半人半魔の旦那様

祇光瞭咲

8.これからも二人で

***

 屋敷に戻り、夫婦は改めて向き直った。
 今までと変わらないはずなのに、シラクの長身が前よりほんの少し小さく感じられるのはなぜだろうか。項垂れた彼は、やはり叱られた少年のように見えた。

「シラク様」

 レリーナの声には厳しいものがあった。彼女は夫のすぐ目の前に立ち、彼の美しい顔に指を突き付ける。

「さっきわたしを置いて行こうとしたでしょう。そんなこと絶対に許しませんよ」
「いや、あれは……」

 シラクは情けなく視線を逸らす。

「俺の都合に君まで巻き込んではならないと思ったんだ」
「辺境生活は不便だろうって? そんなの私、気にしませんわ。実家の貧乏暮らしでだいぶ鍛えられましたから」

 力こぶを作るレリーナ。シラクは苦笑しかけ、首を振った。

「それだけじゃない。こいつのこともある」

 シラクの腰からにゅるりと触手が生えてきた。肉の管は生々しく、あまりにも本体からかけ離れたその部位は、まるで彼が怪物に寄生されているように見える。

「こんな気持ちの悪い怪物と一緒に暮らすなんて、嫌だろう」

 シラクの目はひどく悲しげだった。
 レリーナは彼の目をじっと覗き込み。そして、腕を回して触手ごと彼を抱き締めた。

「……っ、レリーナ!」
「大丈夫。最初はちょっと驚いてしまったけれど……こんなの大したことありません」
「気安く言うな。この触手は成人してから生えてきた。このまま年を重ねれば、もっと悍ましい姿になることだってありえるんだぞ」
「そんなの関係ありません。あなたがどんなお姿になったって、私は生涯添い遂げるつもりです。だって、あなたは私の旦那様なんですから」
「……レリーナ……」

 レリーナはふっと微笑んだ。
 本当なら、ここでキスのひとつでも交わすのだろう。今はまだ気恥ずかしいが、もう少し二人の仲が進んだら、きっと。

「……あー」

 余計なことを考えてしまい、レリーナは恥ずかしさを覚えて視線を外した。この空気を誤魔化すために、腕に触れた触手を撫で繰り回す。

「ほら、意外と可愛いじゃないですか。にょろにょろしてて。温かいし、結構触り心地は悪くないっていうか」

 なでなで。にゅるにゅる。

「……レリーナ」

 頭上から咳払いが降ってくる。目を上げると、真っ赤になったシラクの顔があった。

「ん? どうしました?」
「言い忘れていたんだが……触手のうちの一部は、その、性器と直結している」
「……はえ?」

 シラクを見る。真っ赤である。下を見――……。

「わああぁぁぁ! ごっ、ごめんなさい! ごめんなさい! わざとじゃないのー!」

 広い屋敷にレリーナの絶叫が響き渡る。
 こうして、レリーナの公爵夫人としての生活は、再スタートを切ることになった。半人半魔の旦那様と共に。



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