言いたくても、やりたくても、できないこと。

味噌村 幸太郎

かわいい


 僕は生まれつき、お腹が弱いです。
 ちょっとでも、油こいものや辛い料理を食べたら、腹がゴロゴロと言います。
 そのため、汚い話ですが、いつもトイレを探すのが大変なのです。
 特に繫華街では……。

 女性向けの商業施設は、男子トイレの数が少ないのですが。
 清潔で最新のトイレが使用できるため、僕はよく使わせてもらっています。

 その日もお腹を痛めて、急いでトイレへ向かっていました。
 たまたまですが、僕が向かっているトイレの前には、女性向けの下着屋さんがあります。
 
 店の前に飾られているマネキンは、かなり目立ちます。
 セクシーなブラジャーとパンツが、着せられているからです。

(ふむ、スケベな下着だな……)

 などと、考えている場合ではありません。
 僕の腹が「早くトイレへ行け」とうるさいからです。

 その時、奥のエレベーターから、二人の若い女性が降りて来ました。
 彼女たちはどうやら、僕とは反対方向へ向かうようでした。
 すれ違いざま、ひとりの女性が僕へ指をさしてこう言ました。

「かわいい~!」

 それに同調するもう一人のお姉さん。

「わかる~ かわいいよねぇ!」

 この瞬間、僕は思った。
 
(ハッ! 最近、脱毛してお肌のメンテも欠かさないから、かわいいと思われたんだ!)

 お姉さんたちの話を聞いて、僕は足を止めました。
 そして、目の前の女性陣に叫ぶのです。

「ありがとぉ~! 最近、よく言われるんだよねぇ~」

「……え?」
「あの、下着のことなんですけど……」

 結果、僕は通報された。

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