宝くじが当たったら、夫に殺されました。
4.夫はまた私を狙っている。
「それでは、末永さん。挨拶をお願いします」
私は目を開けると三ツ川商事のファッション事業部に配属された時に戻っていた。
「末永亜香里です。よろしくお願いします」
咄嗟に頭を下げると「初々しい」と周りが拍手した。
若いだけでチヤホヤされた時代を懐かしく思いつつ私が顔を上げると、博貴と目が合った。
私が22歳、彼は25歳。
私は博貴との出会いの瞬間に戻ったようだ。
彼とはまだ付き合ってさえいない。
彼と付き合わず、結婚などしなければきっと不幸は起こらない。
「じゃあ、桜井くん。末永さんの教育係を頼めるかな?」
田中室長が私の教育係として、経理から営業に異動してばかりの桜井博貴を指名する。
「もちろんです」
懐かしいやりとりを見ながら、私は彼と仲を深めてしまったこの関係を断ち切ろうと思った。
「田中室長、すみません。私、男の人が苦手なので他の方に教育係を頼めるとありがたいのですが」
おそらく年次の近い博貴が教育係になるのは妥当だ。
しかし、私はダメもとでお願いしてみた。
「商社はまだまだ男社会だよ。男嫌いなんて言ってたら務まらないぞ。じゃあ、桜井、男嫌いの末永ちゃんに男を教えてやってくれ」
田中室長のセクハラ紛いの言葉に、寒気がすると同時に、この会社はこういうところだったと失望した。
取引先のおじさんから下着の色を聞かれても、ヘラヘラと応えることが当たり前の世界だ。
最初、戸惑ってしまって取引先のおじさんの機嫌を損ねてしまったことがあった。
その寒々しい雰囲気を抜群のコミュ力で変えてくれたのが博貴だった。
彼は新入社員の私にとっては憧れの先輩だった。
「末永さん、今日から宜しくね。なんか、俺の接し方で嫌だなーって思うところがあったら言ってくれれば良いから」
にこやかに近づいてくる博貴に「お前の存在が嫌だ」と言いたかったが周囲の目が合ったので耐えた。
「新入社員向けに社内用語試験っていうのがあるんだけど、実は俺新入社員の時に満点だったんだ。勉強のコツ教えてあげるね」
博貴が耳元で私に囁いてくるのにゾッとした。
回帰前のこの瞬間は私はときめいて、彼のことを親切な先輩だと認識した。
学生の真似事のようなお勉強ごっこをプライベートでしてしまうことで、この後私たちは急速に距離を縮めてしまう。
「結構です。コツなどなくても、『社内用語辞典』を丸暗記すれば満点を取れますよね」
「末永さんの言うとおりだ。なんだか、末永さんって気持ちが良い人だね」
私を煽ててくる博貴にうんざりする。
社内用語試験など、新入社員の時は難しく感じたが8年勤務した経験のある私からすれば朝飯前だ。
「じゃあ、早速、仕事を教えるね」
「お願い致します」
周囲の目があるので取り敢えず愛想よく振る舞う。
新入社員の時に教わった仕事ど、入社8年目だった私からすれば教わるまでもない。
でも、最初から仕事内容を知っていたら不自然なので取り敢えず教わるフリをするしかないだろう。
「末永さんって優秀なんだね。一回で何でも覚えてしまうタイプ?」
私ににこやかに話掛けてくる博貴に寒気がする。
「さあ、普通ですよ」
冷たく言い放つ私に明らかに博貴が戸惑っているのが分かった。
「午後は、取引先の社長が来るから紹介するね。お昼はせっかくだから一緒にランチ食べに行こうか。美味いパスタ屋があるんだ」
お昼休みの開始を知らせるチャイムがなると博貴がランチに誘ってくる。
「お断りします。私、今日、ランチにお誘いしたいと思ってた方がいるんで」
私はここにいる将来の博貴の浮気相手の鈴木菜々子と一緒にランチをしようと思っている。
私は派遣である彼女の仕事振りを尊敬していた。
しかし、浮気が発覚した時、彼女は私のことを嫌いだったと恨みの籠った目で睨んできた。
