ひらめいた曲

ノベルバユーザー607660

無惨の美

【お題】 神様が住む駅

 某サイトで毎日出題されるのですが、時々突拍子もないお題が出ます。

 神様が住む駅なんてあるのだろうか?
 どんな駅? 

 わからないときはWikipediaで検索。神様、たくさんいらっしゃる。
 次々ザーッと、読んでいく。

 死神……これは、駅に住んでいるかも。ときどき起こす、事故や……

 もっとすごい、自殺の神様がいた。

 イシュタム は、マヤ神話において、自殺を司る女神。死者を楽園に導く役割を担っていた。
  


 コロナ禍、自殺が増えた。鉄道の人身事故はしょっちゅう聞いた。電車が遅れる。賠償額はすごいらしい、という噂 (?)

 噂のように数千万から数億円単位にはならないらしいが、遺族には数百万円程度の損害賠償請求がなされることがあるようだ。

 人身事故の6、7割が自殺だ。
  


 歌手、友川かずきには2歳年下の弟、さとるがいた。覚は熊代のしろ農業高校を出たが、家業の農業を嫌って家出した。覚は、兄かずきと同じように、流れ歩く生活の中で詩作をするようになる。

 一時郷里に帰ったが、昭和55年再上京して兄のアパートに同居した。川崎の建材屋で働くかたわら兄の付き人をしていた。
 しかし半年後、いつもそうだったように突然出奔し、行方の知れないまま4年が経った。 

 昭和59年10月30日深夜、覚は阪和線富木駅南一番踏切で、上り大阪行電車に身を投げた。享年31歳だった。
 富木の飯場には、中島みゆきのLP『寒水魚』と10冊の文庫本が、川崎のかずきの部屋には20冊の大学ノートと数十枚のメモが残された。

 かずきの弟、覚は詩を書いていたが、生前は無名の存在だった。彼が自ら命を絶った理由はわからないという。 

 淋しさを紛らわすために、多くの人は詩を書き始めるが、詩は決して救いにならない。むしろ、淋しさにはっきりとした形を与えてしまう。

 麻薬中毒の作家、W・バロウズは
「ことばはウイルスだ。言語線を切れ!」
と言ったが、言葉は人間の心を蝕む病原体かもしれない。
 淋しさに形を与え、谺こだまとなって無制限に増殖してゆく。本当はきっと、彼は詩に対し、余りにも真摯に向き合い過ぎたのではないだろうか?

 鉄道自殺した弟の身元確認の際、
「見ない方がいいですよ」
と言われたがかずきは、顔半分が飛んでしまった遺体と対面した。それは自分の親族だからというのでなく、一人の表現者が為した事すべてを受け取るために、守らなければならない厳粛な儀式だったのだ。

 弟はすでに肉体を離れ、生まれ故郷の熊代に溶けこもうとしている。生の間に抱き止めてやれなかった以上、生きることが苦しみとなってしまった弟へ、兄からの精一杯の優しさを示し、普通の人間なら嘔吐もし兼ねない状況で、「きれいだ」と言った。
 
 世には、一つの事にのめり込み過ぎたために、懸命に生き過ぎたために、有限の肉体をあっさり捨ててしまう火花のような人たちがいる。


無惨の美  (友川かずき 作詞作曲)
https://youtu.be/8nlUs8w6wBs?si=e10p7NEw8RY-88cA


その死は実に無残ではあったが
私はそれをきれいだと思った
ああ覚 そうか死を賭けてまでもやる人生だったのだ
よくぞ走った
走ったぞ
無残の美

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