エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒

波乱の幕開け②

それから私は、圭也さんのお弁当を作るようになった。

「ふふん。今日はハンバーグ弁当だもんね。」

喜んでもらえるかな、圭也さん。


そして私は、ニヤッとした。

結婚式を挙げてから、毎日のように求めて貰って。

「ふふふ。」

お弁当を作るだけでも、愛情がこもる。


ちょうど、最後のトマトをお弁当の中に入れた時だ。

「おはよう、紗良。」

「おはよう、圭也さん。」

圭也さんは、いつも遅くに帰って来ているから、起きてくるのは遅め。

寝ぼけている圭也さんも、可愛らしくていい。


「はい、朝ご飯。」

「うん。」

顔を洗ってきた圭也さんが、朝ご飯を食べ始めた頃に、私はお弁当を見せた。

「はい、今日のお弁当ね。」

「お弁当?」

圭也さんが目を点にしている。

「俺、お弁当作ってって、言った?」

「言ってないけど、作ったから持って行って。」

お弁当に蓋をし、保温バッグに入れた時だ。

「ああ……いいや。」

「えっ?」

「お弁当、いらない。」


何かが私の胸にグサッと刺さった。

「どうして!」

「どうしてって……いつ帰れるか分からない時もあるし。」

いやいや、遅くても毎日、帰って来てるじゃないか。

「今は、皆が新婚だから、帰してくれているけれど、その内、毎日帰れなくなる。」

「そんなに忙しいの?」

「うん。だから、毎日帰ってくるのが、当たり前だとは思わないでくれ。」

モリモリ、朝ご飯を食べているこの姿も、見れない時もあるって事?


「ごめんな。」

「どうして謝るの?」

「いや、なんか暗い顔をしているから。」

私は、ぎゅっと手を握った。

確かに、お酒は飲めないし。

金属アレルギーで、結婚指輪もできないし。

理想の結婚とは、遠いけれど。

まさか、毎日顔を見れない時もあるなんて。

「あー、ご馳走様。じゃ、仕事行ってくるね。」

荷物を持って、圭也さんが玄関に向かう。

「行ってきまーす。」

もしかしたら、今日は帰って来ないかもしれない。

そう思ったら、圭也さんの腕を掴んでいた。


「紗良?」

「……キスして。」

自分でも分かっている。

30にもなって、こんな我儘言うなんて。

「ほっぺたでもいいし。」

圭也さんは何も言ってくれない。

「ごめん。何か、離れがたくて。」

すると、圭也さんは私の唇にキスをしてくれた。


「俺の奥さんは、ほんと可愛いな。」

その笑顔に、癒される。

「そうだ。行って来ますのチュー。習慣にしようか。」

「うん!」

そして圭也さんは、手を振って仕事に行った。


「仲いいですね。」

急に声が聞こえて隣を見ると、お隣さんがこっちを向いていて、驚いた。

「旦那さん、何の仕事してるんですか?」

「警察官です。」

「へえ。ウチは自衛官なんですよ。」

私は一瞬、息が止まった。


その奥さんの顔が、少し疲れているように見えたから。

「自衛官とか警察官とか、消防官とか。朝の見送りは必ず笑顔でしろって言いますよね。」

「どうしてなんですか?」

「その日、生きて帰って来るか分からないからですよ。」

私はドキッとした。

まさか、圭也さんに限って、そんな事は。

「私の主人も、怪我をして今入院中なんです。嫌ですよね。喧嘩した朝に、仕事中事故に遭うって。」

だから、奥さん暗い顔をしているんだ。


「ごめんなさいね。こんなお話、朝からして。」

「いいえ。貴重なお話、ありがとうございます。」

そう言って、私は部屋の中に入った。

警察官の奥さんって、私が思ったよりも大変かもしれない。

私は、ため息をついた。


その日、生きて帰ってくるか、分からない。

そんな職種の人がいるなんて。

思ってもみなかった。

なんだかその日は、圭也さんが帰ってくるまで、眠れなかった。

『夕食は、先に食べてていいよ。』

そう電話があって、ご飯は一人で食べた。

時間はもう夜の10時。

今日、圭也さん帰ってくるかな。


そして、テーブルの上でウトウトと、眠ってしまった時だ。

「紗良。こんなところで寝ていると、風邪ひくよ。」

薄目を開けて見ると、圭也さんが立っていた。

「あはは。圭也さんだ。」

「へ。どうしたの?寝ぼけてんの?」

早速スーツを脱いで、シャワーを浴びようとしている圭也さんに、夕食の事も聞けない。

そんな圭也さんを、ぼーっと見ている。


「紗良。結婚生活、こんなはずじゃなかったって。思ってるでしょ。」

「うーん……」

まだ寝ぼけてるのか?って顔を、圭也さんはしている。

「本当は、こんな俺が結婚なんて、無理なんじゃないかって思ってた。」

「うん。そうだね。」

そう言って、にへらと笑った。

「でも、警察官の娘の紗良なら、分かってくれると思って。」

私は、返事をしなくて寝た振りをした。

「なんだ。結局、寝てるのか。」

圭也さんは、私を抱きかかえて、上の寝室まで運んでくれた。

「紗良だから、結婚したんだよ。」

そんな言葉が、私には切なかった。

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