追放された聖女は一人呟く「もう絶対に戻りませんから」

鬼柳シン

やっと追放してくださいましたね。ありがとうございます。

「聖女エア・ホーキンスを民を偽った罪により国外追放とする!」

 謁見の間にて、アルブレスト王国の国王が高らかにそう告げた。
 王の声に続くよう、私を取り囲んでいる高位貴族がヒソヒソ「ようやく偽物が裁かれた」「これで平民出の小娘を聖女などと呼ばなくて済む」と話している。

 爵位の高い人々ほど、どうやら私が目障りだったようだ。謁見の間に呼ばれるほどの貴族たちは、揃って似たような顔で似たようなことを口にしていた。

 中には聞くに堪えない言葉も混ざっていた。言い返してやりたいことは沢山ある。しかしながら、ここで起きていることは私が逃れられない運命とも呼ぶべき事なのだ。

 アルブレスト王国が大凶作に陥ったとき、豊作の祈りを捧げていた聖女が地位を失い追放される。表向きは偽りの聖女を騙り民を騙した罪だ。だが、その実は聖痕の力を失った聖女を追放するための大義名分である。

「何か釈明はあるか?」との言葉に、私は感情を殺して「いいえ」と答える。
 居並ぶ高位貴族たちも、私の覇気のない声に満足げだ。

「……裁きに従います」

 私が罪を認めたと、これでこの場にいる全員に知れ渡った。
 国王は「フン」と余裕な顔で笑うと、「恨み言くらいは聞いてやるぞ?」などと言ってくる。

 しかし私は俯いていた顔を上げ、凛然として告げる。

「いいえ、ございません」

 あまりにも堂々と言ったからか、国王は少し面食らったように身を引いた。
 追放を私自身が認めたのだから、もうこの国の王に付き合うこともない。聖女の力を失った私への当てつけに付き合うのも、そろそろ終わりだ。

「他にも何か、私に御用があるのでしょうか?」

 身を引いたままの国王に代わり、控える騎士が「傲慢な女」だとか「反省の欠片もない」と口にしている。
 居並ぶ高位貴族たちも気に入らないのか、何人かが私へ刺のある言葉を投げかけてくる。

「聖女でも貴族でもないあなたでは、追放されては貧民街にでも行くのかしら?」
「既に今後の行き先については先方に連絡を送ってあります」

 淡々とした返答にイラっとしたように、もう一人口を開いた。

「長年聖女として甘い蜜を啜ってきた女が一人では、どうせ娼館で働くのでしょう?」
「ご心配なく。生まれは平民ですから、農家に嫁いで農作業に勤しむのもよし。呉服店で紡績や織物、刺繡をするのもいいですね」

 どうにも追放にかこつけて私を貶めたいようだ。しかしまたしても淡々と即答され、高位貴族たちは「気に入らない女ね!」「もう見なくていいと思うと清々するわ!」と騒いでいる。

 ――それがなんだというのだ。私は役目を果してきたし、特に反省することもない。

 たとえ追放に不敬罪が加わっても、お行儀がいいのはお終いなのだ。

「では、私は身支度を整え追放の罰をこの身に受けます」
「う、うむ」
「それでは皆様、お元気で」

 私の態度に困惑する国王や貴族たちをしり目に、騎士たちへ連れていかれた。
 その間も、私は背筋をシャンと伸ばし、顔には影の一つも落とさなかった。

 なにせ、私は聖女として祈りを捧げてきた日々からの追放に、一切異論はないからだ。
 むしろこうなる事は分かっていたので、とっとと終わらないかと思っていたほどだ。

 騎士に連れられてこの場を後にしながら、これまでの事を思い返す。

 幼いころ右手の甲に現れた聖痕により、私は平民の家から聖女としてホーキンス公爵家に迎え入れられ、爵位を得た。
 以降、私は聖女としてアルブレスト王国の豊作を司ってきた。