私は目を開けると三ツ川商事のファッション事業部に配属された時に戻っていた。
「末永亜香里です。よろしくお願いします」
咄嗟に頭を下げると「初々しい」と周りが拍手した。
若いだけでチヤホヤされた時代を懐かしく思いつつ私が顔を上げると、博貴と目が合った。
私が22歳、彼は25歳。
私は博貴との出会いの瞬間に戻ったようだ。
彼とはまだ付き合ってさえいない。
彼と付き合わず、結婚などしなければきっと不幸は起こらない。
「じゃあ、桜井くん。末永さんの教育係を頼めるかな?」
田中室長が私の教育係として、経理から営業に異動してばかりの桜井博貴を指名する。
「もちろんです」
懐かしいやりとりを見ながら、私は彼と仲を深めてしまったこの関係を断ち切ろうと思った。
「田中室長、すみません。私、男の人が苦手なので他の方に教育係を頼めるとありがたいのですが」
おそらく年次の近い博貴が教育係になるのは妥当だ。
しかし、私はダメもとでお願いしてみた。
「商社はまだまだ男社会だよ。男嫌いなんて言ってたら務まらないぞ。じゃあ、桜井、男嫌いの末永ちゃんに男を教えてやってくれ」
田中室長のセクハラ紛いの言葉に、寒気がすると同時に、この会社はこういうところだったと失望した。
取引先のおじさんから下着の色を聞かれても、ヘラヘラと応えることが当たり前の世界だ。
最初、戸惑ってしまって取引先のおじさんの機嫌を損ねてしまったことがあった。
その寒々しい雰囲気を抜群のコミュ力で変えてくれたのが博貴だった。
彼は新入社員の私にとっては憧れの先輩だった。
「末永さん、今日から宜しくね。なんか、俺の接し方で嫌だなーって思うところがあったら言ってくれれば良いから」
にこやかに近づいてくる博貴に「お前の存在が嫌だ」と言いたかったが周囲の目が合ったので耐えた。
「新入社員向けに社内用語試験っていうのがあるんだけど、実は俺新入社員の時に満点だったんだ。勉強のコツ教えてあげるね」
博貴が耳元で私に囁いてくるのにゾッとした。
回帰前のこの瞬間は私はときめいて、彼のことを親切な先輩だと認識した。
学生の真似事のようなお勉強ごっこをプライベートでしてしまうことで、この後私たちは急速に距離を縮めてしまう。
「結構です。コツなどなくても、『社内用語辞典』を丸暗記すれば満点を取れますよね」
「末永さんの言うとおりだ。なんだか、末永さんって気持ちが良い人だね」
私を煽ててくる博貴にうんざりする。
社内用語試験など、新入社員の時は難しく感じたが8年勤務した経験のある私からすれば朝飯前だ。
「じゃあ、早速、仕事を教えるね」
「お願い致します」
周囲の目があるので取り敢えず愛想よく振る舞う。
新入社員の時に教わった仕事ど、入社8年目だった私からすれば教わるまでもない。
でも、最初から仕事内容を知っていたら不自然なので取り敢えず教わるフリをするしかないだろう。
「末永さんって優秀なんだね。一回で何でも覚えてしまうタイプ?」
私ににこやかに話掛けてくる博貴に寒気がする。
「さあ、普通ですよ」
冷たく言い放つ私に明らかに博貴が戸惑っているのが分かった。
「午後は、取引先の社長が来るから紹介するね。お昼はせっかくだから一緒にランチ食べに行こうか。美味いパスタ屋があるんだ」
お昼休みの開始を知らせるチャイムがなると博貴がランチに誘ってくる。
「お断りします。私、今日、ランチにお誘いしたいと思ってた方がいるんで」
私はここにいる将来の博貴の浮気相手の鈴木菜々子と一緒にランチをしようと思っている。
私は派遣である彼女の仕事振りを尊敬していた。
しかし、浮気が発覚した時、彼女は私のことを嫌いだったと恨みの籠った目で睨んできた。
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