ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私にドラゴンはご褒美デス。

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

誰かの手の上

「やぁ、元気かい?」

 悪びれる様子もなく、宰相であるランドが私を収容しゅうようした牢屋までやってきた。
 貴族専用の、とは言っても所詮は地下牢。

 薄暗くカビの生えたこの牢屋で、元気か、などよく言えたものだと思う。
 にこやかに片手を上げる姿を見ていると、場所がココでさえなければ友人を訪ねて来たようにしか思えない。

「何をどうしたら元気だなんて思うのかしら?」
「そうかい? その割には気落ちしているようには思えないけどな」
「そう見えるのなら、嬉しいわね」
「ああ、ずいぶん怒っているみたいだな」
「普通、怒らない方がおかしいと思うのだけど?」

 罪もなく断罪された挙句、こんなところに入れられているっていうのに。
 断罪などなかったかのように、いつもと変わらないランドに腹が立つ。

「まぁ、それはそうだろうね」
「なにそれ……」

 馬鹿にしてる。
 他人事ひとごとだってことは分かるけど、助けてもくれなかったくせに。

「それで有能の宰相さいしょうサマは、こんな罪人のとこまで何しに来られたのですか?」
「そう怒るなよ」
「だから! これのどこが怒らずにいられるって言うのよ。ありもしない罪に問われ、こんな目にあっているのよ?」
「知ってるよ」
「知ってるなら!」

 知ってるなら、なんで助けてくれなかったの。
 少なくとも私は、ずっと仲の良い友だちだって思ってた。
 別々の道を進むことになったって、四人は変わらないって。

 そもそも、その考えがダメだったのよね。
 大人になれば、仲良しこよしじゃ生きてなんていけない。
 とくに私たちはこの国の中心となる貴族であり、思惑おもわくやいろんなものと常に背中合わせだったのに。

 お妃教育を受けていたって、根本は幼いままだったってこと。
 だからこんな目にあってしまった。
 ある意味、自業自得じごうじとくね。

「どうでもいいわ、もう……。で? 笑いにでもきたの? みんな暇人ばっかりね」
「みんな?」
「ええ。あなたが来る前にも、たくさんの人たちが来たわ」

 もっとも、半数以上は私に同情した人たちばかりだった。
 仲の良かった侍女たちはこっそりお菓子を差し入れてくれたし。
 あれほど厳しくて苦手だった先生たちは、私が妃になれないことを知って悔し涙を浮べている人もいた。

 あとは騎士たちも、私を絶対に安全に北の獣人国じゅうじんこくまで届けますってわざわざ言いに来てくれたっけ。

「君は本当にいろんな人間に慕われているんだな」
「そうかしら。そうだとしても結果はコレだけどね」
「いや? 案外そうとも限らないんだけどな」
「?」

 こんな牢屋に入れられた挙句に、最果さいはてとも思える土地に飛ばされるのに?
 私の代わりに泣いてくれた人たちは、とても酷い場所だとみんな口をそろえた。

 この国とは文化も文明も違い、すごく遅れた国らしい。
 授業では何度か聞いたこともあるけど、位置的にもすごく寒い国だと言うことは知っている。

 とても人が住めるような国ではなく、獣人ほどの強靭きょうじんな者たちではないと生きてはいけないって。
 そんな場所に嫁がされるのだ。

 相手はもちろん人でもない。
 歓迎だってきっとされていないことも想像はつく。

「サーシャがわざわざ私にお似合いの国だと高笑いしに来たのよ。野蛮やばんで過酷……。王妃の器ではない人間が、ただの身分だけでその座に就こうとした罰だって」
「……まったくよく言う……」
「別にこの婚姻は、私が望んだわけじゃない」
「ああ」
「欲しいのなら、こんな形じゃなくても……サーシャになら、譲れるものなら譲りたかったわ……」

 私はきつく握りしめた自分の手を見た。
 そんなに王妃の座が欲しかったのなら、あげたのに。
 少なくとも私はいらなかった。

 アイザックのことが嫌いとかではなくて……。

「少なくとも私は……友だちだって思ってたんだけどな」

 そう言葉をこぼした瞬間、楽しかった思い出たちが涙と共に溢れだす。
 友だちだって思っていたのは、私だけだった。
 ホント、馬鹿みたい。

 知ってたよ。
 サーシャがアイザックのことを好きなことぐらい。
 私に隠れて二人でずっと仲良くしていることも。

 でも私には選ぶ権利なんてなかった。
 もちろんそれ以上に、断る権利だって。

 あの花束をもらった瞬間、それでもいつかは幸せになれるんだって思ってた。
 だからいろんなことに目を瞑って、我慢してきたのに。

 ホント、馬鹿みたい。

「あの二人は知らないが、少なくともぼくもまだ友だちだと思っているよ」
「はぁ? こんな状況で?」
「ああ。もちろんさ」

 ランドは清々しいほどの笑みを浮かべる。
 いやいや、この状況で友だちってさぁ。
 私、牢屋の中なんですけど。

 明日ここを出発させられるとはいえ、サーシャが言うには自国から侍女も連れて行けなければ荷物すら持ち出せないようにしたって。

「手が届くのならば、その口ひねってやりたいわ」
「それは勘弁してくれ。これでも君が一番幸せになれる道になんとか決めたんだから」
「決めたって? それどういう意味なの?」

 決めたって。
 なんでこの決定が私のためになるのよ。

「あいつらが君を修道院に飛ばすとか、王妃になった自分の侍女にして一生こき使うとかうるさかったからね。逃がすには最適だったんだ」
「逃がすって……それにしたって」
「大丈夫。君ならいつか……この国との架け橋になってくれるさ」
「嫌よ」
「あはっはははは。いつかでいいさ。きっと分かるから」

 なんで自分を断罪した国の奴らとの架け橋にならなきゃいけないのよ。
 ただ私が嫁ぐことになったのは、二人の思惑じゃなくランドの計画ってことよね。
 しかもこの自信に満ち溢れた顔。

「やっぱり一度だけ、その口捻らせて!」

 牢屋の中からランドへ手を伸ばす。
 しかし器用にヒラリとランドはかわすと『検討を祈る』などという言葉を残し、牢屋を出ていった。

 そして私はすぐ後悔することになる。
 何が何でもあの口を捻っておけば良かった、と。

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