 私の聖女としての祈りは、天候の変化をもたらしてきたのだ。
 祈ることで雲を晴らし、祝福された陽光をサンサンと照らさせた。時には祝福された雨が降るように祈った。

 お陰で、アルブレストは飢饉に怯えることなく繁栄を続けた。今や、属国を従える大国だ。

 しかし、私という個人を誰も認めてくれない。むしろ疎ましく思う人が常にいた。
 元々は平民の出であり、聖痕が現れたから公爵令嬢として扱わなければならないという立場。社交の場には相応しくない地味な容姿。
 なにより、私が祈っても不作だった度に、貴族から王族まで「雨を降らせるのなら魔法使いでもいいだろう」「陽の光は光の魔法で代用できるだろう」と上がってくる、私がいらないという意見。

 認められるために社交の場に出たくても、国王や高位貴族たちが手を回してドレスが破られていたり、急遽出るなと命令されたりした。
 ようやくデビュタントを迎えた時に関しては、「手が滑りましたわ」と、ワインをぶっかけられる始末だ。私に貴族の男性を近寄らせないよう、騎士たちに命令しているのも陰で聞いた。

 すっかり貴族社会で虐げられるようになっていたが、めげなかった私を追い出すため、何らかの罰が下されるのは目に見えていた。

 その罰である追放が言い渡されても、長年共に暮らしてきたホーキンス公爵家は私を庇うことなく、縁を切ることで国王のご機嫌取りに必死だ。
 これにて、私ことエア・ホーキンスは聖女の地位と爵位を失った。追放ということで、これからは”ただのエア”となる。

 せめてもの餞別として用意された馬車に乗り、追放先であるアルブレストの属国であるローゼンタールへ。
 さようなら貴族生活。さようなら頑張っても認めてくれないお偉いさんたち。

「もう絶対に戻りませんから」
 
 ローゼンタールに向かう馬車の中、一人でいるのをいいことに、謁見の間では口が裂けても言えないようなことを呟いていた。

「これからは、私を正当に評価してくださるところで生きていきますので」


 #####


 ローゼンタールに追放されて数日。私はこの国の王城に案内され、一室に通された。しばらく待つよう言われたので、私はここまで万事上手くいった事に、一人ニヤリと笑みを浮かべていた。

 王宮での一幕を思い返す。さぞ、国王も困惑したことだろう。「なぜこの女は、追放されるというのに許しを請わないのか」と。

 そんな事するわけがない。この追放は、私自身が仕組んだことなのだから。

「まったく、やっと追放してくださいましたね。祈りの手を抜くのも疲れるので、もっと早ければよかったのですが」

 呟き、手の甲に目をやる。意識を向けると、神々しく光る聖痕がクッキリと現れた。

 私は正真正銘、神から認められた本物の聖女だ。この聖痕がなによりの証である。

 今も祈り一つで天候を操れるのだ。それがどれだけ、アルブレストの国力増加に繋がっただろう。

 しかし平民出だったことのせいで、貴族社会では何かと疎まれた。
 収穫量が減った時だったり、私に対して難癖をつけられる理由が生まれるたびに、アルブレストでの待遇は悪くなっていったのだ。

 私が豊作にどれだけの労力を割いているのかも知らずに待遇が悪くなり続け、誰も助け船を寄こさなかった。
 理解者も味方もおらず、ただ虐げられていく日々。私は、そんな生活に見切りをつけた。

 わざと麦の収穫量が過去最悪になるほど祈りを怠ったのだ。更に「明日は晴れる」と言えば雨を降らせ、その逆も行ってきた。

 もちろん、私の事を悪く言う貴族の領地だけでだ。聖女様と慕ってくれる数少ない貴族の領地では、当然大豊作を祈り続けた。
 とはいえ、それがむしろ「聖女は贔屓しているんじゃないか!?」との悪評にもつながったのだが。

 とにかくそれだけやれば、他の悪評も相まって追放が言い渡されるのは目に見えていた。

 こうして追放宣言を心待ちにしていた私は、追放先となるだろうローゼンタールの王族に手紙を送っていた。

 『聖女としてローゼンタールの地を豊かにすると誓うから受け入れてくれ』と。

 アルブレストに従いながらも、内心では見返したくてたまらないローゼンタールからすれば渡りに船だっただろう。
 それに、これなら聖女としての箔もローゼンタールでは落ちない。

