希死念慮のお姫様と臆病な王子様 ~殺してくださいと言われても困ります! 心中はいかがですか?~
1.プロローグ
わたしは伯爵家の一人娘、のさらに一人娘である。
父は平民で画家をしていた、らしい。
猛反対の末に駆け落ち同然に家を出た母と、一年ほど平穏に暮らしていたものの、やっと探し出すことができた伯爵に連れ戻され、そこで母の腹にわたしが宿っていることを知ったのだそうだ。余計に怒り狂った祖父だったが、孫の誕生を喜ぶ祖母には勝てず、出産する運びとなる。
しかし、わたしを産み落とした後、母は体調を大きく崩し、死ぬだろうと医者に宣告された。そして、父とともに心中……。
無事な娘の帰りを喜び、孫の誕生とこれからの未来を楽しみにしていただけに、元々持病を抱えていた祖母の容態も急変。あえなく帰らぬ人となってしまった。
その結果、両親を失ったわたしと、祖父だけがこの伯爵家に残ったのだった。
乳母のマルテはよくやってくれている。泣きわめきもせず、親を恋しがりもしない小娘を不気味に思うでもなく、自身の子どもと同様に、一心に愛情を与えた。乳兄弟のアルトは活発で、人好きのする笑顔を浮かべる所謂いい子だ。普通であれば、いかな主人の大切な落とし仔だからといって、面倒くささなり、負の感情を持っていてもおかしくないのだが、マルテにはそういったものが一切見られなかった。
裏表がなく、身分が違かろうが誤ったことは正そうとする。
そんな出来た人間だとわたしも分かってるからこそ、申し訳なさは毎日募るばかりであった。
「申し訳ないと思ってんならもうそんなことするなよ」
「しないでください」
「……ないでくださぁい」
取り込んだ洗濯物を畳みながら、言葉遣いを注意されるアルト。こちらもわたしを嫌うことなく、対等な友人のように接してくれる、稀有な人間だ。親の育て方が良かったのだろう。彼の父も健在で、この屋敷で料理人として働いていた。
「お嬢様、しかし、アルトの言うことも尤もです……と、この文句も何度繰り返したでしょう。キリがないったらありません」
優しい優しいマルテの手を煩わせ、この屋敷の人間に頭を抱えさせる問題がある。
それは、この家の一人娘、そして唯一の後継者であるわたしアルビネア・フォン・レヴァンテスに自殺癖があることだった。
父は平民で画家をしていた、らしい。
猛反対の末に駆け落ち同然に家を出た母と、一年ほど平穏に暮らしていたものの、やっと探し出すことができた伯爵に連れ戻され、そこで母の腹にわたしが宿っていることを知ったのだそうだ。余計に怒り狂った祖父だったが、孫の誕生を喜ぶ祖母には勝てず、出産する運びとなる。
しかし、わたしを産み落とした後、母は体調を大きく崩し、死ぬだろうと医者に宣告された。そして、父とともに心中……。
無事な娘の帰りを喜び、孫の誕生とこれからの未来を楽しみにしていただけに、元々持病を抱えていた祖母の容態も急変。あえなく帰らぬ人となってしまった。
その結果、両親を失ったわたしと、祖父だけがこの伯爵家に残ったのだった。
乳母のマルテはよくやってくれている。泣きわめきもせず、親を恋しがりもしない小娘を不気味に思うでもなく、自身の子どもと同様に、一心に愛情を与えた。乳兄弟のアルトは活発で、人好きのする笑顔を浮かべる所謂いい子だ。普通であれば、いかな主人の大切な落とし仔だからといって、面倒くささなり、負の感情を持っていてもおかしくないのだが、マルテにはそういったものが一切見られなかった。
裏表がなく、身分が違かろうが誤ったことは正そうとする。
そんな出来た人間だとわたしも分かってるからこそ、申し訳なさは毎日募るばかりであった。
「申し訳ないと思ってんならもうそんなことするなよ」
「しないでください」
「……ないでくださぁい」
取り込んだ洗濯物を畳みながら、言葉遣いを注意されるアルト。こちらもわたしを嫌うことなく、対等な友人のように接してくれる、稀有な人間だ。親の育て方が良かったのだろう。彼の父も健在で、この屋敷で料理人として働いていた。
「お嬢様、しかし、アルトの言うことも尤もです……と、この文句も何度繰り返したでしょう。キリがないったらありません」
優しい優しいマルテの手を煩わせ、この屋敷の人間に頭を抱えさせる問題がある。
それは、この家の一人娘、そして唯一の後継者であるわたしアルビネア・フォン・レヴァンテスに自殺癖があることだった。
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