エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒

政略結婚④

そして、月日は1か月経ち、私と圭也さんは結婚式を挙げる事になった。

近くの神社に頼み、神前式で行われた。


「大丈夫?紗良。」

「うん、ちょっと頭が重いけれど。」

しかも白い着物。

汚したら、莫大なお金を請求されたりして。


そんな時だった。

「うふふふ。」

突然母さんが、笑いだした。

「どうしたの?」

「まさかね、こんな晴れ姿見られるとは思っていなくてね。」

私は、一瞬固まった。

「……ごめんね。この歳まで結婚しなくて。」

「いいのよ。今、結婚式してるじゃない。」

ふと父さんを見ると、悲しそうに項垂れている。

「父さんは、嬉しそうじゃないね。」

「ああ、いいの。放っておいて。娘の結婚式で、寂しがらない父親なんていないわよ。」


あんなに、圭也さんの事推していたのに。

いざ結婚式になると、寂しそうになるなんて。

「父さん。」

私が話しかけると、いつもの気難しい父さんの顔に戻った。

「何だ。」

「私、結婚しても父さんの娘だからね。」

「当たり前のことを言うな。」

「だから、寂しくないよ。気軽に実家に帰るから。」

その瞬間、父さんはウルっと涙を貯めた。

「帰ってくるな。圭也君と上手くやれ。」

「はいはい、父さん。」

これ以上話したら、父さん泣いてしまうと思って、ここまでにした。


そして、式場の人がやってきた。

「では、お式を始めますので、こちらに。」

「はい。」

圭也さんはどんな感じなんだろうと思っていると、向こう側からやってきた。

「紗良さん。」

少しだけ手を挙げる圭也さんが、可愛らしく思えた。

良く見ると、ちょっと震えている。

「緊張しているの?圭也さん。」

「分かった?何せ、結婚は初めてなもんで。」

私は、ふふふと微笑んだ。

「私も結婚は、初めてよ。」

そう。初めて同士だから、緊張するよね。

「紗良さん。」

「はい?」

圭也さんの真剣な瞳に、ドキッとした。

「改めて、俺と同じ人生を選んでくれて有難う。」

「圭也さん……」

何?急過ぎるよ。

「そう言えば、プロポーズしてないと思って。」

「あっ……」

今気づいた。

私達、そんなのなかった。


「そうだ。結婚するかしないかの、二択だったもんね。」

「恋愛的な部分は、これからおいおい、していけばいいよ。」

温かく微笑んだ圭也さんを見て、私この人を選んでよかったと思った。


「では、行きますよ。」

音楽が流れ始め、私と圭也さんは神前へと向かった。

お参りをして、三三九度の盃を交わす。

ふと圭也さんを見ると、顔が真っ赤になっている。

「大丈夫?」

「うん。」

「お酒弱いの?」

「一滴も飲まない。」

えっ まさか!

私は盃を持つ手が震えた。


反対に私は、お酒を飲まなきゃ生きていけない。

いわゆる酒豪だ。

そんな事も知らずに、結婚したのか!

はわわ。

結婚したら、旦那さんとお酒を飲みながら、毎日乱舞する日を夢見ていたのに!


「では、指輪の交換です。」

目の前に指輪が出て来た。

圭也さんが、私の左の薬指に、指輪をはめる。

「では、新婦さん。新郎さんに指輪を。」

「は、はい。」

私は新郎の指輪を持った。

これを圭也さんにはめれば、結婚は成立してしまう。


息を飲んだ。

いや、最悪結婚届を出すまでは、結婚は成立しない。

結婚式だけ挙げて、結婚届を出さない?

そんな最低な事が、頭の中に浮かんだ。


そもそも1か月という短い期間で、一生の伴侶を決めようなんて、馬鹿げていた。

「紗良さん。」

圭也さんに呼ばれ、体がビクッとなった。

「どうしたの?」

「……圭也さん。私達、本当にこのまま結婚しても、いいんでしょうか。」

「今更 」

圭也さんは、困っている。


周りもガヤガヤしてきた。

「紗良?どうしたの?」

母さんが、後ろから声を掛けてくる。

その時だった。

圭也さんが、私の左手をぎゅっと握った。


「その答えは、僕も出せません。」

私は、サーっと血の気が引いて来た。

やっぱり!私達、間違っていたのでは 

「でも!一生かけて、この結婚が正解だって、言わせてみせます。」

胸がジーンときた。

私は、圭也さんの左手の薬指に、指輪をはめた。

「はい!」


そうだ。この結婚が正解かなんて、結婚してみなきゃ、分からない。

それに、私達が正解にしていくんだ。


その瞬間、圭也さんがスーッと倒れた。

「えっ?圭也さん 」

良く見ると、左手が赤く腫れあがっていた。

「すみません。金属アレルギーなんです。」

「へっ……」

じゃあ、何で指輪をさせたあああ!


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