 向こうからしたら、私はあくまで、聖女としてローゼンタールを救いたいからやってきたのだから。
 
「お待たせいたしました、聖女様」

 恭しく礼をして入ってきたのは、ローゼンタールの第一王子ジュリアスだった。
 紫紺の瞳に、艶やかな黒髪は立派だが、お付きも連れずの登場に、ローゼンタールの疲弊っぷりが見える。

「この度は我が国へお越しいただき、感謝の極みです。本来なら国王たる父がこの場に来るべきなのですが、多忙なため私が対応する非礼をお許しください」

 実に礼節に長けた振る舞いだった。私が聖女としてアルブレストの国力増加に加担しなければ、一国の王子として名を馳せていただろうに。
 責任を感じつつ、私も一礼する。

「ご存じかと思いますが、私はアルブレストを追放され、聖女の立場も爵位も剥奪されています。そう畏まらないでください」
「その件は虚偽の罪だと聞いていますが……?」

 ここで私が聖女ではないと疑われても困る。右手の甲に聖痕を浮かび上がらせると、それを掲げて「ここにいるのは、神から聖女と認められたエアです」と答えた。続けるように、「しかし、爵位もなければ正式に聖女として認めてくださる方もいない」と付け足す。

 アルブレストで爵位も含め剥奪されたのは事実だ。だからこそ、ローゼンタールで聖女を名乗るには、王族の許しが必要なのだ

 聖痕に目を奪われていたジュリアスは、ハッと我に返ると、やるべきことが分かったようだ。
 コホンと咳払いしつつ、私へ向けて高らかに宣言する。

「ローゼンタール第一王子ジュリアスの名において、貴女を聖女として認めましょう。以後はこの国の発展のために聖女としての力を使って頂く」
「ご期待に応えるべく、邁進していきます」
「うむ、では王宮の離れに部屋を用意させよう。爵位も正式に準備しておく」

 こうして、私はローゼンタールにて再出発を果たした。とはいえ、これからが大変なので、少し気が滅入る。
 そんな様子を察したジュリアスへ、私はもう一つ用意して欲しいものがあると告げた。


 ####


 ローゼンタールは属国とはいえ、元は独立していたのだ。当然広大な土地を持っており、麦畑は大勢の国民のためにとてつもなく広い。

 私はジュリアスに用意してもらった一頭の馬にまたがり、春先の風の中、麦畑を見て回っていた。

 そして行く先々でメモを取る。農家の人々から聞いた農具の種類や、この数か月の気温や降水量についてだ。
 更には病害虫や稲の病気などがないか、畑に入って確認し、それもメモに記していく。

 農家の人々は、聖女様が本当に聖痕を失ってしまったからだと噂にしていたが、こういった事を欠かすと、いくら祝福された雨と陽光を祈っても不作となるのだ。

 アルブレストでは、こういった事はすべて私に一任されていた。手のかかる仕事なのだが、聖女だからと、国王は誰一人寄こさなかった。
 しかし事情を聞いたジュリアスは、私に部下を二十名も与えてくれた。

 お陰で、広範囲で春先が低温であることを知ることができ、このままでは冷夏になることが予測できた。

「春先の低温は麦に限らず、すべての農作物においてマイナスです。低温障害や病害虫が蔓延する可能性が高いので、農家の方々に知らせを出してください」
「ああ、わかった。急ぎ早馬を出そう」
「それと貿易商に石灰や硫酸銅、木灰の買い付けを増やすよう指示を出していただけますか? 万が一病害虫が蔓延したときに駆除できます」
「そちらも手配させよう」
「あとは……聖なる祈りの雨ですが、農家の方々から聞くに降水量が足りているので、地図に印をつけた場所では行いません。あまり雨ばかりで土地に無理をさせると、今年はよくても数年後に飢饉となる可能性がありますから……あら?」

 ジュリアスの執務室で今後の事を話していると、ペンを走らせる手が止まっていた。顔を見ると、穏やかに笑っている。

「どうかしたでしょうか?」
「いや、豊作を司る聖女とは聞いていたが、その名に恥じぬ博識ぶりだと思ってな。私はてっきり、祈るばかりが仕事だと思っていた」
「ただ両手を合わせて祈れば豊作になるのでしたら、アルブレストはもっと大きくなっていますよ」

