選ばれた花嫁は蛇神の求愛を受ける

麻麻(あさあさ)

狐神の稲荷様

一方で、すもものいる村には蛇神を祀る神社とは別に祟り神ではなく、稲荷神様として村人に絶大に信仰されている大きな神社があった。

豪華絢爛な一室の御簾の中で誰かが御使いと思われる狐と主人と思われる男が会話をしていた。

「何?それは本当か
蛇神よ。水臭いやつだ。これは花嫁を拝まなければいけないな」

怪しく光る月明かりの中、ケンケーンという御使いの鳴き声とフフフと黄金色の尻尾を揺らしながら笑う主人がいた。

蛇神達に何者かが立ち向かう嫌な気配がした。



ーーーーー

蛇神様の神社で私の仕事は料理と桃の水やりだけになった。

旦那様曰く
「あとは全て式神に任せるから他の事はお前さんはしなくていい」

ゆっくり、過ごしなさいと言われたがそれじゃあ家事も神社の巫女としても仕事をしてない事になる。

せめて神社での仕事を1つだけでもくださいというと、彼は渋々境内のはわき掃除を式神とするのはどうかと提案してくれた。

ただし、あくまで中心になって掃除、洗濯、買い物は式神に任せるようにと言われた。


「お前さんの家事がどうこうじゃなく、わしがお前さんに仕事を増やすのが嫌なんじゃ。分かっておくれ」



しゅん、と下から見上げてられて彼からお願いされる。
旦那様は少々過保護ではと思ったが彼の心遣いが嬉しかった。私もそれを聞き入れる事しか出来なかった。

旦那様は優しい。

それでも、料理はお前さんのが食べたいと言われ上機嫌になった私は境内の掃除中に

(今日の夕食は何にしよう)

と考えていた。

不思議だ。
今まで料理を家族に振舞っていた事もあったのだが姉の方が料理は上手いのだ。

もちろん、家族は美味いと言ってくれたが家族と旦那様に作るとでは意味合いが違ってくる。


作り甲斐があるものだ。

そうと決まれば持って来た嫁入り道具の中にあった
料理の本を見ながら今日の夕食の献立を組もうとしていた。

すると視界にこちらに向かう誰かの足元が見えた。

珍しい!
(うちにお参りにくる人本当にいるんだ!)

その人は長い金髪が似合う旦那様とは似た風格だが
彼の耳と尻尾はフサフサで明らかに人間ではない。

昼間なのに神々しい姿で煌びやかな着物に糸目と上がった口角が印象的な人だった。

掃除を中断し一礼をすると
「もし、最近こちらに嫁いだという花嫁は?」
と声をかけられて


「私ですが」
と彼が出す圧倒的な雰囲気に
(眩しい)
と感じながら答える。



「なんと!?」  
彼は驚いたと取り乱しじっと私の顔を見つめる。

熱い視線に戸惑っていると



「自己紹介がまだだったな。私は狐神の稲荷(いなり)だ」

と名乗ると今度は私が驚いた。

(神様!
この人が村の人達が信仰を受けていた神様だなんて)

稲荷神社は蛇神様と違い、祟り神ではなく村に伝わる奉納の神様だ。

昔、家族皆で稲荷神社に家での繁盛を願いに行った事を思い出した。

あの時は神様の気配なんて分からなかったのに!
旦那様に嫁いだからだろうか?

ご利益すらなかったものの、こうして蛇神様以外の存在に出会えるなんて珍しい。



そう村にいたときに父や母に聞かされていた事を思い出していると背後から冷たい気配がした。

旦那様だ。

「稲荷よ。なぜ来たのじゃ」

嫌の奴を見たという眼差しでどうやら旦那様は稲荷様を快く思わないらしい。

重い空気が流れ何も聞かなくても2人が仲が良くない事が分かる。


「水臭い。お前が嫁を娶ってと聞いてな。
こうやってこちらから来たわけだ」

そう稲荷様は旦那様に訳を話すと今度は私の方に振り返り


「君、私に嫁ぐといい」
と耳を疑う言葉を掛けてきた。

突然の求婚に

私も旦那様も

「はあ!?」
と驚く。

「・・・冗談がお上手ですね」
そうやんわり断る。
しかし彼には通じないようだ。

「冗談じゃないぞ。実に君は奥ゆかしそうだ。
拒否権はない。
そうだろう、蛇神」

旦那様は唇を噛み稲荷様を睨む。

その姿の意味を理解し
「!」
と私は絶句する。


狐神は蛇神とは違い崇められているから蛇神様でも逆らえない。
神様にも序列があるのだ。
つまり旦那様は稲荷様に逆らう真似もできない。


「さあ、我が社に行こう」
と稲荷様は私を抱えるとそのまま蛇神神社から霧のように姿を消した。

(嫌!)
旦那様と離れたくない!
一心で思ったのも束の間


「すもも!」

と旦那様が手を伸ばして助け出そうとしてる中
旦那様との距離は隔てられいつの間にか景色は
見慣れない風景に変わっていた。

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