振り返る。すると、ズーン、ズーンという地響きに続いて、一つ目の巨人が森の大木の上からにょっきりと顔を出した。その姿は、圧巻で、俺は思わず息を呑んだ。

(キターーーー!! デカい!)

 俺は狂喜乱舞する。

 身長は二十メートルはあるだろうか? その巨体は、まさに山のようだ。

 青緑色のムキムキとした筋肉が巨大な棍棒をブウンブウンと振り回しながら、圧倒的な迫力で迫って来る。二メートルはあろうかという目はギョロリと血走り、俺を見据えた。

 鑑定をしてみると――――。

サイクロプス レア度:★★★★
魔物 レベル180

 おぉ、これがサイクロプス、すごい! すごいぞぉ! VRゲームで見たことはあるが、やっぱりリアルで見たら迫力が全然違う。異世界って最高じゃないか! 俺は思わずにやけてしまう。

 とは言え、レベル180はヤバい。このままだとパーティが全滅してしまう。しかし、俺が派手に立ち回るのは避けたい。どうしよう……? 頭の中で、様々な選択肢が駆け巡る。

 俺は一計を案じると立ち止まり、転がっている石の中からこぶし大のちょうどいいサイズの物を拾った。

 サイクロプスは俺を餌だと思って走り寄ってくる。ズーン、ズーンと地震のように揺れる地面、すごい迫力だ。

 俺は石を持って振りかぶると、サイクロプスに向かって全力で投げた。石は手元で音速を超え、バン! と衝撃波を発生させながら超音速でサイクロプスの目を瞬時に貫く――――。

 直後、サイクロプスの頭は『ドン!』と派手な音を立てて爆散する。飛び散る血肉……。その光景は、凄惨せいさんなまでに壮絶そうぜつだった。

 爆音に振り返るメンバーたち。その表情には、驚愕と困惑が入り混じっていた。

「え……?」「な、なんだ?」「はぁっ!?」

 ゆっくりと崩れ落ち、ズシーン! と轟音を立てながら倒れるサイクロプス。大地が震え、草原に埃が舞い上がる。

 みな走るのをやめ、予想外の事態に唖然あぜんとしている。全滅必至レベルの強敵が、荷物持ちの少年を前に自滅したのだ。理解を越えた出来事に言葉もない。その沈黙が、異様な雰囲気を醸し出していた。

 エドガーが俺に駆け寄ってくる。その目には、驚きと困惑が宿っていた。

「ユータ、いったい何があったんだ?」

「魔物を倒すアーティファクトを使ったんです。もう大丈夫ですよ」

 俺はそうごまかしてニッコリと笑った。

「アーティファクト!? なんだ、そんなもの持ってたのか!?」

「ただ、高価ですし、数も限りがありますから早く脱出を目指しましょう」

「そ、そうだな……しかし、どこに階段があるのか皆目見当もつかない……」

 辺りを見回し、悩むエドガー。

「私が見てきましょう。隠ぺいのアーティファクト持ってるので、魔物に見つからずに探せます」

「ユータ……、お前、すごい奴だな」

 エドガーはあっけにとられたような表情を見せる。その目には、尊敬の色が浮かんでいた。

 エレミーが駆け寄ってきて、俺の手を取り、両手で握りしめて言う。その手の温もりが、俺の心を揺さぶった。

「ユータ、今の本当? 本当に大丈夫なの?」

 目には涙が浮かんでいる。

「だ、大丈夫ですよ、みなさんは休んで待っててください」

 俺はちょっとドギマギしながら、頑張って笑顔で返した。


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