エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒

波乱の幕開け③

昨夜は、よく眠れなかった。

最近の圭也さんの言動や、隣の家の奥さんに言われた事が、頭から離れない。


結婚って、こんなに悩むものだった?

旦那さんの帰りが遅い人は、一体どんな気持ちで待っているんだろう。

今日、旦那さんは無事で帰ってくるか。

毎日、そんな風に思わなければいけないなんて。


そして、私をそれ程追い込むには、もう一つ理由があった。

私は、子供を早く作る為に、仕事を辞めてしまったのだ。

日中、家事を済ませてしまえば、あとは自由な時間が待っている。

それが、私の中に悩みを産ませる時間でもあった。


「わわわ!焦げてる!」

「えっ!」

手元のフライパンを見ると、目玉焼きが焦げていた。

「考え事してたの?」

「ううん。ぼーっとしていただけ。」

圭也さんは、心配そうに顔を覗くけれど、無表情の顔なんて見ては、何も分からないだろう。


「その目玉焼き、食べるよ。」

圭也さんは、スルッとフライパンから目玉焼きを、お皿に乗せた。

「いいの?」

「まだ食べられる場所あるからね。」

圭也さんは、基本的に料理を失敗しても、怒らない。

優しい人だ。

焦げ目を取りながら、目玉焼きを食べている圭也さんは、一体その事をどう思っているんだろう。


「ごめん。料理もまともにできなくて。」

「仕方ないよ。ぼーっとする事だってあるから。」

圭也さんはまさか、この結婚の事で悩んでいるなんて、知りもしないだろう。


そしてこの日は、妹の理良が、家に遊びに来た。

「わー、お姉ちゃんの家、明るくていいね。」

リビングを見て、理良は笑顔を浮かべる。

「中古物件だけど、圭也さんがいい物件、探してくれたから。」

「ほんと、何でもできるいい旦那様だよね。」

「ははは……」


何でもできるのは、認める。

頼めば何でもやってくれるから。


「どう?結婚生活は。」

「そうだな……」

私は無意識に、ため息をついてしまった。

「大変なの?」

「うーん……」

思わず唸ってしまった。

「結婚して間もないのに、幸せって言えないなんて。お姉ちゃん、結婚してほんと、よかったの?」

その言葉が、胸に刺さる。

それは、私が一番感じている事だ。

「何だか、根が深そうだね。話してみてよ。」


理良に言われ、私は新婚旅行も望めない事、帰って来る時間が遅い事、隣の家の奥さんに言われた事を、話した。

「うーん。」

理良も唸っている。

「結婚って、現実生活だからね。」

「絵に描いた幸せは、なかなかないって事ね。」

姉妹揃って、唸った。

「でも、それを分かって結婚したんじゃないの?」

「知らなかったわよ。付き合ったのも、1か月だけだしね。」

「結婚するのが、早かった?」

「元々、お見合いだからね。それぐらいが妥当なんじゃない?」


そう、私と圭也さんはお見合い。

結婚までの間で、育めるだけの愛は育んだと思うけれど。

肝心な結婚の予行までは、できなかった。


「そんなに不安に思っているんだったら、旦那さんと話し合ってみれば?」

「話し合って、どうにかできる事じゃないんだよ。」

私は妹が目の前にいるのに、呆然とした。

こんな事は、初めてだ。

そして理良は、”とにかく今の気持ちを、旦那さんに言う事だね”と言った。

一応、うんとは返事したけれど、この日はまた帰りが遅かった。


「ただいま。」

その声を聞けたのは、夜23時を回ってからだった。

「おかえりなさい。」

圭也さんは、私の顔を見て笑顔を見せてくれた。

その笑顔で、私は最近、安心するようになったかも。


「ねえ、圭也さん。ちょっと話があるんだけど。」

「話?明日じゃ、ダメ?」

「明日は早く帰ってくるの?」

ちょっと考えた圭也さんは、ソファーに座った。

私も、ソファーの近くに座った。

「話って、何?」

「あのね、あまり大したことじゃないの。」

「だったら、明日でもいいんじゃない?」

圭也さんは、ため息をついた。

「……私達、ちょっとした話もできないの?」

「そうじゃないけど、俺、疲れてるんだ。分かるでしょ。事件抱えて、今の時間まで仕事してたんだよ。」

「分かるよ!」

つい大声出してしまった。

分かるよ、疲れている事ぐらい。

でも、私の事は、どうなるの?


「私達、普通の夫婦と違うよね。」

「どこいら辺りが?」

「新婚旅行行かなかったり、一緒にいる時間も少なかったり。」

「それは、ごめん。」

圭也さんは私を引き寄せると、おでこにキスしてくれた。


私の目には、涙があふれた。

私、多くの事望んでいるかな。

もっと圭也さんと一緒にいたいって、我儘かな。


「圭也さんは、何の為に結婚したの?」

「それは……紗良とずっと一緒にいたくて。」

「私もだよ。寂しくなる為に、結婚したんじゃないよ。」

涙が零れて、仕方なかった。


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