 聖女だからといって、怠けてはいられないのだ。豊作を司るのなら、農業について学び、気候に気を配る必要がある。

 そう書かれた先代聖女の手記を見つけた時は、アルブレストのためを想って、公爵家の書庫にずっと籠って勉強したものだ。

 なにせ、聖女の力は土地にとって強い影響を与えすぎる。乱用しては、むしろ大飢饉を招きかねない。正しい知識を持ったうえで使わなくては、災厄をもたらすのだ。

 だから必死に学んだ。その上で祝福された雨を降らせ、陽光を照らし、普通の農業ではたどり着けないような豊作をもたらしてきた。

 アルブレストでは、こういった細かな事は”ご機嫌取り”と思われていたらしい。少しでも悪い噂の流れる自分の味方を作ろうとしていたと、国のお偉方は思っていたようだ。

 事実は、少しでも豊作にするための行いだったというのに。聖女としての祈り以外の事は、一切認めてもらえなかった。農家の人々も、国のお偉方がそう言っているのだからと、私個人には何も思っていなかったようだ。

「とはいえ、君ほどの女性を追放するとは。なにも聖女の力が全てではないだろうに」

 ジュリアスがそう言えば、私は「その事ですか」と、アルブレストの国王の無様な様子を思い出す。

「今年の冬にはアルブレストの国王は聖女である私と結婚が決まっていましたからね。王家に箔を付けるための政略結婚ですが、どうにも平民出の私と結婚するのがとても嫌だったようでして。嫌だ嫌だと駄々をこねていましたし、追放が決まる半年も前から私を見る目が露骨に嫌悪感で満ちていましたから」

 まぁ追放宣言を一日でも早くするために、なにかと平民臭い事を口にしたり、わざと泥臭い農家を手伝ったりした。

 結果、追放宣言の前に、一方的に婚約破棄もされていたのだ。

 国王の思想を操ったと言えば聞こえは良くないが、別に悪いことは何一つしていない。
 むしろ国王の我儘の背中を押したとすれば、私に目立った非はない。

 なにせ、国王という立場にありながら、聖女として国を支えていた私との結婚を一方的に破棄したのだから。その上で追放されたとジュリアスに言えば、「許されるものではない」と、普段は静かな印象の顔に怒りを浮かべていた。

「しかし、この分ですとローゼンタールはともかくアルブレストは大飢饉に遭いますね」
「心配しているのかい?」
「お偉方は私の追放に加担したようなものなのでどうでもいいですが、民に罪はないですから」

 今年は麦に限らず、ほとんどの農作物が駄目になるだろう。ローゼンタールを属国にしたように、他の国へ侵略の手を伸ばしているアルブレストからすれば、食料が行きわたらなくなる。

 自分から追放を仕組んだとはいえ、罪のない人々が苦しむのはどうにかしたい。
 どうしたものかと悩んでいれば、今年の収穫量の目安が思い浮かんだ。

 これだけ準備と対策をして、更に私がいれば、今後数年分の備蓄が可能なのだ。

 すると、私は少しばかり悪い笑みを浮かべた。

「ローゼンタールを走り回ってわかりましたが、とても広い領地を持っていますね。しかし、属国となってから人が大勢抜けたのか、今や余っている町や村が沢山ありました」

 それがなんだというのだ? と首を傾げるジュリアスに説明するため羊皮紙を取り出すと、ペンを走らせる。
 ジュリアスが何を書いているのかと覗けば、顔に驚きを浮かべていた。

「アルブレストの民を無償で引き取るだって!? そんなことして、いったい何を……」
「確かにこれだけでは、ただの慈善事業でしょう。ですが、少しでいいですから長い目で見てください」

 アルブレストは今年、大飢饉に遭うのだ。
 春先の冷たさと冷夏。それと元々大きな国であったアルブレストの食事処を支えていた聖女を失い、今まで私頼りだった農作をいきなり自分たちがやれば、民の食事がどうなるかは容易に想像がつく。下手をしなくても、食料を求めての暴動が起こるだろう。

