ポレン

清水レモン

いつか砕氷船がやってくる

気づいたときには氷だった
どうしようもなく凍てついている
どうしたものかと考える余裕すらなくて
誰かが通るたび割れていく

戻りたいと願うよりも
早く時よ過ぎろと願う
夏の記憶なら甘すぎる
ひりひりした素肌なおり
さんざん苦しんだことさえ
知らん顔して語れるほど

でも忘れてないか

なにかすごく大切な

なにか

ある日ふと天空から舞い降りてきて
私を導いてくれる
絵空事ばかり夢に見て
気づけば孤独な休憩中
なおも欲しがる
すごく恋しい
見たことも聞いたこともない記憶
ましてや体験したはずのない
あれもそれもこれもリアルな記憶

ああ そうか そうだった
私が待っているのは船でした
春を告げる手紙を載せて
氷河を砕いて突き進んでくる
ごめん
すっかり忘れてたけど
思い出したら止まらない
いてもたってもいられなくなって
海を見下ろせる丘へ駆け登る

脳内インストール済みのアプリが自動で起動
レイヤー越しに点滅する信号は
どこにいるのかわからないけど
私ではない私
ありとあらゆる境界線を越えて
どんな言葉も翻訳可能
まじか
こんなの
いままでわからなかったことが
全部ほんの一瞬で理解できた

砕け散り溶けていく
気づけば暖かい陽射し
日に焼けた素肌が香る頃には
またしても思うようにいかないなにかが
ちいさく こまかく 凍りはじめる
そんなことは思いもよらず
あんなことも許容範囲にして
こんなことってないじゃんか
って
たったひとつが
どんなことでも
心から冷やしていくけれど

最初は暖炉でしのげる
雪見温泉の露天でもいい
どうにかなるうちは
なんとでも言える
どうにもならないと
なんにも言えない
伝える気にすらなれないだろう

それでも伝えて
どれでも伝えろ
まわりの視線なんか気にせずに
自分のことだろ
自分のことだよ
自分ひとり…なわけないじゃんか


春を告げる花粉に目をこすり
私が私のまま呼吸していられるなら
いつか砕氷船がやってくる


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