ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私にドラゴンはご褒美デス。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

架け橋として

「この度は、自国の不祥事に巻き込んでしまって申し訳ございません」

 ソファーの対面に座ったアーザに私は頭を下げた。
 本当なら一番に言わなければいけなかったことだけど。

 二人きりになるのを待っていたのよね。

「いや、それは問題ない」

 アーザは首を横に振りながら、今ほどアミンが用意してくれた紅茶に口を付けた。

「こちらこそ、いろいろ試すようなマネをしてしまい申し訳ない」
「いけません。陛下ともあられる方が、頭を下げるなど」
「いや、いいさ。自分の妃となる人間にならば」
「ですが……」

 なんていうか、アーザはアイザックとは全く違うのよね。
 同じ上に立つ者とは思えないくらい、アーザには柔軟性もあるし。

 初めにドラゴンだった姿を見た時はビックリしたけど、よほど人なんかよりもアーザの方が優しいわ。

「あの、試すというのはあのドラゴンの姿のことですか?」
「ああそうだ。君に帰る場所がないことなど事情は聞いていたが、この国は極端に人間が少ない。文化も違えば、故郷から遠く離れた国で自分と違う人ではない者と結婚させられるのは、さすがに嫌なんじゃないかって思ってしまって……」
「お優しいのですね、アーザ様は」
「そうでもないさ。ただ……そうだな。自分の妃となる者に嫌われるのは少し、な」

 そう言って、やや困ったように笑った。
 もしかしたら過去に何かあったのかもしれない。
 もちろんそれを聞く権利は私にはないけど。
 でもアーザの笑みは、そんな笑みだった。

「嫌いになることなどありません。むしろもっとアーザ様のことも、この国のことも知りたいと思っております。……そうですね、人間と獣人の国との架け橋となれるような妃となりたいのです」
「架け橋か。そういえば君をここに嫁がせたいと躍起になっていた、あの宰相も同じことを言っていたな」
「あー、そうですね。自分でも今それを言った瞬間、あの顔が思い浮かびましたよ」
「あははっはは。ルナティア、君はすぐ顔に出るタイプなのだな」

 私の顔を見たアーザが、お腹を抱えながら笑い出す。
 ヤダ、私。もしかしてそんなに顔に出ていたの?
 悪い傾向だわ。いくらココはあの国とは違うとはいえ、この国の王妃となるのに。

「すみません。つい自国を出たことで、気が緩み過ぎてしまったようです」
「いや、いいさ。そのぐらい分かりやすい方が、可愛げがある」
「うー」
「あはははは。それにしても、ずいぶんとあの宰相は君に嫌われたものだな」
「それは……性格に難があるからですわ」

 今なら少しは、あの日ランドの言おうとしていたことは分かる。
 しかもアーザに嫁ぐのも、私のためだって。

 きっとランドは知ってたんだ。
 幼い頃から、私がフワモフではない生き物の方が好きだって。

 だからこそ、アーザに私を託してくれた。
 私なら架け橋になれるはずだからって。

「すべて私のために動いてくれたってことは、アーザ様を見た瞬間、何となく分かりました。ですが、なんというかやり方が回りくどい上に、ちゃんと送り出してもくれなかったですし」
「見送りは一人もなしか」
「……はい。そうですね」

 それも仕方のないことも分かってる。
 だって断罪された身だもの。
 おおやけに見送りなんて出来ないって。

 でもこんな風に私のためにやってくれているのなら、もう少し……ちゃんとお別れがしたかった。
 私は最後まで、ランドに酷いコトしか言えなかったっていうのに。

「あの国も、今はとても大変らしいな」
「へ? それはどういうことですか?」
「第一王子であったアイザック殿が王位継承権から降ろされ、第二王子があとを継ぐらしい」
「アイザック様が……降ろされた?」
「何でも今までの悪行が国王陛下の耳に入ったことと、君の父上である公爵と現宰相が第二王子の後ろについたらしい」

 ランドは初めからここまで計画していたのかしら。
 だから私が断罪されても、何も言わなかった。
 むしろ私が追い出されたことを好機として、第二王子をおした。

「なんだか……やっぱりランドの手の上にいるようで腹が立ちますね」
「そうだな。ルナティア、妃になったあかつきには無理難題を宰相に押し付けるといい」
「そうですね、そうします」

 そこまで言って、私はアーザを見た。
 すっかりもう、妃になるつもりで会話をしてしまっていたし。

 でもアーザの前ならば、素の自分でいられる。
 ココでなら、自分らしく自分の好きなことを表現できる。

 ランドには腹は立つけど、やっと私らしく生きられる場所を見つけられたのね。

「ふふふ」
「何がおかしい?」
「いえ? すっかり妃になる気になっている自分がおかしくて」
「ははは、そうか。まぁ、よろしく頼む、ルナティア」
「はい、アーザ様」

 アーザの差し出した手を、私はしっかり握りしめた。
 ただここにいるだけで感じる、幸せを噛みしめながら。

「あ! 人の時は手は柔らかいのですね。でも爪の形はややドラゴンっぽい。ちなみにこのお姿の時って、鱗はどこにもない感じですか? あの、背中とかお腹とか、どこでもいいので触りたいのですが……」
「変態だぁぁぁぁぁぁぁ 」
「ち、ちがーーーうのです。純粋な好奇心です!」
「俺は何か重大なミスを犯した気がするよ」
「もーおー、どうしてそうなるのです」
「自分の妃が変態だなんて」
「だから違いますって、もう、変態言っちゃダメ!」

 私は思わずアーザの口を手で塞ぐ。
 子どものようなアーザの笑顔。
 二人だけの楽しい時間は、ゆるやかに流れていった。

コメント

  • 360回転

    自分もドラゴンの鱗が触ってみたい気持ちになりました。

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