選ばれた花嫁は蛇神の求愛を受ける

麻麻(あさあさ)

稲荷様との婚礼

ここはどこかの社殿の中だろうか?

広い部屋に敷かれた畳は綺麗で真新しく、周りを囲む柱には立派な細工が施され蛇神神社とは違った美しさがそこにはあった。


どうやらここは稲荷様の神社の中らしい。



「式は明日だ。村の者には遣いが伝えてある」

なにも心配しなくていいと言われたが
それどころじゃなかった。

旦那様は私が稲荷様に連れて行かれるのを止めようとしてくれた。

それなのに
私は逃げる事もできるのに迷ってしまう自分がいた。

(本当にこのままでいいの!?
でも稲荷様に逆らったら旦那様はどうなってしまうんだろう)

稲荷様を説得しようとするも戸惑う私を察したのか彼は言った。

「すももさん、迷わなくていい。
君は神である私に嫁ぐんだ。君の家族だって今頃遣いから話を聞いて安心している」

もう一つの気掛かりにしていた事を当てられ
私は更に動揺した。

家族は私が亡くなったと思っているに違いない。
きっと安堵して稲荷様との結婚を祝福してくれるはずだ。

(でも、これでいいの?)

そう考えている間も刻々と時間は過ぎ、婚礼の準備が進んでいく。

紅色の花嫁衣装を御使い達に褒められても私の心配事は頭を巡る。

唇に紅を塗ってもらう間も考えがまとまらず
そうしていると式を見る為に親族や客が次々に訪れた。


そこには家族の姿を見つけた。


「すもも、お前無事だったのかい?よかった」
父や母は私の姿を見つけると駆け寄り、はらはら涙を浮かべ再会を喜んだ。


「すもも、よかったねえ。今度こそ幸せになってね」
姉も涙を浮かべ私の背を撫でながらよかったと繰り返す。


しかし今になって尚
『幸せになって』という言葉を素直に受け入れられないのだ。

(私の幸せってなんだろう?
みんなに祝福されるのは嬉しい。
でもこんな事を望んでいるわけじゃない!)


ここから今すぐ出ていきたい気持ちと反抗したら旦那様はどうなってしまうのかという2つの気持ちが
対峙する。

今、神主が祝詞を挙げ夫婦酒を呑むときが来た。
しかし、なかなか呑む事ができない。


その姿に気付いたのか稲荷様は
「ほら、すももさん。君も飲んで」
そう促すがなかなか盃を口に運べない。

これには参加者も一同に困惑し
父や母も
「すもも、どうしたの?」
「何かあった?」と姉にも口々に聞かれるが上手く答えられない。

それを見ていて稲荷様が肩を落とした。



「蛇神よ、いるのだろう」

「!」


突然、稲荷様の一言に私を含め参加者一同は驚いた。

「どこだ、どこに蛇神はいるんだ?」
参加者は蛇の姿などどこにもいないと言っていた。


それはそうだ。
旦那様はちゃんと人の姿なのだから。

稲荷様が手にした扇が一箇所を指す。

すると皆が顔を見合わせてそちらに視線が集中した。

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