言いたくても、やりたくても、できないこと。

味噌村 幸太郎

かわいい その2


 僕は生まれつき、肌が弱いです。
 そのため、皮膚科へ定期的に通っています。

 とある夏の日の出来事。
 暑くなってきたので、あせもや痒みなどの症状が酷くなりがちです。
 僕以外にもたくさんの患者さんで、待合室は溢れかえっていました。

 待合室でひとり座っていると、目の前に小さな赤ちゃんを連れた女性が現れました。
 お母さんは椅子に座って、赤ちゃんはベビーカーに乗っています。
 指をくわえながら、僕の方をじーっと見つめていました。

 こう見えて、僕は幼い子供にはモテる自信があります。
 何故だかわかりませんが、乳児から幼児までのお子さんにはよく見つめられたり、声をかけられるのです。
 ただ自我を持ち始めたお子さんには、嫌われるというか。
 「この人、気持ち悪い……」という、顔をされます。

 話が逸れました。
 いつものように、僕は黙って見知らぬ赤ちゃんと見つめ合います。
 あちらも話せないので、こちらも心で話すように心がけております。

 その時、待合室の出入り口から、二人の患者さんが入ってきました。
 ひとりは若い介護士の方で。もうひとりは車いすに座ったおばあさんです。
 介護士の方が受付をすませる間、僕と赤ちゃんのそばに車いすをとめていきました。

 おばあさんがベビーカーに気がついたようで。車いすから身体を起こして、こう言いました。

「うわぁ~ 可愛いかねぇ~ いくつぐらいかね?」

 この瞬間、僕は思った。

(なっ! 僕の可愛さがバレてしまったのか? ならば、ちゃんとお礼を言わないと)

 すかさず、僕は身を乗り出して、おばあさんにお礼をいう事にしました。大きな声で。

「いやぁ~ ありがとうございますぅ~! 今年で42才になるんですけど、アイドルを目指した方がいいですかね?」
「え? 私は、あんたじゃなくて、赤ちゃんのことを言っているのよ?」
「……」

 結果、僕は通報された。

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