 貴族たちも平民も腹を空かしての暴動など、誰も望んじゃいない。国のどこを探しても、食料はロクにないのだから。

 そんな時、属国のローゼンタールが大量の食料を抱えて、町や村を用意して無償で引き取るというのだ。敵対国でもないローゼンタールへ、民は一も二もなく流れてくるだろう。
 しかし、謁見の間にいたようなお偉方はプライドやら面倒なしがらみがあるので、アルブレストを離れられない。

 つまり、ローゼンタールは大量の食糧と民を一気に得られるのだ。憎たらしい人は我慢を強いられ、罪のない多くの民は救える。
 これは、両国のパワーバランスの逆転につながる。属国であるローゼンタールの国力がアルブレストを上回るのは火を見るより明らかだ。

 どうやら理解したらしいジュリアスは、呆気にとられながら「戦争になるのでは?」と聞いてくる。

 私は即座に首を振り、「あくまでローゼンタールは腹を空かせた民を受け入れるだけであり、戦争の大義名分にはならない」と答えた。

「それに、民も食料もローゼンタールが勝りますから。戦争になっても私たちが勝ちますよ」

 ジュリアスはしばらく固まったままだったが、やがて乾いた笑いを出した。

「君が本当に聖女なのか、疑問に思ってきたよ」
「あら、聖女とは神から認められ、多くの民を救うものです。罪のないアルブレストの民を救い、聖女を疑い追放した方々には罰が当たる。まさしく聖女の行いだと思いますけどね」

 ジュリアスは肩をすくめながら、私の考えた策を実行に移すと決めたようだ。


 ####


 秋が来て、ローゼンタールは期待通りの大収穫となった。そしてアルブレストは大飢饉に遭い、今にも暴動が起こりそうだとの事だ。

 頃合いを見て、ジュリアスは民を無償で受け入れるお触れを出した。大量の食糧については知られていたようで、次々と民が流れてくる。

 そうして食料と民を沢山抱えたローゼンタールは、その二つを背景に独立を宣言した。もはや権力にしがみついているだけのお偉方しかいないアルブレストでは、今のローゼンタールは抑えられなかった。

 やがて冬を越すと、ローゼンタールでは独立を記念したパーティーが開かれた。王都では両国の人々が酒を手に騒ぎ、王族や貴族たちは王宮にて華やかな祝賀会を開いている。

 その中心にいるのは、アルブレストの民を受け入れると正式に宣言したジュリアスと、聖女である私の二人だ。

 激動の一年を共に過ごし、すっかり私たちの仲は深まっていた。
 そして、この場にてローゼンタールの国王が王位を譲るというので、皆が壇上のジュリアスに注目している。その横には、私が綺麗なドレスに身を包んで佇んでいた。

 『いがみ合っていた両国が一つとなる時、最初の国王には繁栄をもたらした王子が玉座に座り、神より祝福された聖女が王妃となる』

 新しい門出には、これ以上ない箔のつく条件だろう。私は聖女であり王妃である、エア・ローゼンタールとしてジュリアスへ向かい合うと、フフッと微笑んだ。

「アルブレストから追放された時は、まさか、両国の民も含めてここまで幸せになれるとは思いませんでしたわ」
「みんながみんなってわけじゃないけどね」

 私を虐げていた貴族や国王には、聖女へ不敬を働いた事を正式に詫びればローゼンタールの一員になれるよう取り計らった。だがプライドが邪魔をしてか、ほとんどがアルブレストに残っていると聞く。

「もう食べるものもロクにないだろうに……片意地を張らなければいいものを」
「神に認められた聖女を蔑んだ罰ですよ」

 そう言うと、ジュリアスは首を振った。

「いや、聖女がどうだとかは関係ないよ。これが罰だというのなら、実直に国のために尽くした君を蔑ろにした罰だよ」

 その言葉を聞いたとき、私は込み上げるものを我慢するのが大変だった。
 ようやく、エアという一人の女を認めてくれたのだから。

「――ありがとうございます。聖女ではなく、私一人を見てくださって」
「見てるだけじゃない。共に一年間歩んできた君を愛しているよ」

 そうして、私とジュリアスは独立パーティーで正式に婚約を結んだ。


 以後、ローゼンタールの子孫には聖女の力を持った子が生まれるようになり、何代にもわたって繁栄していったという。

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