ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私にドラゴンはご褒美デス。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

獣人とは

 ボフンッという大きな音が響き渡った。
 ふさがれた目の前で何が起きているのか分からなかったものの、風圧で私の長い髪が揺れる。

 熱くはないから、火を吹かれたってわけではなさそうだけど。
 どうなっているのかしら。

「ああ、もういいですよ、ルナティア様」
「ちょっと待て、ルスト! まだ着替え中だろうが」

 やや慌てたような声を上げる陛下を見れば、上着をはだけさせた一人の男性がいた。
 すらっとしているのに、胸筋は厚めで、胸板がきれいに割れている。
 
 短い緑色の髪、よく見ればあのドラゴンと同じ赤い瞳。
 ってことは、この方が陛下?
 でもそうよね、獣人ってことは。
 普段は人の形をしているってことだもの。

「……陛下?」
「ええそうですね。ルナティア様がべたべたと触られたコトに恥ずかしくなられて、本来の御姿に戻られたところです」
「おまえ、いちいち言葉が多いぞ!」
「そうですか? 元々、獣の姿になってルナティア様を脅かし、自国に帰らせる計画を立てたのは陛下ですよ?」

 ちょっと待って。
 脅かして帰らせるって。

「それはどういうことなのですか?」
「獣人と人との結婚は珍しくもないですが、何せ陛下は他の獣人とは違うドラゴンです。その姿を見たら、ルナティア様もきっとご自分のことを嫌いになるだろうと」
「もしかして陛下は恥ずかしがり屋なのですか 」
「……どうしてそうなる。先ほどから聞いていれば、見当違いすぎるだろう」

 ボタンをしめながら、呆れたように陛下は声を上げた。
 この姿だけ見ていると、とてもドラゴンだったなんて思えないわね。
 あの瞳以外は人にしか見えない。

 ああでも、そうなると触ったら人っぽいのかな。
 肌とか普通の感じなのかしら。

「まずその、獲物を狙うような目はやめてくれ」
「え? 私、そんな目をしておりましたか?」
「陛下、無自覚のようですよ」
「へ、変態だ……」

 陛下は自分の両肩を抱きながら、ぶるぶると震わせる。
 
「えー、やだ。変態じゃないです! フツーです 」
「遠い国ともなると、普通の基準が違うのですね、きっと」

 ルストにまでジト目で言われると、結構凹む自分がいた。
 確かに興奮しすぎた感はあるけど、でも物語の登場人物が目の前にいたら誰でもそうなると思うのよね。

 それに私にとってドラゴンは一番の憧れの存在だったし。

「うー。すみません。興奮しすぎたのは謝ります。貴族令嬢たる振る舞いとは自分でも思えないのは確かです。でも……ドラゴンが本当に好きで、好きすぎてしまって」
「そんなに好きなのか?」
「はい。この世で一番強く、高貴な存在だと思ってます。空を駆ける姿も、火を吹く姿も、どれもとても素敵です」
「……そうか」

 やや引いてはいるものの、先ほどよりは陛下の瞳は柔らかい。
 人になった姿も、素敵ね。
 ドラゴンには負けるけど。
 って、あまりに興奮しすぎて私肝心なことを忘れていたわ。

「陛下、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「アーザだ」
「アーザ様。見も知らぬ私のために、わざわざお心遣いをして下さり、ありがとうございました。でも私には戻る場所も未練もございません。どうかこの国に置いてはいただけないでしょうか?」

 お優しい方だからきっと、私との婚姻を断れなかったのね。
 でもあの国に戻ったって、ありもしない罪に虐げられるだけ。
 それならばこの国で生きて行く方がずっと幸せよ。

 まだ文化とか全然知らないから、人が嫌われてなければ良いのだけど。

「そこまで言うのならば、好きなだけいればいい。その気が変わらぬのならば……婚姻の話も進めよう」
「ありがとうございます」

 まずはこの国っていうか、獣人そのものの知識を増やしていかないとダメね。
 この国に住むのだもの。
 ちゃんとルールとか知らないと、迷惑になってしまうわ。

「この国のためになれるよう努力させていただいます」
「……専用の侍女をつける。ここでの暮らしなどはそなたの国とは違う点も多かろう。その侍女より話を聞いてくれ」
「お心遣いありがとうございます、アーザ様」
「ああ、いいさ。わざわざはるか遠くの地より来たのだから、それぐらいはもてなそう」

 よくお話してくれる侍女だと嬉しいわ。
 アーザのこともたくさん聞きたいし。
 お優しいけど、どことなくよそよそしいこの方の本音を聞けたらいいな。

 もし望まぬ婚姻ならば、私は……。

「侍女は誰になさいますか、陛下」
「アミンを付けてくれ」
「アミンですか? ……はぁ。承知しました」

 ルストのアーザへの態度を見ていると、一番仲が良さそうなんだけど。
 逃げて意識から、どうしても彼に聞く気にはなれなかった。

 ただ陛下を非難するような目とため息の理由はすぐ理解出来た。
 紹介されたアミンと名乗る侍女と会った瞬間に。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品